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真田十勇士

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巻ノ五十四 昔の誼その三

「何もじゃ」
「わかっておられぬ」
「だからですか」
「大殿もですな」
「あの様に」
「どうも北条家には大殿の周りには人がおらぬ」
 難しい顔でだ、氏規は言った。
「今はな」
「人は城、でしたな」
 家臣の一人がこの言葉をここで出した。
「信玄公のお言葉ですが」
「その通りじゃ、人はな」
「まさにですな」
「城ですな」
「如何なる堅固な城も人が守る」
「そういうことですな」
「そうじゃ、それは北条家も同じ」
 武田家だけでなく、というのだ。
「やはり人が国を守るのじゃ」
「ですな、だからこそ」
「人がおらねばなりませぬ」
「北条家にしても」
「それでは」
「人がおらぬ」
 また言った氏規だった。
「だから余計にじゃ」
「ではここは」
「何してもですな」
「関白様に従う」
「そうあるべきですな」
「そうしなければならぬ」 
 絶対にとだ、氏規は自身の家臣達に強い声で答えた。
「だからわしは動く」
「はい、それでは」
「何としてもですな」
「大殿にもお話しましょう」
「そのうえで大殿に上洛してもらいましょう」
「北条家の為に」
 家臣達も言う、そして実際に氏規は小田原城の中でまさに走り回り何とか氏政の上洛をしてもらおうとしていた、だが。
 その氏政自身がだ、牛規と氏直にこう言ったのだった。
「その必要はない」
「ですがそれは」
「何故行かねばならぬ」
 己の前に控え言おうとする氏規に言うのだった。
「このわしが」
「ですが」
「それでもか」
「はい、こので上洛されねば」
「羽柴殿が納得せぬというのじゃな」
「降り従うべきです」
 強い声でだ、氏規は氏政に言った。
「何としても」
「従えばどうなる」
 氏政は傲然とさえしていた、主の座で堂々と座っている。
 そうしてだ、こう氏規に言うのだった。
「我が家は」
「はい、その時はです」  
 氏規は今はそうした方がいいと考えこう氏政に答えた。
「相模、伊豆が安堵されます」
「羽柴殿の言葉じゃな」
「そうです、二国をと」
「では他の国はどうなる」
 氏政はここでまた氏規に問うた。
「北条が治めるその国は」
「全て一旦関白様が召し上げられ」
「他の家のものになるな」
「そうなるかと」
「それでは何の意味もないわ」
 氏政は吐き捨てる様にだ、氏規に言葉を返した。 
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