英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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外伝~”銀”の涙~
~メルカバ玖号機・甲板~
「リーシャ…………ハハ……今気付いたけど、君と話すときはいつも月が綺麗な気がするよ。やっぱり”月の姫”を演じているだけはあるのかな?」
自分に近づいてきたリーシャをロイドは苦笑しながら言った後口元に笑みを浮かべてリーシャを見つめ
「ふふっ………月は、光にして影………多分それは、私という存在が月に似ているからだと思います。本来は陽のあたる場所に出てくるはずのなかった存在………」
リーシャは微笑んだ後静かな笑みを浮かべて答え、そして複雑そうな表情になった。
「でも君は、このクロスベルで光を掴むことが出来た………それは確かだろう?」
「はい、もうその事を否定するつもりはありません。ですが私は……私という存在を作った流れは深く底知れないものがあります。”銀”という一子相伝の流れ………父から受け継いだ密やかな道は。」
「前もそんな事を言ってたな………差し支えなければ聞かせてもらえないか?クロスベルに来るまでの君を。俺の知らない、リーシャ・マオを。」
リーシャの話を聞いたロイドは複雑そうな表情で頷いた後真剣な表情でリーシャを見つめて尋ね
「……はい。何となく、ロイドさんにはいずれ話す事になるような気がしてきました。」
尋ねられたリーシャは微笑みながら頷き
「―――気付いた時には私は父と共に在りました。」
そして自分の過去を語り出した。
―――母の記憶はありません。多分、”銀”の道を私に受け継がせるために父が遠ざけたのだと思います。
ですが私にとってそれが普通で………過酷な鍛錬も、暗器や符術の修練も淡々とこなしていただけでした。
各地を点々としながら、日曜学校に通い、人と接する術もそこで得ました。
父は厳しくも優しくもなく、ただひたすら教えるだけでした。それというのも、”銀”として受け継ぐ事が膨大すぎたからです。
それは代々の”銀”の記憶………どのような状況でどんな工作を行い、どんな標的をどのように仕留めたのか………時代を通して同じ存在であるため、その全てのあらましを受け継ぐ必要があったんです。
全てを受け継いだ時……私は”銀”そのものになりました。といっても、父が存命である限りは”銀”になることはありません。
”銀”は唯一人………それは変わる事がないからです。しばらくの間、父の帰りを待ちながら穏やかに過ごす日々が続きました。
そして、父が帰ってきたらいつ”銀”を継いでも問題ないように仕事のあらましを教えてもらう………
既に表の顔は持っていましたがそれが私にとって世界の全てでした。
その世界が崩れたのは父が不治の病に倒れてからです。代々の”銀”の中でも卓越した力を持った父でしたが………病魔からは逃げられませんでした。
さりとて抗うこともせず、延命のための手術も受けず、唯一完治させる可能性がある”聖女”達―――ティアさんやペテレーネさんに頼る事もせず………ある日、私を呼んで命じました。
自分を殺して”銀”を継ぐようにと。
―――できませんでした。およそ、父の言う事に逆らうことのなかった私でしたがそれだけは何故かできませんでした。
………私は初めて恐くなりました。あれだけ父が丹念に仕上げた”銀”が出来損ないだったのではないかと。死にゆく父を失望させたのではないかと。
………懊悩する私に父はふと苦笑して言いました。
『―――それもまたお前だ。お前の銀はお前が決めるがいい』
………そして一月後、父は世を去りました。
そして私は”銀”となりました。父の持っていたコネクションを継ぎ、黒衣と内功で体型を誤魔化し………父の腕には及びませんでしたが滞りなく仕事を再開できました。
『お前の銀はお前が決めるがいい』
父の言葉の意味もわからぬまま、ただ淡々と流されるようにして………
―――そして2年が過ぎ、私は黒月と長期契約を結びました。カルバードの西端………貿易都市クロスベルの覇権奪取に協力するという契約を。
クロスベルに到着した私は戦いに備え、街の下見をする最中、歓楽街のとある劇場に入りました。
そこでは丁度、公開練習というものが行われていて………そこから先はロイドさんもご存知の通りです。
「………そっか………その時に、イリアさんに目を付けられたってわけだな?」
リーシャの話を聞き終えたロイドは溜息を吐いた後尋ねた。
「ふふ、最初は理由を付けて何とか入団を断ろうとしたんです。でもイリアさんは凄く強引で………とうとう根負けして入る事になってしまいました。体力と偽装には自信がありましたし、いい隠れ蓑になると思ったんです。………予想以上に練習がハードで”銀”との両立が大変だった上、そのせいでルファディエルさんに気付かれて正体がバレてしまい、脅迫され………その結果時折ロイドさん達を手助けし………最終的に”黒月”を裏切り、”ラギール商会”に雇われる形となりましたけど。」
「……その節は本当に申し訳ないと思っているよ。―――ありがとう、リーシャ。聞かせてくれて嬉しかった。」
微笑みながら答えたリーシャの説明を聞いたロイドは申し訳なさそうな表情をした後静かな笑みを浮かべて言った。
「ふふ、聞いていて面白い話では無かったと思いますけど………でもこれが―――父と祖先から私に受け継がれた”道”です。その”道”を完全に捨てることは多分私にはできないと思います。」
「そうか……………………………」
目を伏せて言ったリーシャの話を聞いたロイドは目を伏せて頷いた後黙り込み
「『お前の銀はお前が決めるがいい』」
そして唐突に静かな口調でリーシャにとって予想外な言葉を口にした。
「………え………」
ロイドの言葉を聞いたリーシャは呆け
「………”銀”は全てを受け継ぐ。アルカンシェルという光を君が見出してしまった以上………”銀”もまた、光という側面を受け入れざるを得ないんじゃないかな?」
「そ、それは………」
ロイドの質問を聞き、戸惑いの表情を見せた。
「どんなものも時代が変われば在り方も変わる………いや、変わらざるを得ないんだ。そうして人の歴史は受け継がれ、前に進んでいく………多分、そういう事も含めてお父さんは言ったんじゃないかな?」
「……………………………」
「警察官として犯罪行為を勧めることはできないけど………それでも君は、君の”銀”を目指せばいいんだと思う。あるいは、ここで”銀”という存在を完全に断ち切るのも一つの道だろう。そうなったとしても多分………お父さんは気にしないんじゃないかな?『―――それもまたお前だ』って苦笑して。」
「……………ぁ……………」
笑顔で言ったロイドの言葉を聞いたリーシャは悲しそうな表情で呟き
(フフ、まさかそこまで気づくなんて短い間にかなり成長したわね…………………)
(おおおおおっ!?またもや出たぜ!過去も考えて発言するとは……我輩の予想以上の女殺しだよ、ロイド!!)
その様子を見ていたルファディエルは微笑み、ギレゼルは興奮した。
「………いいお父さんじゃないか。普通の家族とはちょっと違うけどちゃんと娘を愛していた………そんな風に俺には思えるよ。」
そしてロイドがリーシャに微笑んだその時
「………お父……………さん………」
リーシャは涙を流して呟き
「どう……して………お父さんが亡くなった時も………こんな………涙なんて……ぜんぜん零れなかったのに………」
自分の手に落ちた自分の涙を見て信じられない表情をした後涙を流し始めた。
「多分、イリアさんたちとの日々で君もまた変わっていったんだ………これから先、君がどんな道を進むかわからないけど………できれば俺もお父さんの代わりに見守らせてもらうよ。光を掴んだ君が、どう変わっていくのかをね。」
涙を流しているリーシャにロイドは微笑みながら見つめ
(キタ―――――――ッ!ついに止めを刺したか、ロイド!!くかかかかっ!)
(フ、フフ………ここまで来たら今更一人二人と増えてもどうでもよくなってきたわ……………)
二人の様子を見ていたギレゼルは興奮した後笑い、ルファディエルは遠い目になって渇いた声で笑い
「………ロイドさん……………」
そしてリーシャがロイドを見つめたその時、ロイドはリーシャを優しく抱きしめ
「……うう………ああっ……………ああああああっ……………!」
少しの時間の間、ロイドに抱きしめられた状態で涙を流して大声で泣き続けた……………
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