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英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)

作者:sorano
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外伝~ワジの”聖痕”~

~メルカバ玖号機・甲板~



「ワジ……………あんな風に思わせぶりに言われたら来ざるを得ないと思うんだが。」

自分に近づいてきたワジを見つめたロイドは疲れた表情で溜息を吐き

「フフ、そんな風に言いながらも律儀に来てくれる君が好きさ。愛していると言っても過言じゃないくらいだ。」

(おおっ!?まさかロイドは両刀になるのか!?いや……それ以前にコイツは本当に”どっち”だ??)

(ワジの場合、実は女性って言われても違和感がないのよね……)

静かな笑みを浮かべて答えたワジの言葉を聞いたギレゼルは興味深そうな表情をした後首を傾げ、ルファディエルは表情を引き攣らせ

「そういうのはいいから。……キーアについてだろう?話を聞かせてくれ。」

ロイドは呆れた表情で指摘した後真剣な表情で言った。

「フフ、了解。本当は部外者には話しちゃいけないんだけど……”零の至宝”の処遇についてはどうやら教会は基本的にノータッチという形になりそうだ。―――たとえこの事件がどんな結末に終わったとしてもね。」

「本当か!?」

「ああ、”蛇”の連中が殲滅され、オリジナルの至宝が失われている今、積極的に介入できる根拠はない。その意味で、僕らがキーアを連れ去る選択もなくなったわけだ。勿論、今この船に乗っている未来のキーアも連れ去らないし、報告もしていないよ。―――むしろ彼女は歴史を改変させない為にとっとと未来に帰って欲しいくらいなんだから。」

「そうか……知らせてくれてありがとう。でも、ワジはこのまま俺達に協力して問題ないのか?」

ワジの説明を聞いたロイドは安堵の溜息を吐いた後尋ねた。

「”道化師”は殺害され、第七柱はメンフィルに降ったけど、第六柱の撤退か死亡は確認できていない。それに、あの人形達を始め、結社がクロイス家に供与した技術がいまだ大きな影響を及ぼしている……その影響がなくなるまでは最低限の介入は続けるつもりさ。」

「なるほど………聞けば聞くほど俺達の常識から外れた争いが繰り広げられているみたいだな?」

ワジの答えを聞いたロイドは頷いた後真剣な表情で尋ねた。

「フフ、君達の住む世界とは表と裏の関係にあたる世界の話さ。それと―――僕にとっては2年に及ぶクロスベル潜入任務の締めくくりというのが大きいかな。」

「そういえば……ワジは17歳だったよな。2年前ということは、15歳で任務に付いたわけで………でも、”守護騎士”っていうかなり重要な地位にいるんだろう?」

「ああ、”守護騎士”っていうのは実績でなるものじゃないんだ。”印”が顕れた者しかなれないし、なる事が運命つけられている……まあ、そんなオカルティックでいかがわしい立場ってわけさ。」

ロイドの質問にワジは目を丸くした後、笑顔で答えた。

「自分で言うなって………でも”印”って、ひょっとしてワジが戦闘中にたまに見せることがある……?」

「ああ………”聖痕(スティグマ)”―――それがこの”印”の名前さ。魂に刻み込まれた刻印………力の源泉にして忌むべきもの。これが僕に顕れたのは今から7年くらい前のことさ。」

「7年前………」

「別にD∴G教団とは全然関係のない話だけど………暇つぶしに聞くかい?」

「そうだな………差し支えなかったら、是非。考えてみれば、ワジの過去は殆んど知らないも同然だし……性格や行動パターンは大体わかってるつもりだけどね。」

ワジの言葉に頷いたロイドは苦笑し

「ふふ………いいだろう。」

ワジは静かな笑みを浮かべて過去を語り出した。



―――僕の生まれ故郷はゼムリア大陸のとある辺境でね。外界との接触を禁じられたいわば”隠れ里”的な場所だった。



その里では、女神(エイドス)や異世界の女神達とは異なる太古の”神”を祀っていてね………僕は幼い頃から”神”の声を聞く”巫子”の役割を担ってきた。



勿論、自発的にじゃなく、物心ついた頃に勝手に選ばれてね。”神”の正体が、得体の知れない太古の呪具であるのは知ってたから正直、馬鹿馬鹿しくて仕方なかったよ。下らない役割から解放されて自由になりたいとずっと思っていた。



……そのうち里でおかしな事が起こり始めてね。里人が一人、また一人と原因不明の昏睡状態に陥ったんだ。僕が探ったところ、”神”が暴走して、地脈を通じて精気を吸い取り始めた事がわかって……僕は封じる事を主張したけど、里の長老たちはそれを認めず、生贄を奉げようとまで言いだしたんだ。



まあ実際、恐ろしい力を持った呪具で封じることも不可能だったんだけど………―――そんな時に外界から教会の騎士たちがやってきたんだ。



――彼らと接触した僕は”神”が古代遺物(アーティファクト)の一種だと知り……それた絶対的な存在でない事を知って思い切った行動に出た。



その蒼い石版状の”神”を崖から落として破壊しようとしたんだ。太古の呪いから里を解放し、自由になりたい―――ただその一心で。



しかし”神”の抵抗は凄まじく、僕の力を根こそぎ奪い取ろうとした。騎士たちの助けも間に合わず、僕の生命が尽きようとしたその時―――その”刻印”は僕の胸に現れた。



―――僕の”聖典”は逆に”神”の力を根こそぎ奪い……”神”はただの古ぼけた石版と化し、粉々に砕け散った。そして僕は自由を手に入れ―――めでたく里を追放されたわけさ。



里人たちが崇めていた”神”を”殺した”大罪人としてね。



「…………そんな事が………………………」

ワジの過去を聞き終えたロイドは黙り込み

(ほ~、こいつもとんでもない過去を持っているじゃねえか。)

(”神殺し”をして追放で済んだだけ、まだマシね……)

ギレゼルは興味深そうな表情をし、ルファディエルは目を伏せた。

「フフ………なかなか荒唐無稽な話だろ?都会育ちの現代っ子にはさすがに信じられないかな?」

「いや、ワジの力を見てると現実にあったという事はわかるさ。ツァイトやセリカさん達なんていう生きた神話も目の当たりにしてるしね。」

「ハハ、それもそうか。そんな訳で、騎士達に誘われた僕はアルテリア法国へと向かい………12名しかいない”聖痕”の持ち主、”守護騎士(ドミニオン)”として迎えられた。アッバスとはその時からの付き合いかな。」

「そうか………でも、そうすると故郷にずっと帰っていないのか?家族の人とも会わないで………」

ワジの話を聞いていたロイドは溜息を吐いた後真剣な表情でワジを見つめて尋ね

「ああ―――当然だろう?里人たちの拠り所を僕は粉々に砕いてしまったんだ。ただ自由になりたい一心で………後のことを何も考えずに。だからそれは、僕への罰なのさ。家族から憎まれるという事もね。」

尋ねられたワジは目を丸くして答えた後静かな笑みを浮かべた。

「………………………」

「まあ、聞いた話だとあれから里には教会が入って色々とケアをしているらしい。”神”の呪いもいずれは過去のものとして薄れるはずだ。ほとぼりが冷めたくらいには一度帰ろうとは思っているよ。そんなに心配してくれなくてもね。」

「ワジ………」

ワジの話を聞いたロイドは疲れた表情で黙り込み

「この事件が片付いたら……ワジはクロスベルを去るんだな?」

そして複雑そうな表情で尋ねた。



「ああ、それが僕の騎士としての使命だからね。フフ、何だい?今から寂しくなっちうかい?」

ロイドの疑問に頷いたワジは口元に笑みを浮かべたが

「ああ、そんなの当然だろう?」

「へ……」

真剣な表情で答えたロイドの答えを聞いて目を丸くしてロイドを見つめた。

「ヴァルドはあんな風になったけどきっと元に戻せるはずだ。テスタメンツのみんなだってクロスベルにいるわけだし。そして思惑があったとはいえ、俺達の仲間でいてくれた………だから―――いつでも遊びにくるといい。もうワジにとってクロスベルは第二の故郷みたいなもんだろう?」

「………………………」

笑顔で言ったロイドの言葉を聞いたワジは呆け

(キタ――――――――ッ!またもや出たよ!ロイドの必殺の言葉が!!)

(何でこの子はこうも平気で次々とこんな言葉を思いついた上、すぐに口から出てくるのよ……)

ギレゼルは興奮し、ルファディエルは疲れた表情で溜息を吐いた。

「……くくっ………アハハハハハハッ!」

そしてワジは大声で笑った!

「クサいのは承知してるよ。でも、100%本気だからな?」

「………フフ、わかった。どうも君相手だと調子が狂うなぁ。―――里心が付いた時には遠慮なく訪ねさせてもらうよ。故郷に戻れない代わりじゃなく、君達との腐れ縁を確かめにね。―――フフ、話したい事は終わったし、失礼するよ。アディオス。」

ロイドの言葉に笑いながら頷いたワジは静かな笑みを浮かべて答え、そしてロイドから去って行った。

「……あ……先に来ていたんですね………」

ワジが去って行って少しすると今度はリーシャがロイドに近づいてきた………………… 
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