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英雄伝説~菫の軌跡~(閃篇)

作者:sorano
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第36話



その後食事を終えたリィン達はエリゼに見送られようとしていた。



~夜・サンクト地区~



「見送り、ありがとうな。しかしまさか、エリゼが皇女殿下の友達は思わなかったよ。」

「……知りません。はあ、本当に姫様ときたらどこまで本気なのかしら……」

「あの、エリゼ?」

リィンの疑問に答えず、エリゼはアリサ達を見回して頭を下げた。

「―――ご足労いただき、誠にありがとうございました。それでは皆さん、お気をつけてお帰りくださいませ。」

「ええ、ありがとう。」

「案内、感謝する。」

「ふふ、おやすみなさい。」

「―――それでは私はこれで失礼します。」

リィンのクラスメイト達の別れの言葉を聞いたエリゼはアリサ達に会釈をした後女学院の中へと入り

「あ……」

その様子をリィンは呆けた表情で見守っていた。

「はあ……」

「………………」

「どんまい。」

「あはは……でもエリゼちゃんの気持ちもわかるよ。」

「ふふ、まさか殿下からあんなお誘いをされるとはな。」

エリゼが去った後疲れた表情で溜息を吐いた様子をアリサはジト目で見つめ続け、フィーは静かに呟き、エリオットとラウラは苦笑した。

「いや……それって俺のせいか?」

二人の指摘を聞いたリィンは数時間前の出来事を思い出した。



~数時間前・聖アストライア女学院・聖餐室~



「――そうそう、忘れてました。実はリィンさんにひとつお願いがあるんです。」

「え……」

「ひ、姫様……?」「ほほう、例の件か。」

アルフィン皇女の申し出を聞いたリィンは呆け、エリゼは戸惑い、オリヴァルト皇子は興味ありげな表情をした。

「ふふ、そうです。―――わたくし、明日の夏至祭初日、帝都庁主催の園遊会に出席するんです。マキアスさんのお父様に招待されているのですけれど。」

「え、ええ……自分も話だけは伺っています。」

「マーテル公園のクリスタルガーデンで開かれるというイベントですよね。」

「ええ……それでお願いなのですが。リィンさんに、ダンスのパートナーを務めていただきたいんですの。」

「!?」

「!!!」

アルフィン皇女の申し出の内容を知ったリィンは驚き、エリゼは血相を変えた。



(そ、それって……!?)

(お、皇女殿下の将来の相手になるかもしれないっていう……!?)

(さ、さすがにそれはマスコミの憶測だろうが……)

信じられない表情をしているエリオットとアリサの小声を聞いたマキアスは疲れた表情をし

(……当然、そういった風に捉えられる可能性もあるな。)

ユーシスは真剣な表情でアルフィン皇女を見つめていた。

「ま、待ってください!その、自分にはあまりに大役すぎると言いますか……!」

一方リィンは慌てた様子でアルフィン皇女を見つめて指摘した。



「ふふっ、そんなことはありませんわ。シュバルツァー家は皇族とも縁のある家柄ですし、こう言っては失礼ですが、ユーシスさんにお願いするよりも角が立たないとも思いますし。」

「なるほど………それは確かにそうでしょうね。いや、なかなか面白い選択だと思いますよ。」

「ユーシス、あのな………」

アルフィン皇女の説明を聞いて納得するユーシスを見たリィンは呆れた後再びアルフィン皇女を見つめた。

「―――その、不調法者で殿下のダンスのお相手などとても務められるとは……」

「あら、エリゼに頼まれてダンスの練習を付き合ったと聞いてるのですけど……?一通りのステップは軽やかにこなせるとか?」

「うっ……」

「~~~っ~~~……!」

アルフィン皇女に指摘されたリィンは唸り声を上げ、エリゼは頬を膨らませてジト目でアルフィン皇女を見つめた。



「でも、そうですよね……こんな唐突なお願い、あまりに不躾ですよね……それにわたくしごとき小娘など興味も湧かないでしょうし……」

「いえっ、そんな……!」

残念そうな表情で肩を落とすアルフィン皇女を見たリィンは慌て

「ヒューッ、さすが我が妹。なかなか攻めるねぇ~。」

「ひ、姫様!オリヴァルト殿下も……!」

その様子を見守っていたオリヴァルト皇子はからかいの表情で呟き、エリゼは焦った様子でアルフィン皇女とオリヴァルト皇子を見つめた。

(ノリノリだね。)

(帝国の皇族というのはここまで愉快な方々だったか。)

(さ、さすがにかなり例外だと思うんですけど……)

一方その様子を見守っていたフィーとガイウスは静かに呟き、エマは表情を引き攣らせた。



「ああ、なるほど。―――ひょっとしてもう、心に決めた方がいらっしゃるとか?それとも既にお付き合いをなさっている方がいるとか……」

「!!」

「……!」

アルフィン皇女が呟いた推測を聞いたエリゼとアリサはそれぞれ顔色を変えた。

「フフ、実際のところ、そこら辺はどうなんだい?」

「いえ、何と言ったらいいのか……(困ったな、どういって辞退すればいいか……)」

「ふふっ……―――わかりました。”今回”は諦めます。」

オリヴァルト皇子に問いかけられたリィンが答えに困っているとその様子をおかしそうに見つめていたアルフィン皇女は意外な答えを口にした。

「えっ……」

「…………ぁ………………」

「ですが来年はわたくしも妹さんと同じ16歳――――正式に社交界にデビューするので考えていただけると嬉しいです。」

そしてアルフィン皇女は誰もが見惚れるような可憐な笑顔を浮かべてリィンを見つめた。



~現在~



「よかったわね~、リィン。皇女殿下にあそこまで気に行ってもらえるなんて。」

「フッ、あのままお受けすれば良かったじゃないか。瓢箪(じょうだん)から駒ということも将来あり得るかもしれんぞ?」

ジト目のアリサに続くように、ユーシスは口元に笑みを浮かべてリィンを見つめて言った。

「いや、あり得ないから。―――多分、友人の兄に興味を持たれただけだろう。本気という感じでもなかったし、妹込みでからかってるだけさ。」

「うーん、確かにそんな感じはしたけど……」

「ですが……それだけでもないような。」

リィンの答えを聞いたエリオットやエマは考え込み

「しかし心臓に悪いというかこっちもハラハラしたぞ……オリヴァルト殿下も噂以上の方だったしな。」

「ふふ、確かに。」

「相変わらずのスチャラカ皇子だった。」

「フィ、フィーちゃん。幾らなんでもそれはオリヴァルト殿下に失礼すぎですよ……」

「わたしなんてマシな方だよ。”影の国”での時も一部の仲間はオリビエの事を”スチャラカ演奏家”とか”変態皇子”とか呼んでいて、中にはオリビエのふざけた態度に呆れた人がオリビエをぶっ飛ばしたりしていたし。」

「オリヴァルト殿下をぶっ飛ばしたって……!」

「い、一体オリヴァルト殿下はどういう人達と知り合ったんだ……?」

「ハハ……あの軽妙さはともかく改めて気が引き締まったな。それ以外にも気になる情報を色々と教えてくれたし。」

マキアス達がオリヴァルト皇子の印象についての感想を言い合っている中、リィンは真剣な表情でアリサ達を見回した。



「ええ……私達の親兄弟、関係者たちの思惑……」

「フン、それについてはキナ臭いとしか思えんがな。」

「……確かに。」

「サラ教官とレンの経歴もちょっと驚きだったよね。遊撃士かぁ……最近見かけなくなったけど。」

「A級遊撃士といえば実質上の最高ランクの筈だ。当然、フィーは知っていたのだな?」

「ん……二人とも猟兵団(わたしたち)の商売敵としても有名だったし。サラとは何度か団の作戦でやり合ったこともあるかな。」

ラウラの質問にフィーは頷いて答えた。

「そ、そうなのか……」

「ハ、ハードすぎるだろう……」

フィーの話を聞いたリィンとマキアスは驚いた。



「……もしかしたら、レンちゃんが編入時から私達の事をよく知っていたのも同じ遊撃士仲間であったサラ教官から聞いていたからかもしれませんね……」

「あ……」

「サラ教官の事だから、絶対私達の事を面白くおかしく話したんでしょうね……」

「ハハ……その様子が目に浮かぶな。」

「フン、もしくは奴と付き合いがある独自の情報屋から俺達の情報を手に入れていたかもしれんな。オリヴァルト殿下の話では奴の人脈は多種多様との事なのだから、情報屋の一人や二人、知り合いにいてもおかしくないだろう。」

「た、確かに……」

エマの推測を聞いたエリオットは呆け、、ジト目で呟いたアリサの推測を聞いたリィンは苦笑しながら同意し、鼻を鳴らして呟いたユーシスの推測を聞いたマキアスは納得した様子で頷いた。

「ちなみに噂だけどレンはS級正遊撃士の候補にもあがっているって聞いた事がある。」

「え、S級遊撃士?」

「ラウラの話では遊撃士の最高ランクはA級との事だが……」

フィーの答えを聞いたエリオットは戸惑い、ガイウスは不思議そうな表情をした。

「S級はA級の上のランクで、非公式のランク。大陸全土でたった3人しかいなく、国家に大きく関わる事件の解決をした者にのみ与えられるランクで、かつては遊撃士であった”剣聖”カシウス・ブライトもS級遊撃士。」

「ええっ!?ゆ、遊撃士の中にそんな凄い存在がいたんだ……!」

「しかもカシウス卿がそのS級遊撃士だったとは……」

「リベールで起こった大事件を解決したメンバーの一人であるレンちゃんの遊撃士としての功績を考えれば、そのS級遊撃士という存在になってもおかしくありませんね……」

フィーの説明を聞いたエリオットとラウラは驚き、エマは静かな表情で呟いた。

「後は奴が多種多様な人脈を持っている事に加えてS級遊撃士であった”剣聖”の娘だからという理由もあるかもしれんな。」

「あ、ああ……という事はまさかサラ教官もそのS級遊撃士の候補にあがっていたんだろうか?」

ユーシスの推測にマキアスは疲れた表情で頷いた後考え込んだ。



「―――さすがのあたしでもレン達みたいに国家に大きく関わる事件を解決した事はないからS級候補には挙がらなかったわよ。」

するとその時サラ教官がレンと共にリィン達に近づいてきた。

「サラ教官……!レン……!」

「い、いつの間に……!」

「やれやれ、あたしの過去もとうとうバレちゃったか~。ミステリアスなお姉さんの魅力が少し減っちゃったわねぇ。」

驚いているリィン達にサラ教官はウインクをした。

「いや、そういう魅力は最初からなかったような……」

「サラ、図々しすぎ。」

「ホントよね~。ミステリアスなレディというのはレンの事を言うのに。」

「なんですってぇ~?」

マキアスやユーシス、フィーとレンの指摘にサラ教官がジト目になったその時

「クスクス……皆さん、こんばんは。」

クレア大尉がサラ教官とレンの後ろから現れてサラ教官の隣で立ち止まった。



「クレア大尉……」

「ふむ、これはまた珍しい組み合わせだな?」

「あたし達の本意じゃないけどね。―――知事閣下の伝言を伝えるけど明日の実習課題は一時保留。代わりに、このお姉さんたちの悪巧みに協力する事になりそうね。」

「え。」

「悪巧み……ですか?」

サラ教官の説明を聞いたリィン達はそれぞれ目を丸くして互いの顔を見合わせた。



「ふう………サラさん。先入観を与えないでください。その、実は”Ⅶ組”の皆さんに協力して頂きたい事がありまして。知事閣下に相談した所、こういった段取りとなりました。」

サラ教官の言葉に溜息を吐いたクレア大尉がリィン達に説明すると、タイミング良く鉄道憲兵隊が使用している装甲車が近くに到着した。

「さあ、どうぞお乗りください。ヘイムダル中央駅の司令所にて事情を説明させて頂きます。」

そしてリィン達は装甲車に乗り込んでヘイムダル中央駅の司令所に向かった。



同日、21:30―――



~鉄道憲兵隊司令所・ブリーフィングルーム~



「テ、テロリストっ!?」

クレア大尉から事情を聞いたマキアスは信じられない表情で声を上げた。

「ええ、そういった名前で呼称せざるを得ないでしょう。ですが目的も、所属メンバーも、規模と背景すらも不明……名称すら確定していない組織です。」

「ま、まるで雲を掴むような話ですけど……」

「―――ノルド高原において紛争を引き起こそうとした”あの男”ですね。」

「……ヤツか。」

「…………」

「”G”―――”ギデオン”だったわね。」

リィンの言葉からノルド高原に特別実習に行っていたメンバーはかつての出来事を思い出した。



「……そなた達がノルドの地で出くわしたという男か。」

「確かにテロリストとしか言いようがないかも。」

「そ、それが明日の夏至祭初日に何かを引き起こすと……?」

「ええ、我々はそう判断しています。帝都の夏至祭は3日間……しかも他の地方のものとは異なり、盛り上がるのは初日くらいです。ノルドの事件から一ヶ月……”彼ら”が次に何かするならば明日である可能性が高いでしょう。」

「ま、あたしも同感ね。テロリストってのは基本的に自己顕示欲が強い連中だから。そのギデオンって男がわざわざ名前を明かした以上、本格的に活動を開始するはずよ。」

「レンも同感。テロリストは自分達がやっている事が”正義”だと思っているのが大概で、自分達の行動を正当化する意味でも目立ちたりがりやだもの。」

クレア大尉の意見にサラ教官は真剣な表情で頷いて説明を続け、レンは呆れた表情でサラ教官の説明を補足した。



「最初は水面下で密かに同志と武装を整える……そこから派手に決起して一気に動くのはテロの基本。」

「……なるほど。」

「そ、それで私達にテロ対策への協力を……?」

「ええ、鉄道憲兵隊(T・M・F)も帝都憲兵隊(R・M・P)と協力しながら警備体制を敷いています。ですが、とにかく帝都は広く、警備体制の穴が存在する可能性は否定できません。そこで皆さんに”遊軍”として協力していただければと思いまして。」

「ま、帝都のギルドが残ってれば少しは手伝えたんでしょうけどね~。」

「そうかしら?エレボニアはリベールと違って遊撃士が大嫌いだから、どっちみち大した手伝いはできなかったと思うわよ?」

クレア大尉の話に続くようにサラ教官の言葉を聞いたレンは不思議そうな表情で答えた。

「ええ……それは確かに心強かったとは思いますが。……あの、サラさん、レンさん。遊撃士協会の撤退に鉄道憲兵隊は一切関与していませんし、エレボニア帝国は遊撃士の事をそんな風には思っていないのですが……」

サラ教官の言葉を聞いたクレア大尉は説明をしたが

「そうかしら?少なくとも親分と兄弟筋はいまだに露骨なんだけどね~。」

「うふふ、それに遊撃士協会支部の撤退を命令したのは誰だったかしら♪」

「それは……」

サラ教官とレンの指摘に言葉を濁した。



(や、やっぱり色々と因縁がありそうだね……)

(ああ……ギルド絡みの話だったか。)

「ま、その兄弟筋も今はクロスベル方面で忙しそうだし。」

「クスクス、間違いなく目的は”通商会議”絡みでしょうね♪」

「!」

エリオットとリィンが小声で話し合っている中に指摘したサラ教官とレンの言葉にクレア大尉は顔色を変えた。そしてサラ教官はリィン達を見回して問いかけ、サラ教官の問いかけを聞いたリィン達は互いの顔を見合わせて頷き

「――――Ⅶ組A班、テロリスト対策に協力させていただきます。」

「同じくB班、協力したいと思います。」

リィンとアリサが班を代表して宣言した。



「……そっか。」

「フウ……仕方ないわねぇ。」

「ありがとうございます。では早速、担当して頂く巡回ルートについての説明を……」

そしてクレア大尉はリィン達に説明をし始めた―――――




 
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