剣士さんとドラクエⅧ
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107話 狂乱
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番外編集投稿しました。よければどうぞ。
「つらら!」
「危ないって!ちょっと!」
洞窟に入ればいきなり僕達の背後につららが降り注ぎ、正直言ってリレミトを思わず唱えようとしたぐらいだよ。なのにトウカはつららを引っこ抜くとそれをいばらドラゴンの色違いにぶん投げてた。あわれ樹氷の竜は物理的に形を保てなくなって消滅する。ダメージじゃなくても解けたらやられるんだ……初めて知った。
というか僕の言葉に手袋してるから氷が手に刺さったりしないよ!これドルマゲスに溶かされても無傷だったし!なんて言われても問題はそこじゃないし!ていうかそれどんな素材なんだ!
マヒャドの破片を思いっきり頭にぶつけて瀕死になったくせに元気いっぱいなのはいいけど少しは、少しは……自重して!僕も地面の跳弾に被弾してただろって?当たった瞬間にちゃんとベホマしたから!トウカにはククールがしてくれたって?……そりゃ回復のプロがそっちはついてるけど!
「誰が回復のプロだ……」
「対象が同じだったら五秒以内にベホマ打てるプロじゃないかしら」
なんか別人に次々かけるのは理論上いけそうだけど無理らしいけどね。かけたらまた唱えて、また詠唱しないといけないらしい。詠唱一回で複数にかけれたらそれはもうベホマズンになってしまうらしい……ってベホマのプロは使えてもおかしくないけど使えないんだとか。そういうのは僕の範疇だろって……そういうものなのかなぁ。
もはやトウカ、剣を完全に鞘に収めて素手で戦ってるし。ううん、素手というよりはつららで戦ってる。つららで殴ってるから素手じゃない、と。あれなんて分類すればいいのかな、鈍器?
「すごい!つらら投げてるだけなのに気分はマヒャドだよ!」
「それは『だけ』って言わないし!」
「入ってるのは物理ダメージだから耐性無視!」
「それ岩石落としになってるんじゃないの?」
「……なるほど!」
でもダメージ量が増えたからククールに怒られてるし。ダメージって受けたほうね。直角のお辞儀って、……貴族がするもんじゃなくない?デコピン……ククールがやってるのに雰囲気が鬼気迫りすぎててちっとも甘くない……。あ、剣抜いた……。
「アイスビックルを空中でたたき落とす!」
いつも通りの剣さばきでムーンサルトっぽい攻撃を無慈悲にキャンセルして爪ごと腕をぶった斬って倒している姿はどっちが悪なのか……人の手の入ってる洞窟とはいえそもそもの住人がどっちなのか、とか考えると訳わかんないけどね。
まぁ、スノーエイプを滅多刺しにしてる僕が言えたものでもないよね。……やってることがどんどん毒されてきてる気がするけど、僕ってほら槍使いだし、さみだれ突きを一匹に集中して倒すのには合理的っていうか……。一撃で倒せないからだし。
こうやってトウカがあの戦闘法を編み出したんだなぁ。
・・・・
「人が倒れてる!」
巨大なつららの向こう側、透かし見た向こう側にはなるほどトウカの言う通り倒れた人影が見える。つららの隙間は到底人が通れるものじゃなくて、そして残念なことにトウカがぶん投げてたつららより僕達をはばむつららは大きくて流石のトウカも腕組みして考え込んでいた。
「ちょっと引っこ抜くのは……無理かな」
「そう……」
「叩いて砕くのも考えたけどあの人に当たっちゃうし……」
物理的になんとかできないならほかの道を探すしかない、よね?見た限りどうやったら向こう側に行けるのか検討がつかないんだけど。どうしよう、あの人凍死しちゃいそうで、……もしかしなくてもあの人、グラッドさん、だよね。
そうじゃなくても見殺しにするわけにはいかないけど、するわけないけど。ますますするわけにはいかなくて。
「あっ……」
考え込んでいたらポケットが当然もぞもぞし始めて。慌ててポケットのトーポを見れば既に脱出してて、止める間もなく走っていっちゃった。
「トーポ、大丈夫かなぁ……」
「あんな小さい体だと凍えちゃうよね、なんで今わざわざ」
ともかく僕らはトーポ不在で何が出来るわけでもなく、そこで帰ってくるのを待つ事しか出来なかった。その間にも刻一刻と目の前の人は寒さに蝕まれていく訳だし、早く打開策を考えなきゃ、いけないのに。
バキッ!
「ん?」
聞きなれた音がその時僕達の耳に飛び込んできた。つららが折れて降る時の音、だ。間髪いれずにドーン!とつららが地面に突き刺さる音も聞こえて。
「トーポが動いたからつららが落ちたのかな?」
「今までみたいにつららの上を歩けばあいつのところに行けるかもしれないぜ」
なるほど。トーポってそれが分かってて飛び出したのかなぁ。前々から賢いとは思ってたけど、この状況で分かるってどれぐらいの知能なんだろう。文字を教えたら話できないかな……。ちょっと話してみたいかも。
「あ、通れるよ!」
ぱたぱたと走っていったトウカがいち早くその人のところに向かう。僕達も追わないと。みんなは先にそっちに行き、僕は帰ってきたトーポを手に乗せた。
「ちゅ!」
「お帰り。お手柄だよ、ありがとうね」
あとで辛口チーズをあげよう。トーポもこれじゃあ寒いだろうし。トーポはヌーク草入りのスープを飲んだわけじゃないから今まで寒かったよね。……うわ、気付けなかった。持ち歩いているトロデーンから持ってきたバンダナでせめて包んでポケットに入れると、僕も駆け出した。
幸いにもグラッドさんを助ける事は間に合って。……ヌーク草って生なら火ふき芸できるんだね。
・・・・
「何こいつら?!」
「ダークウルフェンがこんなに……」
グラッドさんを伴って外にリレミトしたはいいけれど、そこには大群の狼が待ち構えていて、真っ先に突っ込んだトウカなんか既に五匹いっぺんに対峙することになっている。かくいう僕も三匹にはマークされてて薙ぎ払っても薙ぎ払っても次々と新たなダークウルフェンが迫ってくる。
ゼシカが炸裂させたべギラゴンはあまり効いていないのか、それとも新手がどんどん襲ってくるから効いてても大した問題じゃないのか。どちらにせよ襲い来る数は尋常じゃない。
ヤンガスが斧無双でいっぺんに二十匹ぐらい吹っ飛ばし、剣撃じゃ追いつかないとばかりにトウカが真空波で切り刻む。これで僕らを襲っていたやつらは全部無残な姿で青い光となって消えたのに、すぐにゼシカがイオナズンを唱えなきゃいけないぐらい沸いてくる。どこからともなく。
舌打ちしたククールが前へ前へと飛び出そうとするトウカとヤンガスを引っ掴んで引き止めると……。
「ザラキ」
一言の呪文で全部倒してくれたのだけど。その全部、はまた襲ってた敵だけで次から次へと沸いてくる敵は普通にピンピンしてて……きりがないってこのことかな!僕がライデインを打とうが、とうとう視線で焼き払い始めたククールが……かなりビジュアルは笑いそうになるから今まで使わなかったんだろうけど……群れごと麻痺させようが関係ないと、仲間を踏みつけ次々に……。狂ってる、なにかに操られているみたいだ。
魔物だって生き物だから、そういう明らかにおかしい事はしてこなかったのに。……してこなかったっけ。してたとしても今回は、それでも変だ。
グラッドさんが襲われているのに気づけばトウカは彼を庇って立ちはだかり、五回も群れに何かを投げつける。一瞬間を置いて起こる大爆発……爆弾岩の欠片か。一発一発はイオラだろうけど五回も受ければその辺はクレーターみたいになって、無残。でも倒すのにはちょうど良かったみたいで、ノーマークになった彼を置いてトウカは今度は陛下を守った。馬車に飛びつこうとしたやつらを引き剥がして真っ二つに叩き斬り、白い雪はもはやダークウルフェンや僕らの真っ赤に染まっていた。
かくいう僕も槍に限界を感じてもっぱら遠ざけるだけに使い、範囲の広いライデインばかり打っているし。一匹二匹倒したって仕方ないぐらいの、数だから。
「きりがないぞ!エルト、ルーラで飛ぶか?!」
「みんな離れすぎてる!誰か置いてっちゃうよ!」
「クソッ!」
だからといって近づけといけないのが困ったところなんだ。今だって僕とククールは叫ばなきゃ戦闘にまぎれて声が聞こえないぐらいだったから。
とうとうゼシカが魔力切れを起こして短剣をとる。荷物から出来る限り出していた魔法の聖水がなくなったのか……まずい。一番魔力が切れた危ないククールはまだ何故か平気そうだったけど……これじゃあジリ貧かもしれない。確かに倒してるのに、相手が多すぎる!この分だとダークウルフェンを絶滅させるまでなんともなりそうにないなんて!
―-待て。
……あぁこの声は。
―-賢者の血を感じるが、その男ではない。本物は別にいる……。
姿は見えない。でも僕らは同時に確証しただろう。レオパルドだと。正確には、レオパルドを操っているラプソーンだと。
「洒落臭い!誰か巻き込んだらごめん!」
怒りに燃えるトウカがダークウルフェンに向けて剣を持ったまま全力で真空波を放った。さっきとは比べ物にならない威力……言葉通り巻き込まないようにしてくれていたんだろう……は、引き上げていくダークウルフェンを全部切り刻んだだけじゃなく僕の頬も切れたぐらいだった。もちろんその程度で怒るわけないんだけど。
というかみんなある程度は受けたみたいですかさずククールがベホマラーで癒してくれたし。
「出てこい、レオパルドッ!」
叫ぶ声は、わんわんと雪の世界に響いただけで、返事はなかった。ザァァアアッと雪混じりの風が木々を揺らし、吹き荒れる。ばさばさとみんなの服を揺らしながら、風はどことなく不吉な予感まで、運んできた。
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