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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第9話 忘却の美女たち

 「つまり、最初からアレ(・・)をクー・フーリンと見間違えていたのは私だけか」

 民家の件での後処理を済ませて戻ってきた利信を加えた藤村組内の幹部と、士郎達3人の計8人で、深夜にも拘らず話し合っていた。

 「はい。実はいうと、スカサハ殿の言葉通りです」
 「我ら全員から見たアレ(・・)は、黒い霧を纏い、大鎌を振るう死神の様にしか見えませんでした」
 「なるほどのぉ。私だけをまやかしに嵌めるとは、どんなスキル、或いは宝具なのか・・・・・・如何した、雷画?」

 そこで先程から黙っていた雷画に、スカサハが気付く。

 「・・・・・・如何したと言うワケでは無い。ただ、あれだけ息巻いておきながら、儂ら4人は直に脱落してしまった事に情けなく思ってのぉ」
 『・・・・・・』
 「Gahoo!?」

 雷画の尤もな言葉に嵐臥と和成は居心地が悪そうに押し黙り、キャスターとは言えサーヴァントであるのにも拘らずほぼ同時に気絶してしまったエジソンは、少なくない精神的ダメージを負う。
 だが言っては何だが、ほぼとは言え一番最初に意識を手放したのはエジソンだった。
 理由は単純に場数の差である。生前の経営者と発明家としての場数ならば兎も角、殺し合いの場数など皆無の上、身体能力についても3人とほとんど変わらない事もあり、開戦と同時の一番動きが鈍かったので一番最初に狙われたのだ。
 耐久値はEXだが、あくまでも刈り取られたのは意識なので防ぎきる事も叶わなかったらしい。

 (・・・・・・・・・・・・)

 当然あの場で唯一生き残り、その後も士郎達が来てからも健闘していたスカサハだけその真実を知っていたが、口にはしなかった。
 悪意のない雷画の口にした事実程度で、軽いショックを受けた自称米国紳士の事だ。本人たちの知らない真実を言えば、見た目に反してナイーブな大柄の男は暫くの間寝込むことは間違いなかった。
 その為、此処は1人だけを名指しするのではなく全体を意識するような言葉を選ぶ。

 「まったく・・・いい男どもが、一度の失態程度で落ち込むなど情けない」
 「むっ」
 「そこの発明王が生前残した言葉にもあるだろう?『失敗は成功の母』と。衛宮邸は無事じゃし、全員大した傷も無いのだ。今回の失態を次に生かせばいい。――――だがそれでも引け目に感じるのなら、お主の秘蔵の酒でも馳走になろうかのぉ」

 スカサハの言葉にムムムと唸る雷画。
 まるで餓鬼のように、一度の失態で気を使わせると言う醜態を曝したことに、自身を叱咤しつつ結論を出す。

 「・・・・・・確かに、そうじゃな。それに、その程度で良いなら幾らでもやるわい」
 「フフ・・・言質は取ったぞ?―――それと、3人とも(主らも)引け目に感じるのなら何時か借りとして返すがよい」
 「・・・御意に。スカサハ殿」
 「・・・・・・お言葉に甘えさせていただきます」
 「・・・本当に面目在りませんでした」

 3人のそれぞれの返答を聞いたスカサハは、世話が焼けると内心で呟いた後に話を戻す。

 「――――話を戻すぞ?あのサーヴァントの正体は不明だが、狙いが私や民家の住民だけだと言うなら、ガイアの使徒では無いだろうな」
 「ええ、恐らく。それと民家の死体の件なのですが、ここ数年前から度々世界中で起きている謎の変死体の発生の件と酷似している事が解りました。恐らくは・・・・・・」
 「あのサーヴァントじゃろうな・・・・・・それで、士郎。先ほどから黙っておるが、お前も何か気づいた事は無いか?」

 スカサハの言葉に、全員の視線が士郎に集中する。
 その視線を受ける当人は、重い口を開く。

 「・・・・・・私見ですが、あのサーヴァントは天・地・人・星のどのカテゴリーにも該当しない異質な存在だと思われます」
 「・・・・・・正直信じがたいが、宝石翁の下で学んだお前が言うなら確かだろう――――」
 「ん?如何やら利信君が連れてきたレディたちに覚醒の兆候が見られますな」

 話の途中で、エジソンが口を挿む。

 「エジソン式スリーピングシステムじゃったか?相変わらず便利なモノじゃな」
 「はっはっはっ!あの程度の発明、材料と費用さえ用意して頂ければ私にとって造作も無い事ですな、雷画殿。貴殿の許しさえあるのでしたら、今すぐにでも藤村邸を改造して、他の組織の構成員などを迎撃できる要塞に作り変える事も可能ですぞ?」
 「今のところ遠慮しておこう・・・。それよりも、ゲストを出迎えるとしようかのう?昼間から近くをうろちょろして、藤村組(うち)を嗅ぎまわっていた鼠たちを」

 話自体も終わりに近づいていたので、再開することなく剣呑さを露わにしていく雷画は、久しぶりに異名そのものになっていた。
 現世(うつつよ)の閻魔そのものに。


 -Interlude-


 暗闇の一室にて、2人の女性が意識を覚醒させながら体を僅かに動かしていく。

 「・・・・・・・・・・・・」

 銀髪短髪の女性の方が先に上体を起こす。
 如何やら目が暗闇の中で慣れてきたようで、自分の横で同じように上体を起こそうとする女性に気付きながらも困惑の中にあった。

 「・・・此処は・・・何所?・・・私は――――」
 「目が覚めた様じゃのぉ?」
 「っ!?」

 自分に誰かが喋りかけてきた声が聞こえるとほぼ同時に、襖が開かれて光が彼女たちを容赦なく照らす。
 自分たちの意思で点けた光では無いので、一瞬眩しそうに襖の奥から視線を腕で隠す。
 その行動に、自分たちの置かれた状況にしては余裕じゃのう?と勝手に受け取った雷画は、立場を分からせるために殺気を送る。

 「ヒッ!?」
 「・・・・・・・・・ん?」

 殺気を受けた美女たちは悲鳴を上げて怯えだす。
 この事に雷画だけでは無く、その他全員も首を傾げた。
 雷画の送った殺気は確かに一般人ならば怯えはするが、目の前の女たちの素性は既に調べが付いていたので怯えることに不可解さを感じたからだ。
 しかも体を震わして、抱き合う様に怯え続ける始末。これは如何いう事なのかと困惑していると、意外にも現在進行形で怯え続けている1人から口火が切られた。

 「す、すいませんが、私達が何かしてしまったのでしょうか?いえそれよりも、み、皆さんは私が誰かご存じありませんか・・・?」
 『・・・・・・・・・・・・は?』

 思わぬ発言に、全員で思考が停止したのであった。


 -Interlude-


 二日後。
 藤村邸の一室にて、石蕗和成が雷画に報告していた。

 「検査結果ですが・・・・・・間違いなく記憶喪失の様ですね」
 「・・・・・・・・・」

 雷画は面倒な事になったと嘆息した。
 そもそも彼女たちを事件後に藤村邸に運んだのは、自分達を嗅ぎまわるドイツ軍人達に気付いたためだった。
 記憶操作もあるし、取りあえず連れて来させた結果がこれである。

 「ややこしい事になったのぉ?」
 「はい。当初は釘を刺した上でフランク中将殿に大きな貸しを作らせる手筈でしたが、このまま帰られる訳にもいかなくなりましたから」
 「記憶はあくまでも消滅では無いのじゃな?」
 「はい。あくまでも一時的なモノであり、時間を掛けるなどすれば完治する程度であると言うのが、葵紋病院の医師からの報告です」

 和成の説明を聞きながら手渡された報告書をめくっていく雷画。

 (心因性の記憶喪失・・・。つまりあの異質なサーヴァントとの遭遇時の恐怖によるショック症状か)

 そして一度溜息をついてから報告書を返した。

 「記憶が戻ってからではないと記憶消去は出来んが、スカサハの方は何か言っておったか?」
 「今は様子見に徹していた方が良いと仰られていました」
 「ということはまた・・・・・・士郎に負担を掛ける事になるのぉ」

 そう、隣の塀を越えた孫同然の少年に、心の中で謝るのだった。


 -Interlude-


 そんな杞憂が当たったかどうかは分からないが、食卓の席にて百代が不機嫌そうに士郎に聞く。

 「士郎、あの2人は誰だ?」
 「急遽家で暫く預かる事になった、リザ・ブリンカー(リズ)さんとフィーネ・ベルクマン(ティーネ)さんだ。色々と事情があるから、あまり詮索しないでやってくれよ?」
 「・・・・・・良いんですか大河さん?」
 「仕方ないわよ~。これで保護したのが士郎自身ならお説教モノだけど『なんでさ』、保護したのは組員だし、御爺様の方針で何故か衛宮邸(この家)で預かる事になっちゃったんだもの。いや・・・・でもまさか、一夫多妻制の導入で士郎により多くの女性を娶らさせて藤村組強化を名目にひ孫を多く作らせる計画何じゃ・・・・・。――――駄目よ駄目よ!御爺様ったら、幾らなんでもそれは駄目!!士郎がエロエロな子になっちゃったら、草葉の陰から見ている切嗣さんにどうやって詫びればいいどっふぐむぐ!??」
 「藤姉ぇ、ちょっと黙ってろ・・・・ん?」
 「・・・・・・・・・」

 士郎は、自分のおかずの一品を大河の口に差し入れる事で、口を塞いで黙らせた。
 そこで士郎は不機嫌さを露わにする百代に気付き、首を傾げる。
 百代は美女に目が無い筈と言うのが士郎の認識であり、今でもそれは事実だろう。
 但し、今はそれに条件が付いた場合真逆の不機嫌ぶりを発揮するのだ。
 勿論その理由は士郎である。
 士郎が自分以外の美人と一緒に居るのが、気に入らないのだ。しかも無意識的に。
 普段は恋愛感情有る無しに関わらず、自分の感情を隠さず表に出し、自分に向けられる行為もある程度は気付けるが、如何やら士郎に対しては組手の時以外で無意識的に乙女になるようで、自分自身の今の気持ちにも自覚がない様だ。
 この様な事ではこの2人、何時になったら進展するのやら。
 話を元に戻すが、そんな百代について事前に聞かされていた話とは違う事に、記憶喪失の美女たちは肩身を狭くさせながら困惑する。

 「あ、あの、士郎君」
 「私達、何か気の触る行動をとってしまったんでしょうか?」
 「い、いや、単に初対面の相手に戸惑ってるだけですよ・・・」

 士郎の言葉に焦りがあるのはリズとティーネの位置と服装にある。座っているのは士郎の真横の席で、2人ともラフな格好で百代ほどでは無いが豊満な体のある一部分が自覚無く士郎に対して主張しているので、男として目のやり場にも困りながら色々焦っているのだ。
 そして百代はこの事自体も気に入らない様で、3人まとめて睨んでいた。

 (両手に花状態じゃないか、士郎の奴!そもそも何故2人を自分の横にしたんだ、このムッツリすけべがっ!)

 結局百代は終始不機嫌のままだった。


 -Interlude-


 あれから百代が一旦帰宅してから数十分後、士郎とシーマは登校するために玄関に来ていた。

 「それじゃあエジソン。留守は頼んだぞ?」
 「任されよう。とは言っても、四日前に始めた経営コンサルタントの仕事も熟さなければならんので、常に監視は出来んがね?」
 「十分だ。じゃあ行ってくる」
 「うむ。今日も元気良く登校するがいい。シーマ、ちゃんとシロウの護衛を果たすのだぞ?」
 「お主に言われるまでも無い」

 お互いぶっきらぼうな言葉で挨拶をしてその場を終えた。 
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