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英雄伝説~菫の軌跡~(閃篇)

作者:sorano
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第33話



夕食前にリィン達はオリヴァルト皇子からある話を聞かされていた。



~夕方・聖アストライア女学院・聖餐室~



「―――驚きました。学院の理事長をされているのが皇族の方とは聞いていたのですが。」

「ハッハッハッ。驚くのも無理はない。今をときめく『放蕩皇子』が伝統ある士官学院の理事長なんかやっているんだからねぇ。まー、あまり聞こえがよろしくないのは確かだろうね。」

リィンの言葉に声を上げて笑って答えたオリヴァルト皇子は苦笑して説明し、オリヴァルト皇子の答えを聞いたリィン達は冷や汗をかき

「お兄様、ご自分でそれを言ったら身も蓋もありませんわ。」

アルフィン皇女は呆れた表情で指摘した。

「で、ですが本当なのですか?殿下が”Ⅶ組”の設立をお決めになったというのは……」

「タネを明かせばそういう事さ。元々、トールズの理事長職は皇族の人間が務める慣わしでね。私も名ばかりではあったんだが一昨日のリベール旅行で心を入れ替えたのさ。」

そしてアリサの質問を聞いたオリヴァルト皇子は表情を真面目に戻して静かな口調で答えた。



「一昨年のリベール旅行……」

「”リベールの異変”ですね。」

「ああ、あの危機における経験が帰国後の私の行動を決定付けた。そして幾つかの”悪あがき”をさせてもらっているんだが……そのうちの一つが、士官学院に”新たな風”を巻き起こす事だった。」

「新たな風……」

「……すなわち我々、特科クラス”Ⅶ組”ですか。」

「では、身分に関係なく様々な生徒を集めたのも……?」

オリヴァルト皇子の話を聞いてある事が気になったマキアスはオリヴァルト皇子を見つめた。

「ああ、元々は私の発案さ。もちろんARCUSの適性が高いというのも条件だったがね。」

オリヴァルト皇子の説明を聞いたリィン達全員は黙り込んだ。



「……今となってはその意図も何となくわかります。こうして”特別実習”という名目で各地に向かわせることの意味も。」

「この帝国で起きている実情……貴族派と革新派の対立を知らしめ、考えさせるのが狙いですか。」

「無論、それもある。だが私は君達に現実に様々な”壁”が存在するのをまずは知ってもらいたかった。その二大勢力だけではない、帝都と地方、伝統や宗教と技術革新、帝国とそれ以外の国や自治州までも……この激動の時代において必ず現れる”壁”から目を背けず、自ら考えて主体的に行動する―――そんな資質を若い世代に期待したいと思っているのだよ。」

「あ……」

「……それは…………」

オリヴァルト皇子の答えを聞いたリィン達は再び黙り込んだ。

「正直、身に余る期待ですけど……」

「ですがようやく、色々なものに合点がいった心境です。」

「たしかにこの”Ⅶ組”ならばそんな視野が持てるかもしれない……」

「そういった手応えが自分達の中にあるのも確かです。」

「……だね。」

「フフ、そうか……そう言ってくれただけでも私としては本望だ。”Ⅶ組”の発起人は私だが既にその運用からは外れている。それでも一度、君達に会って今の話だけは伝えたいと思っていた。そこにアルフィンが、今回の席を用意すると申し出てくれてね。」

Ⅶ組の面々の答えを聞いて静かな笑みを浮かべたオリヴァルト皇子は話を続けた。



「そうだったんですか……」

「フフ、お兄様のためというのもありますけど。エリゼの大切なお兄さんに一度、お会いしたかったのもありますね。」

「ひ、姫様……!」

リィンを見つめて微笑むアルフィン皇女とセレーネの答えを聞いたエリゼは焦った表情をした。

「はは……―――そういえばずっと気になっていたんですけど、殿下とフィー、そしてレンはお知り合いのようですけど、一体どのような経緯があったのですか?」

「フィーの話によると”ある事件”に巻き込まれたとの事ですが……」

「おや、二人とも話していなかったのかい?フフ、ちょうどいい機会だし、私が教えてあげるよ。フィー君達と私が巻き込まれた”事件”とは――――」

リィンとラウラの疑問を聞いて目を丸くしたオリヴァルト皇子は”影の国”の件や、”影の国”に巻き込まれる事件の元となった”輝く(オーリオール)”が関わる事件――――”リベールの異変”について説明をした。



「”リベールの異変”後殿下達はそのような事件に巻き込まれたのですか………」

「”リベールの異変”に伝説の”七の至宝(セプトテリオン)”が関わっていたなんて……」

「”想念”が反映される世界―――”影の国”……一体どのような世界なのだろうな……?」

「し、しかもあの”怪盗B”が”リベールの異変”に関わっていたなんて……!」

事情を聞き終えたユーシスとエマは驚き、ガイウスは考え込み、エリオットは信じられない表情をした。

「まあ~、”影の国”は現実では”ありえない出来事”だらけだったよ。物語の中でしか出て来ないような”魔物”――――亡霊や死者に小鬼に獣人とゼムリア大陸では存在しない魔獣がゴロゴロいたし、一番手強かったのは”本物の悪魔”だったよ。」

「死者や亡霊に加えて”本物の悪魔”って………」

「ひ、非常識な………」

疲れた表情で答えたオリヴァルト皇子の話を聞いたアリサは表情を引き攣らせ、マキアスは疲れた表情で呟いた。

「―――実際、”悪魔”は雑魚でも手配魔獣を軽く超えるクラスはいたし、フロアのボスの”悪魔”は七耀教会の”聖典”に載っている伝説上の大悪魔なだけあって、滅茶苦茶手強かった。」

「私は決戦時では別の相手と戦っていたから実際には戦っていないが、他の仲間は決戦で”竜”や”神”とも戦ったそうだからね。まさに何が出てきてもアリな世界だったね。」

フィーとオリヴァルト皇子の口から次々と出てくるとんでもない話にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「道理で二人とも強すぎる訳よ………」

「フフ、そのような所に放り込まれて生き残る為に戦ったのだからな……その気がなくても、強くなるだろうな。」

我に返ったアリサは疲れた表情で呟き、ラウラは苦笑していた。



「はは……―――話を聞かせていただいて本当にありがとうございます。自分達の中の芯が一本、改めて通ったような心境です。ですが……お話を聞く限り、自分達が期待されているのはそれだけでは無さそうですね?」

そして苦笑した後気を取り直したリィンは真剣な表情でオリヴァルト皇子を見つめて尋ねた。

「え……」

「ほう……」

リィンの質問を聞いたエリゼが呆けている中、オリヴァルト皇子は感心した様子でリィンを見つめた。

「士官学院の常任理事の3名……我が兄、ルーファス・アルバレアに帝都知事カール・レーグニッツ。そしてラインフォルト社会長、イリーナ・ラインフォルトですか。」

「あ……」

「確かにその3名は……」

「どう考えてもオリビエとは違う狙いを持ってそう。」

「フフ、その通りだ。―――先程も言ったが既に”Ⅶ組”の運用は私から離れ、彼ら3名の理事に委ねられている。このうち、知っての通り、ルーファス君とレーグニッツ知事はお互い対立する立場にある。イリーナ会長はARCUSなどの技術的な方面に関係しているが、その思惑は私にもよくわからない。そして――――君達の”特別実習”の行き先を決めているのは彼らなのさ。」

ユーシスの指摘に頷いたアリサやマキアス、フィーの指摘を聞いたオリヴァルト皇子は静かな笑みを浮かべて説明した。



「そ、そうだったんですか……」

「……確かに何か思惑や駆け引きなどがありそうですね。」

「ああ、3人からは”Ⅶ組”設立にあたって譲れない条件として提示されたものでね。正直、ためらいはしたのだがそれでも我々は君達に賭けてみた。帝国が抱える様々な”壁”を乗り越える”光”となりえることに。」

オリヴァルト皇子の話を聞いたリィン達は黙って考え込んだ。

「フフ……だがそれじゃあ我々の勝手な思惑さ。君達は君達で、あくまで士官学院の生徒として青春を謳歌すべきだろう。恋に、部活に、友情に……甘酸っぱい青春なんかをね♪」

真剣な表情で語った後ウインクをしたオリヴァルト皇子の発言にリィン達は冷や汗をかいた。

「あはは……」

「……そう言って頂けると少しだけ気が楽になりました。」

我に返ったエリオットが苦笑している中、リィンは口元に笑みを浮かべてオリヴァルト皇子を見つめた。

「その、先程”我々”と殿下は仰っていましたが……他にも殿下に賛同されている関係者の方々が?」

その時ある事に気付いたアリサはオリヴァルト皇子を見つめて尋ねた。



「ああ――――ヴァンダイク学院長さ。元々、私もトールズの出身で、あの人の教え子でね。”Ⅶ組”を設立するアイデアにも全面的に賛同してくれたんだ。」

「そうだったんですか……」

「確かに学院長には色々と配慮していただいてますね。」

「3人の理事達とは異なり、学院運営に口を出せる立場ではないが理事会での舵取りもしてくれている。何よりも現場の責任者として最高のスタッフを揃えてくれたからね。」

「最高のスタッフ、ですか?」

「もしかして……サラ教官のことでしょうか?」

オリヴァルト皇子の言葉が気になったユーシスは不思議そうな表情をし、ラウラは尋ねた。

「はは、彼女だけではないがね。ただ学院長が彼女を引き抜いたのは非常に大きかっただろう。帝国でも指折りの実力者だし、何よりも”特別実習”の指導には打ってつけの人材だろうからね。」

「え。」

「帝国でも指折りの実力者……」

オリヴァルト皇子の答えを聞いたアリサとエリオットは呆け

「”特別実習”の指導に打ってつけの人材……??」

マキアスは不思議そうな表情で首を傾げた。



「ふふっ、わたくしも噂くらいは耳にしたことがありますわ。”紫電(エクレール)”なんて格好いい呼ばれ方をされている方ですよね?」

「”紫電(エクレール)”……!」

「……やはり……!」

「二人が知っているという事は帝国の武の世界で知られる名前か。」

アルフィン皇女の言葉を聞いて顔色を変えたラウラとリィンの様子を見たガイウスは二人に尋ねた。

「ああ……耳にした事があるくらいだけど。」

「帝国遊撃士協会にその人ありと言われるほどの若きエース。最年少は……レン君が更新したから、違うな。若干16歳でありながらも凄まじい速さでA級遊撃士となった恐るべき実績の持ち主……”紫電のバレスタイン”―――それが君達の担当教官さ。」

「ま、まさかサラ教官が遊撃士だったなんて………あれ?今、殿下は最年少はレンが更新したみたいなことを仰っていましたけど………」

「まさかレンも遊撃士なんですか!?」

オリヴァルト皇子の話を聞いて驚いていたエリオットはある事に気づき、マキアスは信じられない表情で訊ねた。



「おや、レン君は君達に自分の事を何も教えていないのかい?」

「は、はい……『レディは謎が多ければ多い程魅力的なものよ』とわけのわからない事を言って、いつも話を誤魔化して自分の事は何も教えてくれなかったんです。」

「ハハ、彼女らしい答えだね。――――お察しのとおり、彼女も遊撃士だ。リベールに所属している遊撃士の中でも5本の指に入る幼きリベールのエースであり、”八葉一刀流”の皆伝者―――”小剣聖”にして”遊撃士協会の麒麟児”と名高い最年少A級正遊撃士であり、”天使”のような可憐な容姿でありながら、おとぎ話等で出てくる”戦乙女”のように女性でありながら武芸が達者な事から遊撃士としての二つ名は”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”―――それがレン君の正体さ。」

アリサの話を聞いて苦笑したオリヴァルト皇子はレンが遊撃士である事をリィン達に教えた。




 
 

 
後書き
オリビエはレンのもう一つの正体―――”Ms.L”の件はしゃべっていませんが、これについては色々と理由があり、その理由については閃篇最終話あたりで語られる事になります。後原作ではサラが凄いみたいな事言われていますけど、エステルは16歳でありながら凄まじい速さでA級正遊撃士(最低でもB級正遊撃士)になった上国家の大事件を解決したメンバーの一人なのですから、遊撃士としての実力はともかく功績についてはエステルの方が凄いと思うのは私だけですかね? 
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