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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第8話 邂逅は突然に

 ほぼ同時刻の家主が出かけた衛宮邸。
 そこではスカサハが、顔には出さずとも柄にもなく、内心で心配そうにしていた。

 (士郎達め、最後まで聞かずに行きおって――――いや、聞いたとしても正義感の高い2人の事じゃ。何方にしても行くのぉ)

 溜息をついて現状に悲観する。
 感知したサーヴァントの素性は判らないが、まず今の2人では天地がひっくり返っても勝てないと理解していたからだ。
 それほどまでに濃い存在だった。
 しかし今は存在も気配も全く感じ取れない――――と思った瞬間・・・。

 「これは・・・」
 「レディ・スカサハ」

 ある事を感じた瞬間、エジソンが擬態を解いたサーヴァントとしての姿で来た。

 「お主も気づいたか?」
 「はい。衛宮邸の前に異常な存在濃度を感知しましてな」
 「ならばお主は此処に――――」
 「勿論私も戦いますぞ」

 予想外の返答に、スカサハが軽く面を喰らう。

 「・・・・・・分かっておるのだろう?今来ておるのは、相当上位かそれ以上のサーヴァントだ。お主では到底、歯が立たぬであろう」
 「勿論心得ております。私はキャスターですからな。言う通り、奥に引っ込んでいるのがベストでしょう。この国の言葉で言えば『餅は餅屋』と言った所でしょうか?――――ですがだからこそなのですよ!」
 「ん?」
 「例え敵が強大であろうとなかろうと、女性だけを前面に立たせるなど・・・・・・米国紳士の名折れです!生前私を支えてくれた家族や友人達へ、顔向けが出来んのですよ!!」

 随分と強い調子で語るエジソンに溜息を吐く。

 「つまり私の為と言うのはついでで、本音は自分のメンツの為と言うわけか・・・」
 「そ、そんな身も蓋も無い・・・。そ、それに私は―――」
 「分かった分かった。そう言う事にしておいてやる。――――じゃがな発明王。私と戦場に立てば最早引き下がれぬと思え」
 「フフ、何を仰られるか・・・。米国男児に二言は無い!!」
 「・・・・・・それを恐怖で体全体を震わせてなければ、もっといい男だったのじゃが」

 スカサハの指摘通り、エジソンはこれから向かうであろう戦場への恐怖に戦慄していた。
 何時からかと言えば、割と始めの方から。

 「な、ななな、何をおっおおおお、仰ることやららららららら!?」

 指摘されてテンパる事で、声までも震えはじめた。
 しかしそれも仕方なき事。
 今でこそ英霊として祀り上げられてサーヴァントとして召喚されたが、生前は武など極めた事など皆無であり、戦争・従軍経験など勿論ない。
 あると言えば気に入らない相手や見解の違いで殴り合いをした程度なのだ。
 そんな元一般市民に、最上級の殺し合いを死後に押し付けられても正直な話、ついていけないのだ。
 だがそれでも恐れても直、意地を張り通そうと言う気概自体については、スカサハは嫌いでは無かった。

 「どの様な時代になっても男という生物は、女の前でカッコを付けたがるものじゃな」

 取りあえず、そう、結論付けた。

 「それに、お主と同類がおる様じゃしな」
 「?そ、それは如何いう―――」

 エジソンが全てを言い終える前にスカサハが襖を全開にすると、魔術と言う世界の秘密を知る藤村組の面々が、招かれざる客を出迎えるように庭に来ていた。
 その事にエジソンが疑問を口にする前に雷画の口が開く。

 「先ほど士郎から連絡が有ったのでな。禊を含めた後処理のために、利信の奴を向かわせた」
 「そうすれば若もシーマ殿も(じき)に戻ってきましょう」
 「それまでは、我らだけでも少しは時間を稼げますよ。スカサハ殿」

 如何やらエジソンと同じくして参列する気満々の3人。
 しかもこちらの疑問を聞く前に、あっちが勝手に聞きたかった質問の答えを言う始末だ。
 これにスカサハは、またしても溜息をつく。

 「ヤレヤレ、これは止めるだけ野暮と言うモノか?」
 「フハハハハ!これは我々の最大戦力ですな!これではシロウの出番が無いやもしれませんな!」
 「だと、いいのじゃがな・・・」

 そこで嘆息すると、招かれざる客が衛宮邸の扉をすり抜けて侵入してきた。

 「招いた覚えはないが、此方の状況確認のために時間を待ってくれた礼じゃ。相応の歓迎をしてやるぞ?客じ・・・・・・なっ――――」

 すり抜けて来た侵入者来る前に一度閉じた目で見据えたスカサハは、我が目を疑った。
 何故ならそこに居たのは・・・。

 「ずいぶん黒々とした姿じゃのぉ」
 「こうして向かい合っているだけで・・・・・・・・・寒気が止まりませんね」
 「この感覚・・・・・・・・・まるで死神と向かい合っているみたいだな」
 「?如何したのですかな、レディ?」

 侵入者の禍々しい姿に各々が感想を口にする中、スカサハの異変に唯一気づいたエジソンが声を掛けるがスカサハは反応していない。
 だがそれもその筈だ。

 「よぉ、師匠!随分待たせたが来てやったぜ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クー・・・・・・フーリン・・・?」

 嘗て自分の下で修業に励み、朱色の魔槍ゲイボルグを授けた弟子――――青き槍兵のクー・フーリンの姿が彼女の瞳には映し出されていたのだから。


 -Interlude-


 士郎とシーマは、応援と後処理のために駆けつけてくれた利信から事情を聴いて、後を任せて急いで帰るために、夜闇を切り裂くように全力で駆け抜けていた。
 疾走中に士郎は後悔し続けると共に疑問が尽きなかった。
 ――――気配を感知できなくとも手当たり次第に探すべきだったと。
 しかし気配探知の範囲は衛宮邸まで入れていたのに、感知できなかった事に疑問がある。
 いや、サーヴァントである以上アサシンならば当然可能であろうが、それはあり得ない。

 (アサシンなら最初に来たはずだ!?なのに・・・・・・・・・いや、まさか、ガイアの使徒では無いって言うのか?――――だとしたら、聖杯戦争のサーヴァント・・・?)

 色々と考える中で、横からシーマが叫び声が聞こえて来る。。

 「何を考えているかは知らぬが、もうすぐだぞ!」

 シーマの言葉に我に返ったと同時に、2人揃って衛宮邸の敷地の内側と外側に隔てる塀の瓦の上に着地した。

 「ッッ!!?」
 「これは・・・!」

 漸く衛宮邸に帰還した2人は絶句する。
 サーヴァント本来の姿に戻ったエジソンに、迎撃のために態々来てくれた雷画に嵐臥に石蕗和成の計4人が倒れ伏していた。
 この惨状に思わず激情に駆られそうになる士郎だが、冷静に戻す為の平手をシーマから喰らう。

 「落ち着け、シロウ!よく見ろあの4人を!いずれもほとんど外傷もないし、魂を抜かれているワケでは無い様だぞ」
 「・・・・・・・・・」

 確かにシーマの言う通り、如何やら気絶しているだけの様だ。
 だがこの元凶は、現在進行形でスカサハと交戦中のままだ。

 「クッ!?」
 『随分ト苦シそうダな?アるバの女王ヨ』(「オラオラ!その程度かよ?師匠!」)

 スカサハは最初こそ戸惑いはしたが、何故お前が此処に居ると叫びながらも攻撃していた。
 しかしそれも次々に周囲の者達が倒されて気絶していき、その上自分の縦横無尽の攻撃も効かずに、少しづつじりじりと防戦一方にを強制されて来ていた。
 今はルーン魔術なども駆使して何とか押しとどめているが、それも時間の問題である。
 しかしそこに、いつの間にかに戻って来ていた士郎とシーマが突っ込んで行った。

 「セイっ!」
 「やあッ!!」

 投影宝具である干将莫邪の振り下ろしと、恐らく宝具なのだろうシーマの剣振り上げを禍々しいサーヴァントは大鎌のようなモノで防ぎ切り、押し返す。

 押し返されても見事に着地する士郎とシーマ。
 そして士郎は睨みながら言う。

 「テメェ、何者だ(・・・)っ!」
 『・・・・・・衛宮シ郎カ』(「坊主?」)
 「!?」

 スカサハは士郎の口にした言葉に耳を疑った。
 士郎の記憶を幾度も覘いた事のあるスカサハからすれば何故と思ったのだ。
 士郎は本来の世界での記憶を一部失っているが、クー・フーリンの事は覚えている筈だ。
 なのに士郎はクー・フーリンに向けて何者だ(・・・)と口にしたのだ。
 この事に疑問は尽きないが、そんな彼女をよそに事態は進む。

 「問答など無駄だシロウ!それとまともな――――」
 「無駄かどうかは知らねぇが、目的ならあるぜ?」(『無駄デあるかハ知ラぬガ、目的なラあル』)

 それは士郎達に向いたまま、スカサハに大鎌らしきものを向けた。

 「お前らには用は無ぇ。俺の目的は師匠を殺してやるだけだ」(『汝ら含メ、他二用は無シ。私(仮称)はスかサはを殺ス事のミ』)

 これで問答は終えたと言わんばかりに、周囲の反応を見ることなくスカサハを殺しに掛かろうとする。
 しかしその行動を読まれていたようで、スカサハに向けて突っ込んでいた謎のサーヴァントの真横に来た士郎とシーマはすかさず斬りかかる。

 『させるかッ!』

 だがそれを軽くあしらう様に、大鎌の様なモノで切り払う。
 しかしそれにもめげずに2人は喰らい付く。
 その幾度もぶつかり合う金属音の響きも、結界の機能の一部の防音により、周辺にまで騒音としてまき散らす事は無い。

 「っ!」
 「まだまだ!」

 しかし当人らはそのような事を気にする事も無く、剣戟を繰り返していく。
 切り払われては剣の宝具で防ぎ、また突っ込む。
 砕かれては何度も干将莫邪を投影して、斬りかかり或いは投擲していく。

 『・・・・・・・・・』

 この禍々しき謎のサーヴァントからすれば、現在の2人は格下である事に変わりはない。だが、こうまで粘られ続けられては流石に目障りと判断されたのか、士郎達が来るまでに気絶させた者達と同じ末路を追わせる為に、大鎌を持つ手とは逆の腕を向ける。

 『!』

 しかしそこで、結果的に放置していたスカサハから増大する魔力量を感知してから彼女へ向くと、如何やら宝具の展開に入る体勢だった。


 -Interlude-


 スカサハと言えば、クー・フーリンに気付かれるのは百も承知であった。
 しかしこの一撃で、最初の違和感と先程からの疑問をまとめて解消するきだ。
 ――――クー・フーリンに防戦一方に追い詰められてから、何故こうまで自分より強いのか?
 ――――そもそも目の前に来るまで、如何してサーヴァントの反応をクー・フーリン本人であると認識できなかったのか?
 ――――そして何よりも、何故クー・フーリンの事を覚えている筈の士郎が何者かと聞いたのか?

 (それらを一緒くたにした、この一撃で全て見極める!)

 普段は一本だけの魔槍を、もう一つ増やして謎のクー・フーリン目掛けて突っ込む。

 「刺し穿つ、突き穿つ――――」
 『!』

 此方の動きを察した士郎達の攻撃が上手く陽動になり、変則的な軌道を走る一本目の魔槍が刺さっているかは不明だが、確実に当たっており、宙に縫い付けられる。

 「――――貫き穿つ死翔の槍(ゲイボルク・オルタナティブ)!!」

 自由を奪われたと思われる謎のクー・フーリン目掛けて、神殺しの一撃が籠った二本目の魔槍がど真ん中に当たる。
 これに耐えられるものなど存在しえないだろうと思われる程の絶技による影の女王の宝具展開だったが、もの凄い轟音が過ぎ去ると同時に煙も晴れると、そこには無傷と思われる謎のクー・フーリンがさも当然と言ったように健在だった。

 「馬鹿なっ!?」
 「今の余ならば兎も角、スカサハの彼女のあの一撃を耐えると言うのか!?」
 「・・・・・・・・・」

 確かに信じがたい結果だろうが、スカサハは如何やら予想範囲内だったようで、特段驚きもせずにただ淡々と冷静に観察していた。

 (百歩譲ってガイアの抑止力のバックアップを受けていたとしても、無傷などあり得ない。で、あるならば・・・・・・)
 「――――私の馬鹿弟子の姿を偽った不届き者よ。貴様は何者だ?何故、私を狙う」
 『貴様ガ私(仮称)ヲ求メタのだロう?』(アンタが俺を呼んだんじゃねぇか?)
 「何を馬鹿な・・・?百歩譲って本人なら兎も角、今も直姿を偽るどこぞの馬の骨なぞ求めた覚えなど無い!」

 完全なる侮蔑と受け取ったスカサハは、表情は何時も通りだが、何時もとは比べ物にならない殺気を全身から発していた。
 しかし殺気を向けられている当人は、何所までも自分のスタンスを崩さない。

 『私(仮称)は求めラレナい限り、現れナイ。(「俺は呼ばれないのに来ねぇよ」)ソれよりも汝は何故拒ムノダ?自分を殺しテクれル者ヲ渇望シテイたのダろう?』(「それよりも、如何して拒絶するんだよ。アンタ自身が言ってたじゃねぇかよ、当の昔に死んでおけばよかったってよ?」)
 「それを何所ぞの誰かに答える気は無いと言ってるのだ!」
 『・・・・・・・・・・・・』(「・・・・・・・・・・・・」)

 絶対なる拒絶を受けた謎のクー・フーリンは、踵を返して出て行こうとする。

 「逃げるのか!?」
 「あそこまで拒まれりゃ、いる意味無ぇからな」(『あレほどノ拒絶を見せらレレば此処に留マる理由は無イ』)

 ――――何よりも。

 『「時間だ」』

 瞬間、謎のサーヴァントは天から伸びてきた黒いパスに引きずり吸われる様に掻き消えて行った。

 「なんだったんだ・・・」

 その光景に誰かがポツリとつぶやいた。


 -Interlude-


 謎のサーヴァントは黒いパスの流れに従って、川神山の山頂に流れて行った。
 そしてそこに倒れ伏している存在が終着地点の様で、その者に全て収まるように入ると、それ――――黒子は起き上がる。

 「・・・・・・・・・」

 山頂から冬木市と川神市を俯瞰する様に眺める黒子は、直に踵を返してこの地から走り去る。

 「影の女王だけでは無い。この世界にいる私を求める者達全員を、いずれ必ず――――」

 夜闇に溶けるように疾走する黒子は、祈りにも似た言葉を紡いだ。

 「――――救って見せる」 
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