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トラベル・ポケモン世界

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5話目 青い龍

 グレイがコイキング売り一行の仲間になってから1週間が経った。

 ツギシティのとある広場。ここはバトルをするためにトレーナーが集まるため、バトル広場などという通称で呼ばれている。
 ツギシティは夜になり、バトル広場には旅人の他に仕事終わりの地元民も加わり、様々なトレーナーがバトルをしていた。
 そんな中、グレイも相手をしてくれそうなトレーナーを見つけたので、バトルを始めようとしていた。相手はグレイよりも年上の青年だった。

 バトルのルールは、互いに使用ポケモン2体で戦うことになった。
 相手トレーナーは、ラクライを繰り出した。
 ラクライ、いなずまポケモン。小型の犬のような姿をしており、緑色の体の一部に黄色いギザギザの模様がある。電気タイプのポケモンである。
「頼むぞ! KK!」
 グレイはそう言い、KKをモンスターボールから出した。
 グレイの前に、長い胴体をもつ青い龍のようなポケモンが現れる。
 この青い龍のようなポケモンこそギャラドスである。グレイの特訓によって、KKはコイキングからギャラドスに進化したのである。
 ちなみにグレイがギャラドスをニックネームで呼ぶのは、「ギャラドス」よりも「KK」の方が呼びやすいからである。
 さて、ポケモン自身や、ポケモンが使う技には、タイプと呼ばれる属性のようなものがあり、タイプによって有利や不利がある。
 相手のポケモン、ラクライは電気タイプであり、おそらく電気タイプの技も使えることだろう。対してグレイのギャラドスは水タイプと飛行タイプを併せ持つポケモンである。
 電気タイプの技は、水タイプのポケモンに効果が抜群であり、同時に飛行タイプのポケモンにも効果が抜群である。つまりギャラドスは電気タイプの技が二重に苦手なのである。
 ラクライに対してギャラドスを繰り出したグレイを見て、相手トレーナーが口を開く。
「電気タイプのラクライにギャラドスで挑むなんて、勇気あるね君」
 対してグレイの返答は
「話は後にして、早く始めましょうよ」
 グレイは別に相手を煽っている訳ではない。この返答には理由があった。
 グレイの返答に、相手トレーナーは一瞬ムッとした表情を見せたが、大人の対応でバトルの開始の合図をした。
「KK! バトル開始!」
 グレイがギャラドスに宣言したと同時に、ギャラドスはスタートダッシュをかけて相手のラクライに一直線に飛来し、頭突きをかまして、長い胴体で遠心力を利用して思いっきり尻尾を叩きつけ、ラクライを吹っ飛ばした。
 勢いよく吹っ飛ばされたラクライは地面に何回かバウンドし、長い距離を滑った後ようやく止まった。
 相手トレーナーは一瞬驚いた様子を見せた後、先ほどのグレイの発言に納得がいったという様子で口を開く。
「君のギャラドス、早く戦いたくて仕方なかったんだね」
「話、後にしてもらえます?」
 相手トレーナーはグレイの返答に対して、「どんだけ戦いたいんだよ……」と苦笑いを見せたが、以降はグレイへ声をかけてこなくなった。
 相手トレーナーが指示を出す。
「ラクライ! “でんじは”」
「KK! 吹っ飛ばせ!」
 相手のラクライが、“でんじは”という相手を麻痺させる技を放とうとするが、それよりも早くギャラドスが飛来し、先と同じように頭突きをかまして、長い胴体で遠心力を利用して思いっきり尻尾を叩きつけた。
 再び吹っ飛ばされたラクライは、受け身をとることもできずにバトルフィールドの壁に激突した。
 相手のラクライが吹っ飛ばされたことで“でんじは”は不発に終わった。
 一般にギャラドスは、重さが235.0kg、高さが6.5m、と言われている。そんな巨体から繰り出される頭突きも、長い体の遠心力を使った攻撃も、威力は相当なものである。
「ラクライ! あきらめずに“でんじは”」
 相手トレーナーが再び指示した。
「待てKK!! まだ近づくな」
 グレイは相手が“でんじは”を使えることを警戒して、ギャラドスがむやみに突っ込まないように指示した。
 待ての指示に対し、ギャラドスは不満そうな様子を見せたが、しぶしぶグレイの指示に従った。
「ラクライ! “スパーク”」
 “スパーク”は、全身に電気をまとって相手に突撃する電気タイプの技である。ラクライは電気をまといながらギャラドスに向かって来る。
「KK! 避けろ! 距離をとれ」
 相手の“スパーク”を防ぐ手段はあるが、相手の“でんじは”を警戒してグレイはギャラドスを下がらせた。
(相手の“でんじは”をくらって麻痺したら一気に不利になる。電気タイプの技である“スパーク”をくらった場合もダメージは大きい。しばらくは隙を伺うしかないか……)
 グレイはそう思い、しばらくは回避に徹する作戦を考えていた。

 しばらく相手の様子を見ながら、グレイは相手のラクライを分析していた。現時点で分かったことは、ラクライは“スパーク”を使い終わった直後の隙が大きいこと、それから“でんじは”は意外と効果の範囲が狭いこと、である。
(さて、それらの隙をどうやって突くかね……?)
 グレイが相手の崩し方を考えていると、ギャラドスと一瞬目があった。
(ああもう! 分かったよKK……)
 一瞬目があったとき、グレイにはギャラドスの思いや考えが伝わってきた。『これ以上待たせるなら勝手に攻撃するぞ!』という思いが。
「ラクライ! “スパーク”」
 相手トレーナーが指示する。
「KK! “かみつく”」
 グレイは相手の隙を狙う作戦を中止して、ギャラドスにとにかく攻撃させることにした。
自分の指示が無視されるのは困るという考えからである。
 ラクライの“スパーク”とギャラドスの“かみつく”がぶつかる。技同士のぶつかりによって、互いの技が相殺される。
「KK! やられる前にやれ!」
 互いの技が相殺された直後、ギャラドスがラクライに素早く巻き付いて締め上げる。さらにギャラドスがもつ鋭い牙でラクライに噛みついた。
「ラクライ! “スパーク”」
「KK! なんとかしろ!」
 帯電し始めたラクライを、ギャラドスは空中に放り投げた。さらに、ギャラドスは空中に追撃をしかけにいった。
 グレイはラクライの技“スパーク”が終わった直後の大きな隙を突きたかったので、ギャラドスの追撃をとめようと思ったが、一瞬考えてからやめた。ギャラドスの意思を尊重し、追撃の方向で指示を出す。
「KK! “かみつく”」
 ラクライは空中を自由に移動できないため、“スパーク”で発生させた電気で身を守るしかない。
 ギャラドスの“かみつく”でラクライの“スパーク”が相殺される。
「ラクライ! “でんじは”」
「KK! 吹っ飛ばせ!」
 グレイは攻撃ではなく回避を指示することも本当はできたが、とにかくギャラドスを喜ばせる指示を出すことに決めた。
 ラクライは技“スパーク”を使い終わった直後であり、次の技をすぐには放てない。
 ラクライの“でんじは”が決まる前に、ギャラドスが頭突きをかまし、ラクライを地面に強く叩きつけた。
 ラクライが激突した地面の石畳は砕けて剥がれた。
 相手のラクライは起き上がる気配がない。体力が尽き、戦闘不能となって倒れたのだ。
 ギャラドスの勝利である。

 相手トレーナーは2体目のポケモンとして、カビゴンを繰り出した。
 カビゴン、いねむりポケモン。二足歩行で、丸く太った怪獣のようなポケモンである。動きは遅いが、体力がとてもあり、力も強いポケモンである。重さが460.0kgもあり、ポケモンの中ではかなり重い部類に入る。
「KK! 攻撃」
「カビゴン! “まるくなる”」
 相手トレーナーはカビゴンに、自身の防御力を高める効果がある技“まるくなる”を指示した。
 カビゴンが“まるくなる”を使っている間に、ギャラドスは頭突きをかまし、攻撃技“かみつく”をくらわし、長い胴体を使って尻尾を叩きつけた。
 体重の差だろうか、先ほどのラクライとは違い、カビゴンは吹っ飛ばなかった。
「カビゴン! “たいあたり”」
「KK! “かみつく”! とにかく攻撃!」
 相手のカビゴンの攻撃技“たいあたり”を防ぐことは考えず、ギャラドスは思いっきり“かみつく”を決めた。少し遅れてカビゴンの“たいあたり”が直撃する。
 カビゴンが“たいあたり”を使い終わった直後の隙に、ギャラドスはカビゴンの首に巻き付いて締め上げ、攻撃技“かみつく”をくらわす。
「カビゴン! 爪で攻撃しろ!」
 相手のカビゴンは巻き付いたギャラドスに爪を立て、全力で引き裂いた。ギャラドスの締め付けが少し緩む。
「カビゴン! “たいあたり”」
 締め付けが緩んだ隙にギャラドスの拘束から逃れたカビゴンは、“たいあたり”をくらわせようと動き出す。
「KK! 攻撃を受けろ!」
 カビゴンの“たいあたり”に対して、ギャラドスは防御の態勢をとって攻撃を受けた。
「KK! 締め上げろ!」
 カビゴンの技“たいあたり”が終わった直後の隙に、再びギャラドスはカビゴンの首に巻き付いて締め上げる。
「カビゴン! また爪で攻撃」
「KK! 拘束を緩めるな! とにかく攻撃!」
 先ほどと同じく、相手のカビゴンは巻き付いたギャラドスに爪を立て、全力で引き裂いた。しかし、今度はギャラドスの締め付けが緩むことはなかった。
 ギャラドスは、カビゴンをさらに強く締め上げ、“かみつく”で攻撃し、噛んだまま引きずり回したりして、とにかく激しい攻撃を続ける。
 一方相手トレーナーはカビゴンに、爪でギャラドスを引き裂いたり、転がってギャラドスを体で潰したりするなどの指示を出し、なんとか拘束から脱出しようと試みる。
 両者とも激しい肉弾戦を繰り広げていて、互いに相手にダメージを与え、体力を奪いあっていた。
 しかし、肉弾戦による本当の争点は、ギャラドスの締め上げから脱出できるかどうかであった。カビゴンは巻き付かれた態勢では攻撃技“たいあたり”を使うことができない。一方ギャラドスは締め上げながら攻撃技“かみつく”を使うことができる。
 ポケモンが使う「技」は、とても強力な効果や威力を生み出すことができる。
 一方だけが技を使える状況は、バトルにおいては形勢が大きく傾いている状態と同義である。

 ギャラドスとカビゴンによる肉弾戦がしばらく続いた。カビゴンはギャラドスの締め上げから抜け出せないでいた。
 しかし、相手トレーナーの1つの指示により、状況は一変する。
「カビゴン “あくび”」
 “あくび”は、相手の眠気を誘い、しばらく経ってから相手を眠らせる技である。
「KK! 眠る前に倒しきれ!」
 グレイは、相手のカビゴンの体力が限界に近いと判断し、“あくび”の効果で眠ってしまう前に勝負を決めようとした。
 しかし、カビゴンを倒しきる前にギャラドスは眠ってしまった。
 カビゴンは拘束を抜け、無防備なギャラドスを前に立っていた。
 しかし、グレイはこの状況を楽観視していた。
(眠っているポケモンも攻撃を受ければさすがに起きる。相手が自由に攻撃できるのは最初の1発か2発……KKもダメージを受けているが、カビゴンの“たいあたり”の1発や2発で倒れる程ではないだろう。)
 相手トレーナーは新たな指示を出す。
「カビゴン “ギガインパクト”」
「なにぃ!?」
 グレイは相手トレーナーが指示した技を聞いて、グレイは驚きの声を上げた。
 “ギガインパクト”は、持てる力を全て使って相手に突撃する攻撃技である。この技を使った後は反動でしばらく動けなくなるというデメリットがあるが、その破壊力は想像を絶する。
 “ギガインパクト”がギャラドスに直撃し、ギャラドスは倒れた。

 その後の勝負の展開であるが、グレイが2体目のポケモンとしてビビヨンを繰り出し、ビビヨンが攻撃技“むしのていこう”でカビゴンを倒した。
 相手のカビゴンは体力の限界だったらしく、“むしのていこう”が1発当たっただけで倒れた。
 バトルの後は互いを称えあい、少し雑談してからグレイは広場を去った。
 実は、KKがコイキングからギャラドスに進化したのは、この日の夕方にさしかかる頃であった。
 先ほどのバトルは、KKがギャラドスになってから初めての戦いであった。慣れない体であそこまで自由に戦えるギャラドスに、グレイは驚いていた。
 ちなみに、この日にグレイがバトル広場を訪れたのはギャラドスの練習試合のためであり、コイキング売りのステマのためではない。
 コイキング売りの一行は明日から別の町に移動することになっており、今更ステマをやっても意味はないのである。
 だが今後のステマ活動を考えたとき、グレイは先ほどのバトルに確かな手ごたえを感じていた。
(進化したばかりであれだけ戦えるなら、鍛え続ければさらに強く――他のトレーナーがギャラドスを使いたくなるほど魅力的に強く――なることは間違いない。問題はオレがKKを制御できるかどうかだ)
 ギャラドスに期待と不安を同時に抱きながら、グレイは町外れに停車しているトラックへと帰っていった。

 
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