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トラベル・ポケモン世界

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4話目 選別

 ツギシティは夕方になっていた。
 グレイが怪しいおじさん達とコンビを組んでから初めての仕事が始まろうとしていた。これからグレイはコイキングのステマ……ではなく、知り合いのおじさんに借りたギャラドスを使って町にいるトレーナーとバトルをしに行こうとしていた。
 ギラドが口を開く。
「グレイくん。君はこれから、ただバトルをしに行くだけですよ。君はコイキング売りのおじさんなど知らないのですよ」
 すると横からコインが口をはさんでくる。
「そうは言っても、『このギャラドスは5000円で買ったコイキングを育てたんだ』ぐらいの事は言って欲しいねえ」
 グレイは1つ疑問があり訊ねる。
「そういえば、このギャラドスは商品のコイキングを成長させて進化させたんですか?」
「違いますよ。これは古い友人から譲っていただいたポケモンです」
 とギラドが答えた。
 この答えを聞いたグレイは、コインに向かって言う。
「じゃあ、『5000円で買ったコイキングを育てた』とは言えねえじゃねえか!」
「そのくらいは口から出まかせで良いんだぜ。商売だからな」
「ふざけんな! 不都合は真実を言わないのは許容できるが、嘘は絶対言わないからな。オレは詐欺に加担するつもりはねえ!」
「分かってねえな兄ちゃんよ。商売ならな、そのくらいの嘘は嘘の内に含まれねえよ」
「オレに嘘を強要するなら協力はしねえぞ!」
「なんでい! 最近の若けえモンは、真面目すぎていけねぇな」
 グレイとコインが言い争っていると、ギラドが仲裁に入る。
「まあまあコインさん、嘘の強要はいけませんよ。あくまでもグレイ君の仕事はバトルすることなんですから。嘘つくのはコインさんの仕事でしょう?」
「なんでえ! お前さんまで兄ちゃんの味方かい。分かったよ兄ちゃん、好きにやんな」
 そんなこんなで、グレイの初仕事が始まった。

「そのギャラドスって、君が育てて進化させたのかい?」
 適当にトレーナーを見つけてバトルした後、こんな事を訊かれた。
 グレイはこの仕事をする際、不都合な真実を自分から言わないことはするが、嘘をつくことはしないと決めていた。なので、正直に答える。
「知り合いのおじさんが貸してくれたんだよ」
 それに対して相手は答える。
「やっぱりね。なんか君とギャラドス、互いが互いの事を理解しようと模索している途中って感じだったよ。まあ、そんな君たちに負けたのは反省すべき事だけどね」
 そのトレーナーと別れた後、何人かトレーナーとバトルして勝ったり負けたりしたが、どのトレーナーにもグレイとギャラドスが出会って日が浅いことがなんとなく分かっている様子であった。
(やはり、ポケモンと心を通わせるトレーナーは、オレとギャラドスの関係がどんなものか分かるようだな)
 コイキングのステマのためにバトルをやっているが、グレイには今日のバトルがコイキングのステマとしての意味を全く果たしていないことが分かっていた。
(相手の立場から考えても、他人にもらったばかりのギャラドスを使うトレーナーと戦ったところで、コイキングが欲しくなる訳ないよな……もっとこう『コイキングから頑張って育てました!』っていう感じがないと……)
 もっとも、遠くから様子を見ているであろうギラドとコインは、ポケモンと心を通わせるトレーナーではないため、そのことは分からないだろうが。
 バトルをすれば相手が分かるというのは、ポケモンと心を通わせるトレーナー同士にしか理解できない感覚であるのだ。

 夜も更けたツギシティの町外れ。
 ギラドとコインの元に帰ったグレイは、自分とギャラドスの関係がどんなものであるのか、今日バトルしたトレーナーには分かっていることを告げた。
「やっぱトレーナーってのは、どいつもこいつも簡単にくえねえ奴らばっかだな」
とコインが愚痴をこぼした。
「どうすればコイキングのステマ…もとい宣伝になるでしょうかね? グレイくんはどう思いますか?」
愚痴をこぼしてばかりのコインと違い、ギラドは打開策を考えようと、ポケモンと心通わせるトレーナーであるグレイに意見を求めた。
 それに対してグレイは、正直に考えていることを述べる。
「オレが直接育てて進化させたギャラドスで戦うしかないと思いますよ」
 コインは、ポケモンとトレーナーのことが理解できないといった様子で口を開く。
「誰が育てたって同じギャラドスでねえか!? 何が違うって言うんでい?」
「しかしトレーナーであるグレイくんが言っているんですから、トレーナーを相手にするにはグレイくんの言う通りにするのが良いのでは?」
「俺はそういう手間のかかる方法は嫌いなんでい。もっとこう、楽して儲けられるやり方が好きなんでい」
 愚痴をこぼし続けるコインであったが、やがて諦めたように口を開く。
「しょうがねえ。グレイ、俺はトレーナーの事はよく分からねえからな、お前さんの言うことをあてにするぜ。売り物のコイキングの中から好きな奴を選んで、ギャラドスになるまで育ててくれい」

 グレイ、ギラド、コインの3人は、育てるコイキングを決めるために、多数のコイキングが一緒に入れられている水槽の前にいた。
 コインが、水槽の真ん中を泳いでいるコイキングを指して言う。
「こいつなんか一番強いんじゃねえか? 一番デカイ顔して泳いでるぜ。こいつが近くを通っただけでビビッて通り道をあけるコイキングがいるぐれえだからな」
 グレイも、コインの言うことは正しいと思った。コインが指している奴が、間違いなく水槽の中にいるコイキングの中では一番強い奴だろう。
 ギラドは別のコイキングを指して言う。
「このコイキングなんてどうです? 頭が良さそうですよ。なにせコインさんが言う一番強いコイキングの移動ルートを把握して、うまく避けていますよ。彼だけ安住の暮らしをしてますよ」
 ギラドの言う事も一理あるとグレイは思った。頭の良さの意味では、ギラドが指すコイキングが一番かもしれない。
 だがグレイは、2人が提案するコイキングの他に気になっているコイキングがいた。それを指しながらグレイは言う。
「オレはあいつが気になります。一番強いであろう奴に、ケンカを売って戦っているのはあいつだけですよ。あいつが一番好戦的ですよ」
 コインとギラドは視点は違うにしろ、2人とも現時点で優秀なコイキングを探していた。
 それに対してグレイは、これからバトルで勝つために育てることを考えて、一番強く成長しそうな、言い換えれば一番戦いが好きそうなコイキングを探していたのである。
 グレイは選んだコイキングに語りかける。
「お前を強くしてやるよ」
 グレイの問いかけに反応し、コイキングが力強くはねた。やる気は十分である。
 そんなグレイとコイキングの様子を見ていたコインは言う。
「俺にはよく分からねえが……トレーナーってのはポケモンとの絆が大事らしいな。だったらそのコイキングはお前さんにやるよ。もしお前さんがこの商売をやめる時がきても、そいつは連れていきな」
 ありがたい、とグレイは思った。ずっと自分のポケモンであるからこそ、本気で育てられるというものだ。
 コインとギラドの商品であるコイキングが多数いる中で、グレイのコイキングを「コイキング」と呼ぶと紛らわしいので、グレイはもらったコイキングに「KK」というニックネームをつけた。
 コイキング → コイ+キング → Koi+King → 「KK」という安直なニックネームであった。

 グレイがコイキングをもらった翌日。
 グレイは山へKKの特訓に、ギラドは川へ商品となるコイキングの調達に、コインは町へ商売にでかけた。
 念のためにもう一度述べておくが、KKとはグレイがもらったコイキングにつけたニックネームである。
 グレイは、山でKKを野生のポケモンと戦わせることで鍛えていたが、現在は山の麓のポケモンセンターでKKを回復させてもらっている最中であった。
 グレイはKKを、多数のコイキングの中で最も好戦的に見えるという理由で選んだ。その選ぶ目は間違ってはいなかったとグレイは思うが、
(いくらなんでも好戦的すぎるだろ……戦闘狂の域だなこりゃ)
見る目に間違いは無かったが、程度を見極めることができていなかった、とも思っていた。
 先ほどもKKは、グレイが攻撃の指示を出すよりも前に勝手に野生のポケモンを攻撃した。しかもあろうことか、群れている野生のポケモンに対して攻撃したのであった。当然、群れているポケモン全てと戦うことになった。ビビヨンがいたおかげで全て追い払うことができたのだが。
 だが話には続きがある。今度は群れを追い払ったビビヨンに対抗心を燃やしたのか、KKはビビヨンに攻撃してきたのである。KKの暴挙にさすがにキレたグレイは、ビビヨンを使ってKKをボコボコにした。そして今に至る。
「あなたのポケモンは皆、元気になりましたよ。またのご利用をお待ちしています」
 ポケモンセンターのお姉さんがそう言い、グレイにモンスターボールを返した。
 グレイはモンスターボールからビビヨンとKKを出した。KKを出したのは説教するため、ビビヨンを出したのはKKが暴れ出したときの鎮圧係としてである。
 だが、KKの様子を見てグレイは思った。
(全く反省してないなこいつ)
 反省の色が見えないどころか、ビビヨンへのリベンジに燃えているような様子である。説教の意味は無く、KKの戦闘狂っぷりをただ見せつけられただけであった。
(KKがオレと利害関係が一致した状態、つまりオレに従う方が強くなれるという状況を作るしかないな)
 グレイが思うに、KKは強くなるために力を欲し、常に強敵との戦いを求めている。そして強敵との戦闘欲求が強過ぎるために、トレーナーであるグレイの指示を無視することがある。
 グレイはKKを従える方法として、KKに訓練の場と強敵を常に提供し続けることで、グレイの指示に従う方が強くなれるとKKに思わせる、という方法を考えていた。
 しかしその方法は、将来ずっと使える方法ではないこともグレイは分かっていた。
(今はまだKKが弱いから、KKが強敵と思える相手を用意するのは簡単だが……強く育つにつれて強敵の用意が難しくなっていくだろう。訓練の場についても同じことが言える)
 さらに、KKが強くなることによって起こる不都合はもう1つあった。
(もしKKがオレを見限ってクーデターを起こした場合に、どう対処するか考える必要がある。ビビヨンで鎮圧できる内はいいが、KKがビビヨンの強さを超えた時にどうするか……)
 KKがコイキングからギャラドスに進化した時、戦闘能力は大きく上がることだろう。KKを進化させるために今の活動をしている訳だが、KKに進化して欲しくないとグレイは思った。

 
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