トラベル・ポケモン世界
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1話目 旅立ち
ポケットモンスターの世界へようこそ。
この世界にはポケットモンスター、縮めてポケモンと言われる不思議な生き物たちが、いたる所に住んでいます。
人はポケモンたちと仲良く遊んだり、助け合って仕事をしたり、共に戦って絆を深めたりして、同じ世界で生きています。
さて、これはゲームではなく読み物ですので、あなたの名前を訊ねる必要もありません。早速本編に入っていただきましょう。
ポケモンの世界へ レッツゴー!
1話目 旅立ち
トラベル地方のコキョウシティ
ここに、今まさにポケモンを連れて旅に出ようとする少年がいた。彼の名前はグレイ、つい先日にジュニアハイスクールを卒業して義務教育を終えたばかりの15歳の少年である。
グレイの隣にはもう1人少年がいた。彼の名前はフレド、エレメンタリスクール時代からのグレイの友人である。
フレドがグレイに向かって言う
「グレイとは、しばらく会えないね」
「そうだな、本当は最後にユージにも会いたかったんだが……」
グレイは、この場にはいないユージに言及した。ユージも、フレドと同じくエレメンタリスクール時代からのグレイの友人である。だが、ユージは父が経営する店の手伝いがあるため、この場にはいなかった。
再びフレドが口を開く
「本当に、旅に出るんだね?」
「ああ、前から決めていたことだ。それに、今さら止める訳にもいかないだろ。オレには進路がないんだから」
グレイの目の前にいるフレドは、コキョウ・ハイスクールに進学し、ハイスクール卒業後はコキョウ・ユニバーシティへの入学を目指すらしい。この場にいないユージは、父が経営するパン屋で働き、いずれは父の後を継ぐことになっている。
それに比べ、グレイには今、進路がない。ジュニアハイスクールを卒業したらポケモンと旅に出ると決めていたので、卒業後の進路を決めていないのだ。
「でもグレイが旅に出るのって、ほぼ家出みたいなものなんでしょ?」
「ああそうだ。別に一流のポケモントレーナーを目指す訳でもないし、何か目標がある訳でもない。ただ単に家族から離れたいから旅をするだけだ」
トラベル地方にはポケモンを連れて旅をする人が多く存在する。彼らの目的は、自分のポケモンを鍛えるため、ポケモンとの絆を深めるため、ポケモンの研究のため、などの積極的な理由の者が多いが、一方で今のグレイのように目的なく旅をする者も一定数は存在する。
「そろそろオレは出発するよ。元気でなフレド」
「グレイも道中気をつけて」
親友に分かれを告げて、グレイはこのコキョウシティから逃げるように旅立った。
コキョウシティを旅立ったグレイは、隣の町であるサイショタウンに通じる道を歩いていた。グレイはモンスターボールという普段ポケモンを入れておくことができるボールから、自分のポケモンを出した。
「出てこい、ビビヨン」
目の前にビビヨンというポケモンが現れる。
ビビヨン、りんぷんポケモン。きれいな翅をもつ蝶のようなポケモンである。翅の一部にドットのような模様があるのが特徴的である。ポケモンの属性を表すタイプは見た目から予想できるように、虫タイプと飛行タイプを併せ持つポケモンである。
このビビヨンは、グレイがエレメンタリスクールの学生だった時に出会ったポケモンである。もっとも、出会った時は進化前のコフキムシというポケモンであったが。
ポケモンには成長すると、進化という姿形が全く変わる現象を起こす者がいる。コフキムシは進化をするポケモンであり、成長させて2回進化させて、今のビビヨンになったのだ。ちなみにビビヨンから先の進化はないと言われているため、もう姿形が変わることはないだろう。
「ビビヨン、これから自由な旅の始まりだ。やりたい事をやりたいようにできる」
そうビビヨンに話しかける。
ビビヨンも、きれいな鳴き声でグレイの言葉に反応する。
現在、グレイが所持しているポケモンは、ビビヨン1体だけである。しかし、旅を続ければ仲間は増えていくだろう。モンスターボールは、普段ポケモンを入れておくだけでなく、野生のポケモンを捕まえる機能もある。仲間にしたい野生のポケモンがいたら、モンスターボールを使えば良いのだ。
グレイが隣の町であるサイショタウンを目指して歩いていると、1人のポケモントレーナーからポケモンバトルを挑まれた。そのトレーナーが言うには、新しく野生のポケモンを捕まえたから、バトルをすることで互いの理解を深めたいとのことだ。
ポケモントレーナーとは、ポケモン同士を戦わせる人を指す言葉として日常で使われている。実際にはポケモントレーナーという言葉には厳密な定義があるのかもしれないが、多くの人は特に気にせずに言葉を使っているだろう。
そしてもう1つ、ポケモンバトルとは、文字通りポケモン同士を戦わせることであるが、それだけではない。ポケモンバトルは互いの絆を深める儀式であると、古くから言われている。また、単に昔から伝わる儀式というだけでなく、実際にポケモンバトルを行うと、トレーナーとポケモンの絆が深まり、さらにバトルを通じて戦った相手のことも理解できるのである。これはバトルを行う者の多くが認める事である。
さてグレイが相手の挑戦を受け、バトルが始まった。
グレイはビビヨンを繰り出し、相手はポッポを繰り出した。
ポッポ、小鳥ポケモン。ハトのようなスズメのようなポケモンである。タイプは、ノーマルタイプと飛行タイプを併せ持つ。
相手トレーナーがポッポに指示をする
「ポッポ!“たいあたり”だ」
相手のポッポが攻撃技“たいあたり”を決めるために、ビビヨンに向かって一直線に飛んでくる。
「ビビヨン、なんとかしろ!」
対してグレイは、ビビヨンに具体的な指示はせず、ビビヨンに判断を任せる。
ビビヨンは技を使わずに、とりあえず上に急加速して相手の攻撃を避ける。
この一連の動きだけでも、互いに分かる事がある。グレイは、相手が初手に“たいあたり”という様子見の色が強い技を選択したことから、相手がガンガン攻めてくる性格ではないことが分かるし、ポッポと歩調を合わせながら戦おうとしていることが分かる。
相手は、グレイが『なんとかしろ』という適当な指示を出した事ことと、その適当な指示に即座に対応したビビヨンを見れば、グレイが大雑把な性格であり、適当な指示を普段から出していることが分かる。また、グレイとビビヨンの絆が相当深いことも分かる。
再び相手が指示を出す。
「ポッポ、連続で“たいあたり”だ! 避けられてもいいから手数で押せ!」
相手のポッポが連続で攻撃技“たいあたり”をしてくる。
ビビヨンも上下左右前後に避けるが、相手がビビヨンの動きに慣れてきたのか、だんだん避けるのがギリギリになっていく。
グレイも新たな指示を出す。
「ビビヨン! “しびれごな”」
“しびれごな”は相手を麻痺させる技である。麻痺効果のある粉がビビヨンの前方に広く撒かれる。
「ポッポ、いったん距離をとれ!」
「ビビヨン! “いとをはく”」
“いとをはく”は相手の素早さを下げる技である。距離をとった相手に対して今度は遠距離にも届く糸を発射する。
「ポッポ、今度は距離をつめろ!」
無駄だ、とグレイは思う。相手が近距離にいるなら“しびれごな”、相手が遠距離にいるなら“いとをはく”をすればいいのだから。“しびれごな”と“いとをはく”は、どちらにしろ相手の機動力を奪う技には変わりない。どちらかが命中すれば、ビビヨンが大きく有利をとれる。
「ポッポ、“すなかけ”だ!」
「ビビヨン!! “しびれごな”!!」
相手のポッポの“すなかけ”を避けようとするビビヨンに対して、グレイはいつもより強い声で指示した。この強い声は『相手の“すなかけ”の回避よりも、“しびれごな”を当てることを優先しろ』という意味をこめている。グレイと長くつきあってきたビビヨンは意図を察し、“しびれごな”を使った。
ビビヨンに相手のポッポの“すなかけ”が命中し、相手のポッポにビビヨンの“しびれごな”が命中した。
“すなかけ”は、相手の目を砂で潰し、相手の技や攻撃の命中率を下げる技である。これで相手のポッポは麻痺して機動力は格段に落ち、対してビビヨンは命中率が下がった。
「ビビヨン、攻撃に移れ! “むしのていこう”」
グレイは、後はひたすら攻撃して相手にダメージを与えるだけだと思い、ビビヨンに特殊攻撃技“むしのていこう”を指示した。その時……
「ポッポ! 今だ!!」
相手が声をあげた瞬間、相手のポッポの動きが爆発的に速くなり、ビビヨンが“むしのていこう”を使うよりも早く相手のポッポの攻撃技がビビヨンに当たった。相手の攻撃がくるとは思ってなかったビビヨンは、突然のことに驚き、“むしのていこう”で攻撃するのが遅れた。その隙に、ポッポは距離をとっていた。
グレイは何が起きたか理解し、つぶやく。
「マジか! あれは“でんこうせっか”だな……」
“でんこうせっか”は攻撃技である。目にとまらない速さで相手に突っ込むことで、相手が技を使うよりも早く攻撃できる技である。
「ビビヨン、距離をとれ」
グレイは、相手が“でんこうせっか”を使えるのでは近距離で戦い続けるのは楽ではなく、麻痺させた意味も薄まってしまうと思い、ビビヨンに距離をとるよう指示する。
麻痺しているポッポは、離れていくビビヨンを即座に追うことができず、ビビヨンとポッポの間に距離ができる。
「ビビヨン、“むしのていこう”」
「ポッポ、“かぜおこし”」
どちらも遠距離に届く攻撃技を覚えていたので、今度は遠距離攻撃の撃ち合いに発展した。
しかし、麻痺して機動力が落ちたポッポは、攻撃を避けきれずに徐々にダメージを受けていく。対してビビヨンは、相手の攻撃をうまく避けている。と言うよりも、ビビヨン自身が相手の攻撃を全部避けられる距離を保って戦っている。
ここで、相手のトレーナーは1つ疑問を抱く。
(おかしい……さっき、ポッポの“すなかけ”で命中率が下がっているのに……なぜあのビビヨンは攻撃をあんなに当てられる?)
そんな思いを知ってか知らずか、グレイが口を開く。
「さすがビビヨン、特性ふくがん、のおかげで相手に攻撃がよく当たる」
特性とは、ポケモン1体につき1つ持っている不思議な能力のことである。ポケモンの種類によって特性は大きく異なる。同じ種類のポケモンでも違う特性をもっていることもある。
特性ふくがんは命中率を上げる効果をもつ。これによって、ポッポの“すなかけ”で下がった命中率をカバーしているのである。
(なるほど……あのビビヨンは、特性ふくがん、だったのか……だからあの時“すなかけ”を避けなかったのか)
その後、相手のトレーナーは、“でんこうせっか”をビビヨンに当てるために何度か接近戦にもちこもうとしたが、結局は上手く距離を詰められず、ビビヨンに一方的に攻撃を当てられ続け、ポッポが力尽き、グレイとビビヨンの勝利となった。
「僕の負けだよ。君とビビヨンには深い絆があることがよく分かったよ」
「あなたとポッポも、初めてのバトルなのに息が合っていましたよ」
バトルの後は互いをたたえあい、戦ったポケモンをねぎらった。
ポケモンバトルの正式なルールでは、所持しているポケモンの数に関係なく、対戦者のどちらかのポケモンが全て力尽きることで勝負が決することになっている。しかし、バトルを極めようとしている訳ではない一般のトレーナー同士のバトルでは、戦わせるポケモンの数を少ない方に合わせるという暗黙の了解がある。先ほどグレイと戦ったトレーナーも、ポッポの他にもポケモンを持っていたが、グレイがビビヨンしか持っていないのを見て、暗黙に1対1のバトルにしてくれたのだ。
「僕はコキョウシティのポケモンセンターでポッポを回復させてから、しばらくここでポッポを鍛えるよ」
「オレは今日中にサイショタウンに着きたいので、このまま進みます」
「そうかい、じゃあここでお別れだね。いいバトルをありがとう」
「こちらこそ」
ポケモンを回復させる道具は色々と存在するが、力尽きたポケモンはポケモンセンターという施設でなければ回復できない。相手のポッポは力尽きているので、いったんポケモンセンターに行かなければ再び戦うことはできない。
グレイのビビヨンは先ほどのバトルではポッポの“でんこうせっか”を一発受けただけなので大したダメージはない。グレイは鞄に入っている一番安い傷薬をビビヨンに使い、グレイはサイショタウンを目指して再出発した。
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