μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜
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第37話 リトライ
前書き
クソ長い間お待たせしました
それでは今回から新作となります。以前僕が住んでいたサイトで読んでくれていた方もそうでない方もどうぞごゆっくりお楽しみください。
その後......
俺と花陽が戻ってきたころには既に練習着に着替え終わっていた穂乃果、海未、ことり、凛、真姫、それからにこに加えて絵里と希も来ていて、同じく着替え終わっていた。
何人から若干睨まれた視線を感じるが、当然スルー。
まずはお世話になったμ`sのツンデレ姫の元へ......
「真姫」
「...もう大丈夫?」
いつものように強気のツンツン言語を駆使するわけでもなく自然体で心配している真姫がそこに居て、何か一言茶化す言葉を投げつけようと少し思ったが、今回何とかなったのはこの子が花陽に勇気を与えたおかげだから手のひら返すようなことはしたくない。
......”今回だけ”は、ね。
「あぁ...真姫のおかげで花陽の不安だとか解消したみたいだよ。さんきゅな」
「まったく...貴方達のおかげで今日の練習少し遅れちゃってるじゃない。これは絵里と海未から説教が必要みたいね」
「は?」と疑問を浮かべたところで俺の背後から殺気を二つ感じて咄嗟に振り返る。
「......お前ら。何をする気だ......海未、絵里」
「なにをって...決まってるじゃないですか。お説教ですよ」
「ふ、ふざけるなよぉ...俺はたった今人生の分かれ道について花陽と語ってたんですぞ!それをお説教というモノで言い包められたくは———」
「練習時間を遅らせた罰よ」
「そんなの俺らが来なくても先にやってれば———」
「団体行動!これは大切です」
お、おう...正論故に反論できないんだが。
どうしようか、これは花陽に救助を求めようか。
「なぁ花陽、俺ら真面目な話してたんだよな?遅れても仕方ないよな?な?」
「ふぇっ!?ここで私に振るのぉ!?」
いや、ここで君に振らなきゃ誰に助け求めればいいんだよ。真姫は一見助けてくれそうで実は裏切りそうだし。ここはやはり張本人の花陽だろう。
だがしかし、俺はここで重大なミスに気づく。
——————あれ?そういえば花陽って俺の呼び方変えたよな?
もし、もし仮に花陽がこのまま俺を”くん”付けで呼んだならば、一部のメンバーが怒り狂うだろう。なんとなく経験でそうなることを察した。
でも花陽はそんなヘマはしないだろう。
うん...きっと———
「あ、あまり大地”くん”のことは責めないであげて?大地”くん”のおかげで私も気が晴れたんだから」
「.........大地...”くん”?」
「ふぇ?あ......」
ちょっと何してくれるんだよ花陽~!!
やっぱり穂乃果が反応したじゃねぇかよ!どうすんだよコレ!目のハイライト失ってんぞアイツ!
ついでに同じく花陽の唐突の”くん”付けに面白くないといった反応を露骨に示したのは、ことりと絵里。
「なんで......今まで大くんのことを”さん”って呼んでたのに戻ってきたら”くん”になってるのかなぁ...?」
「ふぇっ!?そ、それはえっと......」
「まさか大地くん、花陽ちゃんと付き合い始めたとか言わないよね?」
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?そ、そんなことはないよぉ!わ、私なんかが大地くんとお付き合いだなんて...」
穂乃果とことりが花陽を連れ去って部室の隅でごにょごにょと謎の会話しているから何を言ってるのか知る由もない。が、当然追及されているのが目に見えているため...花陽には悪いけど頑張って欲しい。
俺はこういう状況を何度も経験してるから、たまには他の子にも味わってもらっても罪には問われないだろう...
「じゃあなんで大地君の呼び方を変えたのかしら?そこは私も気になるわ」
「え、絵里ちゃんまで...」
絵里まで追及されて遂に花陽は心を折ってしまった。
両手を後ろに組んでもじもじ視線を彷徨わせながらとんでも発言をぶちかます。
「えっと、も、もっと大地くんに近づいてみたかった...から?」
たったその一言且つ上目遣い付きの発言で部室内の温度が一気に下がり、思わず身震いした。
...これはヤバい。何がヤバいってこいつ等の目が完全に俺に殺意を向けたような目をしてるんだよ!
真姫、凛、にこ、希、海未は楽しそうに会話しながら、あたかも他人のように俺らをスルーして部室からたったあ今出ていくし、音ノ木坂のスクールアイドルは自由気まますぎるんだよ!もっと団体行動を大切にしろよ!!......なんてセリフは今の俺には言うことができないのは理解できている。
「そう、そうなんだね。よくわかったよ...また大くんは女の子を誑かしたんだね?とんだ女の子好きな大くんなんだからぁ~」
「いい加減にしないとことりのおやつの為の材料にしちゃうぞ?」
「......不純異性交遊は私が許さないわよ?まだ生徒会長引退してないから権利を行使してでも大地君の女好きを更生させてあげるわ。」
「それ職権乱用なんじゃ———」
「人として不純異性交遊は認められないわぁ」
あぁそうか...俺には否権なんて元からねぇんだな。
妙に嫉妬心に燃えた三人を他所に俺はもう一度花陽の方に視線を向ける。
特段変わったところは見受けられないが、気の迷いは晴れたような清々しい顔つきをしている。
その顔を見れただけで俺は嬉しく思った。
───コイツらどうしようか。非常にめんどくさいんだが...
─── 第37話 リトライ ───
「おし!切りのいいところだし、一度休憩いれるか~!」
俺の声掛けを機に9人は各々その場に座り込んだり、日陰に置いた飲み物を取りに行ったりと自由に行動をとる。
俺はというと今さっきのダンスの確認と調整という意味で殴り書きしたメモと、それとはまた別のノートを見比べて修正の入った部分を書き足す作業に移る。
現在新たに練習している曲は二曲。
どこでどんな風に使うかは未定だが、いつ使ってもいいように万全の態勢で送り込んでいきたいところ。
ふと、
「うん?どうした海未」
「いえ....聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
「はい。先ほどあなたが言ってた”ラブライブ!”の事なんですが」
あぁそっちのことか。一瞬”抜け出した事”についての言及かと思ったけど、海未にとってはそっちよりラブライブ!の方が優先らしい。
それはそれで寂しいが...まぁ下手に言及されるよりはいいかな。
「それか...そういえば話してないもんな。なんだかんだ言って花陽を追ってしまったからね」
「はい、もし先程大地の言ったことが本当なら私達も.....その、また出場できるチャンスがあるのではないかと」
前回はアクシデントにより最後の最後で断念したμ's。
第二回ラブライブ!が終わり、今年はもう無いだろうと薄々感じながらも俺は『何の為にこれから続けるか』という目的を失っていた。
恐らく他のみんなもそんなところはあっただろうに。
「あぁ、恐らく確定事項だろう。花陽が俺に教えてくれた内容だから、部室でも言った通り俺からは断言できないけど」
と、視線は花陽の方へ向く。
一瞬戸惑った表情を見せたが、何故向けられたのかすぐに理解して日陰に置いてある自分のスマートフォンを手にして戻ってくる。
「大地くんの言う通り、第二回ラブライブ!の開催は確定です───」
花陽はいつもの如く饒舌に、前に電話で話してくれた内容をそのまま語り出す。
所々早口で何を言ってるのかさっぱりな部分はあったが、そこは俺のフォローでみんなの理解を促す。
時たま僕に向けられる数名からのジト目はスルーしておいて。
そして、
「───ということが大まかな今回のラブライブ!の概要になります」
「つまり...アイドル下剋上の時代がやってくるわけね!それは宇宙No,1アイドルにこに~がみんなの前で──_」
「まぁ、にこの戯言は置いといて。なんか聞いてて疑問に思ったことはあるか?」
「ぬわんで私の話をカットするのよ!!」
「いやいやいつもの事だろ」
花陽の10分弱のわたる演説もどきが終わり、1番最初に反応したのは矢澤にこ。当然スルー。
次にリアクションしたのは海未で、こっちは素直な質問だった。
「その、つまりは前回のように集まった投票数関係なく、その地区そのグループで予選を行い、1番人気を勝ち取ったチームが本線に上がれるということですね?要約すると.....」
「そのとおぉりです!!!」
「ひっ!」
普段の数十倍テンションの上がった花陽は、ずいっと必要以上に海未へ顔を近づける。その表情はオタク化した花陽そのもので、花陽に対してはいつも柔らかい笑みを浮かべる海未でさえも、僅かに顔を引き攣らせていた。
「は、花陽?少し近いで──」
「いいですか?これは前の大会と違ってランキングが上のチームも下のチームも同じ立場になるのです。審査員の厳しい判定と見に来てくれた観客からの評価、歌詞、ダンスの構成と華やかさ、更には歌唱力全てにおいて得点化されます!まさにこの現象は"アイドル下克上"!第1回ラブライブのランキングでなかなか上位に切り込めなかったスクールアイドルでさえも本戦に価値上がれるチャンスがあるのですぅ!!これは参加せざるを得ないのです!」
「は、花陽!す、少し落ち着いてください。鼻息荒いです!」
いつものテンプレ。
完全にドルオタと化した花陽はふんすと鼻息を荒くして流暢に日本語を流す。
それについていけない海未は後ずさり。何度も見た光景なので一部のメンバーは軽くスルーしてPC画面に掲載された第2回ラブライブ!のホームページに夢中だ。
「ま、花陽がこうなるのはいつものことよね」
「凛はこっちのかよちんも好きにゃ〜♪」
「そ、そんな事言ってないで花陽を何とかしてくださいー!」
「海未ちゃんまだ話は終わってませんよ!」
とまぁ、とりあえず一年生ーズと海未は放置して。
俺もPCを見てる彼女達の元に行き、背後から画面を覗く。
「どうだ絵里、前回と比べてシステム的には違いはあるけど楽しめそうだろ?」
「そうねぇ、前回と比べて上位ランキングに乗ることができなかったアイドルグループも同じ土俵に立てるということだから面白そうね」
「なろ?さっき花陽もアイドル下剋上だとかなんとかって言ってたけどまさにその通りだし、これからスクールアイドルやろうと必死こいて練習して名もない連中が出てくるという面白い展開も無きにしも非ず、だしな」
俺が言った通りそういった新参者が現れたりする可能性もある。だから前回ラブライブ!に出場した上位グループも気を抜くことができないのだ。
「で?結局どうするわけ?私たちは」
「え?どうするも何も出場するんじゃないのかにゃ?」
真姫の質問に凛はさらりと応える。
まぁ確かに凛の言う通りではある。前回もう少しのところで出場を逃したため、今度こそはという意気込みを感じる。
皆がみんな言葉にはしないけれど、目つきや態度やらで出場したいという気持ちを感じる。
希が適当にサイトを開いていると、「ん?そういえば...」と何かに気づいたような言い方をする。
「本選に勝ち進むためにはそれぞれの地区予選を優勝せなあかんのでしょ?」
「そ、そうね」
「っていうことはウチらがラブライブ!に出場するためにはあのA-RISEに勝たなきゃアカンってことなんよね?」
瞬間、俺らの中で戦慄が駆け抜ける。
さっきまで海未に力説していた花陽もその事実に気づいた瞬間膝からガタンと崩れ落ちた。
そうなのだ、全国で一番の人気を誇るA-RISEは東京予選枠に入る。他にもA-RISEの人気で若干埋もれてしまっているが、それでも全国トップクラスのスクールアイドルが二組も東京予選枠に含まれている。
つまりはとてつもない激戦区。
いくら人気があるグループでも、そうでもないグループでもA-RISEを倒すのは苦戦を強いられるだろう。
「あ~!もう最悪~っ!!」
「またとないチャンスではありますけど...A-RISEと考えると厳しいものがありますね」
「ああぁぁぁぁっ!お、終わりました...」
「まぁ、無茶よね。A-RISEに勝つなんて」
A-RISEよりも人気を得るということはどれくらい大変かはここにいる全員が重々承知だろう。
ず~んと重く沈んだ音ノ木坂の屋上。向上心の高い絵里でさえもどのくらい厳しいのかわかっているからすんなり『そんなことない』と言えないのだろう。
「こうなったら全員でA-RISEと交渉するにゃ」
「そんなことできるわけないじゃないですか。それにまだ諦めるのは早いです、まだ何もしていません。」
「そうね、海未の言う通りだわ。やる前から諦めてたら何も始まらない。エントリーするのは私たちの自由なんだし、出てみてもいいんじゃないかしら?」
流石園田海未と絢瀬絵里。
何が起ころうと、仮令μ`sがこうして勝てないと悟ってテンションが落ちつつあるこの空気を何とかモチベを上げようとしてくれている。
流石だ。
「まず私たちは後ろ向きなことを考えるよりも先に私たちがやるべきことをするのが先だと思います」
「私たちが先にやるべきこと?」
はて、何かやるべきことがあっただろうか。
「まずは喋ってないで練習を始めましょう。定刻より10分以上過ぎてます」
「え?あ、ほんとだ」
「すっかりラブライブ!の話に夢中になって忘れてたね。海未ちゃんの言う通り、練習始めよっか?」
~☆~
「なぁ穂乃果?」
「ふぬ?」
練習終わってからの帰り道。
俺と穂乃果、海未、ことりの四人で帰るのは当たり前のようで、いつもの道を歩いていた。
俺の前を海未とことりが歩いていて歌詞や衣装の相談をしている。俺と穂乃果は完全に専門外の話なのでここぞとばかりに俺はさっきの第二回ラブライブ!の話に一切混ざらなかった穂乃果にその理由を聞こうと試みた。
「お前、なんでさっきの話に加わらなかったんだ?」
「ふぇ?さっきのって?」
「いや、まずはパン食いながら話すな口閉じろ」
「んーんー。っんく、ごめんごめん。で、さっきのって...?」
「ラブライブ!の話に決まってるだろ?」
「あーう~ん」
いつもなら即答の勢いで答えてくれるのだが、今日は妙に言葉が出てこない。
言いたいことがあるのだろうが、言おうか言わないでいるか迷っている感じだ。
「なんか...う~ん」
「なんだよ、言いたいことは言った方が良いんじゃないか?溜め込むのはよくないぞ?」
「それはそうなんだけど.....う〜ん」
なんで言い淀んでるのか少しは察しはつくけど、やはり本人の口から聞いた方がいい。だから予想は飲み込んで彼女の口が開くのを待っている。
「まぁ.....みんなが参加しようって雰囲気の中で言えなかったんだけどさ、穂乃果は.....別に参加しなくてもいいかなーって思ったんだ」
「ふ〜ん。どういった経緯でそう考えたんだ?」
わからない。あんなにもラブライブ!出場にこだわりを持って活動してきたコイツが『別に参加しなくてもいい』と言ってのけた。
確かにスクールアイドルをやっているから=ラブライブ!出場を目指すというわけではない。
日本じゅう探しても、きっとそういうグループは少なからずともあるはずだ。
だけど、そうじゃない。
μ'sというスクールアイドルは大切な意味を持ってして生まれたアイドルグループなんだと、俺は思っている。
だから、俺は穂乃果の意図がわからない。
「どうして、そう考えたんだ?」
「どうって、深い意味は無いよ?ただ、みんなと歌って踊って...笑顔にすることができるならそれでいいし、のんびりスクールアイドルやっていればいいかなぁ〜って思っただけ」
「なんだそりゃ。すまん納得できない。お前らしくねぇな」
「そ、そうかなぁ~」
本当に意味がわからなかった。
というか、間違いなくそれが本心ではないだろう.....
ちゃんとした理由はあるはずなのにそれを俺に話してくれない。
隠し事されるのはあまり嬉しくないが、一応俺も隠し事をしている身。
隠したいという気持ちが理解出来ないわけでもない。
「ん〜.....」
「もういいよ。話したくないならそれでいい。話したい時に話してもらえればそれで」
強引に会話を終了させる。
「そう、わかった」と彼女は頷いて、とてとてと海未とことりの元へ駆け寄る。
穂乃果が離れたのを見計らって俺は小さくため息を零す。
やはり、”あの失敗”を引きずっているのだろうか。
確かにμ`sは参加できたはずなのにできなかった。そのことに関して誰しもが穂乃果のせいだとは思ってないし、間違いなく誰もそのことを気にしていない。
さっきもA-RISEという大きな障壁は存在するものの、『参加する』という意気込みをみんなは持っているのだ。
だが、気にするなと言っても過去の失敗を恐れて気にしてしまうのが我々人間だ。
「な~にらしくないこと考えてんだか」
これは一度、メンバーに話さなきゃいけない案件だよな。
俺が知ってても相談してくれないし、ここは同じスクールアイドルの仲間である彼女達にも知ってもらうしかないんだよな。
ということで、俺はスマホを取り出して緑の連絡アプリを起動させようと———
「あん?不在着信?」
いつの間に届いていたのか不在着信が二件ほど届いていた。
1つは”アイツ”からの着信。もう一つは連絡先に登録していない身に覚えのない電話番号。
どちらから先に電話を掛け直そうか迷った末に、俺は見ず知らずの電話番号を選択し、そのまま電話をかけていた。
なんらかのセールスマンからの電話だったらすぐにぶち切ってやる。
そんな物騒なことを考えながら待つこと3コール。
「...もしもし?」
...返答がない。
向こうから声掛けられると思ったがずっと無言で、ただのいたずら電話かと思ってすぐに切ろうとした。
「貴方が......笹倉大地さんで?」
切る直前になって聞こえてきたのは女の声。
聞いたことはない、はず。だけど...どこかで聞いたことあるような柔らかい、だけど張りのある声だ。
「アンタは...誰だ?」
「私?そうねぇ......」
電話越しの女の人はしばらく考え込むような間を空けた後、こう言った。
「どこにでもいるような、しがない普通のスクールアイドルよ」
後書き
今回は短め。
読了ありがとうございました
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