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陸軍兵士が誤って海軍鎮守府に移籍させられてしまったようです

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海上戦終幕

「(さて、大分近くまで来たが李悠の方は大丈夫だろうか?)」

足の装備-水上走行機すいじょうそうこうきが置いてある孤島に向かう為少し視界の開けた道を足早に小走りで走る。頭に浮かぶのは李悠のことだ。俺が戦闘から抜けて既に数十分、そろそろ長門たちが俺の捜索を諦め李悠の元に向かう頃合いだが…

「あ、暗闇さん」

「?…未浪」

孤島まであと少しというところでこちらに向かってきたのは先程孤島に向かってもらった未浪だ。しかも取りに戻っていた水上走行機を手に持っている。

「持ってきてくれたのか、助かった」

「気にしないでください。それより今の戦況はどうなんでしょうか?」

「一言で言えば五分だ。軽巡洋艦二隻を再起不能に出来たのはいいがまだ数も戦力も負けてる。しかも一撃で再起不能にされる威力の砲撃を撃つ戦艦に加え狙いにくい後方で索敵、爆撃で隠密行動をしにくくしている空母がいるが…勝てないことは無い」

未浪が持ってきてくれた水上走行機を装着しながら俺から見た今の戦況を伝える。圧倒的にこちらが不利な状況に見えるがそれは間違いだ。考えて見ればわかるが俺達は擦り傷程度の傷が数箇所あるだけに対し長門たちは小破と中破に近いダメージを均等に与えられている上に李悠のお陰で戦艦は俺達の速度に追いつけないことがわかっている。島風は速度が早いと言っても所詮は駆逐艦、正面からなら驚異にならないが

「…やはり問題は空母ですよね」

「あぁ…どうしたもんか」

苦笑いを浮かべる未浪に俺も苦笑いが溢れる。問題は空母をどうするかだ。ただでさえ素早い艦載機は制空権が奪われていることにより数が増加、身を隠すにしても上空から索敵をされてしまっているとなると場所も限定されてしまう。では、正面からならと思うかもしれないが、艦載機からの爆撃は戦艦の砲撃より正確で速い。躱す事も不可能ではないが他の艦娘への注意が疎かになり砲撃が直撃なんて可能性が飛躍的に向上してしまう。身を隠してもダメ、正面からもダメとなると苦笑いの一つも溢れるだろ?

『…暗闇に伝達。空母二隻に小破、島風に中破の損傷。代わりに爆撃と魚雷で右腕と左足を負傷。どっちも直撃じゃないからまだ無事だけど真正面からは戦えなそうだよ』

「暗闇から李悠へ。今の戦況と負傷した箇所の状態を詳しく伝え、端末で現在地を表示しろ」

『…戦況は少し向こうが優勢かな。制空権が奪われてるせいでまだ数は多いけどさっきの半分位には削れた筈だよ。島風ちゃんも中破にできたからもう僕らの速度には追いつけないと思う。負傷部の右腕は爆撃が掠った火傷だけだから平気なんだけど左足は魚雷が爆散した破片が肉と一緒に太い神経まで突き刺さしちゃったみたいで移動する事さえ困難な状態だから一旦身を隠してるよ』

李悠からの現状報告を聞きつつ端末を操作する。表示された海域全体のマップには李悠の居場所がポイントされている。ポイントされた場所は運良く水上走行機等が置いてある孤島の岩陰のようだ

「了解した。そのまま身を隠しながら先に負傷した箇所の止血と応急処置をしておけ、すぐ合流する」

『暗闇へ伝達。監視していた艦娘たちが移動を開始し始めた。方向は武器のおいてある孤島方面、速度的に早くて数分で到着しそうだ』

「了解。優は今から指定するポイントに移動してくれ。…未浪お前は俺と一緒に李悠の方に向かうぞ」

「はい!」

李悠と優それぞれに命令を伝え無線を切り、未浪に同行するよう伝えると大きな返事が返って来る。未浪を優と合流させないのはこのまま俺と一緒に李悠の元に向かい負傷している李悠を護衛してもらう為だ。



「…大丈夫か?李悠」

「…なんとかね」

端末に表示されたポイントに着くと岩陰に座る李悠を見つけた。声をかけると少し顔を歪ませて返事を返してくる。通達にあった通り手足には包帯が巻かれているが左足の包帯だけ既に赤黒い血で染まり止血の意味をなしていないように見える

「ちょっと刺さり所が悪くて血が止まらなくてね〜。取り敢えず処置はしたけど気を失うのも時間の問題だよ〜」

「動脈が切れてるな…出血量からして長くて一時間ってとこだな。李悠お前はこの孤島から援護射撃に切り替えだ。前衛は俺一人で何とかする。未浪はさっき伝えた通り李悠の護衛を頼む。優お前もそのまま援護射撃に回って李悠達を援護してくれ」

赤く染まった包帯を外し代わりに持参した包帯を巻いてやる。止血剤は自分に使用したあと補充しなかったから手持ちにない…。包帯だけの止血では李悠が意識を保てるのは約一時間程…前線で動き回れば多量出血で数分も持たない為この孤島からの遠距離射撃なら無駄に動き回ることもなく少なからず数分で意識が飛ぶことは無い筈だ

「これで少しはマシになったはずだ。俺はそろそろ前線にでる。各自さっき伝えた通りのことを全力でこなしてくれ、一つでもズレればそのまま全滅だからな」

「了解〜前線は任せたよ」

「はい!全力で護衛します」

最後にキツく縛り上げ李悠の治療を完了させ、前線に出る準備を始める。六隻相手に前線一人となると気は抜けない

『俺もOKだが弾薬も減ってきてるしバカ正直に動いたら相手の思うツボになるんじゃねぇか?』

「優の言う通り遠距離からの射撃じゃ全滅させるより先に弾薬が尽きるだろう。だから全滅させることは考えずただ時間稼ぎをしてくれ」

『時間稼ぎ?』

「あぁ。他基地からの戦闘機複数台での空爆攻撃を要請する時間だ」

俺の作戦に疑問を投げかける優に俺の狙いを伝える。空爆攻撃-簡単に言えば戦闘機からの爆撃だ。模擬戦のルールに他基地からの援護要請については全く規制はされていなかった。なら使わない手はない。

『それってある意味屁理屈だよな?後で文句言われるんじゃねぇか?』

「優先するのは命と勝利だ。それに模擬戦ルールの範囲内での行動だ。それで文句なんて言ってきてもただの負け犬の遠吠えになるだけだ」

ルールは全て艦娘側が考えたものでありそのルールに禁止されていない攻撃方法なのだから使用したとしても責められることはないだろう。もちろん正々堂々かと言われれば姑息であり屁理屈であることには違いない。だが、彼女らは貸出兵の実力や戦い方を見る為にこの模擬戦を申し込んできたのだ。なら、貸出兵なりの戦い方も見せてやるべきだ

「それに李悠も負傷している。あの傷でさっきみたいな動きはできない上砲弾に直撃する可能性も高い。最善の方法だと思うが?」

『ははっ。確かに状況を考えりゃ最善の方法だ。否定するなんて間違いだったすまんその方法でOKだ』

「自分もその方法が最善だと思います」

「うん、動けない僕でも時間を稼ぐくらいならできそうだしその方法で行こうか~」

少し否定気味だった優だが詳しく説明をしてやれば謝罪と共に了承、未浪と李悠はすんなりと了承してくれた。

「よし、全員納得したとこで作戦に移るぞ。俺は前線にでて真正面から戦闘を行う。李悠は近場の基地に爆撃の要請を頼んだあと遠距離射撃だ。未浪は李悠の護衛。優は俺の合図で飛んで来る艦上機を陰から撃ち落としてくれ、余裕があれば李悠達の援護を頼む。…行くぞ」

背中に李悠達の了承を聞きながら海面を滑りだす。李悠が孤島にたどり着けていることを考えると李悠が隠れていた影とは真反対にいると予測しそちらに向かって歩を進めながら無線に声を掛ける

「…優、その位置から敵は見えるか?」

『あぁ、遠くにだが五六人の人影のようなものが見えるぞ』

無線の先は別方向で待機している優だ。優の位置から未だに目視出来るとなると島風達が長門たちの方に合流したのだろう。

「進行方向と推定速度はわかるか?」

『方角は北東、速度は約二十五ノット前後だな』

無線から聞こえる優からの報告を頭の中で整理していく。北東方面となると真っ直ぐこちらに向かう方角。速度的にはそんなに速くないのは中破している島風のスピードに合わせていると予測すれば納得できる。

「了解、そのまま監視を続けてくれ」

『おう、また動きがあったら俺から連絡するな』

無線を切りまた歩を進める。こちらに向かってきているのはもう確定した。後はできるだけ孤島から離れた場所で戦闘を開始するだけだ

「(…波が不規則だ。近いか)」

歩を少し進めると足元に立つ波がこちらに向かって立っていることに気付く。これは逆方向から波が立っている証拠

『暗闇そこから四百m先に熱源反応が六つ、真っ直ぐ向かって来てるよ』

李悠からの無線を受け、目を細め少し遠くに視線を向けると微かだがゆらゆらと動くものが複数見える。

「…あれだな…李悠そこから射撃できるか?」

『飛距離的には問題ないけどサーマルスコープ越しだと倍率がちょっと足りないから確実に当てられるかはわからないよ〜』

孤島から艦娘達までの距離は約二千m、李悠にとってはまだ余裕の距離だがスコープの倍率が足りないようだ。確か今回李悠が付けてきたのは中距離用の四倍率とサーマルの切り替え式スコープ。サーマルは熱源を見つけられれば見えないことはないがこの距離では確実に当てられる程はっきりとは見えていない。4倍率でも千二百m先を見るのが関の山だ

「なら、こっちに誘き寄せるか」

『そうしてくれると助かるよ〜 後五百m、我儘を言えば後八百m近づけてくれれば確実に当てるよ〜』

「という訳だ優は李悠の方に誘い込む形で動いてくれ。くれぐれも近づけ過ぎだけは注意しろよ」

次の動きを決め終わった所で足を止める。誘い込むのに態々こちらから近づいていく必要はない。ヘタに突っ込んで相手の術中にハマったなんて笑い話にもならないからな。



「(…来たな)」

数分後遠くの方に人影らしきものが見え始める。速度は約二十五ノット程、黒煙が目視できる所を見ると負傷しながらも李悠が相当なダメージを与えてくれていたみたいだ

「(ここはロングバレルの見せ所だな)」

腰から改造したばかりのスコーピオンを引き抜き標準を合わせて引き金を引く。艦娘達との距離は約二百m、ロングバレル付きのスコーピオンなら集弾性は低いがギリギリ届く。今は注意を引く事が目的だし擦りさえすれば十分だ

「…っ」

空になったマガジンを引き抜くと同時に視界に映ったものを確認すると同時に後ろに小さくジャンプする。瞬間先程立っていた場所に爆破音と共に水柱が立ち海水が頭に降り注ぐ。口に入った海水を吐き捨て飛んできたものと方角を確認する。

「(真正面から…水柱の大きさから考えて戦艦の砲撃だな)」

海水で垂れ下がった前髪を掻き上げてからぐるりと辺りを見渡す。艦攻機からの爆雷の可能性も考えたが目視できる範囲には確認できない。恐らく離脱した李悠達の索敵に向かわせている可能性が高い。索敵機の方は優に任せてあるが李悠達の居場所が特定されるのは時間の問題だろう。

「(ここは早めに作戦に移るのが得策だな)」

ぐるりと一回転し孤島の方に艦娘達がギリギリ追いつけないくらいの速度で歩を進めていく。その間も振り返りつつ射撃を行う。揺れで集弾性は先程より格段に低いが弾幕さえ張れれば鬱陶しがって追いかけてきてくれる筈だ。

「(警戒しているが追いかけて来てくれてるな)」

二本目の予備マガジンを差し込みながら状況を確認する。砲弾や魚雷を避けながら誘導地点まで約二百メートルの所まで誘導することが出来た。しかし戦艦三人は前衛、空母二人は後衛、中破している島風は最も攻撃を受けない戦艦と空母の間に挟まれている為誰一人として大破させることは出来ていない。

『優から暗闇へ伝達。敵艦攻機に発見された。今交戦中だが行動指示をくれ』

「暗闇から優へ伝達。一先ず無線で位置情報を飛ばせ。。こちらで交戦している空母の周りに艦攻機は確認できないことを考えると発見したお前の元に全機向かっている筈だそのまま交戦し全て撃ち落とせ」

後ろから艦娘達が追いかけていることを確認しながら孤島の方に向かっていると優から無線が入る。交戦中と聞き短めに指示を伝える。今李悠達の所に艦攻機に行かれては俺の誘導が無駄になるので優には最低でも交戦中の艦攻機は撃ち落としてもらわなきゃならない

『了解だ。位置情報は送ったから全機撃墜し終えたらまた連絡する』

「了解」

無線が切れて数秒後に端末が小さく震えた。艦娘達に気をつけながらポケットから取り出す。数度画面を弄り先程李悠に見せていた海域全体のマップを表示して位置情報を更新する。すると海域全体のマップ内に二つの赤点が表示される。一つは動かず点滅、もう一つは動いているが点滅していない。これは李悠と優の居る位置を示している。点滅しているが動いていない点は李悠、点滅していないが動いている点は優だ。赤点の点滅は位置情報を送った無線の所有者の身体状態を表していて重症になるにつれ点滅が早くなり、黒点になると死亡を表す。

「(…大分離れたな。向こうは優に任せるしかないか)」

マップを見て気になったのは優の位置。李悠援護の為援護しやすい海を見渡せるポイントに移動してもらっていたが今は森の中を李悠たちから離れるように動いている。これでは李悠達の援護は不可能に近く、こちらも援護に向かうことは出来そうにない。敵を離してくれているのに態々見つかりに行く必要は無い

『李悠から暗闇へ伝達。もう数分で近場の空軍基地から空爆攻撃が来るよ』

「了解。あとは時間稼ぎだ。李悠は弱っている島風と空母二人を行動停止にしろ。この距離だ確実に決めろ。未浪は狙いにくいと思うが戦艦三人を狙って分断する様に仕向けてくれ。後は俺がやる」

『『 了解』』

無線から声が消える。端末をしまい、足を止めて振り返る。もう追いかけっこはお終いだ。空爆の時間までこちらも攻めに転じさせて貰う

「追いかけっこは終わりか?」

「えぇ。ここからはこちらが攻めさせていただきます」

足を止めた俺の前に長門たち六人が現れる。口元を少し上げ軽口を叩く長門に次はこちらの番だと強く言葉に込めるながら笑顔を返す。

「それならば見せてもらおう貴様たちの攻めを!」

「李悠、未浪!交戦開始だ!」

言うが早いか既に発射された無数の弾丸は長門たちに向けて飛んでいくところだった。この集弾性は未浪のLMGライトマシンガン。だがこれは注意を引く囮、本命は

「きゃあ!」

集まる六人の中から爆発と共に一つの悲鳴が響く。

「嘘…でしょ!?」

二度目の爆発、悲鳴ではなく今の状況を疑いのような声が響く

「こんなことあり得るはずが...!」

三度目の爆発、こちらも悲鳴ではなく困惑の声が響く

「…こ、これはいったい!あの一瞬で何があった!?」

「これで三対四、形勢逆転ですね長門さん?」

現状を知った長門は唖然としていた。それもその筈今の一瞬で自分たちの後ろに庇っていた三人を巻き込むように爆発が起きたのだから。

『李悠から暗闇へ。後方三人に命中、全機能大幅に低下を確認』

「流石だな李悠」

無線越しに李悠の声が聞こえてくる。サーマル越しと言っても距離的にまだボヤけている筈、銃弾も普通のライフル弾ではなく徹甲弾-簡単に言えば弾頭が何かに触れた際に爆発を引き起こす特殊弾。もちろん威力はグレネードと同等の威力なのだが重量も他の弾よりも重くしっかりと発射角度を計算しなければ狙い通りに飛ばない為扱いの難しい弾の一つ。そんな弾を寸分狂わず命中させる李悠の遠距離射撃能力は貸出兵という立場を除いても世界で数人もいない存在だ。

『暗闇へ追伝。近辺陸軍基地から残り数秒でこちらに到着。その後爆撃が開始。そこから最低でも五百mは離れて』

「(思ってたより早いな)了解。李悠と未浪は艦娘達を牽制する準備を頼む」

ベレッタに三つ目のマガジンを差し込む。スコーピオンは少し前から弾を撃ちきった為、これが最後の予備のマガジン。後ろから援護してくれると言っても少々心許無い。

「カウントダウンで一気に後退する。タイミングを合わせて一斉掃射してくれ…カウントダウン!三、二、一...退避!」

叫ぶと共に全力で李悠たちの方へと滑り出す。それと同時に大量の弾丸が艦娘達の方へと跳んでいくのが視界の端に映るが無視して突き進んでいく

『暗闇急げ!爆撃機が見えたぞ!』

「わかってる!」

全力で滑っているがまだ最低ラインには辿り着けないが、未浪達が牽制してくれているおかげで追いかけては来ていないようだ

『残り弾数僅か!牽制は残り数秒が限界です』

「安心しろその前に爆撃が来る」

残り百m程、李悠達の牽制もそろそろ限界だが爆撃範囲から離脱されるより早く爆撃機が到着する。後は俺が範囲外まで逃げ切れれば勝利だ

『爆撃機到着!間に合わない海に飛び込め暗闇!』

残り数mの所で李悠の声が響く。上を確認している暇はない、すぐ様水上走行機の電源を切り海へ飛び込む。直後、海中まで響く爆破音が鳴り響く。早急にここから離れなければ危険だ。

「ぶふぁは!…はぁ...はぁ」

爆風で立った波に揉みくちゃにされたがなんとか数m泳いだのち海面に顔を出す。危うく窒息する所だったが無事爆撃範囲外には出られたようだ

『大丈夫か暗闇!応答しろ!』

「そんな大声出さなくても聞こえる。何とか爆撃範囲からは出られた。艦娘達はどうなった?」

『全員大破判定は確認出来てるよ』

「そうか。...優はどうした?確か艦攻機を任せていた筈だが」

電源を入れ直した水上走行機で走行しながら水中にいた間に起こったことを李悠に確認し艦攻機を任せた優からの連絡が無いことを思い出す

『優なら少し休んでるよ。艦攻機は全機撃墜した見たいだけど無傷とは行かなかったみたい』

「分かった。俺はこのまま優を迎えに行く。お前達は先に鎮守府に帰還しておいてくれ」

『了解〜兄さんにも報告しておくよ〜』

軽い口調に戻った李悠の声が消える。さて、優の所に向かうか



「大丈夫か?」

「...ん?おぉ...暗闇か」

端末を頼りに手入れされていない草木の中を進むと木に背を預けながら煙草を吹かしている優を見つける。相当お疲れのようなのかいつもの様な軽い口調も元気がない

「お疲れさん。模擬戦は無事俺達が勝利した。それと悪かったなこんな無茶させて。本当は俺が引き受けたかったんだが手が空かなくてな」

「...そんなこと気にする事はねぇよ。俺も貸出兵の一人だこれくらいなんてことねぇって」

「そう言ってくれると助かる」

傷が痛むのか少し歪んでいるが笑顔を向ける優につられる様に俺の口元も緩む。

「さて、そろそろ戻るぞ。詳しい話は鎮守府に向いながらだ。肩貸すぞ」

「あぁ、すまねぇ」

優の左腕を肩にかけてそのまま立ち上がらせてから優の歩幅に合わせゆっくりと歩き出す。

「...李悠達は無事なのか?」

「未浪は援護中心だったから軽傷なんだが李悠は片腕と片脚を負傷した。浅くはないが致命傷にはなってない筈だ。それでお前はどうだ?」

「...脇腹と左脚に二発ずつ、後は掠り傷程度だ」

互いに知りうる情報を伝えていく。李悠は腕部と脚部、優は腹部と脚部を負傷。俺と未浪は殆ど負傷部はない

「取り敢えず戻ったらお互い傷の手当てをしなきゃいけないな」

「ん?暗闇も怪我したのか?」

「あぁ....少し動き過ぎたみたいで昨日の傷が開いたみたいでな」

電に手当てしてもらった後に入った風呂ドックで傷は塞がったと思ったがまだ完全ではなかった様で傷が開いてしまったようで傷周りが熱を持ち始めているようだ。

「そりゃ早く手当しないといけねぇな」

「あぁ、早いとこ戻ろう」

ふっとどちらともなく口元を緩めながら歩を進めていく。早めに止血しないとまた昨日の二の舞になりかねないしな



「大分離れてたみたいだな。...大丈夫か優?」

「おぉ...」

数十分歩きようやく鎮守府に到着した。血を流し過ぎたのか優の顔色は悪く、いつもより生気もない。どちらとも未だ血は止まらず歩いてきた道を示すように血痕の跡が続いている。

「帰還しましたっとと」

ゆっくり戸を開き帰宅?の声をかけると同時に足から力が抜けて膝をついてしまう。また貧血か?

「お帰り〜。あらら思ったより派手にやられちゃってるね〜」

「ただいま李悠。優は少し頑張り過ぎてしまったみたいでしてね」

「...こんなん頑張った内に入らねぇって」

「そんなことは無いですよ。充分頑張ってくれました」

ダラリと床に座りながら声をかけてきた李悠に答えると荒い息づかいながら優が苦笑い気味に笑う。ボロボロになりながらも艦攻機を全機撃墜させておきながら何言ってるんだかな。

「一先ず優の傷を手当てをしなくては、どなたかお願いできますか?」

「あ、私がやります!」

「貴女は確か...比叡さん、でしたね。出血が酷いので早急に止血をお願いします」

「はい!気合い!入れて!治療します!」

辺りを見渡しながら声をあげると元気な声の女性がこちらに近づいてくる。どこかで聞いた声だと思ってたが姿を見て金剛の妹の比叡だと思い出す。気合を入れた比叡は俺の近くまで来るとゆっくりと優の腕を肩に担ぎ壁際に運んでいく。

「暗闇さん李悠さん〜」

不器用そうな性格だと思っていた比叡の中々の手際の良さに驚いているとと廊下の方からパタパタと電と響がこちらに駆けてくる。響の手には治療箱、電は何故か腕いっぱいに包帯を抱えている。そんなに使うとは思わないが

「お待たせしましたのです」

「すまない。治療箱を探すのに手間取ってしまった」

「ううん、そんなに待ってないから大丈夫だよ〜」

「そういってもらえると助かるよ。それじゃあ早速治療を始めよう。電は彼を、私は君だ」

電に指示し終えると響は李悠の治療に取り掛かる。確かに未だ出血している李悠を置いてゆっくり話していられない。

「暗闇さんは私が手当してしますのです」

「はい、お願いしますね」

ニコニコと笑う電に返事をしてからワイシャツを脱ぎ、前に巻いてもらった包帯を外していく。どちらも傷口付近は血を吸い込んで真っ赤だ

「ふむむ...前より酷くなってますね」

「少し無理に動きましたからね」

背中の傷を見るため後ろに回った電は開いてしまった傷口に優しい手付きで触れてくる。暖かな掌が傷を摩るように触れる度ジンジンとした痛みと共にネチャリと粘着質のある音が耳に届く。痛みからも前より酷くなってしまっているのは分かっていたが触れられただけで痛みが走る程酷く開いてしまっているとは思わなかった

「少し動かないで下さいね...」

「っ!」

触れていた暖かい感覚が離れると代わりにヒンヤリと湿ったものが背中に当てられる。手当てという事を考えると消毒液だろう。ただ、傷が傷だけに染みる痛みも普段より大きな曇った声が漏れてしまった

「だ、大丈夫ですか?」

「吃驚しただけですから大丈夫ですよ。続けてください」

俺の漏らした声に一瞬電の手が止まるが続ける様に促す。どうにも消毒液が傷口全体にゆっくり広がっていくジクジクとした痛みは何年経っても慣れない

「後は包帯を巻いて...これで大丈夫なのです」

「..ありがとうございます電さん」

消毒を終えると前と同じ様に包帯を巻かれ最後にキュッとキツくないくらいの強さで結ばれる。包帯で圧迫されて先程より痛みはない。

「今度はちゃんと安静にしてないとダメなのですよ?」

「(依頼が来なければ)そうするつもりですよ」

心中で言葉を付け加え、苦手な笑顔を顔に貼り付ける。依頼めいれいは絶対である以上負傷していたとしても受けなければならないのが貸出兵。電の心配はありがたいが安静にできる保証はどこにもない

「響さんそちらは終わりましたか?」

「あぁ、丁度終わった所だよ。と言っても止血して包帯を巻いただけだが」

「十分だよ〜暗闇、肩貸して〜」

自力で立ち上がれない李悠はパタパタと両腕を振り上げ俺を呼ぶ。
まるで駄々っ子だと口元を緩めながら李悠の左腕を肩にかけ立ち上がらせる。治療と言っても艦娘ではない俺達に施せる治療は精々止血や骨を固定する程度。切れた神経や折れた骨は再生するのを待つしかない。

「響さん電さん治療の方ありがとうございました。私達は取り敢えず部屋に戻りますので何かありましたら部屋までお願いします」

「ありがとね〜」

響達にお礼を告げて借りている部屋へ向かう。早いところ部屋に戻って疲労した体を休ませるとしよう


「ただいま戻りました」

「ん?未浪かお帰り。どこいってたんだ?」

扉が開く音につれて聞こえてきた声に机に落ちていた視線が無意識に声の方に動き視界にその姿を捉える。
入ってきたのは先程から姿の見えなかった未浪。労いの言葉を掛け、どこにいたのかを聞いてみる

「今回一番軽傷で動けるのは私でしたので先に指令室まで書類の方を頂きに行っていました。あ、これが書類です」

「おぉ、助かったぞ未浪。やっぱ動ける隊員がいると色々と手間がなくていいな」

礼を告げながらこちらに差し出された書類を受け取る。
パラパラと流し読みで簡単に内容を確認して書いていた書類に被らないように机に広げてみると計四枚の書類が視界を埋めるがその中の一枚に目が止まる

「なぁ、未浪。お前兄貴に何か言ったか?」

「いえ何も。書類も今回必要な分だと渡されたまま持ってきましたけど何かおかしな書類でも?」

「んや、何もしてないならいい。それと急だが今日から一時的に貸出兵の仕事は休みだ」

目に入った書類内容に納得できず読み進めるが大本営名義の割印が目に入り読むのを辞めた。大本営の割印があるという事はこの書類内容は命令、要は嫌でも休みを取れということだ。
しかも全員の傷が完治するまでと来た。誤魔化して依頼を受けるのは難しいいことではないが負傷中の依頼に慣れっこな俺や李悠、軽傷の未浪ならまだしも優は傷の具合からしても誤魔化すのは難しい。
優だけ待機させてもいいがそれでは貸出兵に引き入れた意味がない。それにまだ貸出兵に移籍して日の浅い未浪は出来るだけ一人で行動させたくない。後方支援の未浪に合わせ俺か李悠のどちらか一人が後方支援に回るという方法もあるがそれだと前衛が攻め込み辛くなる上突破された際、未浪の補助に回る羽目になるのは目に見えてる。なら逆に前衛に連れていけばという考えはもはや論外。後方より激しい戦闘になる上カバーに入りづらい前衛に態々連れていくなど死にに行かせる様なもの。色々と考慮しながら思考を巡らせてみたがいい案は思いつかない。大人しく優が完治するまで休暇するしかないみたいだ

「へぇ?休暇ですか」

「あぁ、大本営からの命令だけどな。悪い、ちょっと出てくるから李悠のこと頼むな。あ、休暇は自由に使ってくれ」

「はい、了解しました」

先程渡された書類も書き終わったので寝ている李悠を未浪に任せて部屋を出る。さっさと兄貴に提出して俺も寝よ...


「(クソねみぃ...)」

書類を提出し終え、欠伸を噛み殺しながら部屋に戻る廊下を進む。疲労に加え血の流し過ぎで貧血気味の体は歩くのだけでもダルイ。早く部屋に戻って休みたいもんだ

「あれ?あれれ!?可笑しいな確かこの辺りの筈なんだけど」

「(見たことない奴だな)」

ダルイ身体を引きずるように歩いていると後ろで纏めている長い茶髪がキョロキョロと頭を動かす度に可愛らしくユラユラと揺らす女の子が視界に入る。何か探しているようだが俺も貸し出されたばかりで部屋の場所などわからないし無視するか

「あ、あのすみません。少しお聞きしたいことがあるんですが」

「(ちっ...捕まったか)」

無言で通り過ぎようとしたがやはり真横を通るのはリスクが大きかったのか声をかけられてしまう。初対面の俺に声をかけてくるという事は相当参っているのだろう。滞在中の身という事もあるし今後のことも考えると無下にするのも得策ではない面倒くさいが話くらいは聞くとしよう

「どうしました?」

「えとえと!か、貸出兵さん達が居るお部屋を探しているですけどわ、わかりますでしょうか!?こ、この辺りの部屋だと聞いたのですけど」

しまった…疲れもあって上手く口元が上がらず声のトーンもいつもより低くなってしまった。怖がらせたと横目で様子を伺うが気がついてはいないようだ。ただ焦っているのかアワアワと少し言語が可笑しくなってる。取り敢えず俺達の部屋に連れて行けばいんだな

「落ち着いてください。貸出兵のお部屋ですね。私も向かいますのでお連れしますよ」

「は、はいお願いします」

慌てふためく少女を落ち着かせ部屋に向かって歩きだす。少女も落ち着いたのか俺の少し後ろをついてくる。しかし貸出兵の部屋に用事とは個人的な依頼だろうか?

「つきましたよ。さ、どうぞ?」

「へ?」

数分歩き借りている部屋に到着。そのまま扉を開け少女に入るよう促すが入室することを考えていなかったのか驚いたような声を上げてこちらを見やる

「何かお話があるのですよね?取り敢えず中に入りましょう」

「え、あの...は、はい」

取り敢えず説得できたのか少女は遠慮気味に部屋の中に入っていく。それに続き俺も部屋の中に入る。

「あ、お帰りなさいです」

「ただいま」

中に入ると声を掛けてきたのは留守番を任せた未浪。書類を書いていたのか数枚の書類が机を埋めるように広げられている。

「そちらのお嬢さんはお客様ですか?」

「そのようですよ。部屋に戻る途中迷っていたので連れてきました」

テーブルを挟んで未浪の反対側に腰を下ろす。少女は扉の少し前に立ったままあちらこちらを見ながらソワソワとしている。緊張でもしてるのか?

「まあまあ〜そんなに緊張しないでココアでもどうぞ〜」

「ひゃわ!?」

スッと少女の後ろから声をかけたのは李悠。またもいきなり声をかけられて驚いている少女の横を抜け丸盆に乗せたカップをテーブルに置いていく

「ありがとうございます李悠。傷は大丈夫ですか?」

「うん、仮眠を取ったら多少は動けるようにはなったよ〜さ、君もこっち来てお話しよ〜」

「は、はい」

先に手渡されたホットコーヒーを啜りながら傷の具合を確認すると歩くには問題ないようだ。四つのカップをテーブルに置き終えた李悠が声をかけると少女は戸惑いながらも空いている席に腰を下ろした。

「それで〜君がここに来た理由は何かな〜?」

「え、えっと〜大した理由ではないんですけど」

シュッっとジッポで葉巻に火を着けながら来た理由を問う李悠に少し戸惑い気味の少女。何か裏があるのか?

「構いませんよ。どうぞおっしゃってください」

「で、では、...貸出兵の隊長さん...暗闇さんにこ、告白をしたいなって... 」

「「「え?」」」

少女が告げた言葉に俺を含めその場にいた全員が素で驚きながら少女の方に視線を向ける。少女はこちらの声に気づかなかった様で顔を真っ赤にしてもじもじと身体をくねらせているだけだ。この反応からして

「(なぁ、その子探し人が俺だってわかっていないような気がするんだが)」

「(先程の言い方とこの反応からするとその可能性は高いと思いますね)」

「(それにしても暗闇に告白したいなんて...度胸あるよね〜)」

李悠達にだけ聞こえるような小さな声で聞いてみると思った通りの答えが返ってくる。多分彼女は俺の容姿をよく知らない、わかっていたらここに連れてくる前に何かしらのアクションを起こしている筈だからな。ま、ここは素直に答えてやろう

「...私が貸出兵隊長-暗闇と名乗らせていただきますが貴女が探しているのは私であっていますか?」

「ふぇ?...え?く、暗闇さん!?ほ、ホントに」

「はい。貴女が探している暗闇かはわかりませんが」

「...」

くねくねと動いていた体が止まった。と思った途端、赤かった顔が更に赤くなり湯気を出し始める。...湯気?

「え〜と...大丈夫ですか?」

「...」

「あはは〜完全にショートしちゃったみたいだね〜」

プスプスと壊れた機械のように顔を真っ赤にして湯気を立ち上らせる少女を見て李悠が笑い出す。関係者の俺からしたら笑い事じゃないんだが

「はぁ...未浪その子横に寝かせといてやれ」

「了解です」

「それにしても容姿もわからないのに部屋に来て告白の手伝いをお願いしにくるなんてね〜しかも告白相手が暗闇になんて」

「それは俺も疑問だな」

煙草に火を着け煙を燻らせながら少し考えてみる。少女の告白したい相手である暗闇は少女の反応から俺で間違いない。だが彼女は俺の容姿を知らなかった。では、どこで俺に好意を持つ?見た目がかっこいい可愛いと言うのは少なからず興味をもつ為には必要な筈だ。それに名前だけで好意を持つと言うのも可笑しな話だ。李悠も俺を貶すような言葉を言ったが俺の生い立ち、仕事をしっていれば当然の言葉であり俺自身も好意を向けられることに疑問を抱いているところだ

「ま、考えても仕方ねぇ。人それぞれに好みはあるもんだし、名前だけで好意を持つって奴もいるんだろ」

「それもそうだね〜それで返事はどうするの?」

「返事?」

「何言ってるの〜あんなの告白みたいなものでしょ?その返事だよ〜」

「あぁ...その事か」

そう言えば告白みたいなことを言われてた。それにしても貸出兵のしかも隊長である俺に好意を抱くとはこの少女相当な物好きだな。

「俺の考えも伝えて断るつもりだ。容姿、中身を見て、感じて、理解した後、それでも好意があるのならもう一度告白をしてくれってな」

「だってさ〜」

「き、気づいていたのですか?」

「ん〜まぁ、何となくだけどね〜」

李悠の返しに敷物の上に横になっていた少女がゆっくりと起き上がり口を開く。まぁ、不自然な寝返りとかしてたしな

「そういう訳で申し訳ないが今の告白は無効にしてもらっていいか?」

「それはもうもちろんです!?私こそ顔も知らないのに告白紛いな事をしてすみません」

パタパタと顔の前で両手を振る少女の顔はまた真っ赤だ。先程から見ていた限り照れとは別に慌てたり焦ったりすると顔に熱が集まり顔が赤くなる体質のようだ

「いや、状況はどうあれ好意を向けられるのは悪い気はしない。だから言わせてくれ、俺に好意を抱いてくれてありがとう」

「うぅ(それは卑怯ですよ暗闇さん)」

自然と口元が緩み微笑みが漏れる。何故か少女の顔が更に赤くなり俯きながら唸り始めてしまったが感謝の気持ちはつたえられたからいいだろう。

「あぁ、そう言えばお前名前は?」

「ふぇ?あ、えっと文月...です」

「文月だな。さっき言ったが俺は暗闇。こっちは李悠、んで未浪、あと一人優って奴がいるが今は席を外してる」

「よろしくね〜文月ちゃん」

「よろしくお願いします文月さん」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

優を除いた全員の自己紹介が終わり、そのまま雑談タイムに突入、話のキリがいい所で文月の告白劇(雑談)はお開きとなった
 
 

 
後書き
はい!前回の前書きでお知らせしたとおり連続投稿です!
え?終幕早すぎだろって?確かにそうなんですが艦娘たちとの交流をそろそろ書きたいな~と思ってしまったので仕方ないですね
次回のお話はすでに書き始めていますがまだ二千字と少しですんでもう少し時間がかかりそうですがそれでもよろしければ次回もみにきてください。感想、アドバイスはいつでもお待ちしております。いいねの一言でも書いていただければ私のモチベーションも上がりますのでよろしくお願いします 
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