英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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外伝~襲撃の爪痕~後篇
~ウルスラ病院~
「シュリちゃん?いいかしら。」
「…………………………………」
扉をノックしたセシルの言葉にシュリは何も答えず暗い表情でベッドで眠っているイリアを見つめ続けていた。
「シュリ………………」
「………………………」
シュリの様子を見たロイドとエリィは重々しい様子を纏って見つめた後イリアのベッドに近づいた。
「………………………」
ベッドにいるイリアは何も答えず眠り続け
「イリアさん……」
「……………………………」
「………………………」
ティオは暗い表情でイリアを見つめ、ランディは目を細め、リィンは目を伏せて黙り込んだ。
「静かで……キレイな寝顔だろ?いつもグースカ、豪快に寝乱れているクセにこんな時だけ………ははっ……イリア・プラティエらしくなさすぎるっての……」
その時シュリは寂しげな笑みを浮かべて呟き
「…………………」
その様子をノエルは悲しそうな表情で見つめ
「……容態の方はどうなっているのですか?」
リィンは真剣な表情でセシルに尋ねた。
「……全身の骨折と内臓へのダメージね。手術の方は成功したけどまだ昏睡状態が続いていて……今は生命維持装置に頼らざるを得ない状況ね。」
「……それと……………特に両脚の骨の骨折があまりにも酷いそうで………現代医療では完全に治すのは難しく、例え足が治っても舞台に上がるどころか……満足に歩ける事も絶望的だそうです………」
尋ねられたセシルは重々しい様子を纏って答え、セシルに続くようにシズクも悲しそうな表情で説明した。
「………そこまで………」
「……クソッ………!」
説明を聞いたロイドは疲れた表情をし、ランディは悔しそうな表情で声を上げ
「………………………」
エリィは複雑そうな表情をしていた。
「……シズクも言ってる通り、意識を取り戻しても両脚の問題があるから復帰は無理だってさ………信じられるか?あのイリアさんがステージに2度と立てないんだぞ……?それもオレを……オレなんかを庇ったせいで………そんなの……そんなのってないだろ………」
そしてシュリは寂しげな笑みを浮かべて言った後、悔しそうな表情で涙を流し始めた。
「……シュリ………」
シュリの様子をロイドは何もできず見つめ続け
「……………………………」
セシルは黙ってシュリを抱きしめた。
「…………え……………」
「大丈夫……きっと大丈夫よ。イリアのことは私が一番良く知っているわ。どんな逆境でも決して諦めないでただひたすら上を見続ける……それがイリア・プラティエよ。」
「………で、でも………」
優しげな微笑みを浮かべて言ったセシルの言葉にシュリが口ごもらせたその時
「―――俺もそう思うよ。そうでなきゃ、あんな常識外れのステージなんて生み出せるはずがないと思うし。」
「そうね……イリアさんの貪欲さがあって初めて実現できる空間だと思う。」
「そこにステージがある限り……きっとイリアさんは戻ってくる。不思議とそう思えてしまいます。」
ロイドやエリィ、ティオがそれぞれ声をかけた。
「……………ぁ…………………」
「だな……今は女神達とイリアさんを信じて自分にできることをやっときな。」
「今日はともかく、舞台の練習は欠かさない方がいいんじゃないか?君ももう立派なアルカンシェルのスターだし。」
「うん、そうだよ!それにイリアさんなら楽しそうなステージにつられて起きてくるよ、絶対!」
さらにランディやリィン、ノエルがそれぞれ声をかけた。
「………………………あんがと、ちょっと元気出てきた。そうだよな……オレたちがしっかりしないと……リーシャ姉も……いなくなっちゃったんだし………」
「あ…………」
「…………………」
そしてシュリが呟いた言葉を聞いたエリィは声を上げ、ロイドは黙り込んだ。
「……なあ、アンタら。できればリーシャ姉のこと、見つけてあげてくれないか……?どんな事情があってもリーシャ姉はリーシャ姉だから……それに、リーシャ姉が戻ってくれば、イリアさんも元気になると思うんだ。後さ……噂の”聖女”って人達を連れて来てイリアさんの治療を頼んでくれないか……?”聖女”は今までどんな酷いケガでも治した事があるって聞いた事があるんだ………」
「―――わかった。特務支援課の名にかけて必ず見つけだして、ティア神官長達の方も何とか手配してみせるよ。」
その後ロイド達は病室を出た。
「……みんな、ありがとう。これでシュリちゃんも元気を取り戻せると思うわ。私も……少し勇気付けられちゃった。」
病室を出たセシルはロイド達に微笑み
「セシル姉……」
「セシルさん……」
セシルの言葉を聞いたロイドは複雑そうな表情をし、シズクは心配そうな表情をしていた。
「やっぱり相当、深刻な容態なんですね……」
「ええ……正直、安心はできないわ。……それでもやっぱり、私はイリアを信じてるから。それに信じる人が多ければ多いほど彼女はそれにこたえてくれると思うの。」
「そうッスね……」
「確かにそれがイリアさんかもしれません。」
「しかしそうなると………鍵はやっぱり”彼女”さんですね。ロイドさん、見つけられますか?」
セシルの言葉にそれぞれが頷く中、ノエルは真剣な表情で考え込んだ後不安そうな表情で尋ねた。
「……正直、わからない。本気で身を隠したんだったら見つけるのはかなり困難だろう。」
「そうですよね………行方不明の”ラギール商会”同様、自治州にいるのかいないのかもはっきりしませんし……」
そしてロイドの答えを聞いたノエルは不安そうな表情で呟き
「カルバード方面に戻っちまった可能性もあるしな……だが、シュリぞうにあんな風に頼まれちまったら諦めるわけにもいかねぇよな?」
「ああ――――勿論だ。」
ランディの言葉にロイドは力強く頷いた。
「”ラギール商会”の行方と合わせて気を配った方がいいわね。」
「わたしも導力ネット方面を常にチェックしておきます。………―――まあ、リーシャさんの正体を知っていたリィンさんなら既に両方の居場所を知っているかもしれませんが?」
エリィの言葉に頷いたティオはジト目でティオに視線を向け
「ハハ……黙っていたのは本当に悪かったよ。でも、さすがに軍事機密をおいそれと喋る訳にはいかなかったし。俺も両方の行方を知らないの本当だぞ?俺なんて訓練兵だから最低限の情報しかもらえないし。むしろ”銀”の正体を最初から教えて貰えただけでもかなり異例だったと思っているんだからな。」
視線を向けられたリィンは苦笑しながら答え
「……私の方でもリウイお義兄様と連絡して聞いてみるし、ティア様達の派遣の事も頼んでみるわ。恐らくいくらお姉様の妹とはいえ、国家の機密情報の漏洩や皇族を直接動かすような頼み事は聞いてくれない可能性が高いと思うけど………その時はお姉様にもお願いして口をわらせてみるし、ティア様達も派遣するように頼んでみるわ。」
エリィは静かな表情で言った後口元に笑みを浮かべ
「それが一番効果的でしょうね。イリーナ皇妃はリウイ陛下の唯一の弱点ですからね。イリーナ皇妃の頼みなら何でも聞きそうな感じにも見えましたし。」
ティオは静かな笑みを浮かべながら言った。
「ふふ……本当にありがとう。……あら?」
ロイド達の様子を見たセシルが微笑んだ何かの音がし、音に気付いたセシルは自分が身につけているエニグマを手に取って通信を始めた。
「―――セシルです。……はい……はい……わかりました。すぐに向かいます…………私とシズクちゃんは次の患者の治療に戻るけどロイド達はどうするの?」
通信を終えたセシルはロイド達に尋ねた。
「ああ、仕事も残っているしそろそろお暇するよ。」
「案内していただいてありがとうございました。」
「ふふ、こちらこそ。大変な状況だけど……お互い頑張りましょう。ただし無理はしすぎないでね?」
「了解ッス。」
「お疲れ様でした。」
「シズクちゃんも頑張ってね!」
「はい……!」
そしてセシルとシズクはロイド達から去って行った。
「本当に……ここが踏ん張りどころだな。」
「ええ……そうね。心と身体を傷つけられた人達に笑顔を取り戻してもらうためにも。」
「…………………(踏ん張りどころ、か。)」
その後ロイド達は病院を去り、支援要請の片づけを再開した…………
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