FATE/friction blade 試作品?
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相克する正義
響くは剣戟の音色、絶えず鳴り止まぬまるで演奏のように足早に刃鳴が散る。
「うぉおおおおおおおおっ!!!」
裂ぱくの気勢、黒衣のロングコートに青い装飾具が目立つ衣に身を包んだ男が決死に大太刀を振るう。
それを迎撃するのは鉈のような陰陽の刀身と正反対さが印象的な雌雄一対の双剣。それを携える鋼色の髪に浅黒い肌が印象的な男。
「ぐっ……!」
数合のうちに双剣が跳ね飛ばされる、刀身が切り裂かれる等して浅黒い肌の男の腕から剣が喪失するが次の瞬間には全く同じ剣が現れ、致命へと至る一撃を捌いていく。
しかし、徐々に男の体が削れてゆく―――極めて純粋な技量の差が表れ始めていた。
「分かっているはずだ!なぜ彼女が私の元に下ったのか!!」
「知るかよボケっ!!」
何度目かも分からない鍔迫り合い、ガキガキと耳障りな金属擦過音越しに言葉を交わす。
「あの人類を皆殺しにする存在を駆逐するには聖杯による奇跡が必要だ。人類が独力であれに打ち勝つには100年は足りない。人類の望みを束ねて聖杯によって具現化させるより他に道はない!!!」
鍔迫り合いをする二人の頭上に突如として数本の剣が現れる。そして、大太刀を担う黒衣の男目がけて強襲する。
「くっ!!」
双剣の男から一気に飛びのく、そして同時に黒衣の懐から数本の十字架のようなものを取り出す―――それは黒鍵と呼ばれる武装。
聖堂協会と呼ばれる組織の戦闘部隊の中でも暗殺色の濃い人間が扱う武装だ。
「ふんっ!!」
次の瞬間には黒鍵が十字架を柄とした剣に変化しておりそれを双剣の男に投擲する。
火花と刃鳴が散るのは二か所で同時だった。
双剣の男が黒鍵を弾くのと同じくして黒衣の男を貫くはずの剣が薙ぎ払われていた。
しかし、数本の名剣―――いや、魔剣や聖剣と呼ばれてる類のものを薙ぎ払った影響か、大太刀は曲がり無数の亀裂が走っている。
「阿片でも決めてるのかよボケナス!例え世界の危機だろうがテメェの女を生贄にしてそれを看過して良い通理なんぞあるかよ。在るわけねぇだろ!!
自分の女が死ぬってのに見殺しか、玉ついてるのか!?切り落とすぞっ!!」
悲憤、悲哀、悲壮―――超絶怒涛の気迫。それを真正面から受けてビリビリと肌が張り詰めるのを感じる双剣を携える男。
眼前では黒衣の男が持つ大太刀に蛍火が集い、翡翠色に燃え盛る。そして――炎の衣が剥がれ落ちた後には傷一つない新品の刀身が現れる。
「………それでも個人と世界では世界を取るしかあるまい、天秤に乗ったものの違いは明瞭すぎる。」
「はっ!なんだそれは?新手の詐欺か?―――で、世界が犠牲になるそれが何だってんだ?知ってるか、そういうのを言い訳って言うんだよ。
そうやって、自分の女を殺しておいて世界のためってクッサイ理由でせいぜい自分を慰めてろ―――それで納得出来るってのならな。」
「………」
黒衣の男の鼻で笑う言葉に苦虫をかみつぶしたような表情になる褐色の男。その男に大太刀の切っ先を突き付けて黒衣の男は叫ぶ。
「いいか、貴様が昔何を犠牲したのかは知らんし関係ない。だが、そこから目をそらすのに己の女を使ってるんじゃないっ!!ぶち殺すぞ。」
「ではどうするというのだ!彼女は世界を救いたいのではなく、貴様を救いたいと言って聖杯の器としての道を選んだのだぞ!!」
「だからどうした!!己は己の女を犠牲にした世界なんぞ要らん!!そんなゴミを押し付けるな!」
二人の男は相いれれない、致命的に歯車が噛み合わない。
相手の意志と誇りを尊重して二人で戦い、そして別れて行った褐色の肌の男。自分たちが選べなかった選択肢を平然と選ぶ目の前の男が―――衛宮士郎は心底憎らしかった。
「しかし、どうするというのだ。彼女が聖杯にならない場合、世界はあれに蹂躙されやがて人類は滅び去るだろう。彼女が犠牲になろうがなるまいが結果は変わらない。ならば世界が残るだけそちらのほうが建設的ではないのかな?」
「だったら、己の女を生贄にしようって戯けた連中をぶち殺して、その次に世界を救ってやるだけだ。」
「言ってくれるな―――ならば、世界を相手にするという意味を教えてやろう。」
“体は剣で出来ている”
その呪文を衛宮士郎が口にした瞬間、世界が揺らぐのを感じた。
“血潮は鉄で心は硝子、幾たびの戦場を超えて不敗”
「やらせんっ!!」
黒衣の男が地をける、その体がまるで放たれた矢のように褐色の肌の男、衛宮士郎へと向かう。
しかし、彼の背後に現れたいくつもの剣がその切っ先を黒衣の男へと向けるとまるでミサイルのように発射される。
「ちぃっ!!」
舌打ちしつつ大太刀を振るい、飛来する剣を打ち落とし、弾き飛ばし、往なしていく。しかし、それによって足を止められてしまう。
“ただの一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もない”
衛宮士郎が両手の双剣を投擲する。ブーメランのように高速回転する双剣はまるで相互に不可思議な引力が働いているような円軌道を描きながら輪を狭め黒衣の男を襲撃する。
黒衣の男は前後左右から高速回転しつつ迫る陰陽の双剣、それを――――
「こんなもので……っ!!」
大太刀を大地に突き立てる。そして空手のまま自身を回転跳躍させ―――その刹那に、陰陽の雌雄一対の剣を掴み取っていた。
”干将莫邪”
剣を掴み取ったことで黒衣の男の脳内を情報が錯綜する。干将莫邪、中華圏の宝具。ある刀匠が鉄を食らう兎の腸から取り出した鉄を使って作り上げた双剣。
己が妻を人身御供として完成させた剣――――胸糞悪い。
怒りの感情そのままに追撃に迫り来ていた一組の陰陽剣を叩き落とす。陽剣干将と陰剣莫邪ぶつかり合って同時に砕け散る―――まるで炉に身を投げた伴侶との再会で妄執を絶たれたかのように。
“担い手は此処に独り、剣の丘で鉄を鍛つ”
大太刀を引き抜き、黒衣の男が疾走する。それを撃ち落とさんと無数の刀剣が射出される。
「っおおおおおおおおお―――――!!」
一度に命中させることの出来る剣の数なんぞたかが知れている。如何に無限の剣を用意しようがそれらを一度に全部この身に当てることなど出来はしない。
ならば、自身に命中しうる刃をだけを往なし、弾き飛ばして進むのみ―――この剣の逆風を越えなければ己が望みを果たせないのなら是非もない。
火華が咲いて刃鳴が散る。
大太刀の刀身に無数の亀裂が奔って拉げていく―――それも次の瞬間には蛍火に呑まれて次の瞬間には復元されていく。
その様子はさながら無限の剣と無尽の剣の鬩ぎ合い。
”ならばわが生涯に意味は不要ず”
あと一歩―――この距離なら届く!!
間合いに入ったという確信と共に黒衣の男が地をける。頭の高さは変わらない。
重心移動を最小限に抑えた最短距離で移動を行いシーンレスで斬撃を発動させる剣道のすり足の発展だ。
肩に担いだ格好から繰り出される縦一文字の斬撃―――早い、投影が間に合わない。その斬撃の重さは甲冑ごと敵を割るのが目に見える。
だが、そう来ると分かっているのなら避けられる。
身を捻った衛宮士郎の紙一重横を太刀が素通りする――――その刹那、黒衣の男の顔が歪んだ。
「―――なっ!?」
すかぶったハズの刀身がまるで燕が翻るように舞い、自身の顔面へと迫っていた。
厳流、虎斬りと言われるその技―――それこそ、かの剣豪、佐々木小次郎が実現した燕返しの雛形となる技である。
がきん!と鋼が何かに克ち合う音がした。
「―――何っ!」
必殺の斬撃、衛宮士郎の首から袈裟切りにする筈だった、しかしその斬撃は無数の剣で止められた―――衛宮士郎の体から皮膚を、肉を貫いて生える無数の剣に。
“この体はきっと、無限の剣出来ていた――――”
世界が炎上する、世界が燃やされて別の世界へと塗り替えられる。
塗り替えられた世界は―――無数の剣が乱立する世界、さながら黄昏に燃える墓標の荒野だった。
「まさか、この禁じ手を使わなければならないとはな………だが、使わねばならぬと確信していた。」
「正気か、固有結界を暴走させて体を剣に変換するなど……」
「貴様相手では捨て身の一つや二つせねば命取りとなる。」
鱗のように生えた剣が消失し、血を吹き出す傷口へと変わる。
「その傷では今の一瞬を凌いだところで失血であと数分と持たないだろ。」
「それだけ私も捨て身だということだ。人を殺すのだ、それぐらいの覚悟でなくてどうする。」
「そうかよ、だがなこっちは貴様の覚悟なんぞ知ったことか。己にとって貴様は己の女をぶち殺そうって悪鬼でしかないんだよ。」
「俺から見れば、てめぇは利己のためには世界がどうなろうと知ったことではないという悪漢に過ぎないんだよ。」
「はっ!何を寝ぼけた事を言ってやがる。男が女を守るなんざ―――最も原始的な正義その物だろうがよっ!
いいか、自称正義の味方。お前は初めの第一歩を間違えている。正義なんてのは公平に存在しているモノなんかじゃねぇ。てめぇが胸に抱えている正しいと思う理なら何でも正義になるんだよ!」
正義、その概念は三種存在すると言われている。
絶対、虚無、相対。
正義とはただ一つ存在する、正義なんてのものはこの世に存在しない、正義とは各々に存在し容易く悪と入れ替わってしまうモノ。
衛宮士郎は絶対正義者―――そして黒衣の男、斑鳩忠亮は相対正義者。
故にどちらも正義の味方であり、どちらも悪鬼なのだ。
「知っているさ、俺という存在が最初から間違えているってことくらい。だけど、俺は正義の味方を張り通すっ!!」
「ならば、その薄っぺらい思い込みをこの薄っぺらい世界ごと切り裂く!!」
無尽の剣聖と無限の剣製がいま、雌雄を決さんと刃金を打ち合わせる。
「その強固な意志、余さず漏らさず磨り潰してやろうっ!」
「往くぞ、木偶人形。この伽藍洞に溜め込んだ武器の貯蔵は十全かッ!!」
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