男⇔女
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男⇔女
キンコンカンコーン。
「はい。そこまで。答案用紙回収するぞー」
先生の合図と共に一番後ろの席のやつが答案を集め始める。
「・・よし。それじゃ終了するぞー。この後、科学の課題も提出すること。解散!」
二年初めての中間テスト終了の合図と共に教室がざわめきだす。
「よっしゃぁ!終わった――‼」
そして、俺もテストからの解放に雄叫びを上げていた。
「元気だなー男は」
中学からの悪友、男友がニヤニヤしながら俺の席へとやってくる。
「やっと苦渋から解放されたんだ。叫ばずにはいられないだろ」
「で?そのテストはどうだったんだよ?」
「・・いつも通りだよ」
「じゃあまた赤点だ」
「うるへー。ギリギリセーフだよ」
くそ、男友め。俺の倍くらい点数が取れてるだけでバカにしやがって。
「さて、これから遊びにでも行くか!」
テストはもう終わった。俺は過去に囚われずに生きる。
「空手部はいいのかよ?」
「今日は自由参加。明日から本気出すよ」
うちはあまり強くないから他の部活動に比べてそういうところが緩い。まあ、俺はそんなところも気に入っているが。
「悪いが俺はこの後用事があるんでね。また今度」
「あっ、おい!」
そう言い、かっこつけながら帰っていった男友。あいつ・・まさか彼女でも出来たのか?
部活に・・いいや帰るか。
「男?ちょっといいか?」
さて帰るかといったところで先生に声をかけられた。
「なんすか先生?」
「お前科学の連絡係だったよな?」
「あー。そういえばそうですね」
一度もやったことはないが。
「なら、このプリント一緒に運んでくれ」
先生が教卓の上のプリントの山を指さす。確かにあの量は一人では運べそうにないだろう
「・・先生。俺、実はこれから川に洗濯に行かないと・・」
「変なこと言ってないで運べ。俺は先に行って教室のカギ開けておくから」
そう言い残し、プリントの半分を持って先生は教室を出て行った。
完璧な言い訳のはずだったのだが・・見破られたか。
「うっ。案外重い」
半分先生に持って行ってもらっていてよかった。
バックを背負い、しぶしぶプリントを科学室まで運ぶ。
「・・ん?」
科学室に向かう途中俺と同じようにプリントを運んでいる女の子を発見する。
傍から見てもフラフラと危なっかしい。あれじゃ倒れちまうんじゃないか?
仕方ない助け・・
「きゃ⁉」
る前に廊下の曲がり角で女生徒と男子がぶつかった。
「・・あっ!」
そして、バランスを失くしたプリントの山が崩れかけるところを・・
「ギリギリセーフ」
女の子を両手で後ろから支え、防いだ。結果プリントの山が倒れることはなかった。が、
「・・格好つかねぇなぁ」
代わりに俺のプリントが床にばら撒かれてしまった。
「あ・・すみません!」
一言謝りを入れ、そそくさとその場を後にする男子。悪いと思っているなら回収を手伝っていくべきだろうに。
「君は大丈夫?足とか捻ってない?」
「あ、はい。大丈夫です」
・・綺麗な黒髪に凛とした気品を感じる物腰。柔らかいがぶよぶよしているわけでなく適度に鍛えられている体。大和撫子とはこの子のような存在なのだろう。
「あ、プリントが・・」
辺り一面に散らばってしまった俺のプリント。回収には一苦労しそうだ。
「申し訳ありません。私のせいで」
深々と頭を下げる女の子。見た目通りとても礼儀正しい。
「いやいや、俺のせいだから気にしないで先に行って。プリントを届けるんだろう?」
「そういうわけにはいけません。お手伝いします」
そう言い女の子は床に落ちたプリントを拾い始める。
全部やらせるわけにもいかないのですぐさま俺も広い始めた。
そして、数分後・・
「すみません。助けてもらった上に運ぶのも手伝っていただいてしまって」
「気にしなくていいよ。俺も科学室に行かなきゃならないし」
俺と女の子は科学室に向かっていた。
女の子のプリントの量は俺より少し多い程度だったが女子が持つには多い。なので俺が荷物運びを手伝うと申し出たのだ。
「いえ、後でお礼を・・えっと」
「ああ、俺の名前は男。お礼ならジュースでも奢ってくれればいいよ。えーと」
「私は女といいます。以後お見知り置きを男さん」
・・お見知り置きなんて日常生活で初めて聞いた。いいとこのお嬢様なのだろうか?
それから他愛もない話・・などすることもなく科学室に到着する。
「失礼しまーす」
科学室に入るとアルコールランプや塩素などの化学品の匂いが鼻につく。
「来たか。少し遅かったんじゃないか?」
そして入って早々鼻につく小言をテストの採点をしながら吐く先生。
「途中でプリントをぶちまけたんですよ」
「・・すみません」
再び申し訳なさそうな顔をする女さん。
「女さんのせいじゃないって」
余計なことを言ったなと先生を睨む。先生の顔には失敗したと書いていた。
「そうだ!重いプリントを運んでもらったんだ褒美をやらないとな!」
話題を変えるために冷蔵庫を漁り始めた先生。
・・科学で使うであろう薬品。火傷をしたとき用の保冷剤などをどかし奥からペットボトルを取り出しコップに注ぐ。
「ほら!これを飲ませてやろう」
そして、コーラのような飲み物を俺と女さんに渡してきた。
「・・学校の備品を私的に使ってるの先生?」
冷蔵庫の奥には他の食べ物や飲み物が入っていた。
「バレなきゃいいんだよ。ほらグイッといっちゃって」
・・まあ、こうしてコーラをもらえたんだしいいか。
俺は一気にコップを傾けた。
この飲み物、コーラかと思ったけどフルーツミックスの味がする。なんだこの飲み物?
「美味しいですけど飲んだことない味ですね。先生、これはなんなのでしょうか?」
女さんもこの飲み物が何か気になるのか先生に質問を投げかけた。
「ん?それはコーラ・・しまった⁉それはまさか⁉」
「・・どうしたんですか?せんせ・・」
急に視界が暗転する。
ブッ‼・・・・・・・・
「んあ?」
・・なんで床で寝ているんだ俺?確か科学室でプリントを・・
「・・先生?女さん?帰っちまったか?」
窓の光からしてそんなに経ってないはずなんだが・・。
「・・ん?あーあー・・んん?」
おかしい。俺ってこんな声だったか?いつもより高いような。
コッ。
ん?何かが尻のあたりに当たった。俺は後ろを振り返る・・
「・・・・・・は?」
そこには俺がいた。
すやすやと間抜けずらで眠っているが間違いなく十六年間親しんだ俺の体だ。
「え、は?どうして?」
頭が混乱していて言葉すら出てこない。
そして、とどめと言わんばかりにもうひとつ異変が。
「どうして俺・・スカートなんて履いているんだ?」
・・いや、スカートだけじゃない。声の高さといい身体もいつもと感覚が違うような・・
「起きたか⁉」
疑問で頭がパンクしそうになる中、慌てた様子で科学室に入ってくる先生。
「・・先生」
「言葉で説明するより見たほうが早いだろう」
そう言って鏡を俺に見せる先生。そこには・・
「・・・・まじ?」
・・女さんの顔が写っていた。
「・・んぅ?」
目をこすりながら目覚める俺の体・・これが女さんの体のままだったらかわいいのだろうが俺の体のせいでいかんせん気持ち悪い。
「・・・・・・・・へ?」
そして、事態が飲み込めないのであろうしばし硬直する。
「・・おはよう女さん。いきなりだけどこれを見てくれ」
俺の時のように鏡を見せると・・
「・・・・・・え?」
同じように硬直してしまうのだった。
・・認めたくない、認めたくないが・・俺と女さんは入れ替わってしまったらしい。
・・・
「で?どういうことか詳しく説明しろや先公」
敵意バリバリで教師を正座させ見下す女子高生。
「・・女の姿でそんな顔をするんじゃないよ男」
そして、言われた通りに正座をする教師。
人によっては興奮するかもしれないが今はそんなマニアックな人種に構っている場合ではない。
「・・なんでこうなった?」
未だに理解が追い付かず固まっている女さんを指さしながら先生に問い詰める。
「いやー。それはほら・・ね?」
後ろめたいことがあるのか言い淀んでいる先生。
「いいから話せ」
「・・分かった」
流石に悪いと思っているのか申し訳なさそうに説明を始める先生。
・・可哀そうだとは一切感じないがな。
「お前たちが入れ替わった原因は・・あの飲み物だ」
俺たちが使ったコップを指す先生。
「それじゃああの飲み物って・・まさか、毒なんじゃ」
「まさか。あれは俺の作った薬品だ。いやー。効果は実験してなかったから把握してなかったんだがまさか入れ替わりの薬だとはな」
「「はっはっは!」」
愉快そうに笑い始める先生につられて俺も笑う。
「ふん!」「ぐほっ⁉」
そして、ひとしきり笑ったあと先生の鳩尾に一発ぶち込んだ。
まあ、女さんの体を傷めないように殴ったからそれほど強く殴ってないが。
「で?元に戻る方法は?」
俺は温厚な人間だ。だから先生の言い訳とこれからの贖罪を聞いてやることにした。
「分からん」
・・再び拳を固める。次は鼻にしよう。
「だー!待て待て!薬の成分は把握しているから数日すれば何とか出来るはずだ!」
「・・つまり数日間はこのままと?」
「出来るだけ早く見つけるから!」
深々と頭を下げる先生。
・・まあ、先生を攻撃することに意味はないしな。
「・・できるだけ早くしてくださいね」
「ああ、約束し・・」
「じゃ、今から初めて下さい。明日も来ますから進歩がなければ・・分かってますね?」
「・・はぃ」
「それではお邪魔になる前に帰りますまた明日・・さ、行こう女さん」
女さんの手を引き、荷物を持って科学室を後にする。
「・・・・本当に入れ替わってしまったんですね」
俺の体をあちこち触りながら入れ替わってしまったことを実感している女さん。
さっきよりはマシなようだがまだ混乱しているようで顔色が優れない。この状態のまま帰すわけにはいかないだろう。
「・・女さん今後のためにも少し話し合おうか。中庭でいいかな?」
「・・はい」
そのまま下校するために女さんの荷物を教室から回収し学校の中庭へと向かう。
あそこはグラウンドや教室からも離れている。よほどのことがない限り誰も来ないはずだ。
「はいこれ」
中庭の近くで買ったオレンジジュースを渡す。気休めになればいいのだが
「ありがとうございます」
少し戸惑っていたがチビチビと飲み始める女さん。
「どう?落ち着いた?」
「・・未だに信じられませんがなんとか」
確かにさっきのよりは顔色もいいし心なしか凛とした雰囲気も戻ってきて見える。
「さて、早速で悪いけどこれからの問題について話し合おうか」
「・・一番の問題はこのことを知られないようにすることですよね」
いやー。実は中身入れ替わってるんだよねテヘペロ♪
・・なんてこと言ったら次の瞬間から変人扱いだ。
「そのためにもお互いがお互いを演じないといけないといけない」
どうするべきかは分かっている。だが・・
「・・私、男さんを演じられる自信がありません」
「・・俺もだ」
分かっていても出来るわけではない。
「でも、出来うる限り演じるためにもお互いを知っておこう」
「分かりました」
・・まあ、最悪俺は中身が女さんでもおしとやかになったと思われる程度で済むが俺が女さんの体でガサツな態度をとると女さんに迷惑がかかってしまう。
・・責任重大。しっかりと演じなければ。
それから最終下校時刻になるまでお互いの情報や振る舞いについて話し込むのだった。
・・・
「・・でけぇ」
俺は大河ドラマや時代劇に出てくるようなお屋敷の前で固まっていた。
「お帰りなさいませ。お嬢様」
固まっていてもしょうがないと門をくぐると着物を着た家政婦さんが玄関でお出迎え。
「お帰りなさいませお嬢!」
ごついお兄さんたちが俺(女さん)の帰宅に頭を下げる。
「・・我が家は昔からこの町を守る自警団なのですが・・権力も家の大きさも大したことはないので心配する必要はありません」
・・これが大したことないんですか?女さん?
俺、今から先生に血反吐を吐かせてでも早く元に戻りたいんだけど・・。
「「お嬢?」」
現実逃避することすら許されない状況・・・・ここは・・ここは・・
「・・(ニコ)」
笑顔で誤魔化す!
「笑顔」・・それは最強のコミュニケーション術。
私は敵じゃないと簡単に理解させる魔法の表情。
「「・・お美しい」」
それを女さんでやっているんだ。効かないはずがないだろう。
よし、つかみは上々。後は教えてもらった通りに行動するだけだ。
「今日は何か予定はありますか?」
女さんのスケジュールを管理しているという中居さんに予定を問う。
「茶道や華道などの習い事があるのですが。先生がたも優しく、なんてことなく済むことなので気楽に取り組んでいただけると思います」
・・このお屋敷を大したことはないと思っている女さんの感覚に若干の不安はある。が、まあ、習い事の一つや二つくらいならばなんとか・・
「今日はこれから直ぐに茶道。その後に書道と合気道と華道がございます」
「・・多くないですか?」
「いえ、いつもと同じくらいの内容かと」
・・俺は女さんの感覚を信じないことを決めた。
「・・お身体の調子が悪いのでしょうか?」
しめた!中居さんから逃げ道をくれた!
「・・はい。実は気分が優れなくて・・ごほごほ!」
そういってワザとらしく咳き込む。
まあ、本当に病気みたいなもんだし間違っちゃいない。
「・・それでは本日の合気道はお休みにさせていただきます」
「・・ほとんど変わってないような?」
おまけに唯一楽に出来そうな合気道が無くなった。
「他の先生方はもう来られて準備なされているので今から中止には出来ないです」
「そこをなんとか・・」
「出来ません」
ぴしゃりと言い放つ中居さん。こうも断言されては何も返せない。
「了解。着替えてくるからもう少し・・」
「・・お嬢様?」
やべ、ついついいつもの喋り方が・・!
「・・着替えてから向かいますので少し待っていてください」
これ以上怪しまれないように急いで女さんの部屋に入る。
「・・さて、まずいな」
俺はこれまでの十七年で空手以外なにも習ったことがない。
字は下手糞、茶道はやり方を知らない。華道に至っては内容すら分からない。どうすりゃいいんだ・・。
「もし問題が起きたらお互いに協力しあいましょう」
・・そうだ電話!
携帯を取り出し連絡帳の「俺」に電話をかける。
「・・・・出ない」
だが、女さんは一向に出てこない。
・・まさかまだ家に着いていないのか?いや、それでも電話に出るくらい出来るはずだ。
あーだこーだと理由を考えるが答えも出てこなければ返信もこない。どうしたんだ・・?
その頃女さんは・・
「おかわり!」
「あら、今日は随分と食べるのね男」
「はい!カレー美味しいです!」
「そう良かったわ。まだまだあるからどんどん食べなさい」
・・初めてのカレーに夢中で着信に気付いていなかった。
「お嬢様。そろそろよろしいでしょうか?」
無情にもタイムリミット。これ以上は待てない。
「・・・・わかりました」
クローゼットに入っていた着物に素早く着替え、中居さんの後ろをついていく。
・・こうなったら笑顔で乗り切ろう。それがダメなら体調が悪いとかだ。
ノー勉の時に陥る「テストくらいなんとかなるべ」理論を武器に決戦の舞台へと向かう。
「女さん!茶碗は回す!お茶をこぼさない!真剣にやりなさい!」
「はいぃぃ!」
・・茶道。
「筆の持ち方が違います!書き順が適当すぎです!何をやってるのですか!」
「ひぎぃぃ!」
・・書道。
「女さん!葉を水につけない!それになんですかこの作品は!なぜ切り取った枝を使ってるのですか!」
「いや、自分のリサイクルインスピレーションが・・」
「やり直し!」
「あへぇぇ!」
・・ボッコボコにされた。
常日頃から風情なんざ犬にでも食わせとけと考えている俺には土台無理な話だったんだ。
「ともあれこれで全部終わった」
腹減った。飯はいつなんだろうか。こんな大きいお屋敷だきっと美味いだろう。
「・・お嬢様」
飯のことを考えながら部屋に戻る途中、中居さんが俺を呼び止める。
「どうかしましたか?」
夕飯に呼びに来たのか?
「この後、選挙に出馬なさる議員の方々との会食が急遽決まりまして・・」
「マジで⁉」
「・・・・お嬢様?」
「・・ゴホン!分かりました。案内をお願いします」
「かしこまりました」
・・はい。俺の楽しい食事タイムはなくなりました。
いや、それ以上に政治家と何を話せばいいんだ?オリンピックが東京で開催するくらいしか分からないぞ。
「失礼します。お嬢様をお連れしました」
これぞ和の芸術。みたいな庭が一望できる部屋に通される。確か客間とか言うんだったか
「これは女さん。お待ちしておりました」
部屋にいたのはそろそろ定年になりそうなおっさんと二十代くらいの若い男性の二人。
「本日は急な会食になってしまい申し訳ない」
深々と頭を下げる大人二人。その佇まいには品位を感じる。
「本当だよ。なんで来んだよ、さっさと帰れ」
・・とは言わず、笑顔のまま席についた。
しかし、あんな偉そうなおっさんが頭を下げるのか・・女さん家の力はすごいな。
「今日は近くによったのでうちの新人に挨拶をさせておこうかと思いまして」
そういい、おっさんは隣に座る若い兄ちゃんの背中を叩く。
「初めてまして女さん。私、議員と言います。以後、お見知りおきを」
「おと・・女です」
差し伸べられた手を取り握手する。
・・服装、振る舞い、ルックスの全てが優秀。出来る優男の見本のような人物だ。
人生で困ったことなんてほとんどないんだろうなー羨ましい。
「失礼します」
中居さんたちが配膳を持って入室してくる。
・・お刺身に茶碗蒸し。あ、海老の天ぷらもある!どれもこれもうまそうだ。
「「・・・・」」
が、この雰囲気のまま美味しく食べれそうにない。
こういう時は俺から話すべきなのか?いやでも変なこと言ってヘマするわけにも・・
「女さん」
「は、はい!なんでしょうか?」
な、なんだ?何かやっちまったか?やっぱりこっちから話題を・・!
「そんなに緊張しないでください。リラックスリラックス」
人の良さそうな笑みを浮かべ肩を回すおっさん。
「今日は難しい話をするつもりはありません。一緒に食事をしながら他愛ないのない会話をして少しでもお互いのことが知れればというだけです」
難しい話は今度お父さまがいらっしゃる時にね。と諭された。
・・女さんに権利がどうの賄賂がどうのなんて話ではないようだ。
「ささ、頂きましょう。折角の料理が冷めてしまう」
俺の緊張をほぐすために積極的に行動を促してくれる。
・・このおっさんいい人だ。俺が投票できるようになったら投票しよう。
「「いただきます」」
おっさんの支持を決意しつつ。料理に手をつけ始める。
最初は海老の天ぷらからだな。市販よりも一回り近く大きい天ぷらを口に入れる。
「・・うまい!」
衣はサクサク。海老もプリプリ。今まで食べた天ぷらの中でもダントツで上位だ。
天ぷらを一通り満喫し、他の料理も次々口に掻っ込む。うまいうまい。
「はは。いい食べっぷりですね」
そして、ほお袋を大きくしながら料理を掻っ込む姿を議員さんに笑われてしまう。
「す、すみません」
まずい。腹減ってたからついついがっつき過ぎちまった。
「いえいえ。美味しそうに食べる姿、可愛らしかったですよ」
・・子供扱いされてるようで恥ずかしいな。
「ぎ、議員さんはまだお若いのに出馬なさるんですよね?」
このまま話をするのは恥ずかしいので強引に話を変えようと試みる。
「女さんに若いと言われると何とも言えませんね」
が、またも笑われてしまう。
くそう。議員さん大人すぎだろ。なに話しても綺麗に返されそうだ。
「まあそれでも、比例代表の末席にすぎないので当選するとは思いませんけんけどね」
・・比例代表ってのはよく分からないけど議員さんが当選する確率は低いようだ。
「大体、若手だからとバカにして足を引っ張ってくるバカが・・・・すみません今のは忘れてください」
しまったといった顔で口を押さえる議員さん。
うーむ。エリートにはエリートの悩みがあるんだな。ちょっと親近感が湧いた。
「・・議員さんは頑張っていると思います」
月並みになるだろうが苦労してるなら労いの言葉くらいは言っておこう。
「他の人の邪魔や嫌がらせがあっても達成しようと努力を積み重ねるのは並大抵のことではないです。議員さんは・・誇っていいと思います」
・・ちょっとセリフが臭いかな?
少ないボギャブラリーを必死に働かせたセリフだったんだが。
「女さん・・ふふ。ありがとうございます」
子供に向けるような笑顔で感謝される。やっぱ臭かったか。
「・・うん。決めた」
「・・?何をでしょうか?」
「いえ、こちらの話です」
・・ま、喜んでくれたならいいか。
それからも料理を堪能しつつ議員さんのすごさだとか政治家の苦労なんかを聞いていた。
最初はどうなるかと思ったが二人とも優しくて喋り上手だったおかげで最後の方は俺も結構楽しかった。
・・そのせいで時々演技を忘れてしまったが・・まあ、大丈夫だろう。
「本日はありがとうございました。議員のやつも楽しめたと思います」
そして、あっという間にお開きになる。
「それでは女さん。また機会があれば」
「失礼します」
握手を交わし、二人はタクシーに乗り帰っていった。
「・・疲れた」
失敗しないように(何度か失敗したが)演技をしながら初めてのことの連続、精神的に疲れるのは当然だろう。むしろやりきった俺を褒めてほしいくらいだ。明日先生に何か奢らせよう。
よーっし!後は風呂に入って寝る・・だけ・・
「・・風呂・・だと?」
・・特別大きいわけではないがそれでも十分に育った果実。出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでいる。女さんと入れ替わってしまったせいか全く興奮しないのが残念なくらいのボディだ。
・・興奮はしない。しないんだが・・裸を見てもいいという理由にはならない。
「しょ、しょうがない。しょうがいない」
このまま寝るには不潔だし汗もかいている。風呂に入る理由としては十分だ。
それにタオルを巻けば見えないだろうしな!
誰にするでもない言い訳をして自身の行いを正当化し、俺は風呂場へと向かうのだった。
・・ここから先のお色気シーンは皆さんの想像にお任せします。
・・・
朝、成果を聞くために俺は科学室へと足を運んでいる。
「・・♪」
隣には顔を綻ばせながら鼻歌を歌っている女さん。昨日とは雰囲気がかなり違うがこれが本来の女さんなのだろう。
「随分とご機嫌だね」
慣れないことばかりで不安だろうに。男の裸とか男の裸とか・・男の裸とか。
「はい!ゲーム、お菓子、カレーライス・・初めてのものばかりで新鮮で!」
・・あんな息の詰まりそうな生活してるんだもんな。そりゃ不安より楽しいが勝つか。
「あ、すみません!こんな時に楽しんでしまって」
「いやいや。今の状況が楽しいならいいことだよ」
この状況を悲観しているよりずっといい。元に戻るまでは楽しんでいてほしいものだ。
・・楽しみすぎて元に戻りたくないなんてことはない・・よな?
「失礼しまーす。先生。進行具合はどうですか?」
まあ、戻った後のことより戻る方法を確立させるほうが先だな。さてさて、先生はどこまで終わっているのやら。
「・・ん?もうそんな時間か?」
先生がのそのそと奥から出てくる。
目の下にクマが出来ているのを見るに徹夜で頑張ってくれていたのだろうか。
「おはようございます先生。お眠りになっていないようですが授業は大丈夫なのですか?」
先生の様子を見て女さんは申し訳なさそうな顔になっている。
「ん?ああ、今日は午前中は授業がないから心配ない。それに途中でゲーム実況に夢中になってしまってな。見てたらいつの間にかこんな時間になってただけだよ。ははは!」
・・この人は心配するだけ損だよな。
「それでどこまで解析は終わったんですか?」
ゲーム実況を見てたから全く進んでないなんて言ったらのしてやろう。
「ああ、解析も製造方法も終わった。完成は明日になるがな」
「・・?製造方法が終わったのに直ぐには作れないのですか?」
「薬品の製造は材料さえあればすぐに出来るんだが材料が届くのが今日の夜なんだよ」
もう先生がやるべきことの大部分は終わっているのか。
見かけや普段の行いによらず優秀な人だよな先生って。
「さあ、俺はもう寝るからさっさと教室に行け」
「先生うちのクラスの担任でしょ?ホームルームどうするんですか?」
「どうせ出席確認だけなんだからクラス委員長に任せておきゃいいんだよ」
「・・教師としてそれはどうなんだ」
結局、女さんに先生を引き摺ってもらった。普段空手をやっている俺の体ならさほど重くは感じないはずだ。
「それでは男さん。また放課後に」
別れぎわにぺこりと頭を下げる女さん。
・・うーむ。俺は構わないんだがこの様子だと変に視線を集めそうだ。
「女さん。言葉遣い言葉遣い。好きにやっていいからさ」
「あ!・・じゃ、じゃあ、また放課後にな」
少し照れ気味に俺を演じる女さん。これが俺のイケメンフェイスではなく女さんのままだったらどれだけ良かったか・・。
「ふぅ・・」
ともあれ、俺の本番はこれからだ。女さんの教室へと向かう。
「おはようございます」
「あ、女さんおはよー」
「おはようございます」
「おはよう。女さん」
「おはようございます」
教室に入るなり挨拶の嵐。
全ての挨拶に頭を下げ、丁寧に返答する。そして、女さんの席に優雅に座った。
・・昨日、中居さんにバレてはいないだろうが変には思われただろう。だが、中居さんたちは雇われの身だから少しくらいボロが出てもさほど問題はない。
しかし、クラスでは少しでもボロを出すとすぐさま女さんの評価に傷がついてしまう。
おまけに・・
「おはよう!今日はいつもより遅いけどどうしたの?」
「おはよう女さん!昨日のテストはどうだった?」
「女さん!今日、一緒にテストの打ち上げに行かない?」
「え・・えっと」
この人気っぷりだ。
才色兼備のお嬢様。人気にならない方がおかしいが。
「はいはい!みんな今日もご苦労様。女が困ってるから解散する!」
立て続くクラスメイトたちを活発そうな女の子が制し、散らせていく。
かわいいというよりも綺麗やカッコいいという言葉が似合うが頭の上でちょこんと結わかれたポニーテールが実に可愛らしい。
少し男勝りだが女の子としての魅力を十二分に放つ子だ。
「大丈夫?女」
えっと、この子は確か・・
「何か困ったことがあったら女友さんを頼って下さい。きっと力になってくれます」
そうだ。女友さん。女さんの幼馴染だっていう。
「ありがとうございます女友さん」
「・・・・」
「女友さん?」
「あなた・・本当に女?」
「・・⁉」
え⁉俺何かヘマした⁉一発でバレ・・
「なーんてね。冗談よ冗談。いつもと様子が違うからからかっただけよ」
「・・あ、あはは。もう女友さんったら」
「本当、女はからかい甲斐があるわ」
くすくすと笑う女友さん。
「でも本当にいつもと違うわね。なんていうか・・少し男っぽい気が」
・・鋭いなぁこの子。
「そうですか?いつも通りですよ?」
「・・うーん。でも・・」
こちらをじっと見つめ。納得がいかないようで唸っている女友さん。
うーむ。これ以上この話を続けるとボロが出そうだ。どうにかして疑いを晴らさねば・・
キンコンカンコーン
「チャイム鳴ったぞ、席に着けー」
しめた。ホームルームだ。
「女友さんホームルーム始まりますよ?」
「・・そうね」
しぶしぶといった様子で自分の机に向かう女友さん。
・・女友さんのおかげでクラス全員の相手をする必要はなくなったけど難易度は上がってしまった。何かしらうまいこと考えなければ。
「中間テストが終わったからといってだらけないように」
ホームルームが終了するもうまいこと切り抜ける方法は出ない。
明日には元に戻るんだヘマしないようにしなければ。
「ごめん。女さんはいる?」
ホームルーム終了直後、教室の外で俺を呼ぶ人が・・って!
「な⁉おん・・男さん⁉」
そこには慣れ親しんではいるが見慣れてはいない俺のボディを持った女さんが。
「あ、女さん。これ忘れてたよ」
そう言って何かが書かれた紙をを手渡してくる。
内容は・・クラスメイトの詳細が書かれたものだった。これはありがたい。
「まったく。気を付けろよ?」
キザったらしく俺の頭をポンポンと撫でる女さん。
「・・!」
やばい!自分がそんなことしているように見られてると思うと恥ずかしい。
「あ、ありがとうございます」
自分でも顔が赤くなっているのが分かる。あー。恥ずかしい!
「じゃ、また後でな」
ウィンクを決めながら教室を出ていく女さん。
「・・失敗したかなぁ」
好きにやってくれて構わないとは言ったけどあれは流石に恥ずかしい・・後でやめてもらうように頼まなければ。
「はっはーん。なるほどなるほど。あの人の影響なのね」
何かを悟ったような女友さん。
「な、何がでしょうか?」
「隠さなくてもいいわよ・・あの先輩が気になってるんでしょう?」
「・・・・へ?」
「頭撫でられて顔真っ赤にしてたし」
それは羞恥心からくるものであって恋愛に繋がるものじゃないんですよ。
「あんな女初めて見たわよ。まるで別人のようだったわ」
そりゃ中身が違うからねぇ。
「それにあの先輩・・どうも他人のような気がしないのよ」
貴方が慣れ親しんだ幼馴染だからだよ!
「心配しないで!うまくいくように応援するわ!」
ガシッと強く手を繋いでくる女友さん。
「あ・・ありがとう・・ございます?」
ま、問題は解決したようだし・・いい・・のか・・なぁ?
ともあれ俺は心強い味方(?)を手に入れたのだった。
・・・
「・・ってことがあったんだ」
現在、化学室。お互いに今日のことを話し合っていた。
・・あれから異性を落とす方法だの体を魅力的に見せる方法だのを実演を踏まえて休み時間中常に教えてもらった。
ちなみに全部一昔前に流行ったものだったんだか女友さんは本当にあれで男を落とせると思っているのだろうか?
「・・すみません。女友さんにそんな一面があるとは思いませんでした」
そんな俺の話を聞き、申し訳なさそうに顔を伏せる女さん。
「いや、女さんのせいじゃないよ。幼馴染だからって全部知っているとは限らないんだし」
「そんなこと言ってセクシポーズを間近で見れてラッキーなんて考えていたりしてな」
準備室からヒョコっと顔を出し、先生が茶々を入れてくる。
「・・はは。そんなわけないじゃないですか!」
・・ち、鋭いな先生。いや、これが男として当然の考えなのかもしれないが。
時代の有無はおいておいても魅力的な女の子のセクシーポーズを間近で見ることができたんだぞ?これを眼福と思わずになんとするか。
・・まあ、ムッツリボーイの俺はそれを表には出さないが。
「・・本当ですか男さん?」
「な、何が?」
「本当に何も感じなかったんですか?」
そう言って俺を問い詰める女さん。心なしか不機嫌そうに見える。
「あ、当たり前じゃないか。今俺は女性なんだから」
「・・顔がにやけていますけど?」
「うっ!それは・・」
「女友さんはとても魅力的です・・やましい気持ちになっても不思議ではありません。男さん正直に言ってください。本当に何も・・」
「そ、それよりも女さんの話を聞かせてよ!ね⁉」
「男さ・・」
「ね⁉」
これ以上この話題に触れているのはまずいので強引に話を変える。
「・・私なりに男さんを演じました。似ていたかは分かりませんが特別変な目で見られてはいなかったので問題はないかと。ただ・・」
「ただ?」
「男友さんが「よお、兄弟。実はいいオカズが手に入ったんだがどうだい?」とおっしゃっていたんですが・・どういう意味なんでしょうか?」
「・・女さん。知らないほうがいいことが世界にはあるんだ」
俺たちのいつもの会話に涙が出る。
・・そうか。第三者として聞くとこんなにも汚れて聞こえるのか。
俺はクラスでの猥談を控えることを決意したのだった。
「男、良さそうなら俺にも頼むわ」
「・・ちょっとは自重しろや変態教師!」「ぶへっ⁉」
「・・?」
明日、男友も殴っておこう・・理不尽だろが友情のためだ。
「さ、用事も済んだし帰ろうか女さん」
「ごめんなさい」
・・即答で断られた。
「やーいやーい。振られてやんのww」
「・・先生、塩酸ってどこにありますか?溶かすために使いたいんですけど」
先生の腐った性根とか。
「教室に忘れ物をしてしまってので少し待っていて下さい」
あ、そゆことね。
「どうせ明日には戻るんだし気にしなくてもいいんじゃないか?」
「いえ!宿題はきちんとやるべきです!すぐに戻るので先に校門で待っていてください!」
早足で教室に戻る女さん。俺の体で宿題をやっても女さんの得にはならないのに。
「真面目だな。女は」
「ほんと、先生も見習ってください」
「教室で下の話する奴には言われたくないわ。女にばらすぞ?」
「あー!もう行かないと!失礼します!」
「気を付けろよー誘拐とかされないようにな。むっつり君」
中指を立てながら科学室を出て、女さんの指示通りに校門へと向かう。
「・・というか女さん俺の宿題できるんだな」
まあ、あんな生活してたら当然か。あんな生活・・
「今日もあれやるのか・・」
奇声を上げるような習い事はもう嫌なんだがなぁ。
「何かサボれるようなイベントでもないかね・・」
ビックバンとか地球外起源種の到来とか異世界に迷い込むとか・・いや、今のまま異世界に行ったら余計にややこしくなりそうだ。
「いや現実逃避し過ぎだろう」
考えがぶっ飛びすぎだ。もっとこう身近で実際に起こりそうなこととかさ。
もっと身近なこと・・例えば・・誘拐とか?
「なーんちゃって。そんなことあるわけ・・」
・・キキーッ‼(俺の背後に止まった車の音)
ガチャ!ガシ‼(車から出てきたチンピラが俺を捕まえる音)
・・バタン‼(ドアを閉める音)
ブロロロ・・(車が発進する音)
・・まあ、その・・なんだ。フラグは回収するものだからしょうがないね。
俺は現実逃避のためにフラグを建てることを止めることを決意したのだった。
・・・
「あのー。ここはどこなんでしょうか?」
三十分ほど車に揺られどこかに降ろされる。目隠しされて手足も拘束されてるから正確な場所は分からないけどそう遠くまでは行ってないはずだ。
「・・・・」
「あのー」
「少し黙っていろ」
取り付く島もない。しょうがないので静かにしていることにする。
「外してやれ」
そして待つこと数分。主犯であろう人物の指示で目隠しが取られ視界が回復する。
「やあ、女さん昨日ぶりだね」
この声・・この姿・・この人・・
「議員さん?」
昨日の爽やかな議員さんだった。ニコニコとこちらを見ている。
「えっと・・これはどんな催しなのでしょうか?」
「うん。誘拐という楽しいイベントさ」
「・・そうですか」
ま、最初から分かってはいたがな。
「おや、誘拐されたっていうのに随分と冷静だね。もしかして慣れてるのかな?」
「・・身代金がお望みですか?」
「いや?僕も議員の端くれだからね。金には困ってないんだよ」
「・・では何が目的ですか?」
女さんの家を脅迫?快楽的犯罪?なんなら先生の薬が目的かもしれない。
「目的は・・君だよ」
俺の・・女さんの髪を触る議員。
「・・帰してほしいのですが」
嫌悪感を持った目で議員を見る。こんな奴が女さんに触れてると思うと吐き気がする。
「おお、怖い怖い」
そう言いつつも触るのを辞めない議員。
「残念だけど帰せないね・・女さんは今日から俺のペットになるんだから」
・・虫唾が走るなこいつ。
「僕は強気な女を屈服させるのが好きでね。瞳の奥で男のような豪気さを見せる君を屈服させたいと思ったんだよ」
愉快そうに喋る議員・・こうなった原因もしかして俺のせいか?
「安心してくれ。痛めつけずに快楽で堕とすのが僕の流儀だから。体に傷は残らないよ」
このままだと女さんの貞操がピンチだ。どうにかして脱出しなければ。
・・周りにはボディーガードであろうチンピラたちが三人。手足を拘束されていて場所も分からない。
女さんの身体能力も普段から鍛えていることもあって逃げることくらいなら出来るだろうが喧嘩になると流石にどうにもできないだろうし女さんの体も傷つけたくもない。
「ぎ、議員さん。こんなことやめてください」
ともかく事態が好転させるために少しでも時間稼ぎだ。
「公務員である議員さんが犯罪を起こしたと報道されればもう選挙に出れませんよ」
「あ、女さんは何かリクエストあるかい?出来る限り配慮するよ」
聞いちゃいねぇ。俺の言葉に興味はないってか。
「議員さん。貴方はそんな人ではないはずです。どうか落ち着いて・・」
「・・そんな人ではない?」
「そ、そうです。優しくて苦労しながらも頑張って・・」
「お前に何が分かる‼」
突然鬼のような形相で怒鳴る議員。
「僕の上澄みに触れただけで理解している?何が分かるというんだよ!みんなみんなみんなみんな!無能な連中はいつも僕を苛立たせる!」
・・どうやら地雷踏んだようだ。やっちまったなー。
「いいから‼君は‼大人しく僕に屈服していろ‼」
議員が手にかけようと・・
ドカァン‼
「「⁉」」
この場にいる全員が驚き音の元に視線を向ける。
「・・大丈夫ですか男さん!」
そこには俺の姿が。って女さん⁉
「お、女さん⁉どうして⁉」
「男さんが連れていかれるのが見えたので助けに来ました!」
「バカ!危ないだろうが!」
「危ないのは男さんの方です!今私の体なんですよ⁉」
「どっちの体でも危険にはかわりないだろう!早く逃げろ!」
「ここまで来ては引けませんし引きません!待っていて下さい今助け・・」
・・!チンピラの一人が女さんの背後から殴りかかろうと・・!
「女さ・・」
「・・ふっ!やぁ!」
攻撃を最小限の動きで躱し・・がら空きの鳩尾にストレートを打ち込んだ!
「・・助けますから!」
一撃でチンピラを撃破した・・・・あれ?。
「この・・!」
残りの一人がサバイバルナイフを構え女さんと対峙する。おいおい物騒過ぎるだろう!
「おい!レディに刃物向けてんじゃねぇよ!」
チンピラが訝しげな顔をしてきた・・俺たち入れ替わってましたね
ともあれ危険なことに変わりはない。威嚇目的だとは思うが・・
「おら!」
しかし、チンピラは容赦なくナイフを振り下ろした!
「女さん‼」
チンピラは左肩から右横腹を切断するようにナイフを振り下ろす。
「・・っせい!」
・・が、女さんは振り下ろされる前に右手を掴み、合気道の四方投げのようなモーションでチンピラを背中から叩き落とす。
「ぐっ⁉」
「ふん!」
そして、崩れた瞬間を逃さず止めを刺す。チンピラはそのまま気絶した。
「・・まさかこんな伏兵がいたなんてね」
苦笑している議員。ボディーガードが全滅したというのに余裕の表情をしている。
「残りは貴方だけです。まだやりますか?」
女さんが議員に敵意を向ける。もし仮に議員が女さんと戦っても勝ち目はないだろう。
議員の詰みだ。
「・・僕だけ?何を言っているんだい?」
議員が懐から何かを取り出している。あれは・・トランシーバー?
「・・来い!お前たち!」
トランシーバーに向かい命令する議員。すると倉庫の外からぞろぞろとチンピラたちが入ってくる。
「・・まだこれだけいたんですね」
およそ二十人ほど。まさに数の暴力。
「・・女さん。逃げるんだ」
いくら女さんが強くとも流石にこれは無理だ。なぶり殺しにされてしまう。
「君が傷付くところを見たくない」
何も出来ず、あまつさえ女さんの貞操すら守れない不甲斐なさが胸を締め付ける。
くそ!情けねぇ情けねぇ!
「・・大丈夫です男さん」
「え?」
ガシャーン‼
「・・手は打ってありますから」
「おらおら!何してんだてめーら‼」
「全員皆殺しじゃー‼」
殺気だったヤクザなお兄さんたちが倉庫に入ってくる。
ってこの人たち・・!
「「ご無事ですかお嬢!」」
女さんの家のごついお兄さんがた!倉庫を埋め尽くすくらいいるぞ⁉
「なんだと⁉女の家は衰退していてろくな力がないはずだ!」
驚きを隠せないでいる議員。まさか助けが来るとは思っていなかったようだ。
「衰退したと高を括っていましたね。権力は落ちても家の力は衰えてはいません」
「小僧!よくやった!お前の連絡のおかげだ!」
ガシガシと女さんの髪をなでるヤクザの兄さん。その人、貴方のお嬢ですよ?
「さて・・お前たち、まだやる気はあるかい?」
・・屈強な男たちは青い顔をして首を振っている。
「もうお嬢に近づくんじゃねぇぞ・・とっとと行け!」
全員、クモの子を散らすように逃げていった。
「で、あんたはどうすんだい?」
お兄さんがたに囲まれる議員。抵抗しようものならリンチにあうだろう。
「・・降参だ」
そして、議員はどうしようもないことを悟り素直に負けを認めるのだった。
「・・帰りましょうか」
「・・そうだね」
人生最初で最後であろう俺の誘拐事件は最後はあっけなく解決したのだった。
・・・
昨日の誘拐事件から一夜明けた朝。俺と女さんは元に戻るために科学室へと向かう。
・・あれから議員は警察に捕まった。もう女さんに危害が加わる心配はないだろう。
俺(中身女さんだけど)も女さん家のお兄さんたちにも気に入られたようであの後いろいろ良くしてもらっていたらしい。
「しかし、二日だけなのに随分と長く感じたな」
地獄の習い事に異性に好かれる方法・・果ては誘拐事件と振り返らずともめちゃくちゃ濃い二日間だった。
「そうですか?私はどれも新鮮で楽しかったです。もう何日か続けてもいいですね」
「・・それは勘弁してくれ」
「あはは」
女さんとも軽い冗談を言い合えるほどに仲良くなった。
・・元に戻ったら女さんとこんな風に喋る機会は減るだろう。そう思うともう少し続いてほしい気もする。
「失礼します」
「おう。来たか。こっちは準備出来てるぞ」
「・・これが元に戻す薬ですか?」
机の上にはサイダーによく似た飲み物が二つある。
「そうだ。これで元に戻るはずだ。さ、ぐいっと」
「「・・いただきます」」
俺はコップに入っている液体を一気に飲み干す。見た目はサイダーだが味はジンジャーエールに酷似していた。
「どうだ?」
「まだ何とも・・っ⁉」
同じ感覚に襲われ・・
「がぁあああ!辛ぇぇ‼」
・・なかった。
ものすごい熱さと辛さが口の中を支配する。俺はすぐさま水道に近づき水を煽った。
「せ、先生?これは一体どういうことでしょうか・・っう!」
女さんも水を飲みながら先生に怒りの視線をぶつけていた。
「おっかしいな。これで元に戻るはず・・あ‼」
作り方の紙を見ながら何かに気付きだらだらと汗をかき始める先生。
「まさか間違えたわけじゃ」「ないですよね?」
「・・(ニコッ)」
「やっちまえ女さん‼」
「はい!」
「わー!すまなかった悪いと思っているんです許して!」
綺麗なDO☆GE☆ZAを披露する先生。この人が本当に教師なのか疑いたくなる。
「・・まあ、いいです。それで?本当の薬はどこですか」
「ない」
「はい?」
「また新しく作らないとない」
「なら早く作ってください。すぐ出来るでしょう?」
「材料がない」
「すぐ用意してください」
「いつ揃うか分からない」
「・・まだしばらくはこのままと?」
「そうなるな」
「「・・・・」」
「出来る限り早く手に入れるからそう睨まんでくれ。それにあと数日くらい大差ないだろう?貴重な体験だと思ってさ」
・・今度絶対何か奢らせてやる。
ま、何はともあれ・・
「・・これからもよろしく女さん」
「はい」
俺たちの入れ替わり生活はまだまだ続いていくようだ。
完
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