英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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第89話
~マインツ山道~
「ミレイユ……」
自分達に近づいてきたミレイユを見たランディは複雑そうな表情をし
「まったくあなたと来たら無茶ばかりして……連中の相手は私達に任せなさい。……あなた達。これ以上ランディが無茶しないよう頼んだわよ?」
ミレイユは溜息を吐いた後口元に笑みを浮かべてロイド達を見つめた。
「はい……!」
「任されました。」
そしてロイドとティオの答えを聞いたミレイユは警備隊員達が戦っている方向に向かって走り出した。
「ふう、やれやれ……」
「とりあえず……一段落は付いたみたいね。」
ミレイユが去るとロイドは安堵の溜息を吐き、エリィは微笑んだ。
「……………………」
一方ランディは顔をうつむかせて黙り込み
「ランディ……?」
ランディの様子を見たロイドは不思議そうな表情をし
「だ、大丈夫ですか?どこかやられたんじゃ……」
ノエルは心配そうな表情でランディを見つめた。
「……ロイド。改めて聞いておく……こいつは一体、何のつもりだ?」
するとその時重々しい様子を纏って呟いたランディは凶悪な笑みを浮かべて尋ねた。
「え……」
ランディの言葉にロイドが呆けたその時、ロイドに近づいたランディはロイドの胸ぐらをつかみ
「っ……!」
「ランディ!?」
「ランディさん……!?」
ランディの行動にロイドやエリィ、ティオは戸惑い
「…………………」
ルファディエルは真剣な表情で見つめていた。
「わかってんのか……お前らは『戦場』に足を踏み入れたんだぞ……?軍人でも猟兵でもなく、局長達やルファディエル姐さん達みたいな戦争経験者でもなく、殺し合いのプロでもないお前らが……どんだけ危険なことをしたのか本当にわからねぇのか……?」
「……ランディ……」
自分を睨んで言ったランディの言葉にロイドは真剣な表情でランディを睨み
「……お嬢やティオすけにも言いたいことはある……ノエルやワジ、ルファディエル姐さん達に加えてこの場にはいないリィンや局長達は危険はわかってるんだろうに何で止めなかったんだか……だが、何よりもロイド―――てめぇはリーダーだろうが……?こんな時に、直感的に動いて仲間を危険にさらしてどうする……?」
「……ふざけるな……」
ランディに睨まれたロイドは唇を噛みしめた後、自分の胸ぐらをつかむランディの手を振り払って逆にランディの胸ぐらをつかみ
「ぐっ……!」
「ロイド……!」
「ロイドさん……!」
ロイドの行動にランディは呻き、エリィは真剣な表情をし、ティオは心配そうな表情をし
「へえ?」
「………………」
エルンストは口元に笑みを浮かべ、ラグタスは黙り込み
「おおっ!?ここで熱い青春か!?さすがはロイド――――」
ギレゼルは興味深そうな表情をした後笑いだそうとしたが、その時ルファディエルとメヒーシャがそれぞれ杖と斧槍の柄の部分でギレゼルの頭を思い切り叩いた!
「あでっ!?」
「……少しは空気を読みなさい。」
「全く……これだから堕天使は……」
「へいへい。」
ギレゼルを武器で殴ったルファディエルとメヒーシャは呆れていた。
「”仲間を危険に晒せないから”ここまで来たんだろうが!?『じゃあな』なんて……あんな紙切れ一つで俺達が納得できるなんて……本当に思っていたのかよっ!?」
そしてロイドはランディを睨んで怒鳴った!
「くっ……………やっぱり俺は……俺は……そもそもお前らと一緒にいるべきじゃなかったんだ………」
ロイドに怒鳴られたランディは唇を噛みしめた後、辛そうな様子を纏って呟き、そしてかつての猟兵時代の自分を思い出した。
「……俺の手は血塗られている……戦場や今ここで兵士を殺しただけじゃねえ……手強い敵部隊を嵌める為に関係ねぇ村を利用した事もある……それで罪もねぇヤツを……お前みたいな目をした若造を犠牲にしたことだってある……ッ!」
ランディは辛そうな様子を纏って呟いた後自分を掴むロイドの手を振り払い
「お前らの目の前にいるのはそんな救いようのねぇクソ野郎だ!迷惑なんだよ……これ以上は!仔犬みたいな目をしてすり寄られて出来た兄貴分みたいに頼られて……!そんなことをされ続けたら……俺はっ!……俺は自分を……許してやりそうになっちまうッ!!」
ロイド達を睨んで怒鳴った後、辛そうな様子を纏って叫んだ!
「……ランディ……」
「ランディさん……」
「……先輩……」
ランディの叫びを聞いたエリィ達は心配そうな表情で見つめ
「……そういう事か……」
「なるほど……ね……」
「……自分が犯した罪から目を背ける為に猟兵をやめたのか…………」
「……………」
ワジやルファディエル、ラグタスやメヒーシャは重々しい様子を纏い
「やれやれ………」
「…………………」
エルンストは呆れた様子でランディを見つめ、ギレゼルは黙り込み
「…………………はは……よかった……安心したよ。」
ロイドは黙り込んだ後苦笑しながら言った。
「………ぇ……………」
ロイドの言葉を聞いたランディは呆け
「ロ、ロイド?」
「ロイドさん……?」
エリィとティオは戸惑った。
「……いつもみたいに余裕な顔で冗談めかして返されたらどうしようかと思ったけど……やっと……俺達に吐き出してくれたな?」
「!!」
そしてロイドに微笑まれたランディは目を見開き
「……あ……」
「ロイドさん……」
エリィとノエルは明るい表情をし
「クク……ギレゼル。あんたも面白い男についたもんだね?」
エルンストは口元に笑みを浮かべた後ギレゼルに視線を向け
「おう!よくわかってんじゃねえか!」
視線を向けられたギレゼルは胸をはった。
「考えてみればランディも俺達と同じ若造なんだよな……重いものを抱えているのはみんな知っているのに触れないように気遣ってばかりで……力になってもらうばかりで、ランディの力にはなれなかった………」
「……はい……」
「……そうね……」
ロイドの言葉を聞いたティオとエリィは頷き
「……お……おいおい……だからそんな風に言ってもらう資格なんて……」
ランディは呆れた後再び言いかけたが
「―――ランディの過去も、罪悪感も、ランディ自身のものだ。多分それは、ランディが自分の中で解決するべきものだと思う。その結果、確かに自分のことが許せなくなる事もあるかもしれない。」
「………………………」
ロイドの話を聞いて黙り込んだ。
「だけど、他の誰かがランディを許さなくても……たとえランディ自身が自分のことを許せなくても……俺達だけはランディのことを許すよ。」
「!!?」
そしてロイドに微笑まれたランディは目を見開き
「……そうね。お互い許し、認めあることが”仲間”というものだから……」
「前に皆さんが、わたしの過去を受け入れてくれたように……わたしもランディさんの過去や、ナンパな性格や、だらしない所を許します。」
「……あたしも許します。同じ軍人として……避けては通れない問題ですし。セティちゃん達だってきっと許してくれますよ。」
エリィ達もそれぞれ微笑みながら言い
「やれやれ、こういうのは僕のキャラじゃないんだけど。……そもそも人は生きてるだけで何らかの罪を背負ってる存在だ。こう言っちゃなんだけど……”神”の前じゃ大差ないんじゃない?なんだったら本物の”神”の”嵐の剣神”や”紅の魔女”の前で一緒に懺悔してみる?」
ワジは口元に笑みを浮かべて呟き
「ワジ君…………」
「少しは状況を考えて言ってください。……というかそれを言うならあの人達だってランディさんとは比べものにならないくらいの戦いを経験していますから、罪の数で言ったらあの人達の方が圧倒的に多いですよ?この場合、懺悔するならまだエステルさんの方が適任かと。」
ノエルは呆れ、ティオはジト目で言い
「……ティ、ティオちゃん……」
「……お前も人の事は言えんぞ……」
ティオの言葉を聞いたエリィは疲れた表情で溜息を吐き、ラグタスは呆れた様子で言った。
「………………………」
一方ランディは黙り込んでいた。
「俺達は過去には生きられないし、まだ見ぬ明日にも生きられない……今日という日を、今という瞬間を、ひたむきに生きるしかないと思う。そして今この瞬間……俺達は同じ時、同じ場所にいる。もしランディがそれを少しでも嬉しく思ってくれているのなら……どうか―――ランディを許す俺達をそのまま受け入れて欲しい。」
「………………………………ったく……お前らときたら…………なんで俺が……そんなクサい言葉にさらされなきゃならねぇんだ……どんな差恥プレイだっつーの……」
口元に笑みを浮かべて言ったロイドの言葉を聞いたランディは黙り込んだ後呟き
「まあ、かつてわたしも通らされた道ですし……」
「ふふ、前に貴方が言ったように……支援課を選んでしまった時点でみんな誰かさんの被害者ということでしょう。」
ティオは静かな笑みを浮かべて言い、エリィは微笑み
「いや、だから何で俺が……」
二人の言葉を聞いたロイドは戸惑った。
「フフ……」
「くかかかかっ!さすがはロイドだっ!」
ルファディエルは微笑み、ギレゼルは笑い
「……………相変わらず、本当に性質の悪い男だ……………」
ラグタスは苦笑し
「…………………全くです……………まさか私まで心を動かされるとは予想外です……………」
「やれやれ……………油断をしたらあたいまで口説かれそうだねぇ?」
メヒーシャは顔をわずかに赤らめて呟いた後、小声で呟き、メヒーシャの様子を見たエルンストは口元に笑みを浮かべ
「ふふっ……でも説得力はありそうですね。」
「あはは、さすがの僕も天然ジゴロには敵わないなぁ。」
ノエルとワジは笑顔で言った。
「………………………はぁ。俺は人殺しで……ロクデナシのハンパ野郎だ。イキがったところで化物みたいな小娘相手にはギリギリ戦えた程度だしな。こんな風にテンパって迷惑をかけちまう事だって今後もあるかもしれねぇ……―――それでも、構わねぇか?」
そしてランディは溜息を吐いた後複雑そうな表情で呟き、表情をいつも浮かべている笑顔に戻して尋ねた。
「ああ……!」
「ええ、勿論!」
「どんと来いです。」
「これからもよろしくお願いします!」
ランディの言葉にロイド達は笑顔で答え
「フフ……これからの貴方のその力に期待させてもらうわ。」
「……エリィにさえ害をなさなければ、私はあまり気にせん。」
「……今後は手を抜かず、先程出していた真の力で戦ってもらうぞ?」
ルファディエルは微笑み、メヒーシャは静かな口調で答え。ラグタスはランディに視線を向け
「ま、我輩は面白ければ何でもいい!」
「クク………戦場に死を招く”死神”が光の世界でどういう風に生きていくのか、見させてもらうよ?」
ギレゼルは陽気に笑い、エルンストは興味深そうな表情でランディを見つめ
「ふふっ……雨降って何とやらかな?」
ワジは静かな笑みを浮かべて言った。
「ワジ、てめぇ……黙ってるって約束だったのにペラペラ喋りやがったな!?」
するとその時ランディは顔に青筋を立ててワジを睨んだ。
「やだなぁ、誤解だよ。ちゃんと黙っていたのにロイドたちが勝手に君の行方を調べ始めてさぁ。しかも君のせいで、ルファディエルさんに”色々”聞かれる羽目になったんだよ?」
ランディに睨まれたワジは目を丸くして答えた後、疲れた表情で溜息を吐いた。
「ちょ、ちょっとワジ君……?君、ランディ先輩が出て行ったこと知ってたの!?」
「ワジ、お前なぁ……って。今の言い方だとルファ姉も知っていたんだな?」
「ワジさん、ルファディエルさん……」
ワジの言葉を聞いたノエルやロイド、ティオはジト目でワジとルファディエルを見つめ
「はあ、さすがにどうかと思うけど……」
エリィは溜息を吐いた。
「いや、僕だって行先までは聞いてなかったんだし……やれやれ……これは僕が悪者ってオチかい?黒月や赤い星座どころか、鉄血宰相や狸大統領よりもとんでもない黒幕天使が側にいるってのに。」
ロイド達の反応を見たワジは溜息を吐き
「あら………”貴方の立場”で”天使”である私に対してよくそんな事が言えるわね……?」
ルファディエルは威圧が籠った笑顔でワジに微笑み
「アハハ。”他の人達”と違って僕はあんまり信心深くないし?」
微笑まれたワジは笑った後口元に笑みを浮かべて答えた。
「まったくもう……」
「たまには二人とも反省すべきではないかと。」
「それにルファ姉も。リーシャを脅した件とか色々言いたい事があるんだからな?」
その様子を見たノエルは呆れ、ティオはジト目で呟き、ロイドはルファディエルを睨んだが
「フフ………そこまでわかったご褒美に何でもしてあげるから許してくれないかしら?何だったらキスでもいいし、貴方が望むなら私の処女をあげてもいいわよ?」
「なっ!?なんでそうなるんだよっ!?こんな時に性質の悪い冗談とかやめてくれっ!!」
ルファディエルに微笑まれて顔を真っ赤にして声を上げ
「ル、ルファディエル様!?お気を確かに!!」
「……………既にお前も墜とされていたのか……………だからその男に対していつも甘い態度で接しているのだな…………………」
ルファディエルの言葉を聞いたメヒーシャは驚いた後慌て、ラグタスは呆れ
「あっははははははっ!こいつは傑作だっ!シェヒナが今のアンタの言葉を聞いたら、何て言うだろうねぇ!?」
「くかかかかかかっ!さすがはロイドだっ!!」
エルンストとギレゼルは大声で笑い
「……どさくさに紛れてロイドさんの心を一気に自分に向けようとするとは……さすがは策士ですね。そしてやっぱりルファディエルさん”も”だったんですね……どうせそうだろうと思っていました……………ようやく本性を見せましたね……………」
「そ、そんなことさせないわ!ロイドの一番のこ、恋人は私なんだから!!」
ティオはジト目でルファディエルを見つめ、エリィは真剣な表情になった後真っ赤な顔でルファディエルを見つめ
「フフ、さすがに今のは冗談よ。エリィを差し置いて、そんな事はしないし、今まで姉弟で暮らしてきたのだから、そんな感情はないわよ?」
「……果てしなく怪しいですね……………」
「ええ…………………あの笑顔の裏で今度は一体何を考えているんだか………………………」
微笑みながら言ったルファディエルの言葉を聞いたティオとエリィはジト目でルファディエルを見つめた。
「はは……………そんじゃ、そろそろ遅まきながら、ミレイユたちの様子を見に行ってみようぜ。」
ロイド達の様子を苦笑しながら見ていたランディは提案し
「そうだな……」
ランディの提案にロイドは頷き
「ねえ……その前に……彼らを供養した方がいいと思うのだけど……………」
エリィは複雑そうな表情で絶命し、地面に倒れている猟兵達に視線を向けた。
「あ………………」
それを見たノエルは声を上げ
「………………………いい。あれは全て俺とエルンストがやった。お前達がする必要はねえ。俺とエルンストで片付けておくからお前達はミレイユたちを追ってくれ。」
ランディは重々しい様子を纏って黙り込んだ後呟き
「ったく、めんどくさいねぇ。なんでわざわざ殺したヤツらを埋めなきゃなんないのさ。全部消し飛ばしちまった方が早くないかい?」
エルンストは溜息を吐いて言った。
「………いや、俺達も手伝う。」
「ええ。だって私達は貴方の仲間なんだから。」
「ええ。みんなで手分けすればすぐに終わります。」
「……………ったく………本当にお人好しな奴等だぜ…………」
そしてロイドとエリィ、ティオの言葉を聞いたランディは疲れた表情で溜息を吐いた。その後ロイド達は絶命した猟兵達を供養した後、戻ってきたミレイユ達と共に鉱山町マインツに向かい、建物の中に閉じこもっていた住民たちに危機は去った事を伝え回った……
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