白髪
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一話 変化前日 朝
別に変ったことなんてなかった。
連日猛暑が続いてる。
7月は始まったばかりなのに、夏はもうずっと前からそこにいたみたいに図々しく睡眠を妨げる。
眠たいのだけれど、ずっとじっとしていると背中に熱がたまって、どうしても我慢できない。
まだ7月、横になった瞬間はまだそれほどではなくてエアコンをつけるのはどうかと思っていた。
もうそんなことは言ってられない。
体を起こすのもだるかったが、リモコンを探し出してスイッチを入れた。
その瞬間、風が吹き出てくる音が聞こえてきた。
それだけで随分涼しく感じる。
少しずつ意識を手放していった。
朝。
アラームがなって、いつも通りの時間に目を覚ます。
タイマーで切れたエアコンのせいで、部屋はすごく蒸し暑かった。
「まだ火曜日か」
充電器から外した携帯の画面には今日の日付が表示されている。
一週間は始まったばかりだ。
リビングは部屋よりも少し暑くて、母が料理をしている音が聞こえた。
「おはよう。お姉ちゃん起こしてきてくれる?」
今年21になる姉は、すこぶる朝に弱い。
母が何度も起こしに行っているが、来るのは返事だけだ。
一年前までは姉と同室だったので起こすのが習慣になっていたが、あるきっかけで部屋が別れることになってからは、そんなこともなくなっていた。
きっかけ、というのは父親が出て行ったことだ。
もともとあたたかい家庭ではなかった。それに出て行ったというのも、二階建ての一軒家、二階から一階に移っただけだ。
「家庭内別居」
声が出ていた。
母には聞こえなかったようだが、少し焦る。
今では大して珍しいことでもない。むしろ一人部屋が手に入ったのは喜ばしいことだ。
姉と一緒は、もういい加減耐えられなかった。
彼女の散らかし方はひどい。
ドアを開けるとすぐに硬いもの物に当たる音がした。
床一面に色々なものが散らばっていて、ちらほらと床が見える。
印鑑、DVD、小学校の卒業アルバム、カバン、書類、こないだまで自分が使っていた場所には荷物が入ったままのスーツケースが開かれていた。
「朝だよ。母さんが起こしてこいって」
勢いよく起き上がるごみ部屋の住人。
寝起きは悪いが、最終警告には敏感だ。
母さんが起こしに来なくなのは、自分もこれ以上は仕事に間に合わなくなる時間だからなのだ。
「なんじ?!」
声が裏返っている。
「7時」
彼女の起床時間は6時。
都心の大学に通う彼女にとって、電車の時間に間に合わないのは遅刻を意味する。
一時間のタイムロスは痛いだろう。
しかし、起きてこないのが悪い。
姉を起こしたら、そろそろ自分の支度も始めなければならない。
家を出るのは7時40分。
余裕はないが、急がなくてもいい。朝はいつもと変わらず過ぎてゆく。
支度を終えると、一足先に母が出勤する。
いってらっしゃいは必須だ。
さぁそろそろ学校に行かなければ。
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