英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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3章~胎動~獣たちの謝肉祭~ 第68話
ディーター市長の提唱した『クロスベルの国家独立』の是非を問う住民投票の日が迫りつつあった。混乱していた二大国政府もようやく圧力をかけ始めていたが市民達の関心は非常に高く……アルカンシェルによるリニューアル舞台の公開と相まって市内の熱気は更に高まっていた。
―――そんな中、新たな問題が人知れず郊外で起きつつあった。
~オルキスタワー・34F・合同会議室~
「”幻獣”――――ですか?」
ある報告を聞いたロイドは不思議そうな表情をした。
「―――ええ、その通りよ。単なる魔獣とは言い難い、大型で不可思議なモンスター……そんな存在が、クロスベル各地で発見されるようになっているわ。」
ロイド達に説明したソーニャが促すとダグラスは装置を操作した。するとモニターに巨大な魔獣が映り
「あ……あたしらが見たヤツだ!」
「結局、止めを刺す前に逃がしてしまったけど……」
魔獣を見たリンは驚き、エオリアは考え込んでいた。
「こんな魔獣が……」
「結構大きいよね~?」
一方ノエルは真剣な表情をし、シャマーラは不思議そうな表情をし
「そういった情報は流れてはいましたが……」
「……こんな魔獣が人目に見つかったら大変な事が起きますね……」
ティオは疲れた表情で呟き、エリナは真剣な表情で言った。
「―――それだけじゃない。他のタイプも確認されている。」
そしてダグラスがモニターの画面を変え続けるとロイド達が旧鉱山で戦った巨大な魔獣や魔人化したアーネストに似た魔獣に加え、”僧院”でも戦った悪魔の姿もあった。
「こ、これは!」
「旧鉱山に現れた……!?」
「おいおい、また出たのかよ!?」
魔獣の姿を見たロイドとエリィは厳しい表情をし、ランディは声を上げ
「あの時の消滅の仕方からして、何か違和感を感じていたけど……」
「……俺達が戦った魔獣か……それとも同じ種族の魔獣……どちらなのでしょう?」
エルファティシアとリィンは考え込み
「……どこかで繁殖でもしているのでしょうか……?」
「―――繁殖の可能性はあまり考えられないがな。」
「……じゃな。こんなデカイ奴、絶対に目立つし、複数も存在していれば絶対に騒ぎになっているはずじゃ。」
「それにしても今までいなかったのに、どこから現れたのでしょうね?」
考え込みながら言ったセティの言葉にセリカとレシェンテは静かに答え、リタは不思議そうな表情をしていた。
「先日、同じタイプのものが北の山岳地帯に出現しやがってな。そちらのスコットたちに既に退治されている。」
「そうだったんですか……」
「もしかしてお2人で退治なさったんですか?」
ダグラスの説明を聞いたロイドは溜息を吐き、ノエルは目を丸くしてスコット達を見つめて尋ねた。
「ああ、不意を突いて何とか倒すことができたよ。これも君達の方から情報が回っていたおかげだな。」
「ただ、どうにも妙な手応えでな。アーツの効き方が異なる上に光るようにして消えてしまった。」
「やはり……」
「……俺達が戦った時とまったく同じみてぇだな。」
「……同じ倒され方をした……という事はまた出て来るかもしれないわね……」
スコットとヴェンツェルの話を聞いたエリィは呟き、ランディは目を伏せて呟き、エルファティシアは考え込んだ。
「しかし山岳地帯ということは……今度は”屋外”に現れたんだね?」
「ええ、これまでにも”塔”や”僧院”など異常な場所は確認されているわ。どうやら何らかの理由で”場の歪み”が発生していると推測されているのだけど……でも、これらの”幻獣”は山岳地帯や湖沼地帯などにも出現しているの。ひょっとしたら”場の歪み”がそうした屋外にも現れているのかもしれない。」
ワジに尋ねられたソーニャは真剣な表情で答えた。
「そ、そんな……」
「ゾッとしない話だなぁ。」
「では、私達をここに呼んだ理由というのは?」
「ああ、これらの幻獣への対応をギルドと特務支援課の双方に頼みたくてな。独立提唱がなされて以来、ベルガード、タングラム両門でやや緊張状態が続いている上、”結社”なんていう連中が司令やヴァイスハイト局長達……”六銃士”の暗殺を宣言したという……せめて住民投票が終わるまではそちらと司令達の護衛に集中しておきたいんだ。」
エオリアの疑問にダグラスは答えた。
「……わかりました。引き受けさせて頂きます。」
「分担に関してはこちらに任せてもらっても?」
「ええ、データはお渡しするからそちらにお任せするわ。それと……できれば”原因”の特定も頼みたいの。」
「原因……なぜそうした”幻獣”がいきなり現れたか、ですか?」
ソーニャの言葉を聞いたティオは疑問を口にした。
「ええ、魔獣の発生は昔から一定のサイクルで起きているけど……この”幻獣”に関してはそこから外れた”異常事態”と言っても過言ではないでしょう。」
「―――間違いなく何か原因があるはずだ。”場の歪み”を発生させて常識外れの大型魔獣が現れるだけの原因がな。」
「なるほど、確かにな。」
ソーニャとダグラスの話を聞いたランディは頷き
「ギルドの名に賭けて必ずや突き止めてみせよう。」
ヴェンツェルは静かな表情で言った。その後ロイド達はタワーを出た。
~オルキスタワー・正門前~
「しっかし、アンタたちとこんな形で共闘するとはねぇ。」
タワーを出たリンは意外そうな表情でロイド達を見つめ
「フ……最初の頃からすると想像も付かんな。」
ヴェンツェルは静かな笑みを浮かべた。
「はは……」
「ま、こっちもそれなりに成長してるってことだろ。」
二人の言葉にロイドは苦笑し、ランディは口元に笑みを浮かべ
「一体最初の頃はどんな風に見られたなのでしょうね♪……リィンなら知っているのじゃないかしら?特務支援課の事は資料とかで読んでいるんでしょう?」
「さぞ、ボロクソに書かれていたのでしょうね。」
からかいの表情のエルファティシアはリィンを見つめ、ティオはジト目で呟き
「ハ、ハハ………」
リィンは苦笑していた。
「いや、実際大したもんだよ。もし警察をクビになったらいつでも歓迎させてもらうぜ?」
一方スコットは口元に笑みを浮かべてロイド達を見つめ
「そうそう!特にティオちゃんなんかギルド向きだと思うのよねぇ。レシェンテちゃんとリタちゃんとセットになって、おいでよ♪」
エオリアは嬉しそうな表情でティオやリタ、レシェンテを見つめ
「全く……アネラスのような者は一人だけだと思っておったのに……」
「フフ、”可愛い”という理由だけで幽霊の私や”神”のレシェンテちゃんにも迷わず抱きつくなんて、本当に変わった人達ですね。」
見つめられたレシェンテは呆れた表情で溜息を吐き、リタは微笑み
「そう言われましても。(この人、絶対にアネラスさんと親しくなれるでしょうね……というか、この人とアネラスさんが一緒になった時、間違いなくわたしやリタさん達の身が危ないでしょうね………)」
「ふふっ……お言葉だけ頂いておきます。」
ティオはジト目でエオリアを見つめ、エリィは苦笑しながら答えた。
「でも”幻獣”ですか……確かに気になりますね。」
「ああ、とりあえず手分けすることにしよう。警備隊から回ってきたのは全部で7件……君達はそのうち、2件を受け持ってもらいたい。」
「へえ、ずいぶんと気前がいいじゃない?」
「いいんですか?そちらの分担が多くても……ただでさえ、アリオスさんが今は動けない状況なのに……」
「そうだよね?あたし達の方が人数が多いのに。」
スコットの提案を聞いたワジは静かな笑みを浮かべ、ロイドは目を丸くして尋ね、シャマーラは頷いた。
「――だからこそ、さ。彼が動けない分、あんた達にも必ずシワ寄せが来るはずだよ。」
「それにこちらにはアリオスさんの代わりになるセリカさん達がいるしな。」
二人の言葉にリンは答え、ヴェンツェルはセリカ達に視線を向け
「……その様子だと、俺達に一組ずつに分担される数の倍の幻獣を任せる気か。」
視線を向けられたセリカは溜息を吐き
「そりゃあ、そうでしょう。特にこういう時は戦闘能力が高い人達が必然的に頼られるのですから。」
セリカの言葉を聞いたスコットは苦笑していた。
「というかアリオスとわらわ達の強さは全然違うのじゃがな。」
「レシェンテちゃん……そんな角の立つ言い方をしなくてもいいと思うよ?」
意外そうな表情で言ったレシェンテの言葉を聞いたリタは苦笑しながら指摘した。
「元より、魔獣退治は遊撃士の十八番……お互い、他の仕事もあるし効率的に分担すべきでしょう。」
「………助かります。」
「な、何だか申し訳ないですね……」
エオリアの言葉を聞いたエリィは会釈をし、ノエルは申し訳なさそうな表情をしていた。
「なに、お互い様さ。それに君達の方には”結社”の問題もあるからな。」
「……はい。」
「ったく……その問題もあるんだよな。」
スコットの言葉にロイドとランディは疲れた表情で頷き
「ええ……しかも”怪盗紳士”は局長達の命を狙っているという話ですし……」
「……彼の考えは全く理解できませんね。」
「というか、私からしたら無謀としか思えないのだけどね。あの6人を殺害するなんて。」
「俺達からしても他人事ではないですよ……局長達どころか、ルファ姉も狙っているという話ですし……」
真剣な表情で呟いたセティの言葉にエリナは静かな怒りを纏って頷き、エルファティシアは苦笑し、ロイドは疲れた表情で溜息を吐き
(……まあ、いつかは私も狙われる立場になるとは思っていたけど……まさかそんな変わった理由で狙われるとはね。……まあ、国際犯罪者だから”赤い星座”や”黒月”同様、殺害許可は降りているから、対峙した時は”赤い星座”や”黒月”のように慈悲もかける事なく殺害しましょう。)
ルファディエルは静かな表情をしていた。
「結社”身喰らう蛇”……何でも、遊撃士協会とは色々と因縁があるとか……?」
「ええ、リベールの異変でもエステルちゃんたちを始めとする遊撃士がやり合ったし……それ以外にも各地の事件で幾度となくぶつかっているわね。」
「……エレボニアのギルドが一時壊滅状態に陥ったのも奴等の仕業だと言われている。もっとも、その後の衰退の原因はエレボニア軍の圧力によるものだがな。……その流れを考えると”鉄血宰相”が遊撃士協会の戦力の低下を謀ったという話もあながち嘘ではないだろうがな。」
ティオの疑問にエオリアとヴェンツェルはそれぞれ答えた。
「そうなんですか……」
「しかし、聞けば聞くほど捉えどころのねぇ連中だぜ。」
「いずれにせよ、ギルドの方でも未だ実態が掴めていない連中だ。何が目的かわからないがくれぐれも気をつけるといい。」
「困ったことがあったら遠慮なく連絡してきなよ?正直、連中に関してはこっちも他人事じゃないんだし。」
「………わかりました。」
「何かあれば遠慮なく頼らせていただきます。」
その後遊撃士やセリカ達と別れたロイド達は支援課のビルに戻って幻獣の資料を読んだ。
~特務支援課~
「ウルスラ間道の中洲と東クロスベル街道の外れか……どちらも最近、あまり立ち寄ってなかったな。」
資料を読み終えたロイドは真剣な表情で言った。
「旧鉱山に現れたのほどデカくはねぇみたいだが……万全の準備はしといた方が良さそうだぜ。」
「それと……”原因”の特定ですか。」
「ええ……時・空・幻の上位三属性が働いているという報告もあるみたいだし。」
「上位三属性の働きに関してはわたしやセティさん、エルファティシアさんが感知できると思います。ただ”原因”となると……ちょっと難しいかもしれません。」
「そうね。私達はあくまで感じられるだけだし。」
ティオの言葉にエルファティシアは静かに頷いた。
「確かに”塔”や”僧院”についても原因はわかってないみたいだし……そういえば古戦場にある”太陽の砦”もそうなんだっけ?」
「ああ、俺達が乗りこんだ時は確かにそうだったけど……」
「ただ、事件が解決した後は何の異常も起きていないらしいの。”僧院”にあったような”鐘”が原因でもなさそうだし……」
ワジの疑問にロイドとエリィはそれぞれ答えた。
「そうなると本当に原因は特定が難しそうですね……」
「ま、とにかく行くだけ行ってみようぜ。どうせ他の仕事なんかも入ってきてるんだろうしよ。」
「そうだな……よし、支援要請をチェックしてから出発するとしようか。」
その後ロイド達は端末で支援要請をチェックした。
「やっぱり、けっこうな数の依頼が来ているみたいだな……アリオスさんが動けないからじゃないとは思うけど……」
「……そうね……今日は課長が、病院にお見舞いに行っているみたいだけど………私達も近いうちに顔を出した方がよさそうね。」
「だな……キー坊は昨日行ったらしいし。………結構、落ち込んでたよな。」
「はい……ちょっと心配です。」
「車を使えば病院まではそんなにかかりませんし………時間があったらお見舞いに行きましょう。」
「ああ、そうするか。」
ノエルの言葉にロイドは頷いた。
「しかし目の回復手術か…………”奇蹟”を起こす治癒魔術と比べるとやっぱりまだまだ難しい領域みたいだね?」
「……そうだな。」
「話によれば今回の手術の影響で、せっかく限定的とはいえ視力を取り戻したシズクちゃんの目に何か異常が出たという話だし……心配だわ。」
そして真剣な表情で言ったワジの言葉にロイドとエリィは心配そうな表情で頷いた。
その後ロイド達は2組に分かれて支援要請や幻獣を退治する事にし、エリィ、ティオ、ランディ、ノエル、ワジのメンバーを選んだロイドはエリィ達と共に行動を開始した………………………
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