魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic7-Bホテル・アグスタ~Team Scitalis~
前書き
Scitalis/スキタリス:ヘビの頭と前足と翼を持つ飛竜。とても美しい皮膚の色で人間をうっとりさせておいて殺すという。
更新が遅れ、すいませんでした。ベルセリアのやり込みをずっとやってました。あー、今回のテイルズは本当に面白かったな~。
第1管理世界ミッドチルダ。その首都であるクラナガンの南東は自然が溢れている。その森の中に建つホテル・アグスタ。今現在、そこでは骨董品オークションが開催されている。そんなホテル・アグスタを、鬱蒼と生い茂る木々の中より眺めている人影が3つ。
体格から見て1人は成人女性、他2人は10歳に満たないほどの子供だろう。子供2人はクリーム色をしたお揃いのフード付きコートを着ている。その下に着ている服装はバラバラだ。
「こちらチーム・スキタリス。現場、ホテル・アグスタに到着よ」
成人女性は、純白のロングワンピース、水色の薄い肩掛け、白いつばの広いハットを被っており、折りたたんだ白い日傘を持っている。そしてレンズの大きな眼鏡を掛けている。深窓の令嬢という表現が一番しっくり来るだろう。彼女は目の前に展開されているモニターに映る者に向かって、自身が所属しているチーム名と、何かしらの仕事を成すための現場に到着したことを報告した。
『OK、確認した』
モニターに映る者、それは10代後半ほどの少女だった。服装は学校の制服のようで、白のブラウス、赤いリボン、裾付近に白のラインが1本入った黒のプリーツスカート、腰に黒いセーターを巻いている。身長は160cmほど。栗色のボブで、左目が前髪で隠れている。
「・・・眠い・・・」
彼女の隣に居る子供、声からして少女がそう言って目を擦る仕草をする。コートの下に着ている服は、黒のノースリーブのセーラー服。セーラー服特有の大きな襟は前後共に燕尾となっている。セーラー服の後ろ側の裾は膝裏までの長さがある。捲かれている黒いスカーフにはスミレが描かれていた。インナーは立て襟の白いノースリーブのブラウス。ファスナー仕立ての前立ては黒のライン。下は黒いプリーツスカート。そしてスカートの裾から少し出るくらいの長さの黒のスパッツ。両手にはめられたグローブの手の甲には半球状の装甲があり、真ん中に切れ目があることから開閉するようだ。
「もう少し待って。これからお仕事だから」
もう1人の少女がそう言って、眠いと漏らした少女の頭を撫でた。その少女の服装は、黒色を基調としたビスチェワンピースで、胸元には大きなリボンをあしらっている。そして両手には、手の甲に半球状のクリスタルが付いた手袋をはめている。
「ん。判った・・・。起きてるように頑張る」
少女は身を寄せ合うようにして、成人女性の見るモニターを見上げた。女性は「娘の1人が今にも眠りそうだから、そろそろお仕事を始めるわね」モニターに映る少女にそう伝えた。女性は側に居る少女たちの母親らしい。眼鏡の奥にある瞳はとても優しいもので、母性に溢れているのが良く解る。
『OK。メガーヌ。父さ――プライソンからの任務を再通達するよ。えー、骨董美術オークションに出展される、ある金属板を取って来てほしいのね。手段や被害は問わないから、必ず手に入れて』
「手段や被害は問わないって・・・。あの人は本当に大雑把ね。私たちのやり方でやらせてちょうだい。ベータ、あの人――プライソンに期待して待っているように伝えておいて♪」
『OK。ルーテシア、リヴィア。メガーヌ・・・お母さんの言うことをちゃんと聞いて、お仕事も頑張って』
モニターに映る少女、ベータが女性と子供2人の名前を口にした。メガーヌ、ルーテシア、リヴィア。メガーヌは首都防衛隊・ゼスト隊の分隊長だった女性だ。広域指名手配犯・プライソンの秘密工房への潜入捜査にて、モニターに映るベータを始めとしたサイボーグに敗れ、MIA――行方不明扱いされていた。
そしてルーテシアとリヴィアは、事件後に親戚に預けられたという名目でプライソンに引き渡された子供たちだ。そしてどうやら3人とも記憶の改ざんを受けてしまっているようだ。そうでなければ、自分たちを襲ったプライソンやベータに対して友好的な態度を取るわけがないからだ。
「はーい」「ん・・・」
『OK。あと、ガジェットドローンのⅠ型40機とⅢ型10機をそっちに送ったよ。適当に利用するようプライソンも言ってくれてるから、ルーテシア、あなたの無機物操作魔法・シュテーレ・ゲネゲンで操ってOKだから』
ベータとの通信が切れ、メガーヌは改めてホテル・アグスタへと目をやった。
「じゃあ、始めましょうか。女の子なんだからスマートに行きましょ。まずは屋外警備をやってる管理局員をどうにかしないといけないわね・・・」
手に持っていた日傘を開き、森から出ようとしたメガーヌだったが・・・
「ママはここで待ってて。ベータの言ってたように管理局員はガジェットドローンを使っておびき出すから。ターゲットを取ってくるのは・・・――」
「それ、わたしがやる」
ルーテシアが囮を、そしてリヴィアが本命を買って出た。メガーヌは「途中で眠っちゃうといけないからね」眠いと言っていたリヴィアの意見を却下し、代わりに自分が行くことを言外に伝えた。しかし「わたしは平気。ママはここで待ってて」リヴィアは聞かなかった。
「ママ。こうなったリヴィアは考えを変えないよ」
「この頑固さは誰に似たのかしら?」
眠気眼から完全にやる気満々なしっかりとした瞳になっているリヴィアに、メガーヌとルーテシアは呆れを見せた。それから3人は、屋外を警備している機動六課・実働部隊の巡回ルートをしっかりと見て憶え、ガジェットドローンの出現を待った。
「あ、来た」
ルーテシアがポツリと漏らす。ホテルを全方位から包囲するような陣形で姿を見せたガジェット群。まずⅠ型が10機、Ⅲ型が2機の第一波。ガジェットの視界映像を観るため、メガーヌはモニターを展開した。
ガジェットの迎撃に出たのは、スターズ2のヴィータ、ライトニング2のシグナムの両副隊長、そして狼形態のザフィーラ、医務官であり融合騎のアイリ。戦闘のプロであるシグナムとヴィータはたとえ能力リミッターを掛けられていようと、機械兵器程度には遅れを取らないは道理。
「あらあら。ベルカ式の騎士は本当に強いわね~。しかも赤い子と真っ白な子がユニゾン。うちの子と同じ融合騎なのね」
「リヴィアでも勝てないよね、さすがに」
「む。近接格闘形態でアギトとユニゾンして、あとスキルを使えば・・・勝てる、たぶん・・・。それに向こうのは氷結系だし。こっちの融合騎は炎熱系だから・・・おそらく・・・」
両手を腰に当てて頬を膨らませたリヴィアだったが、最後には尻すぼみになった。ルーテシアは可愛い妹の身の安全の為に「しっかりとグレムリンを囮にするよ」気を引き締めた。シグナム達を引き付けることが、リヴィアの仕事のフォローになると解っているからだ。
「アギト。起きて」
「うん・・・? な~に? リヴィー・・・?」
リヴィアがポケットに呼び掛けると、ポケットから小さな少女が顔を覗かせた。アギト。真正の古代ベルカ式の融合騎。古代ベルカ時代ではルシリオン達セインテスト家の一員だったが、“堕天使エグリゴリ”の1機であるレーゼフェアの記憶改ざんを受け、ルシリオンを始めとした古代ベルカ時代での思い出を深層意識に封じ込められている。
「これからお仕事。ポケットに入ってると、わたしのスキルでアギト酔っちゃう」
リヴィアはそう言ってポケットから這い出てきたアギトを両手に乗せ、「ママお願い」メガーヌの方へと差し出した。メガーヌは「気を付けてね、リヴィア」微笑み、目を擦っては大きなあくびをしているアギトを受け取った。
「お姉ちゃん。準備OK。いつでも行けるよ」
「うん。アスクレピオス、行くよ」
ルーテシアは両手にはめているグローブ型のブーストデバイス・“アスクレピオス”にそう語りかけ、足元に紫紺色に光り輝く召喚魔法陣を展開した。
「我は乞う。小さき者、羽搏く者。言の葉に応え、我が命を果たせ。召喚。インゼクト・コンパニエ」
召喚の呪文の詠唱をルーテシアが終えると、魔法陣よりカエルの卵のようなものが何本も伸び出して来た。コンパニエは中隊を意味し、名に相応しき数の金属製の小さな羽虫が孵った。
「ミッション・オブジェクトコントロール。いってらっしゃい、気を付けてね」
主人であるルーテシアからの指示を受けたインゼクトが小さな羽音を立てて彼女の元から飛び立っていき、第二波、第三波のガジェット達に取り付いていく。そんな中、ある1機のインゼクトはガジェットに取り付くことはせずにホテルの敷地内へ進行する。プライソンが狙っている物品がどこにしまわれているかを確認するためだ。
「シュテーレ・ゲネゲン」
ルーテシアがインゼクトを中継点としてガジェットを間接的に操作し始める。ただ与えられた命令を遂行するだけのガジェットに人の意思が加わることで、その動きがガラリと変わる。シグナムの斬撃を防ぎ、ヴィータの攻撃を軽やかに躱し、ザフィーラに連携攻撃を開始した。
「あらやだ。赤い子がホテルに向かっちゃうわ」
召喚師の出現に、彼女たちがホテル側で警戒しているフォワードのスバル、ティアナ、エリオ、キャロの元に行かないかをシグナムが危惧し、ヴィータにそのフォローを回るように指示を出したからだ。そしてその考えは割と的を射ていた。
「させない。ブンダー・ヴィヒト。オブジェクト15機、転送移動」
ルーテシアがさらに召喚魔法を発動させる。まずフォワード4人の元に8機のガジェットⅠ型を送り付け、ヴィータにはⅢ型1機とⅠ型6機を送り付けた。ヴィータにホテルへ戻られると、それだけでリヴィアの安全が脅かされるからだ。
「リヴィア。このライフル型のデバイスを持ってる金髪の女の子には気を付けてね」
「・・・ん。判った」
メガーヌがモニターに映るアリシアを指差した。ホテルの前から一切動こうとはせず、フォワードが迎撃に向かうのを見送っていた。これは当初のアリシアの行動方針に則ったものだ。あくまでフォロー役。フォワードの実戦で積む経験値を横取りしないために。
「うん。局員が良い具合にホテルから離れていってるわね」
フォワードもガジェットに釣られてホテルから徐々に離れていくその様子を見て、メガーヌが満足そうに頷いた。
「リヴィア、ターゲットの在り処を見つけた。今の内に向かって。グレムリン程度じゃ、あの人たちを食い止められる時間は長くない」
「ん。行ってきます、ママ、お姉ちゃん」
――ケレリタース・ルーキス――
リヴィアが音もなく何も無い空間に溶け込むように消えた。彼女の固有スキル名はケレリタース・ルーキス。意味は光速。いわゆる転移能力であるが、彼女自身も未だに理解していない能力の本質が隠されている。
「ルーテシア。リヴィアがお仕事を終えるまでしっかりね」
「うんっ」
ルーテシアはガジェット群を操作し、シグナム達もホテルから引き離しつつ足止めに徹しさせる。そしてリヴィアも、オークションに出品される骨董品がしまわれている場所へと続く場所に到着した。まずは地下駐車場で、六課の隊員とは別にホテルの警備員が警固している。そしてリヴィアは音もなく、姿を見せることもなく、警備員たち数名の顎を真横から掌底で打ち抜いていった。
『ブイ』
一瞬にして昏倒させられた警備員たちを背に、モニターに映るリヴィアはメガーヌ達にピースサインを向けて、誇らしげなドヤ顔を見せた。リヴィアは駐車場と屋内を隔てるシャッターの元へ行き、転移スキルを使ってシャッターを通り抜けた。そしてインゼクトの案内で、出展品の収められている倉庫へ向かって歩き出した。
「っ! こっちに誰か来る・・・!」
そんな時、メガーヌ達の姿を確認しようとリインフォースⅡ――リインが彼女たちの元へ向かって来ていた。別段姿を見せても構わないスタンスのプライソン一派(プライソン本人は正体を隠しているが)だが、無暗矢鱈に姿を見せないという考えを持つメガーヌは、「可哀想だけど、撃ち落としましょうか」魔力スフィア1発を生成した。
「大丈夫。インゼクトにお願いして追い払ってもらうから」
「そう? じゃあお願いね」
リインへの迎撃策としてインゼクト8匹が新たに空へと放たれ、そしてリインを撤退させることに成功した。だが、ここで新たな問題が発生した。合流を果たしたシグナムとザフィーラによってガジェット群が掃討されてしまったのだ。それにアイリとユニゾンしているヴィータもまた、ガジェットの掃討を終えてホテルへと向かい始めた。
「・・・。ルーテシア、ここで待っていて。ママ、少し遊んでくるから」
「ダメ。ガリューにお願いするから、ママはここで待ってて」
「・・・は~い」
自分の意見をバッサリと娘に断られてしょんぼりするメガーヌだったが、その半面自分の体を案じてくれることに嬉しくも思っていた。そしてルーテシアは右手を宙に差し出し「ガリュー。ちょっとお仕事、お願いして良い?」はめている“アスクレピオス”にそう語りかけた。するとクリスタルが僅かに発光した。
「ありがとう。時間を稼ぐだけで良いから」
もう一度発光するとクリスタルから紫紺色の閃光が飛び出し、シグナムとザフィーラの元へと飛んで行った。次に「あたしも行くよ」メガーヌの被っている帽子の上で横になっていたアギトがそう言った。あとはヴィータとアイリの足止め役だが、それをアギトが買って出たのだ。
「「え・・・?」」
メガーヌとルーテシアが驚きを見せた。アギトが進んで戦場に立つことが珍しいからだ。当然「大変だよ? 時間稼ぎは特に」ルーテシアと、「今度こそ私が行くから大丈夫よ」メガーヌが引き止める。
「ルールーはインゼクトの操作で手一杯だし、メガーヌも長時間戦えないし。こん中で一番強いリヴィーは宝探しに行ってるし」
しかしアギトも引かず、そう言って肩を竦めた。彼女の言い分には納得せざるを得ないメガーヌ達は「そうだけど・・・」強気に出られない。
「確かに私の魔法戦は時間制限があるけど、それでも足手まといにはならないわ」
それでもメガーヌは、自分が出撃する意見を曲げなかった。
「ママ!」
「大丈夫よ、ルーテシア。無茶はしないから」
「うぅ~~・・・うん。気を付けてね、ママ、アギト」
こうしてメガーヌとアギトが、ヴィータとアイリの足止めに向かうことになった。
†††Sideヴィータ†††
ホテル・アグスタで開催されてるオークションに出品されるロストロギアを“レリック”と誤認しやがったガジェットが案の定わんさかと出てきやがった。しかもキャロとは別の召喚士が居やがるし、ガジェットの戦闘能力を強化しやがるし。一体どんな奴なのかそのツラを見せてもらいたいもんだ。ま、とにかく今は、フォワードのところへ向かうかもしんねぇソイツを確保しねぇとな。
『そう言えばガジェットは来てるのに、戦闘機とかは出てこないね』
『んぁ? あぁ、そうだな。でもアレが出て来んのはレリックだって確定したところだけじゃね? はやて達も言ってたが量産が利くようなもんじゃねぇだろ。あんなん量産されたら堪ったもんじゃねぇよ』
あたしとユニゾンしてるアイリの疑問にそう答える。すずかの話じゃシスターズと同じサイボーグが居るらしいし、ルシルはプライソン製の装甲列車と遭遇したとも言ってた。プライソンは戦争でもおっぱじめる気かって気分だよまったく。
「『っ!?』」
ホテルまでもうちょいってとこで、何かを感じた。具体的なことは言えねぇけど、何かが居る、来る、今。アイリも『この感じ・・・!』何かを察したようだが、あたしより何かの正体に確信を持ってるみてぇだ。
――フランメ・ドルヒ――
その直後、短剣型の火炎弾が20発と森の中から飛んで来た。見憶えのあるその魔法にあたしとアイリはすぐに「『アギト・・・!』」だって確信した。似たような魔法を使う奴も世の中にはいるだろうが、さっきの感じからしてぜってぇ知ってる奴、アギトのもんだって判る。
「なんで、あたしの名前を知ってんだ?」
そう言って姿の見せたのはやっぱりアギトだった。ま、格好はベルカん時と違ってえらくパンクなもんになっちまってるけど。しっかし、本当に記憶が無いみてぇだな、ちくしょう。
「あたしはヴィータ! んで、こっちが・・・!」
――ユニゾン・アウト――
「アイリ・セインテスト!」
ユニゾンを解除して、本来の小っちぇ姿になってるアイリをアギトと直接逢わせる。アギトは「お前らの名前なんて訊いてねぇ!」苛立ちを見せてきやがった。なんかこう、結構ショックだな。家族からそんな態度とられると。
「アギトお姉ちゃん。アイリだよ? マイスター・・・、オーディンに拾われて、新しい名前を貰って、家族になって、一緒に過ごしたよね」
「はあ? あたしに妹なんか居ないし、名前だってオーディンとかって奴からじゃなくてレーゼフェアから貰ったもんだし。それにあたしの家族は――っと、危ない危ない。誘導尋問とは卑怯だぞ!」
「アギトお姉ちゃん・・・」
「アギト・・・」
やべぇ、かなり胸に来るな。アギトの今の姿にアイリなんて半泣きだ。あたしも泣きてぇが、それ以上にレーゼフェアへの憎悪で頭がズキズキする。アギトはあたし達に敵意をむき出しにして「ちょっと遊んでけ!」周囲に火炎球を10発と展開した。
「ブレネン・クリューガー!」
そして発射。あたしとアイリはそれぞれ回避に移って・・・
「~~~もうっ! ヴィータ! アギトお姉ちゃんをとっ捕まえるよ!」
「応よ!」
アギトを捕まえることを決めた。ユニゾンはしねぇ。2対1で押し切ってやる。こういう場合のコンビネーションはベルカん時から変わんねぇ。あたしが攻撃で、アイリが補助だ。つうわけで・・・
「おらぁぁぁぁーーーーッ!」
――テートリヒ・シュラーク――
“アイゼン”を振りかぶったままアギトに一直線に向かう。アギトは防御に回らずに回避を取った。あたしはわざと空振りして、アギトに僅かばかりの安堵を与えて油断させたその瞬間、「氷結の軛!」アイリが捕縛魔法を発動。アギトの周囲に展開されたベルカ魔法陣3枚から拘束杭が突き出した。アイツを貫いて拘束するんじゃなくて包囲して捕まえようとしたんだが・・・
――エッケザックス――
「んなっ!?」
「チッ、召喚士か!」
青みがかった薄い紫色の砲撃が3発と森の中から放たれて来て、アイリの軛を粉砕した。発射地点を見てはみるが、森が邪魔して判んねぇな。ザフィーラが居りゃ、ある程度は判ると思うんだけど。まぁいい。ここに召喚士が居るってんなら、あたしとアイリで足止めを、いんや捕まえてやんよ。
(新人共の他にシャマルとアリシアが居る。ガジェットくらいならアイツらだけで十分だろ)
――フランメ・ドルヒ――
「おらおらぁッ!」
――フラッターハフト・シュパッツ――
アギトの炎の短剣と、森から放たれて来る魔力弾があたしとアイリに襲い掛かる。アイリは「竜氷旋!」とぐろを巻く冷気を全身から放って、2人からの攻撃を完全凍結させて防御。アイリの奴、マジで強くなってんだよな~。あたしは回避しながら避けきれねぇ奴は“アイゼン”で弾き返すんだが・・・
「むぉ!?」
召喚士からの魔力弾がギリギリのところで軌道を変更してきて、あたしの頬を掠めて行きやがった。あぁ、くそ。誘導射撃ってわけかよ。
「アイリがアギトを押さえる! ヴィータは召喚士をお願い!」
――フリーレン・ドルヒ――
「行かせるかよ!」
――フランメ・ドルヒ――
炎と氷の相性云々を魔力の高さだけでねじ伏せるアイリ。確かにアイリなら今のアギトくらい単独で撃破できそうだよな。
「おっと」
――パンツァーシルト――
あたしの方にも飛んで来たアギトの魔法をシールドで防ぐ。あたしは「アギトは任せるぞ!」アイリにアギトのことを託して、あたし1人で森へと降下。
「あ、コラ、待て!」
アギトがアイリを放ってあたしに向かって来ようとしてんのが判った。召喚士の元へは行かせたくねぇってか。戦闘能力はさほど高くねぇのか、それとも別の理由か。
「待ては、こっちのセリフなんだけどね!」
「邪魔すんなよ!」
――フランメ・ドルヒ――
――フラッターハフト・シュパッツ――
上から下からと射撃魔法が襲いかかって来る。アギトの魔法は避けんのも防御すんのも楽なんだが、「召喚士の魔法うぜぇッ!」いっつも着弾ギリギリで直角に曲がって来るから、どれもこれも掠っていきやがる。特にムカつくのは・・・
(コイツ、直撃させる気が全くねぇ・・・!)
どれもこれも掠ってくだけで直撃するような軌道じゃねぇってことだ。まるで遊ばれてるような感じがして不愉快だ。アイリは全身から冷気を放って凍結粉砕してるから楽だろうけどよ。こちとらそんな魔法持ってねぇんだよ。
――フラッターハフト・シュパッツ&モルゲンロートゲホイル――
「ええい、うっとおしい!」
ようやく軌道変化に慣れてきた召喚士からの攻撃を“アイゼン”をぶっ叩いたんだが、その内の1発を打った瞬間、「こいつは・・・!」ソイツがとんでもねぇ爆音と、目も開けてられねぇ閃光が爆ぜた。
(あたしのアイゼンゲホイルやシャマルのクラールゲホイル・・・、アギトのスターレンゲホイルと同タイプの魔法だ。つまるところ召喚士はベルカ式の使い手・・・!)
迎撃を警戒してたんだが、結局は音と光が治まるまで何もされなかった。ただ、アギトがあたしの下に移動していることだけが違う点だ。
『ヴィータ。気付いてる?』
『ああ。コイツら、あたし達を撃墜しようとしてねぇ。まるで・・・――』
『『足止めの時間稼ぎ・・・!』』
アイリと意見が一致した。何せ棒立ちの今のあたし達にすら攻撃を仕掛けて来ようとしねぇ。となれば、もうそれしか考えられない。
『行って、ヴィータ!』
『すまねぇ、ここは任せた!』
あたし達を足止めするってことは、他にも仲間が居る可能性が出てくる。最悪な展開は、“エグリゴリ”のレーゼフェアかフィヨルツェンが来てることだ。そのどちらかに付いて回ってたって言うアギトが居るんだ。可能性は決して0じゃあない。
――ヴァクストゥームフォルム――
30cmくらいから150cmくらいまでデカくなったアイリは「シャルギエル!」ルシルとおんなじ魔法を発動して、両手に氷の槍を2本作り上げた。名前はおんなじだがデザインは違って、穂先がハート型をしてやがる。
「せいっ!」
――フラッターハフト・シュパッツ――
左手に持ってた1本は、また魔力弾を十何発と放ってきた召喚士の居る森へと投擲して、もう1本でアギトに直接攻撃を仕掛けた。シャルギエルは魔力弾を全弾凍結させて無力化したうえで森に着弾、派手に冷気爆発を起こさせた。そんでアギトは「融合騎がこんなに強いなんてアリ!?」必死に回避の一手だ。
『行って!』
『応!』
この場はアイリに任せてあたしはホテル・アグスタへ急ぐ。背後から「あ、行くな!」アギトから呼び止められるが、今はそれどころじゃねぇ。
『こちらスターズ2! シャマル、ホテルの方にヤバい奴が向かってるかもしんねぇ!』
『ヤバい奴? 何かあったの!?』
向かう途中にホテルで管制指揮を執ってるシャマルに通信を入れて事情を伝える。アギトと召喚士に足止めを食らったことを。そして、アギトが一緒に行動してた“エグリゴリ”が向かってるかもしんねぇことを。
『エグリゴリ!? ちょっ、嘘でしょ! アギトちゃんが居ることに驚きたいし喜びたいのに、そんな思いを丸ごと吹き飛ばすような絶望的な報せなんて聴きたくなかった!』
『うっせぇッ! フォワード達にエグリゴリの手配書を見せて、見つかったら逃げろって言っとけ!』
あたし達じゃどう足掻いても勝てない、つうか戦いにすらならない相手だ。新人たちが遭遇して、もし知らずに交戦したらと思うと冷や汗が止まらねぇ。だが、杞憂だったのか『エグリゴリの姿はやっぱり確認できないわ!』シャマルから通信が入った。
『とりあえず警戒は続けるけど、現れるのはガジェットだけよ』
『こちらはやて。ヴィータ、シャマルから事情は聴いた。そやからルシルく――セインテスト調査官に指示を仰いだら、自分と一緒に居ない限りは襲われない、って話や。見かけたら放っておくのが最優の手段ってことやから、もし接敵したら見逃して。自分の命を最優先や』
『・・・了解』
一緒に居ない限り、か。そうだよな、だからバンへルドん時、あたし達は殺されちまったんだよな。そんなこんなであたしもホテルに着いて、ガジェットの殲滅に参加しようとしたんだけど・・・
「っ!? あんの馬鹿・・・!」
ティアナがミスショットをしやがった。クロスファイアを撃ちまくった挙句、うち1発がウイングロード上を走るスバルの背後へと向かって行きやがる。
(くそっ、間に合わねぇーーーーッ!)
――ソニックムーブ――
「ハリセ~~~ンスマァァ~~~ッシュ!」
あともうちょいでスバルに着弾するってところで、ハリセンを構えたアリシアがスバルと魔力弾の間に割って入って、魔力弾をガジェットの1機へとハリセンで撃ち返してヒットさせた。
「はぁはぁはぁ・・・! ~~~っ、こんの馬鹿野郎が! 何をやってんだティアナ! 無茶をやった挙句に味方を誤射する奴があるか!」
誤射したことにショックを受けて馬鹿みてぇに呆けてるティアナを怒鳴りつける。スバルが「あの、今のコンビネーションの内で・・・」なんてふざけたことを言ってきやがる。あたしは背後に立つスバルのジャケット引っ掴んで・・・
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ、おい! アリシアが居なかったら直撃してたんだぞお前!」
さらに怒鳴りつける。それでもこの馬鹿は「あ、いえ! あたしが悪いんです!」なんてティアナを庇うようなことを言う。ここで何を言ってもスバルはティアナを庇うっていう悪循環になるって瞬時に察した。
「もういい、黙ってろ! こっからはあたしだけでやるから、テメェら2人は引っ込んでろ!」
だから早々に見切りを付けてスバルとティアナを引っ込ませる。今のティアナはただの足手まといだ。スバルも釣られて本来の力も発揮できねぇだろうしな。何よりあたしが許さねぇ。こんな奴らを今、戦場に立たせることなんて。
†††Sideヴィータ⇒アリシア†††
危なかった。ティアナがヴィータの戻りを待たずに4連ロードなんてするもんだから、絶対に何かやらかすって思ってた。予想通りティアナはミスショットをやっちゃって、スバルに誤射未遂。側に居て良かった。ギリギリだったけどクロスファイアを“ハリセンスマッシュ”で撃ち返すことが出来た。
「あ、ティア・・・」
ヴィータに、引っ込んでろ、って言われたことでティアナがホテルの裏手に走り去って行っちゃった。スバルも「待って、ティア!」ティアナを追って行っちゃった。ヴィータはティアナを一瞥した後、さらに追加されてきたガジェットの迎撃に向かった。
「・・・はあ。シャマル。わたしもティアナのフォローに向かうけど。あ、すぐに戻ってくるから」
『了解。こっちはヴィータちゃんが居るから大丈夫よ』
シャマルから許可を貰って、わたしもホテルの裏手へと向かう。その途中、「向こう行ってなさいよ!」ティアナの怒声と、スバルの「ゴメンね、ティア・・・」今にも泣きそうな声での謝罪の言葉が聞こえた。そして、「スバル・・・!」がこっちに向かって走ってきた。
「っ! アリ・・・シアさん・・・!」
もう見てるのも辛いほどにボロボロ涙を零してた。わたしは「わたしがちょっと話してみるよ」そう言ってスバルの頭を撫でた。
「っ、うっ、はい、お、おね・・・お願い、します・・・!」
「んっ。お姉さんに任せなさい♪」
スバルと別れて、今度はわたし1人でホテルの裏手へと向かう。わたしの言葉ならきっとティアナも聴いてくれると思うな。同じ大切な人にミスショットしちゃった過去があるから。ホント、ティアナってばわたしにそっくり。恵まれた仲間を持ってたり、その所為で劣等感を抱いちゃったり、焦ってミスショット撃っちゃったり。
(今回の一件はわたしにも責任がある。あの時、ティアナを追っかけてでも話しておけば良かった。そしたら、もっと違う結果になってたかもしれない)
後悔ばかりが出てくる。でも、こんな失敗は今回限りだ。ティアナが歩こうとしてる道を先駆けてるわたしが、あの子を別の道へと導こう。そう思って裏手へ向かうと、そこにティアナの姿はなくて。
「あれ? ティアナ・・・?」
辺りを捜してみると、「――止まりなさい!」ティアナの声が聞こえた。声の出どころは地下駐車場から。脳裏に最悪な光景が浮かぶ。ここで敵が出てくるとなると高確率で本命。ホテルに直接乗り込んでくるような奴なんて、そうとしか考えられない。
「ティアナ!」
急いで地下駐車場へと降りる。そこにはティアナと、キャロくらいの女の子が対峙してた。まず“エグリゴリ”じゃないことに心底安堵した。その小さな体で大きな長方形型のケースを抱えてるその女の子が「見つかっちゃった」小さな声でそう言ったのが、駐車場内に響いてわたしの耳にまで届いた。そして、足元にスミレ色のベルカ魔法陣を展開。
「「っ!!」」
女の子がフェイトやなのはクラスの魔力を放出した。わたしはすぐに「撃って、ティアナ!」叫んだ。あんな魔力で攻撃されたら、今のティアナ防ぎきれない。ビクッと肩を竦めたティアナが「っ・・・!」“クロスミラージュ”の引き金を引いて、魔力弾1発を発射したんだけど・・・
「「消え、た・・・!?」」
一瞬で女の子が消えた・・・かと思えば、ティアナのすぐ後ろにいきなりスッと音もなく現れた。振りかぶられた右拳には魔力が付加されていて、明らかに攻撃動作だって判る。“クロスミラージュ”からの警告で、「っ!」ティアナも後ろに居る女の子に気付いたようだけど、あまりにも遅すぎた。
(馬鹿馬鹿! 何でこういう時に限ってわたしはラッキーシューターを持ってないの!?)
手元にはハリセン型のストレージデバイス・“ハリセンスマッシュ”。純粋魔力攻撃なら問答無用で打ち返せるし、防御魔法も1発とはいかないけど砕くことが出来るし、結構な優れ物。だけど近接系。だから、ここから女の子を攻撃できない。
(迷って・・・いられないよね!)
――ソニックムーブ――
ティアナを助けるために、フェイト直伝の高速移動魔法を緊急発動。そして・・・
「ハーツイーズストライク・・・!」
目の前が綺麗なスミレ色の魔力光に満ちて、次の瞬間・・・わたしの意識は途切れた。
後書き
グ・モロン。グ・デイ。グ・アフドン。
ホテル・アグスタ編の後編をお送りしました今話。とうとうプライソン一派のチーム・スキタリス・・・早い話がアルピーノ家の登場です。
原作ではゼストがルーテシアの脇を固めていました。しかし本作ではゼストは死亡しておらず、医務局にて未だにこん睡状態なため、その代わりに母メガーヌを起用。それプラス前作のレヴィの生まれ変わりなリヴィアが居るため、ガリューの出番も減るわ減るわ。
男の出番は限りなく少ないのです! ルシルが監査役も担っているので、クロノも登場しません。ごめんね~!(笑
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