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第二章

 麻美子は娘を送ってからだった、家に戻ってエプロンを着けたうえで家事をして在宅ワークをした。昼食は昨日の夜の残りで済ませるのが常だ。夫と娘から料理上手と言われていて自分でも自慢にしている。そして。
 娘を迎えに行く時間まで在宅ワークに励み娘に今から行くと携帯でメールを送り夫にもそうメールをしてだった。
 行きと同じ道を車で進み小学校の玄関で待っていた娘を笑顔で迎えて車の助手席に座らせた。シートベルトをかけることも忘れない。
 車の中で楽しく談笑しつつ家まで帰った、家に帰ると駐車場に車を入れて娘を連れて家に帰ろうとするが。
 玄関でだ、近所のママ友に声をかけられてだった。
 娘から目を離して少し話した、その間は五分だけだったが。
 娘に目をやってだ、まさに瞬時にだった。
 娘の顔を見てだ、麻美子は卒倒せんばかりに驚いて声をあげた。
「玲!?」
「・・・・・・・・・」
 着ている服は玲の通っている小学校の女の子のものだ、だが。
 玲ではなかった、名札も彼女のものだったが。
 髪の色は茶色で長くぼさぼさでだ、顔は皺だらけで老婆のものだった。玲と名前を言っても反応はない。それでだ。
 慌てて周りを見回して玲を呼ぶが反応はない。それで有り得ないと思いつつもだ。
 誘拐、神隠し、失踪という言葉が脳裏をよぎり麻美子は冷静さを完全に失った、それでだった。
 夫に携帯を入れた、夫は仕事中だったが彼女に温厚な声で聞いてきた。
「ママ、どうしたんだい?」
「玲が、玲が!」
「?玲がどうかしたのかな」
「いなくなったの、玄関で!」
 こう血相を変えて言うのだった。
「何処かに行ったの!」
「えっ、どういうことだい!?」
 太も妻の言葉に冷静さを失って返した。
「一体」
「お家の玄関でちょっとお話をしていたら」
「その間にかい!?」
「五分位お話していたら」
「その間にか」
「あの、いなくなったのよ」
「すぐに戻るよ!」
 子煩悩な父親らしくだ、太は麻美子に言った。
「そうするから!」
「ええ、お願い!」
「詳しい話はお家でね!」
 太はすぐに席を立ってだ、上司の部長と課長に事情を言ってすぐに飛んで帰った。近頃太ってきて加齢のうえ運動不足ですぐに汗が出て息も切れたが。
 職場からすぐにだ、自宅まで帰ってだ。玄関で泣いてガタガタ震えている麻美子に問うた。
「玲は!?」
「この娘が」
「何だこの娘は」
 太もその老婆の顔で茶色の髪の少女を見て言った。
「玲の通っている小学校の制服と名札だけれど」
「違うわよね」
「どういうことなんだ」
「わからないの、ただ」
「玲はか」
「何処に行ったのか」
 泣きながらだ、麻美子は夫に話した。
「わからないの」
「ママとにかくだ」
「とにかく?」
「五分位だよね、いなかったの」
「そうよ」
「それに電話があって一時間位で帰って来た」
 急ぎに急いでだ。
「だから玲はまだ遠くに行っていない筈だよ」
「この近くにいるのね」
「そう、間違いない」
「じゃあ玲ちゃんの行きそうな場所に」
「手分け言って探そう」
 夫の方が冷静だった、それで言うのだった。
「ここは」
「ええ、じゃあ」
「とりあえずこの娘は私が背負うから」
「そうするの?」
「ああ、どういう事情かわからないが小さな娘みたいだし」
 その正体がわからない玲の制服を着ている皺だらけの顔の少女を見ての言葉だ。 
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