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英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)

作者:sorano
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第45話

同日、16:30――――



そして―――通商会議の後半はイアン弁護士の懸念通り、波乱含みの展開から始まった。両帝国と共和国の3方からクロスベルの安全保障に関する厳しい問題提起が次々と出され……ディーター市長とマクダエル議長の表情は次第に強張っていくのだった。



~オルキスタワー~



「―――問題は、たかが宗教団体一つでああも無様に治安が揺らいだことだ。それも治安維持組織が操られるなど、前代未聞の形によって。」

「…………………」

「……詳細については皆様にもお伝えしてあると思いますが。」

厳しい表情で意見するオズボーン宰相の言葉にディーター市長は黙り込み、マクダエル議長は静かな口調で答えた。

「詳細が問題なのではない。危機管理の”質”が問題なのだ。事件の際、滞在していたエレボニア人の生命と財産が脅かされた事実もある。その事についてはどうお考えか?」

マクダエル議長の言葉に答えた後オズボーン宰相は厳しい表情で尋ねた。すると

「―――待ちたまえ、宰相。損害賠償と慰謝料については既に手続きが行われているはずだ。この上さらにミラを出せというのは我がエレボニアの度量が問われるだろう。」

オリヴァルト皇子が真剣な表情で意見した。

「いえ、殿下。そういう問題ではありません。問題は彼らが……クロスベル自治州政府がどうやって様々な『安全』を保障できるかです。生命の安全、財団の安全、貿易・金融市場への信頼の安全!政争にかまけ、怪しげな輩どもに付け込まれるような者達に果たして保障できましょうか?」

「……む………」

しかしオズボーン宰相の話にオリヴァルト皇子は唸って黙り込み

「だが、ハルトマン元議長が失脚し、腐敗も浄化されつつあると聞く……今後は健全な政治体制の下でしっかりとした安全保障の枠組みが築かれればいいのではありませんか?」

アルバート大公は意見をした。

「いやいや、大公閣下。事はそう簡単ではありませんぞ?クロスベルの政治風土は元々、腐敗しがちな傾向にあります。ディーター市長、マクダエル議長は政治家としても傑出されていますが……仮に彼らに何かあった場合、逆戻りになるのではありませんか?」

「ふむ……」

しかしロックスミス大統領の意見を聞き、考え込んだ。

「……悲観的な話になりますが元々、政治に腐敗は付き物です。それはクロスベルだけではなく、我が国も含めてどこも同じ……ならば今は、お二人が任期中に健全な政治体制を作れるか見守るべきではないでしょうか?」

するとその時クローディア姫が意見をしたが

「……失礼ながら殿下はお若い。希望を信じたくなる気もわかります。ですがクロスベルは、伝統ある王家を戴くリベールとは違うのです。拠り所となる権威の無いところでは政治はかくも容易く弱体化する……それは歴史が証明しているでしょう。」

「そ、それは……」

オズボーン宰相の意見を聞き、言いよどんだ。

「ほう?それは平民だったリウイ陛下が反乱によって建国し、国を繁栄させた我が国を遠回しに侮辱しているのか?」

「フフ、だとしたら身の程しらずにも程がありますね。たかが一国の宰相”如き”が広大なレスペレント地方を治め、”ゼムリア大陸真の覇者”と称される我が国を侮辱するなんて………」

するとリフィア皇女は興味深そうな表情をして尋ね、レン皇女は上品に笑った後不敵な笑みを浮かべてオズボーン宰相に尋ね

「これは失礼を……どうやら私の情報不足だったようです。決してそのような事を思った事もありませんので、どうかここは寛大な御心を……」

尋ねられたオズボーン宰相は静かな笑みを浮かべて言い

「フン、安心しろ。その程度の些細な事で不快にはならん。」

「そうですね。”百日戦役”を起こしたエレボニア自身から心が狭く、思慮に欠けているように思われるのは心外です。」

オズボーン宰相の言葉を聞いたリフィア皇女は鼻を鳴らした後答え、リフィア皇女に続くようにレン皇女は不敵な笑みを浮かべて言い

「これは中々お厳しい………」

レン皇女の言葉を聞いたオズボーン宰相は苦笑しながら答え

「……その件については今でもエレボニアでは後悔している。リベールには本当に申し訳ない事をした。」

「……いえ。どうかお気になさらないで下さい。」

オリヴァルト皇子は目を伏せて呟き、クローディア姫は静かな表情で答えた。



「ふむ、我が国には君主はおりませんが、栄誉ある共和国憲章があります。これは、百年前の革命の時、様々な勢力と民族が集まって作り上げた奇跡的なものでしてな。それを頼りに、我が国の政治はたとえ腐敗しても誇りを失わずに存続できたと言えるでしょう。」

「……お言葉ですが、我々にも誇りある自治州法が存在します。歴史的経緯から、様々な不備が発生しているのも確かですが……それでも少しずつですが改善できているのも確かです。」

そしてロックスミス大統領の言葉にマクダエル議長は答え

「……弁護士。ここ10年で行われた自治州法の追加・改正項目はどの程度かな?」

「そ、そうですな。詳しい資料はありませんが。およそ50というところでしょうか。」

マクダエル議長の話を聞いた後尋ねたオズボーン宰相の質問を聞いたイアンは戸惑いながら答えた。

「10年でたった50!それはいささか驚きですな!1年にわずか5つですか!」

するとその時ロックスミス大統領は驚きの表情で声を上げ

「いえ、ここ数年では増加の傾向にあります。去年は確か、12の項目が追加・改正されたはずでしたね?」

ロックスミス大統領の言葉に反論するかのようにディーター市長はマクダエル議長に尋ね

「ああ、金融と導力ネットに関する諸項目の追加が多いが……」

尋ねられたマクダエル議長は答えた。

「いずれにせよ、その調子ではとっても意義のある安全保障体制が早急に構築できるとは思えぬ。やはり現状を踏まえた対応策を話し合うべきであろう。」

「ええ、それは同感ですな。」

「………やれやれ、あなた方がそこまで気が合うとは思わなかった。ノルド高原の領有問題についてもすぐに合意できるのではないか?」

オズボーン宰相の言葉に頷いたロックスミス大統領を見たオリヴァルト皇子は溜息を吐いた後真剣な表情で尋ねた。

「はは、これは一本取られましたな。」

「まあ、それについては別の機会に話し合いましょう。」

オリヴァルト皇子の言葉を聞いた2人は笑ったり口元に笑みを浮かべ

「………………………」

「ふむ、時間が惜しい。議論を移るべきでしょうな。」

クローディア姫は複雑そうな表情で黙り込み、アルバート大公は意見をし

「全くじゃな。時間は無限ではないのだしな。」

「ええ。私や大公閣下達のような”人間”が活動できる時間は異種族と比べると圧倒的に少ないのですから。」

アルバート大公の意見にリフィア皇女とレン皇女は頷いた。

「……わかりました。では宰相閣下の提議の通り――――」

一方オズボーン宰相の言葉に頷いたマクダエル議長は再び話し始めた。



「……これって……」

「……イアン先生が心配していた通りですか。」

その様子を左翼と右翼を結ぶ通路から見守っていたノエルは厳しい表情をし、ティオは疲れた表情で呟き

「鉄血宰相と大統領に押し切られてるって感じだね。聖魔皇女や殲滅天使も隙あらば2大国を出し抜こうとしているし。反論の糸口はないのかい?」

ワジは真剣な表情で呟いた後エリィに尋ね

「……実際、自治州法に様々な構造的欠陥があるのは事実なの。だからおじいさまにてもディーターおじさまにしても反論しにくいのでしょうけど……」

尋ねられたエリィは複雑そうな表情で答え

「―――だが、その構造的欠陥は70年前の自治州成立時に2大国から押し付けられたものだ。その上でのあの強引な発言は到底納得できるもんじゃないな……」

「ハッ、確信犯って事かよ。」

「……いずれこうなる事をずっと待っていたのかもしれないな。」

真剣な表情で説明を続けたロイドの話を聞いたランディは不愉快そうな表情をし、リィンは目を伏せて言った。

「…………………いずれにせよ、会議の内容は我々の関知するところではない。今は会議そのものが無事、終了することに集中しておけ。」

一方ダドリーは黙り込んだ後ロイド達を見て忠告し

「……はい、もちろんです。」

ダドリーの忠告にロイドは頷き

「それではまた、一通り巡回を―――」

エリィが提案しかけたその時、ダドリーのエニグマが鳴った。

「捜査一課、ダドリーだ。……エマ君か。いったいどうした――――なんだと……!?」

(……なんだ?)

(何かあったみたいね……)

通信をして声を上げたダドリーをロイドは真剣な表情で見つめ、エリィは不安そうな表情をしていた。

「―――”赤い星座”と”黒月”がそれぞれの拠点から動いたそうだ。一課の監視を振り切ったらしい。」

「なっ……」

「なんだと……!?」

そして通信を中断し、自分達に伝えたダドリーの話を聞いたロイドは驚き、ランディは厳しい表情で声を上げた。

「狼狽えるな。これも想定の範囲内の上、局長やルファディエルからも予めそうなると説明されている。何かあったら知らせるから引き続き警戒しておけ。」

「りょ、了解です。」

ダドリーの言葉にロイドは頷き

「―――ああ、そうだ。予め話していたが監視の者達はそのままにし、さらに予備の警官隊を動かしてもいいから……」

ダドリーは通信をしながらロイド達から去って行った。

「クソ……本当に動きやがったか……やっぱりルファディエル姐さん達の推測通りの真似をするつもりか!?」

ダドリーが去った後ランディは舌打ちをした後怒りの表情で声を上げ

「ランディさん……」

「ランディ、落ち着いてくれ。いくら”赤い星座”でもここに仕掛けるとは思えないし、局長達はその事を予想していたからこそ、動いている。」

ランディの様子を見たティオは心配そうな表情で見つめ、ロイドは諌めた後説明し

「そうね。ただ問題は局長達が一体どんな行動をしているのかなのよね……」

ロイドの言葉に頷いたエリィは考え込んだ。するとその時

「――――なんですと!?」

マクダエル議長の大声が聞こえてきた。

「今のは……?」

「お、おじいさま……?」

声を聞いたロイドは不思議そうな表情をし、エリィは戸惑った後仲間達と共に会議室を見つめた。するとそこでは信じられない議論が繰り広げられていた…………… 
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