衛宮士郎の新たなる道
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第6話 火に油を注ぐ
日時不明、某所。
世界の裏社会で名前だけが有名な殺し屋組織の頂点であるコズモルインは、本拠地が誰にも知られていない。
その誰にも知られていない本拠地の首領の部屋に、ある構成員が入ってきた。
「失礼します――――・・・・・・居ない。まさか・・・」
「ボスなら何時もの“ガス抜き”で出かけてるぜ?」
そこには先に部屋の中にいた別の構成員、通り名は百足と呼ばれている男が壁に寄り掛かっていた。
首領の気配は何時も通り読めないので兎も角、この男が既に部屋に居たのは感じ取っていた為、特段驚きも無い。
「またですか・・・」
「仕方ねぇだろ?この件については“あの御方”自身が了承――――いや、推奨されてんだからな。だが俺は疑問だぜ?“息抜き”なら判るが“ガス抜き”ってのは何の事――――」
百足の話の途中で彼女――――久宇舞弥は部屋を出て行ってしまった。
用があった人物が居ないのなら、此処には用は無い。
そして無駄口をお前と話す気も無いと、言わんばかりのドアの閉め方だ。
「ヤレヤレ、落ち着きがねぇな」
彼女を追わずに、そう嘆息するのだった。
-Interlude-
「相も変わらず今朝の朝食も美味いな!」
翌日の朝。
何時もと同じ時間に何時もと同じメンバーでの朝食中の衛宮邸。
「うむ。朝食は一日の元気の源、たくさん摂ってエネルギーを蓄えなければな!」
「あー美味い、本当にうまいんだが・・・・・・女として負けた気がしていく・・・」
新たな住人達も百代も既に慣れたもので、遠慮なしに大皿からおかずを取る・ご飯のお替わりをすると、勝手知ったる自分の家状態である。
しかしそうとなれば朝から餓えている野獣が黙っている筈がない。
「なら百代ちゃんのそのウインナー、頂きィ――!」
「だが断る!」
百代の皿に親友してくる大河の箸を、気でコーティングした自分の箸で迎撃する。
それをすかさず自分も気でコーティングして威力を拮抗させようとするが、百代の鉄壁を破れずに後退する羽目にあった。
「クッ、やるわね百代ちゃ――――って!?私のウインナー1本無くなってるわ!」
すかさずキッと大河が睨み付けたのは、右横で食べているエジソンだ。
「トーマスさんっ!私のウインナー、返してください!」
「何故私を犯人だと決めつけるのかね?」
「昨日の朝、私がトーマスさんのウインナーを盗み取った仕返しでしょ!?」
「ん?タイガは昨日、自分では無いと否定していなかったか?」
「あ・・・・・・・・・・・・っ!引っ掛けましたねっ!?」
シーマの言葉に我に返ってから反省の色見せる事も謝罪もせずに開き直った大河は、即座にエジソンを問い詰める。
しかし、それに対応したのはエジソンでは無く士郎だった。
「自分でボロ出して引っかけたって、横暴も良い所だろう?」
「うるさいわね!部外者は黙ってなさいよ!これは私とトーマスさんお問題なんだからね」
「ほぉ・・・。家主であり、食卓を統べる俺にそんなこと言うなんて、随分いい度胸だな?藤姉・・・!」
「ヒィイイイ!!?」
『南無・・・』
「彼女は親のとってはいい娘であり、友にとっては良き友人であり――――」
口を滑らせて衛宮邸でのルールを破った大河は、剣呑な空気を纏った笑顔の士郎に怯える。
そして百代とシーマは合掌。
エジソンは神父宜しく十字を切る。
まだ一週間も経過していない新人2人+1人の計3人とも、慣れた対応をする。
取りあえず3人は、首根っこを掴まれたまま何処かに引きずられて行く大河を黙殺する。
「誰か助けてぇえええええ!!?」
しくじった野獣の命乞いも聞かないふりして朝食を進めるのだった。
しかしこの何時もの光景になりだしたイベントのせいで、その時誰も聞いていなかった。
テレビから流れて来るニュースの情報に。
『――――昨夜未明の〇〇県〇〇市内の民家で、家族全員の変死体が発見された模様です。外傷も一切見られず、屋内の空気も煙などは微塵たりとも無いとの事で、警察は調査を進めているようです。ただこの様な件はここ数年程前から世界中で度々同様に何十件以上の変死体が発生している事から、謎が謎を読んでいるとも言われているそうです。続きましては――――』
この件で、士郎自身が関わる事になるとも知らずに。
-Interlude-
今日の百代は風間ファミリー達とでは無く、士郎とシーマと登校している。
3人の立ち位置としては士郎が真ん中に居る為、先程からシーマを女の子だと勘違いしている通行人達にとっては、2人もの美少女を誑かして公共のど真ん中で両手に花の状態を作り、侍らせた上に見せびらかしている屑野郎――――。
(何だあの野郎ッッ!)
(美少女は皆のモノだろうがッッ!)
(こっちは普通の女たちにもキモがられんのにィッッ!)
(それを2人も侍らせてるなんて、この世に神は居ねえのかッッ!!)
(視線だけで人を呪殺出来無いかなぁ?)
(今はせいぜい調子に乗ってろや!但しっ)
(月夜だけだと思うなよッ・・・!)
――――そんな妬み辛みと言う名の誤解を抱いて、士郎のみを血涙を流すように睨み付けて殺気を送っている者達も中には居た。
これにより士郎は悪寒を感じ、周囲を見渡す。
「!?」
「いきなり如何した?」
「・・・・・・・・・いや、何でもない」
そう気を取り直して投稿を再開して通学路である変態の橋に差し掛かったところで、別の殺気交じりの嫉妬の視線が士郎を襲う。
(衛宮士郎ッッッ!!!)
(去勢もせずお姉様の真横に居るなんて、分不相応なのよッッ!!!)
(愚物がッ!恥を知りなさいッ!!)
「っ!?」
今度こそはっきりと感じた士郎は再び周囲を見渡すと、そこには同じ川神学園の制服に身を包んだ女子生徒達に、後方に何人かの男子生徒達が自分を睨み殺さん位に殺意交じりにまっすぐこちらを見続けていた。
「?」
これに士郎は困惑を極める。
それは何故自分が彼らからそんな目で睨み付けられるか、身に覚えが微塵もないからだった。
しかし士郎には無くとも彼らには有る。
だが彼らは士郎に文句を叩きつけようとせず、ギリッと音が聞こえて来そうな位に歯を食いしばるだけだった。
理由はある。昨日の夕方の件で、次似たような事をすれば最悪停学だぞとくぎを刺されているが、そんな事位であればと彼らは反論した。
だが、この問題のある意味中心人物たちにも何かしらの注意を呼びかけねばならんなと言われた事により、片っぽは兎も角百代お姉様・モモ先輩には迷惑をかけるわけにはいかないと、断腸の思いでそれを了承したのだ。
そんな彼らの思いを知ってか知らずか、もう片方の人物である百代は、士郎に殺気交じりに睨み付けている彼らが自分のファン達である事に気付いた。
「オイ、お前――――ッッ!?」
そう声を掛けようとしたところで、百代も背筋に悪寒が走ったのを感じた。
その元凶は当人である士郎すらも知らない、衛宮士郎様愛好会のメンバーだった。
(雌犬がぁあああああ!!)
(抜け駆けなんてしてぇえええ!!)
(ぼきゅの士郎きゅんから離れろぉオオオオ!!!)
殺気交じりの睨み付けだけしかしていないのは、百代のファン達と同様の理由だ。
そして――――。
「っ!?な、なんだ?」
士郎と百代と共に登校中のシーマも、何故か悪寒を感じた。
その理由は、今迄の士郎と百代のファン達とは違い、固まらずに様々な方向からの熱がこもった視線によるものだった。
(シーマ君たら、可愛い♡)
(しーまきゅんたら、きゃわいい♡)
(囲いたい~♡)
(食べちゃいた~い・・・・・・グフ♡)
(やっべ、マジ押し倒したい系~)
ショタコンと正確には違うのだが男の娘好きのハイエナたちが、餓えている様に熱い視線を送っているのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・最後、誰か特定できそうな人物もいたような気がするが。
それは置いといて、恐らく既にシーマのファンクラブも出来上がっているのはまず間違いないだろう。士郎同様に本人の了承なしで。
そんな中から抜け出す為、シーマが行動する。
「シロウ、モモヨ、よく解らんが余は此処から速やかに離れたい!」
『あ、ああ・・・』
『『ッッッッ!!!!?!!!???』』
何が起こったかと言えば、シーマは逃げるように走って学園を目指した。
そしてシロウと百代はどちらがかは分からないが、どちらかが相手の手を握ってそれに続いたのだ。
その光景に士郎と百代のファン達は血涙を流すように嫉妬した上に、はらわたが煮えくり返る程の憤激にも駆られた。
だが勿論その激情を叩き付けらずに、3人の背を見送ることしか出来なかった。
しかし彼ら彼女らは誓うのだ。
何時かチャンスが来た時、必ずや血の報復を決行すると。
ただ言うなら、これは報復とは言わないのでは?と言う疑問が尽きなかったが。
-Interlude-
川神学園がちょうど昼休みに入った頃、川神駅ではある2人の女性が周囲の注目を集めていた。
「ふー、予定よりも早く来れたなぁ!」
「お前が急かしたからだろう?」
ドイツの猟犬部隊、副隊長のフィーネ・ベルクマンとセイヨウニンジャのリザ・ブリンカーである。
彼女たちは相当数溜まっていた有給休暇を使い、隊長であるマルギッテには隠してある目的――――即ち、テルマとリザの憤りの元凶たる士郎の戦力及び素行調査に来ていた。
本音は単純に2人とも基本男嫌いなだけではあるが、提案した本人とは言えフィーネからすれば溜まったモノでは無い。
だが今現代は世界中で男よりも女の方が強い時代なのだ。特に若い世代は。
なので個人的な興味もあった。ドイツの猟犬部隊の隊長で“猟犬”と言う異名で呼ばれている神童、マルギッテ・エーベルバッハを下した男がよりにもよって年下と言う事実に。
(さて、どんな男なのだろうか?)
そう考えに耽っていると、リザが露骨に呆れた顔をしている事に気付いた。
「如何した・・・なんて聞くまでも無いか?」
「そりゃそうだろう?さっきから周囲の視線が俺達に集まってる。それだけじゃなく男どもは露骨に俺達の体を隅々まで値踏みするかのような目だ。ま、今までと同じだな」
これだから男はと、吐き捨てるリザ。
フィーネもリザ同様、同じような目で見られてきた事は幾度もあるが、彼女は鉄の自制心で呆れる事すらもせずに黙殺している。
「だがこの周囲の視線は私達の服装も関係している部分もあるだろう。これ以上目立ち続けても得など有りはしないし、予約していた宿に行くぞ」
「そうだなー。俺ら日本なんて初めてだし、旅館や料理が楽しみだなー!」
気を取り直して、2人は速やかのその場を後にするのだった。
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