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Re:ゼロから始まる異世界生活

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一話 繰り返す四日間

 
前書き
……書いてみました。
次話を投稿するかは不明ですチ───(´-ω-`)───ン 

 
────雷鬼。
……あぁ、お前を救うまで俺は諦めないからな。
 繰り返される時間をナツキ・スバルは何度、体験したのだろうか?
 数えるのも馬鹿らしい程、ナツキ・スバルはその時をその日をその時間を繰り返し、何度も何度も殺されるのだ。
 それでもナツキ・スバルは諦めない。
 必ず、助ける。
 ────そう、約束したから。
 そして時は巻き戻り、ナツキ・スバルの異世界生活は再び始まる。
 これはRe:スタート。
 無限に繰り返され。
 死のループを繰り返し、そのループに気付かないナツキ・スバルの繰り返される四日間の物語である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ────あれ……?
 一瞬ボーッとして────?
 グサッ。
 
 「痛ってぇ!?」
 
 毎度お馴染みの光景だった。
 そんなお馴染みの光景を目の当たりにしたラムは。
 
 「また指を切ったのバルス?」
 
 「あぁー。今回も盛大にやっちまった」
 
 若干、涙目になりながら俺は切った指先を舐める。
 馬鈴薯の皮むき中に意識を逸らすとは俺も修行が足りないな。
 
 「大丈夫ですか、スバル君?」
 
 「なんのなんのこれくらいの傷なら唾でも付けりゃ治るよ」
 
 レムは心配そうに俺の指先を見つめてている。
 その優しさが胸に染みるぜ……どっかのバカ姉も少しは心配そうにしてくれてもいいのにな。
 「それにしても今日はやたらと忙しいな」
 
 さっきからずっと馬鈴薯の皮むきしてるけどその数は一向に減らず、レムはせっせと働き続けている。
 おい、そこの姉。ふかし芋ばっかりせず妹を手伝えよ。
 
 「あら、バルス。
 明日の事はロズワール様から聞いてないの?」
 
 「ん? なんの話だ?」
 「明日、ロズワール様のご友人のご令嬢が屋敷に遊びに来るそうです」
 
 ────初耳なんだけど。
 
 「へぇー。ロズっちの友人ねぇ。
 ……なんか想像するだけで」
 
 ヤバそう……いや、絶対ヤバイ奴だろ。
 
 「待てよ、友人のご令嬢……?
 って事は金持ち……?
 いや、それよりご令嬢?」
 
 「ロズワール様のご友人は来られないとの事です。
 明日いらっしゃるのはそのご友人の娘だそうです」
 
 「OK、それは理解した。
 でも、この馬鈴薯の件は?」
 
 明日の支度の準備って言うなら理解できるけど……この馬鈴薯の量は。
 
 「なんでもその方はとても馬鈴薯好きとの事で……念には念を入れてこの屋敷にある全ての馬鈴薯を」
 
 「いや、流石に多すぎでしょ!?」
 
 「念には念です。
 備えはあって損はありません」
 
 俺は調理済みの馬鈴薯料理と皮むき中の馬鈴薯を見て。
 
 「これだけあれば十分だろ。
 てか、後始末の事は考えてんの?」
 
 これだけの量だ。
 そのロズっちの友人の娘だっけ……?
 この量は無理だろ。如何にロズっちが変人でもその友人さんが変人とは限らない、この馬鈴薯の量を見たら仰天しそうだ。
 絶対、全部は食べ切れる訳ないし、その後の事を考えると。
 ────これは当分、馬鈴薯生活ですな。
 いや、馬鈴薯は嫌いじゃないよ?
 でも、この量はちょっとね……。
 
 「さて、次は……」
 
 レムは新たな馬鈴薯の調理に取り掛かる。
 
 「なんかレムの奴、妙に張り切ってるな」
 
 笑顔で馬鈴薯を調理するレム。
 うん、この世界に来て良かった~と思える至福の光景だ。
 
 「バルス、新しい馬鈴薯よ」
 
 「アンパンの顔みたいに言うな。
 ……ってまだこんなにあんのかよ」
 
 「まだまだあるから頑張ってね」
 
 「ちょっと姉様、ふかし芋を摘みながら言わないでくれる?
 お前の食った分の馬鈴薯の皮、俺は剥かないからな」
 
 「そう言わないのバルス。
 ほら、新しい馬鈴薯よ」
 
 ゴロゴロ────ゴロゴロ。
 うわぁ♪新しい馬鈴薯だぁ。
 
 「私は庭の清掃をしてくるからあとはバルスに任せるわ」
 
 「ちょっとバカ姉様?
 そう言って逃げるの止めてくれます?
 てか、そのポケットに隠したふかし芋を置いていけ!」
 
 どんだけふかし芋が好きなんだよ。
 
 「ちっ」
 
 「おいおい姉様。
 今、舌打ちしたよね?」
 
 「してないわ、空耳よ」
 
 そう言いつつラムはテーブルの置いてあったナイフを手に持ち馬鈴薯の皮を剥き始める。
 
 「少し手伝ってあげるわ。
 さっさと終わらせてお昼寝……庭の清掃をしなくては」
 
 「おい!遂にボロが出ましたね!?
 今、お昼寝って!」
 
 「空耳よ」
 
 そう言ってラムは馬鈴薯の皮をナイフで剥き始める。
 俺のその後を追って馬鈴薯の皮むきを再開した。
 指を切らない様に。
 以前、ラムから教わった方法で丁寧に。
 
 「少しは出来る様になったのね、バルス」
 
 「おうよ、伊達に馬鈴薯の皮むきしてねぇぜ!」
 
 「じゃあ……この林檎の皮も剥ける?」
 
 新たな課題を出すようにラムはテーブルに置いてあった林檎を差し出してきた。
 
 「おお、馬鈴薯で皮むきのコツは掴んだんだ。やってやるぜ!」
 
 俺は差し出された林檎を受け取り、皮むきを始める。
 ナイフを動かすんじゃない。
 林檎の方を動かすんだ。
 シュルシュルっと林檎の皮は向けていき最終的には。
 
 「よっしゃあ!
 これが俺の実力だぜ!」
 
 綺麗に皮の剥けた林檎をラムに見せつける。
 
 「どうよ、まあまあだろ」
 
 「そうね……まあまあかしら」
 
 「でも、バルスにしては上出来よ」
 
 完全に不意打ちだった。
 その時の笑顔……なんだろ。
 ズキュン……いや、ズキューンってきた。
 
 「? バルス?」
 
 「おっと!?
 いかんいかん俺とした事が」
 落ち着け、落ち着け。
 今はお仕事優先。お仕事優先っと。
 
 「さて、馬鈴薯の皮むき続行だ」
 馬鈴薯の皮むきを再開する。
 
 が、こんな作業はものの数分で飽きる。
 しかも剥いても剥いても数は一向に減らないとなると……モチベが下がる。
 少し、作業スピード落とし俺はレムの後ろ姿を観察する。
 レムは先程同様笑顔で馬鈴薯達を調理していた。
 あれだけの数に怯まずに……。
 ポテトサラダに似た何かや。
 フライドポテトに似た何か。
 コロッケに似た何か。
 なんかどっかで見たことあるような馬鈴薯を使った料理がズラーッと並べられていく。
 
 「なんであんなに楽しそうに料理してんだ?」
 
 「それは明日のお楽しみよ」
 
 独り言の様に呟いた言葉にレムはそう言った。
 
 「明日のお楽しみって……」
 
 少し、考え。
 山のように積み重なった馬鈴薯の存在を思い出す。
 考えるのは後でいいや。
 明日になればわかるらしいし今はこっちに集中しないと。
 そして、山のように積み重なった馬鈴薯達の皮むき全てを終えたのはこれから3時間後であった。
 
 「うう~ん、流石に疲れた……」
 
 大きく背伸びし、開放された地獄を思い返す。
 あんなに馬鈴薯の皮を剥くのは人生初体験だぜ。剥いても剥いても馬鈴薯の数は一向に減らねぇし……当分、馬鈴薯は見たくないな。
 ────グゥーッ。
 それにしても腹減ったな~。
 あれだけの重労働。
 流石にクタクタ……そりゃ、腹も減るよな。
 と言っても昼飯までまだ時間はあるし……そういやラムの奴、庭の手入れするって言ってたな。
 いや、正確には昼寝だっけ?
 まぁ、どっいでもいいや。
 とりあえず目的を決めて時間を潰さないとな。
 俺はラムが居ると思われる屋敷の外、庭に向かう。
 ラムの奴、仕事サボってねぇだろうな。
 ラムはやるべき仕事はきちんと?
 ……ある程度こなすそこそこ有能なロズっちの家に仕えるメイドだ。
 妹が有能過ぎるのも考えもんかね?
 妹、レムは姉、ラムのするべき事を奪っている……これは正しい言い方ではないな。
 レムは本来、ラムが出来ていた事をやっているだけだと前に言っていたけどそのお節介がラムを駄目にしてる気がする。
 
 「あら、バルス?」
 
 ご本人を発見した。
 どうやら昼寝……サボらずにちゃんと庭の掃除をしているようだ。
 
 「手伝いに……来たぜ?」
 
 ────なに、これ?
 
 「あのラムさん?
 これは一体?」
 
 「見て分からないの?
 庭の手入れをしているのだけれど」
 
 庭の……手入れ?
 この庭の状況を見てこれを庭の手入れと判断できるのは恐らく世界で一人ラムだけであろう。
 生い茂っていた芝生は全て枯れ。
 花の庭園の様に美しく咲き誇っていた花達は見る影もない。
 ────しかもなんで足場がこんなに凹凸になってるの!?
 
 「あの……お姉様?
 妹のレムは何処に?」
 
 「レムなら明日の仕込みをしてるわ」
 
 「まだしてんのかよ!?」
 
 どんだけ作る気だよ。
 そのロズっちの友人の……娘さんだっけ? いくら馬鈴薯好きでもあれだけの量を完食するのは無理だろ!?
 てか、今更ながらこの惨劇の風景も頷けるぜ。
 そりゃ、レムが居なかったらこうなるわな。
 普段はラムが手入れし終えた後、レムがその手入れした後を手入れする事で庭の清潔感は保たれていた。
 今、現在。
 この庭に清潔感なんてものはない。
 ある意味、地獄の連続だな。
 馬鈴薯地獄からの枯れた風景庭地獄……これはなんとかせねば。
 
 「よし、俺も『庭の手入れ』を修正……いや、手伝うぜ」
 
 「別にいいわよ。
 私一人で出来るわ」 
 
 珍しく断られた。
 普段なら「そう、なら任せるわ」とか言ってサボる……と思ったけど。
 
 「馬鈴薯の皮むきを手伝ってくれた借りもあるし、勝手に手伝わせてもらうぜ」
 
 「そう、ありがとう」
 そして黙々と庭の手入れ『修正』が始まった。
 ────グゥーっグゥー。
 あぁー。腹減った……。
 そろそろ昼飯の時間だけどこれを中断するのは……ちょっとね。
 せめて一段落付けたいところだ。
 喉も渇いたし、疲れた。
 
 「なぁ、ラム。
 そろそろ昼飯だろ? 一旦、休憩にしねぇか?」
 
 「あら、もうそんな時間?」
 
 どうやら時間を忘れて庭の手入れに集中していたようだ。
 ラムは服に付いた砂、土を払いながら言葉を返した。
 「そうね、一旦休憩にしましょう」
 そして昼飯は予想通り、馬鈴薯料理のオンパレードでした。
 だが、レパートリーは様々で馬鈴薯に飽きる事なく昼飯を終えた。
 
 「ふぅー。馬鈴薯を使った料理ばっかだったけど結構、美味かったな」
 
 「そうね。これなら当分、馬鈴薯料理でも私は構わないわ」
 
 「おっと……それは困りますな。
 てか、ラムも作り過ぎって思ってた?」
 
 「えぇ、最初から思ってたわ」
 
 「なら、作り過ぎって言えばいいのに」
 
 あれだけの量となると……いや、そうなる前に少し作り過ぎてる位から言ってやればよかったのに。
 
 「明日になればわかるわよ」
 
 ラムはそう言って庭の手入れ『補修』に戻る。
 俺もその後を追うようにスコップで土をすくい上げ、凸凹な地面を直していく。
 
 「明日になればわかるってさ。
 さっきも行ってなかったけ?」
 
 「言ったわよ」
 
 尚更、明日の客人が気になってきた。
 その客人は何者なんだ?
 レムが馬鈴薯料理を今も尚、続けているのはその客人が原因だろう。
 一体、何者なのかね……。
 考えても俺のちんけな脳みそじゃ、納得のいく結論は出ず、俺はラムにその客人に付いて聞く事にした。
 
 「その客人って何者なんだ?」
 
 「ロズワール様のご友人のご令嬢よ」
 
 「それは知ってる。
 それ以外だ」
 
 「それ以外?」
 
 「いや、だからさ。
 その何者なのかなって……?」
 
 ……そのロズっちの友人の娘に付いて全く知らない、知らなさ過ぎて変な質問になってしまった。
 
 「そうね……強いて言うなら神様かしら」
 
 ────はぁ?
 
 「神……様?」
 
 「そう、神様」
 
 ……神様……神様?
 その単語に困惑する。
 神様……空想上の存在。
 だが、この世界なら存在しても何ら不思議ではない。
 なんせここは異世界なんだから。
 
 「と言っても完全な神様ではないのだけれど」
 
 「話が読めないんだけど……」
 
 神様だけど完全な神様ではない?
 
 「神様……神様ねぇ」
 
 俺は神様なんて不確かな存在は信じていない……元の世界だったら。
 今、この世界でならどんな事が起きても納得できる様な気がするぜ。
 だからその神様って奴も居るのかも知れない……程度に話を進める。
 
 「ロズっちって神様の連れなの?」
 
 「連れ? 友人って事かしら。
 そうよ。ロズワール様のご友人らしいわ」
 
 「そこ、そこだよ。
 らしいって不確かじゃん」
 
 「そうね。私も実際に会った事はないのだけれど知っているわ。
 それに……」
 
 そこでレムの言葉は途絶えた。
 
 「なんだよ、超気になるじゃん」
 
 「神様は神様なの。
 そうね……不完全な、継承を終える前のお姫様と言った所かしら」
 
 「えっと……王様みたいな感じ?」
 
 「それでも間違いではないわ。
 さて、話はおしまい。掃除を続けましょう」
 
 結局、真相は分からずじまい。
 分かった事は明日、屋敷にやってくるロズっちの友人の娘さんをレムは慕っている、その来日を楽しみにしている。
 ラムも表情には余り出てないけど若干、嬉しそうだった。
 結局、何者なのか。
 明日になればわかる。
 何故だろう────このざわめきはなんなんだろう。
 
 「明日になれば、わかるか」
 
 空を見上げ、胸のざわめきを払うようにラムの汚した庭を修正した。
 
 
 
 ────雷鳴が、響き渡る。
 
 降り注ぐ雷は大地を砕き、爆音を轟きかせる。
 
 ────雷鳴が、響き渡る。
 
 吹き荒れる豪雨に、雷の槍。
 少女は一人、立ち尽くしていた。
 まるで誰かの帰りを待っている様な……。
 
 ────雷鳴が、響き渡る。
 
 少女は立ち尽くしている。
 空を見上げ、ただ……立ち尽くしている。
 
 ────雷鳴が、響き渡る。
 
 見上げる空の空の先、少女はそれを見透かす様にその場を立ち尽くしている。
 
 ────雷鳴が、響き渡る。
 
 少女は空を見上げ続ける。
 変わる事のない空模様を見続け、少女は笑みを零し……数滴の雫を垂らした。
 
 ────雷鳴が、響き渡る。
 
 少女は笑っている。
 その笑顔に偽りはなく……その涙に真実はなかった。
 ただ、一人。少女は空を見上げ続けるのだ。
 
 **************
 
 
 「────バル君……スバル君」
 
 この声……レムの声だ。
 あれ……もしかて俺…寝てた?
 
 「……レム?」
 
 閉じていた瞼を開き、俺は周囲を見渡した。
 まだ、寝ぼけてるのか……なんか頭が回らない。
 
 「こんな所で寝ていたら風邪を挽いてしまいますよ?」
 
 「大丈夫、馬鹿は風邪なんて惹かないから。いや、でもそれだと……」
 
 「どうしました?」
 「いや、もし風邪を挽いたらレムとラムが看病してくれるかな……とかなんとか」
 
 「さぁ、それはどうでしょう」
 
 ちょっと意地悪な笑みでレムは俺に手を差し伸べる。
 俺は差し伸べられた手を掴むと。
 
 「少なくとも私は看病します」
 
 と耳元で小声でレムは呟いてきた。
 ────やば、顔真っ赤になってねぇよな!?
 突然の言葉にドキッとしてしまった。
 いや、あんな可愛い子に耳元で……しかも小声であんな事言われたら大抵の男はノックアウトする!
 
 「どうかしましたか?」
 
 「い、いや。なんでも」
 
 ふぅー。
 俺は平然差を取り戻し、軽くストレッチを……一に三、四っと。
 頭もスッキリしてきた。
 確か……ラムと一緒に庭の手入れして……。いや、あれを手入れと言うのか?
 まぁ、その辺はいいとして。
 一旦、休憩する事になって……あぁ、そのまま寝ちまったて訳ね。
 いやー。太陽の適度な日差しに心地よい風、絶好の昼寝日よりだったわけですよ。
 睡魔に負けて寝ちまった。
 
 「あれ、ラムの奴は?」
 
 確か、俺の隣で先に寝ちまってたような。
 
 「姉様なら先程、屋敷に戻られていましたよ」
 
 「アイツ、俺を起こさずに先に戻ったのかよ……起こしてくれればいいのに」
 
 「きっと……起こせなかったんだと思いますよ」
 
 「え?」
 
 「なんでもありません、スバル君も戻りましょう」
 
 なんだろう……。
 うむ、まぁ、なんだ。
 俺の手を引っ張るレム、流される様に俺は歩き。
 俺はレムの手を握った。
 するとレムは笑顔でコチラを見つめてきた。
 ────あぁー。これは風邪かもな。
 顔が熱い……そう、多分この症状は風邪だ。
 俺はそう決めつけ、レムと一緒に屋敷に戻った。
 
 
 
 
 
 
 繰り返す、やり直す、覆す。
 とある魔道書にはこう記されている。
 遥か昔、魔女が魔女と呼ばれる前の事。とある魔女は自身の体内に現在の時間を複製し、時間を遡る魔法を研究していた。
 体内に現在の時間を複製とは。
 その名の通り、術者が体験、体感している時間の複製である。
 これが可能と成れば好きな時に、好きな過去の時間を行き来できる。
 魔女は時間を研究し、魔法の完成に全てを注いだ。
 だが、それは失敗に終わってしまう。
 どうしても好きな時間に戻れないのだ。
 それさえ無ければ魔女の長年の夢も成就したのに……。
 魔女は自身に絶望し、燃える大地に身を投げ、今でも燃える大地の奥底で自身の無能さを嘆いているとされている。
 1つ言える事は。
 この魔道書に記されている魔女は天才である事。
 魔女の中でも禁忌とされている時間渡りを可能にした魔女。
 その名を────色彩の魔女。
 彼女に名前はない。あるのは存在していた存在を記されていた記録のみ。
 彼女を知る者は居ない。
 故に、彼女の存在は大きい。
 歴史の闇に消された?
 元々、そんな魔女は存在せず、空想上の存在だった?
 どちらもありえる話だ。
 だが、もし……色彩の魔女は時渡りの魔法を完成させていたら?
 好きな過去の時間を行き来し、今でも生きる屍として時間を遡っていたならば?
 ────色彩の魔女。
 存在は不確かで存在するのかすら分かっていない最悪の魔女。
 七つの大罪と同等の力を有するとされる彼女は過去を遡り、知識を貪る。
 色彩を拘り、全ての物に色を与えたとされる色彩の魔女。時間を遡り、知識を貪り続ける色彩の魔女。
 色彩の魔女は複数の伝説を体験し、全ての伝説を目撃した歴史の体験者とされる色彩の魔女。
 色を彩る彼女、色を与え続け。
 彼女は更なる色を求め、自身の色を書き換える。
 彼女を記憶する者は存在しない。
 最古から伝わる魔道書に記されていただけで彼女の存在を確かめる方法はない。
 だが、彼女の存在を証明する手掛かりは残っている。
 それを辿れば彼女……色彩の魔女の存在は不確かな者から確実な者になる事だろう。
 最も、それをするには異世界からの異邦者の手を借りられればの話だが。
 
 ────ここは……。
 
 色彩彩る洋風の大部屋にナツキ スバルは現れた。
 スバル本人には目を開けた瞬間、別の空間に転移された……そんなイメージに近い。
 
 「ようこそ、少年」
 
 振り向くとそこには────。
 
 「魔……女?」
 
 それは本能に近かった。
 美しい女性……それをスバルは魔女と認識してしまった。
 いや、認識できてしまった。
 
 「おやおや、そんな怯えなくても……。私は君に興味なんて微塵も感じてないから」
 
 魔女は微笑し。
 
 「うー?
 それにしてもアンタ変わってるねぇ?」
 
 ────これ、なんだ……?
 
 ナツキ スバルの全身は無数の手で撫でられていた。
 ────これは……ペテルギウスの!?
 
 「ペテルギウス……?
 ペテルギウスって……誰だ?」
 
 「ありゃ、記憶を書き換えられる呪ねぇ。
 それと繰り返しの呪……まだあるねぇ」
 
 闇の手。
 影の手はナツキ スバルを貫いた。
 外傷はない、その手はナツキ スバルから何かを抜き出し透き通っていった。
 
 「おや、まぁ……これはこれは」
 
 スバルから抜け出された何かは文字の塊となり、魔女の手元に収められた。
 
 「少し、君の記憶をコピーさせてもらったよ」
 
 おかしい……。
 なんだ────ペテルギウスって誰だ?
 魔女教……?
 王選……?
 ────エミリア……!?
 そうだ、なんで忘れてたんだ。
 
 「おや、君……なるほど」
 
 不敵な笑みで魔女はスバルの顎を『見えざる手』で引いた。
 
 「これは滑稽だ……いやぁ、君は愛されてるんだね」
 
 「愛されてい……いる?」
 
 忘れるはずのない記憶を俺は忘れていた。
 なんで忘れてたんだ?
 思い出そうとしても思い出せない。
 
 「七つの大罪、七人の魔女に」
 
 ────七つの大罪……?
 
 ────────七人の……魔女────?
 
 その言葉は俺の心を揺さぶった。
 そうだ……俺は俺達は魔女教の奴らと鉢合わせして、それで……。
 それから後の事は思い出せない。
 いや、思い出せなかった。
 
 
 「君は七つの大罪を知ってるかな?」
 
 「……」
 
 「そんな恐い顔しなくても大丈夫だよ。私は君に興味はないからね。
 取って食おうとか、君で遊んでるとか、そんな気は全くないから」
 
 魔女は俺に対して全く興味はないようだ。
 言葉から、俺に対する態度から感じ取れる。
 
 「さて、話を戻すけど。
 君は────」
 
 「知ってるよ、漫画で読んだ事あるし」

 「漫画……?
 それは書物かな?」
 
 聞いたことのない単語に魔女は興味を持った様だ。
 
 「あぁ、俺の元いた世界で超有名な本だぜ!」
 
 
 ナツキ スバルは無理矢理テンションを上げた。
 思い出せない記憶の事もあるけど今はこの状況を把握しないと。
 
 
 「まぁ、知っているなら話を進めやすくていいけどさ」
 
 「で、お前って何の魔女?」
 
 「む、お前って何さ。
 私は君より歳上なんだけど……」
 
 「おっと、その言葉から察するにこの世界にも歳上を敬うがあるのね~へぇ、そうなんだー」
 
 「急に態度が変わったと思ったら口調まで……まぁ、さっきよりはマジだけど」
 
 そして魔女は『見えざる手』らしきものを使って椅子を持ってきった。
 
 「まぁ、座りなよ。
 私が座ってるのに君が立ってるのはねぇー」

 ────ペテルギウスと同じだ。
 
 それと似た何かと最初は思った。
 だが、数回あれを見て分かった。
 アレはペテルギウスの使っていた『見えざる手』だ。
 
 「どうしたの?
 早く座りなよ」
 
 「あぁ、そうさせてもらうぜ」
 
 警戒しつつ、俺は椅子に座った。
 すると見えざる手からティーカップを差し出された。
 
 「うぉ!?」
 
 突然の見えざる手に俺は恐怖しすっ転んでしまった。
 見えざる手。
 あの手にいい思い出なんてない。
 あるのは激痛と苦痛……そう考えると俺は目の前の魔女を嫌悪しそうになる。
 コイツはペテルギウスじゃない。
 でも、それと同じ手を持っている。
 数回、奴の手で殺された記憶が蘇る……。
 俺を殺したのはコイツじゃない。
 でも、あの手と同じ手を持ってる……恐怖……怒りを感じながら俺は椅子に座り、ティーカップを受け取った。
 
 「どうしたの??」
 
 「……」
 
 「あっ。もしかしてびっくりした?
 」
 
 「……」
 
 「無言で、それにそんな眼差しでコチラを見つめられも……ねぇ」
 
 はぁ、っと魔女は溜息を付き。
 俺の持つティーカップにお茶を注いだ。
 勿論、自分の手ではなく『見えざる手』で。
 
 
 「お前、この手は……?」
 
 「またお前って……あっ。
 そう言えばまだ名乗ってなかったね」
 
 魔女は「うっかりしてた♪」
 なんて可愛子ぶって。
 
 「私の名前はラードーン。
 よろしくね!」
 
 ────ラードーン?
 初めて聞く魔女の名前だ。
 それに……コイツ、俺の知ってる魔女とだいぶ印象が違う。
 俺の知ってる魔女は、そう根暗な奴らで……こんな明るい奴じゃない。
 
 「むぅ……変な名前だと思ったでしょ?」
 
 「思った」
 
 「君は正直者だね、ナツキ スバル君」
 
 ────あれ、俺……コイツに名前名乗ったけ?
 
 「あぁあぁ。そのちょっと困惑してる表情なんて最高だね。
 なんで俺の名前知ってるの?みたいな」
 
 「じゃあ、率直に聞くけどなんで俺の名前知ってんの?」
 
 「さっき言ったでしょ。
 君の記憶をコピーするって」
 
 
 そう言えば……そんな事を言ってた様な……。
 この話の流れから推測すると魔女 ラードーンは俺の記憶をコピーして名前を知ったって事なのか?
 
 「あぁー。君の個人情報全てを知った訳じゃないから安心してね。
 コピーと言ってもほんの一部しかコピーできないから私が知ったのは君の名前と最近あった出来事くらい」
 
 「結構プライバシーの侵害されてるんですけど!?」
 
 「むむぅ。君は私の知らない言葉を使ってるね。君の記憶を一通り見終えたけど意味の解らない言葉ばかりだ」
 
 「そりゃ、俺は別の世界からやってきたわけですし。君の知らない文化や言葉を知っている訳ですよ」
 
 「────別の世界?」
 
 その言葉にラードーンは興味を示した。
 
 「君はもしかして異世界人なの?」
 
 「異世界人……まぁ、この世界が異世界ならそうなるな」
 
 突如、ラードーンの背後に無数の見えざる手が現れた。
 その数はペテルギウスの所有していたものより多く……その手は全て俺に向けられていた。
 
 
 「相変わらず、君に興味はないけど。君の記憶と知識に興味を持った。
 だからちょこっとだけ複製させて?」
 
 見えざる手は俺の足を掴み、動きを封じ。
 見えざる手は俺の頭を固定した。
 
 「ちょ? 離せ!んだこりゃ!?」
 
 「大丈夫、君に危害は加えないから。すぐに終わるからじっとしててね」
 
 見えざる手は俺の身体を透き通った。
 まただ、最初にアイツの見えざる手が身体に触れた時の感触。
 心地よいなんて事はない。
 何か、自分の大切な物を抜き取られる様な……そんな感覚に吐き気を感じながら俺は頭を掴んでいる見えざる手を噛んだ。
 
 「痛った!?」
 
 妙に女の子ぽリアクション。
 そして見えざる手は消えていった。
 
 「何んすんのさ!?」
 
 「いや、それはこっちの台詞だよ!
 お前こそ何いきなり人を拘束してんの!?」
 
 「ちっ。いいじゃんちょっと位」
 
 「いいわけあるか!」
 
 少し拗ねた素振りで女の子は見えざる手からクッキーを受け取り、ポリポリとかじる。
 その仕草はリスぽい。
 ────なんか俺の知ってる魔女とは典型的に違うな。
 なんて言えばいいのだろう。
 大人しいっ言えばいいのかな?
 
 「何、
 人の顔をジロジロ見てブツブツ言ってんの?」
 
 「いや、なんでも。
 ちょっと他の魔女に比べて大人しいな~なんて思っただけだ」
 
 「……その口振りだと私以外の魔女に会った事があるっぽいね」
 
 「おいおいさっきお前、俺に七人の魔女に愛されてるとかなんとか言ってたろーが」
 
 「それとこれとは話が違うよ。
 君に面識が有ろうと無かろうとあの魔女達なら君を────」
 
 
 ラードーンは口を閉じ。
 
 「さて、話を戻すよ」
 
 「いや、待て。続きが超……」
 
 その言葉は拒絶された。
 なんだこれ……口から言葉が出てこない?
 
 「さっき私の手で君に触れた時ちょっと呪を追加させてもらった。
 私と会話する時、私が話したくない事を口に出すなってね」
 
 「……」
 
 それが発動中なのか、口から言葉を発せようにも口がパクパクと動くだけで言葉は出ない。
 
 「さて、まずは七つの大罪からかな。いや、君は知ってるんだっけ?
 なら、今は省略するとしよう」
 
 「待て、お前は────」
 
 また、言葉はかき消された。
 
 
 「────何者なんだ?
 とか古臭い事、言おうとしたでしょ」
 
 「…………」
 
 「その反応からするに図星だね」
 
 ラードーンは意地悪そうな笑顔で。
「むふふっ」なんて笑みを零しながら。
 
 「言ったでしょ、私の名前は『ラードーン』魔女よ」
 
 「それは知ってる、俺が知りたいのは────」
 
 お前はなんの魔女だ?
 そう発する前に口は呪によって塞がれた。
 
 「何度も言うけど無駄よ」
 
 見えざる手は俺の唇をチョッんと触り、消えていった。
 完全に遊ばれてる。

 「七つの大罪。
 七人の魔女に七つの罪は架せられた。
 『暴食』
 『色欲』
 『強欲』
 『憂鬱』
 『憤怒』
 『怠慢』
 『虚飾』
 『傲慢』
 これらの罪を架せられた魔女達は罪を犯し、罪を悔やみ続ける……」
 
 「ちょっと待て……俺の知る、七つの大罪とは少し違う」
 
 口が開いた。
 この話題はラードーンの話したくない事ではないようだ。
 
 「何が、違うの?」
 
 「怠惰……そう、怠慢ってなんだ?
 俺の知る限り、その怠惰って位置付けは怠惰だった」
 
 「怠惰……あぁ、新たに派生した七つの大罪だったかな。
 君の知ってる七つの大罪は新しい七つの大罪でね。君の、その……なんて言ったかな────そう、怠惰だっけ?
 あれは罪を犯し終え、罪を償い切れなかった哀れな魔女の事だよ」
 
 「……全く、理解できないんですけど」
 
 「うーん。これは小難しい話だからね。理解しろと普通の人間に言っても無理だよね、ごめん」
 
 ラードーンはぺこりと頭を下げた。
 なんでだろう。謝られたのにイライラが治まらない。
 アイツが俺の完全に見下しているからだろう。
 
 「あーっとね。それならこの手」
 
 ラードーンは見えざる手を出現させ。
 
 「この手、何か解る?」
 
 ペテルギウスの見えざる手……。
 魔女教『怠惰』担当のイカレ野郎の能力だ。
 それを目の前の魔女 ラードーンは平然と使っている。
 
 「多分、この手はその怠惰の魔女の遺した遺産だと思うんだけど?」
 
 「────え、ちょっと待て!」
 
 「なに?」
 
 「怠惰の魔女が遺した……遺産?
 待てよ、それはペテルギウスの『見えざる手』だろ?」
 
 「ペテルギウス……?
 もしかして怠惰の福音書を手にした信徒かな?」
 
 「怠惰……の福音書?」
 
 福音書……魔女教の奴らが持ってるあれの事か……?
 
 
 「そう、怠惰の福音書。
 その持ち主に選ばれた信徒ならコレを使えると思うんだけど」
 
 「じゃあ……見えざる手はペテルギウスの能力じゃなかったのか」
 
 「それは少し、違うね」
 
 新たに見えざる手からクッキーを取り出し、ラードーンは口にしながら。
 
 「福音書を与えられた瞬間か『見えざる手』は持ち主に刻まれる。
 例え、福音書を失おうと見えざる手はそのままだ」
 
 「なら、お前のその手は?」
 
 「むぅ?
 この手? この手はね、僕が創ったんだ」
 
 更なる疑問に頭を悩ませる。
 ────落ち着け、色んな意味で落ち着け、俺。
 
 「じゃあ、その手は『見えざる手』とは別物って事でOK?」
 
 「うーんとね。そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるかなー」
 
 「どっちだよ!?」
 
 「まぁまぁ落ち着きなよ、スバル。怒ってもこの状況は変わらないよ?」
 
 コイツに言われると余計イライラするんですけど!?
 いかんいかん落ち着かねば……。
 俺は隣の小さなテーブルに置いていたティーカップに目を向け……警戒しながら触れる。
 
 「毒なんて入ってないよー」
 
 そう言われると余計に怪しんだが……。
 俺はティーカップを念入りに確認し、注がれていたお茶らしき水分を凝視する。
 ────それにしてもいい香りのする紅茶だな……。
 なんだろう……なんか無茶苦茶、喉が乾いてきた。
 
 「それにしても君はこの手を敵視しているようだね。
 怠慢担当の信徒のせいかな?」
 
 「…怠慢じゃなくて怠惰だ」
 
 「どってでもいいよ。
 私が知りたいのは君はこの手を敵視してるかどうかだ」
 
 「────はっきり言うぜ。
 大嫌いッだ。ぶっ殺し足りない位に……」
 
 その時、中途半端に思い出し掛けていた記憶を思い出した。
 
 「ありゃ……流石に刺激し過ぎたかな?」
 
 ────ぇ?
 ───────なんだ……これ?
 
 
 俺の身体を腕が貫いていた。
 見えざる手……それは次々に俺の身体を貫通し、切り裂いた。
 
 「ごめんね、今回はここまでみたいだ」
 
 見えざる手は俺の頬を撫でる。
 その感触は温かくて……優しい手付きだった。
 
 「手荒でごめんね、君を終わらせるにはこれしか方法はないんだ」
 
 「今はお休み、また四日後会おう」

 「私は何度でも待ってるから」
 
 
 「だから今は────お休み」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「痛ってえ!?」
 
 痛覚を発する指先を慌てて確認し、俺は毎お馴染みテンプレの状況で苦笑いする。
 
 「また指を切ったのバルス?」
 
 「あぁ、今回も盛大に────」
 
 ────あれ?
 
 「どうしたのバルス?」

 「……いや、何でもない」
 
 なんだろう……この違和感は。
以前もこんなやりとりをした様な……。
 指なんて切り慣れてるし、その度に同じ言葉を何度も掛けられてるんだ。
 デジャヴみたいなもんかな……。
 
 そうしてナツキ スバルの日常は繰り返される。
 抜け出すことのできないRe:スタートする四日間に。
 彼は何度、体験すればその偽りの日常に気付けるのか?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 

  
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