英雄伝説~菫の軌跡~(閃篇)
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第5話
~貨物列車内~
「……だ、だまされた……せっかく家を出たと思ったのに掌の上だったなんて……」
「どうやらお母さんとは上手く行ってないみたいだな?」
肩を落として疲れた表情になったアリサを見てルーレ駅でのアリサとイリーナ会長のやり取りを思い出したリィンはアリサに親娘関係を尋ねた。
「ええ……見ての通りよ。……何というか、昔から折り合いが悪くてね……士官学校に入ったのも実家を出たからなんだけど……―――まさかあの人が理事をしている学院だったなんてっ!ああもう、バカバカッ!なんでもっとちゃんと調べなかったのよ~っ!?」
「その、何というか……」
「うふふ、ご愁傷様ね、アリサお姉さん♪」
自分を責めているアリサをリィンは心配そうな表情で見つめ、レンはからかいの表情で声をかけた。
「ぐっ……というかさっきから気になっていたけど、レンは母様と知り合い同士のようだったけど、一体どういう関係なのかしら?それによくよく思い返してみたら、シャロンとも初対面じゃなかったみたいな会話をしていたし。」
レンの言葉に唸り声をあげたアリサはジト目でレンを見つめてイリーナ会長とレンの関係を訊ねた。
「うふふ、士官学院に来る前のレンは”とある人物”の専属護衛みたいな仕事をしていてね。その人がイリーナおばさんとも知り合いのようだから、その関係で知り合いになったのよ♪」
「へ………」
「”仕事”だと?」
「しかも専属護衛と言っていたが……」
「フィーと知り合いの関係である事から何となく予想はしていたけど…………まさかレンもフィーのように猟兵団に所属していた事があるのか……?」
レンの口から出た予想外の答えにアリサが呆けている中まだ14歳のレンが既に仕事に就いていた事もあるという事に違和感を感じたユーシスは眉を顰め、ガイウスは考え込み、ある仮説をたてたリィンはその仮説があっているかどうかをレンに訊ねた。
「ええっ!?そ、それはありえないんじゃないの?レンの出身はリベールだし。」
「……?レンがリベールの出身である事がどうして猟兵団に所属している事がありえない事に繋がるのだ?」
「リベールは猟兵の雇用を法律で禁止しているからだ。当然自分達の仕事を法律で禁止され、下手をすれば滞在しているだけで犯罪者扱いされる国を拠点にするような酔狂な真似は普通に考えてしないだろう。」
リィンの推測を聞いて驚いている様子のアリサの言葉の意味が理解できていないガイウスにユーシスが説明をした。
「うふふ、レンが猟兵団に所属していたことがあるかどうかはヒ・ミ・ツ、よ♪レンの魅力の一つはミステリアスな所が多い事もその一つなのだし♪」
そしてウインクをして答えを誤魔化したレンの答えを聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「なにその意味不明な自画自賛…………」
「ハハ…………」
我に返ったアリサはジト目でレンを見つめ、リィンは苦笑していた。
「ふむ……そこまで嫌がることか?」
一方アリサの様子が気になったガイウスは不思議そうな表情で尋ねた。
「その……色々あるのよ。昔から、仕事人間のくせに私には変に干渉してきて……口では好きにしろとか言いつつ、今回みたいに手を回してきて……はあ……変だと思ったのよ。お祖父様から頂いた学費口座が入学以来、減ってないんだもん……」
ガイウスの質問に答えた後溜息を吐いたアリサの話を聞いたリィン達はアリサの迂闊さに冷や汗をかいて呆れた。
「という事は、お母さんが払ったということか……」
「理事をしているのだからその程度の融通は利くでしょうね。」
「フン―――いいじゃないか。その程度の干渉くらい、ありがたく思うべきだろう。」
「なっ……!?」
ユーシスの指摘を聞いたアリサは信じられない表情でユーシスを見つめた。
「あの場に現れて、俺達に挨拶しただけまだマシというものだ。―――完全な無視よりもな。」
「あ……」
「……ユーシス。」
ユーシスとユーシスの父親であるアルバレア公爵の冷え切った親子関係を思い出したアリサやリィンは心配そうな表情でユーシスを見つめ
「……フン。つまらん事を言ったようだ。」
リィン達に見つめられたユーシスは鼻を鳴らして何でもない風に装った。その後シャロンからもらった昼食を食べ終えたリィン達は列車の乗組員と会話をしていた。
「――へえ、士官学校の実習なんかで高原に行くのか。軍人のタマゴってのも色々と大変なんだなぁ。」
「はは……まあ、それなりには。」
「普通の士官学校としてはかなり異例だと思うのだけどねぇ。」
乗組員に感心されたリィンやレンはそれぞれ苦笑していた。
「しかし、あの時のお前さんがそんな制服を着ているなんてなぁ。馬子にも衣裳っていうか、なかなかカッコイイじゃないか。」
「そうか……ありがとう。」
乗組員の賛辞の言葉にガイウスは静かな表情で頷いた。
「ガイウスは背が高いから士官学院でも目立つよな。」
「そうね、2年の先輩を含めてもかなりの高さじゃないかしら。」
「ノルドの民というのは皆、お前のように背が高いのか?」
「いや、オレより背が高いのはオレの父くらいだろう。弟は小柄の方だが……これから伸びるかもしれない。」
ユーシスの質問に答えたガイウスは故郷にいる兄弟たちの顔を思い出した。
「ガイウスは確か兄弟が多いんだったわよね?」
「弟一人に、妹が二人いる。人見知りするかもしれんがよろしくやってくれ。」
「うふふ、わかったわ。」
「しかし段々、ノルド高原に近づいてきた気分になってきたな。」
「フッ、確かにな。」
「は~、何だか羨ましいねぇ。―――今、ちょうどアイゼンガルド連峰の半分くらいまで来ている。ゼンダー門まで2時間くらいだからもう少しのんびりしててくれ。」
「ええ、わかりました。」
「よろしくお願いする。」
そして乗組員はその場から去って行った。
「春に士官学院に来るときに知り合ったのか?」
乗組員が去ると乗組員がガイウスを知っていた様子を思い出したリィンはガイウスに尋ねた。
「ああ、その時も同じ貨物列車でな……帝国の習慣についても色々と教えてもらった。」
「ふふ、なるほど。」
「ずっとノルド高原で暮らしていたガイウスお兄さんにとっては凄く助かったでしょうね。」
「ああ、オレを士官学院に推薦してくれた恩人も含めて色々な人に世話になっている。これも風と女神の導きだろう。」
「風と女神か……」
「はは、ガイウスらしいな……」
その後列車はようやくリィン達の目的地である”ゼンダー門”に到着した。
16:30―――
~ゼンダー門~
「おお、やっと到着したか。」
リィン達が改札を出ると隻眼のエレボニア将校がリィン達に近づいてきた。
「あら、おじさんは確か……」
「中将……ご無沙汰しています。」
エレボニア将校の顔をよく見たレンは目を丸くし、ガイウスは軽く会釈をして挨拶をした。
「うむ、数ヵ月ぶりになるか。士官学校の制服もなかなか新鮮ではあるな。”トールズ士官学院”……深紅の制服は初めて見るが。」
「これが自分達”Ⅶ組”の象徴である色だそうです。」
(………どうやら帝国正規軍の将官の方みたいね……)
(ああ、中将という事はこの門の責任者なんだろう。)
(しかし隻眼か……どこかで聞いた事があるような。)
ガイウスと親しく話している様子の将校をリィン達は興味ありげな表情で見つめ
「ふむ、そしてそちらが……」
「ええ、オレの級友で”Ⅶ組”の仲間になります。」
リィン達を見回した将校にガイウスは頷いて説明した。
「―――士官学院Ⅶ組、リィン・シュバルツァーです。」
「初めまして、アリサ・ラインフォルトです。」
「ユーシス・アルバレア。お初にお目にかかる。」
「レン・ブライトよ。こうして顔を合わせて挨拶をするのは初めましてになるわね、隻眼のおじさん♪」
「ぬ……?”ブライト”………―――!まさかお主はカシウス准将の………」
リィン達の自己紹介の後に自己紹介をして声をかけてきたレンの言葉に眉を顰めた後何かに気づいた将校は驚きの表情でレンを見つめ
「うふふ、そのまさかよ♪――――それとおじさんとは2年前にもハーケン門で顔は合わせているわよ。」
「2年前…………それもハーケン門だと………?―――!あの時か……!フフッ、面白い顔ぶれが集まっている事は噂には聞いていたが、まさかお主もガイウスの級友だったとはな。」
レンの指摘を聞いて不思議そうな表情をした将校だったがすぐに心当たりを思い出し、苦笑しながらレンを見つめていた。
「へ……」
「もしかして中将もレンと知り合いなのですか?」
一方将校の言葉を聞いたアリサは呆け、ガイウスは目を丸くして将校に訊ねた。
「うむ。実際に顔を合わせて話す事自体は初めてだがな。―――帝国軍、第三機甲師団長、ゼクス・ヴァンダールだ。以後、よろしく頼む。」
「”隻眼”のゼクス……!」
「アルノール家の守護者か……」
将官―――ゼクス中将が名乗るとリィンとユーシスはそれぞれ目を見開いてゼクス中将を見つめた。
「ほう、私の名を知っているようだな?」
「アルノール家の守護者……」
「それって確か……」
「……”ヴァンダール”といえば、皇族・アルノール家を守護する武門の一派として有名だ。そして”隻眼”のゼクスといえば、帝国正規軍で五本の指に入る名将とも聞き及んでいる。」
「”アルゼイド流”と並ぶ帝国における武の双璧……その、お目にかかれて光栄です。」
「ハハ、そう持ち上げられるほど大層な人間ではないのだが。おぬし達の話も聞きたいがさすがに時間も時間だ。今日中に帰るつもりならすぐに出発した方がいいだろう。」
「ええ、そのつもりです。すみません。お願いしていた件は………?」
ゼクス中将の言葉に頷いたガイウスはゼクス中将を見つめ
「うむ、用意してあるぞ。」
ゼクス中将はガイウスの問いかけに頷き、その様子を見守っていたリィン達は首を傾げた。
「?何をお願いしていたのかしら。」
「えっと、今日中にガイウスの実家に行くのよね?」
「ああ、そのために移動手段を中将に用意していただいた。」
「フフ、ついてくるがいい。」
そしてゼクス中将について行ったリィン達が外に出ると遠くも見渡せるほどのノルド高原の牧歌的な景色が見えた。
~ノルド高原~
「こ、これは―――」
「………………」
「ノルド高原の事は話には聞いていたけどまさかこんなにも雄大な大地がゼムリア大陸にまだ存在していたなんて、正直驚いたわ………」
「鉄路の果て……遥かなる蒼穹の大地……いや―――言葉は不要か。」
ノルド高原の景色に圧倒されたリィン達は呆け
「フッ、気に行ってくれたようで何よりだ。」
リィン達の様子を見たガイウスは口元に笑みを浮かべた。するとその時軍人達が馬を連れてきた。
「馬……もしかして。」
「そうか……馬で集落まで移動するのか。」
「ああ、高原での移動は馬がないと成り立たない。馬術部のユーシスはもちろん、リィンとアリサ、それにレンも乗れると聞いていたからな。」
リィンとユーシスの推測に頷いたガイウスは説明をしてリィン達を見回した。
「あ、うん。たぶん大丈夫だと思うわ。」
「俺も実家で乗っていたから大丈夫だ。……って、レンも乗馬経験はあるのか?」
アリサと共に乗馬経験がある事を肯定したリィンはある事が気になり、レンに訊ねた。
「ええ、勿論あるわよ。レンは何でもこなす”天才”なんだから、一回乗馬すれば十分よ。」
レンの自画自賛の答えを聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ハハ……よし……さっそく乗らせてもらうか。」
そしてリィン達はそれぞれ馬に騎乗した。
「よーし、どうどう。」
「……いい馬だな。」
「ウフフ、いい子ね。」
「ホントに乗馬経験は一回しかないのかしら……?どう見てもかなりの経験者のように見えるわよ?」
騎乗したリィンとユーシスはそれぞれ馬を宥め、自分達のように長年の経験者のような様子で騎乗している様子のレンをアリサは疑惑の目で見つめていた。
「フフ……大丈夫そうだな。」
クラスメイト達の様子を見守っていたガイウスは安堵の表情で微笑んだ。
「いずれもノルドの集落で育てられた駿馬だ。1時間もかからずに集落までたどり着けるだろう。―――そうだ。地元のガイウスはともかく。お主たちにはこれを渡しておくとしよう。」
「え……」
ゼクス中将はリィン達にノルド高原の地図を渡した。
「わぁ……!」
「ずいぶん詳細でわかりやすい地図ね。」
「なるほど、軍の測量で作成した物というわけか。」
「うむ、実習の時に役立てるといいだろう。」
「……とても助かります。」
ゼクス中将の好意にリィン達はそれぞれありがたく受け取った。
「――さて、そろそろ出発するといい。風と女神の加護を。長老とラカン殿によろしくな。」
「はい。」
「わざわざのお見送り、ありがとうございました。」
「それでは失礼する。」
そしてリィン達はゼクス中将に別れを告げ、ノルド高原へ馬を走らせ始めた――――
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