真田十勇士
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巻ノ五十 島津家の領地その七
「この通りじゃ」
「甲斐や信濃と比べても」
「比べ様がありませんな」
「甲斐も信濃も確かに耕地は少ないですが」
「山ばかりで」
「しかしその盆地には田畑がしかとある」
狭いながらもというのだ。
「水もよい」
「しかしこの大隅は」
「こうした土地です」
「火山灰で水も悪い」
「これではですな」
「甲斐や信濃より貧しい」
それも比べものにならないまでにというのだ。
「だから戦もし兵も強い」
「薩摩隼人達は」
「そうした訳があるのですな」
「その通りじゃ、このことも関白様にお伝えしよう」
大隅や薩摩の様もというのだ。
「どうして戦をするかな、そしてな」
「そして?」
「そしてといいますと」
「民達を見たな」
幸村は今度は彼等のことを話した。
「そうじゃな」
「はい、見ればです」
「あの者達はです」
「島津家に懐いていますな」
「それもかなり」
「この地は古くから島津家が治めている」
日向、大隅、薩摩の三国はというのだ。
「それも幕府よりも前にな」
「室町にあった」
「あの幕府よりもですな」
「先にこの薩摩にいて」
「大隅にも」
「そして治めていた」
「だからですな」
十勇士達も言う。
「この三国はですか」
「完全に島津家の領地ですか」
「あの家が主ですか」
「島津家以外の主はな」
それこそというのだ。
「考えられぬ」
「左様ですか」
「そこまでですか」
「三国の民は島津家に懐いている」
「深く」
「関白様も島津家は滅ぼさぬおつもりじゃが」
秀吉は大名を滅ぼさないことでも知られちる、土佐の長宗我部氏にしても土佐一国を安堵されている。毛利家もこれは同じである。
「その通りじゃ」
「ですか、戦になろうとも」
「島津家は滅ぼせない」
「そうなのですな」
「大隅や薩摩はな」
とてもというのだ。
「他の家では治められぬ」
「到底」
「そうした国ですか」
「どちらも」
「そうとしか考えられぬ」
全く以てというのだ。
「拙者にはな」
「確かに。大隅を見ますと」
「そうとしか思えませぬな」
「やはりここは島津家の国です」
「他のどの家の国でもありませぬ」
「そういうことじゃ、ではな」
ここまで話してだ、幸村は。
桜島を見た、そしてこうも言った。
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