衛宮士郎の新たなる道
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第5話 忘れていたクライシスコア
放課後。
グラウンド上では数十人以上生徒達が二つに分かれて睨みあっていた。
双方とも男女が混じっているが、片方は圧倒的に女子生徒が多数を占めている。
そんな剣呑な状況下、彼らは自分たちのある主張で口論になっている。
「―――何度言えば分かるのよ!あの獣が百代お姉様を騙したんでしょうがッ!!」
『そうよ、そうよ!』
『そうだ、そうだ!』
百代を庇いながら何かしらの理由で誰かを糾弾する言葉。
如何やらか彼らは百代のファンクラブ会員の様だ。
しかしもう一方も黙ってはいない。
「――――頑なに認めないのはそっちだろ!?士郎きゅんに色目使って、何処かに誘い出したのは間違いなくあの百代なんだからなっっ!!」
「そうだ、そうだ!」
『そうよ、そうよ!』
此方は衛宮士郎様愛好会の会員達だった。
因みに今、檄を飛ばしたのは男。
「百代お姉様に向かってあばずれですって!?」
「士郎きゅんをケダモノ扱いだと・・・・・・ハァ、ハァ♪――――って、違う!士郎きゅんに押し倒されたいのはこの俺だッーーーーー!!」
「私こそお姉様に食べられたいわよッーーーーー!!」
よく解らないが一触即発状態である。
如何してこんな事になったかと言うと、夕方のHR終了直後にまで遡る。
3-Sの担任が教室から去った直後、百代が前側のドアの辺りに来ていたのだ。
そして一言目自体がいきなり拙かった。
「士郎!とっとと行くぞ~」
『・・・・・・え?』
それに対して。
「百代・・・・・ちょっと位待てないのか?」
『・・・・・・ん?』
この2人の無自覚な呼び合いの変化に、周囲がお約束の絶叫をして今に至るいう訳だ。
因みに魍魎の宴の開催も丁度している頃であり、口論こそしていないが少しばかり似ている状況だった。
此処に居るのは全員男であり、その中の大半が士郎の写真から顔の部分だけをくり抜いて、藁人形に張り付けて丑の刻参りをしていた。
「美人は皆のモノ、美人は皆のモノォオオオオオオ!」
「なんで・・・アイツ・・・ばっ、かりッ・・・モテんだ、チッキショぉぉオオオオオオ!!」
「爆発すればいいのに、爆発すればいいのに――――」
呪詛の言葉を吐いていた。
しかし川神学園には男が好きな男も少なからずいるので、中には士郎の顔写真では無く、百代の顔写真を張り付けている者達も居た。
「この、雌犬っがぁあああああ!!」
「僕チンの士郎きゅんを誑かしやがってぇえええええ!!?」
こんな風に何時もの競売を始めずにこんな事になっていた。
中にはガクトもいたが、何時もの彼の押さえ役であるモロは今日は居なかった。
こんなカオスを知らず知らずのうちに作った元凶達はと言うと、現在川神院に居た。
「セイ、ヤッ、トォ!」
「喰らう、カっ!」
一撃一撃が数多の武芸者達を沈めてきた百代の主砲、川神流無双正拳突きである。
それを士郎は、いなして躱し捌きつつ、時には後ろに後退しながら衝撃を抑えながら、ものすごい速度で後退していく。
しかし百代はいなされては突進し、避けられては突進し、捌かれては突進し、衝撃を受け流されてはより前へ進んで行く。
傍から見れば士郎の防戦一方の形に見えるが、士郎視点でのこの組手の目的は百代の戦闘衝動を一定以上まで抑えるためのガス抜きである。
その為、必要以上に士郎が攻めに出る必要はないのだが、ただ防戦だけに徹していると百代がふて腐れるので仕方なくその辺を見極めた上で攻撃もしている。
その時、士郎の正拳が百代の鳩尾にもろに突き刺さった。
「がっ・・・・・・ぇぇ、あだっ!?」
しかし瞬間回復もあるので一瞬で全快だが、何故か百代は士郎の拳骨を頭から喰らう。
「な、何する――――」
「態と受けたろ?」
「な、何のこと――――」
「次やったら、もう無し――――」
「わかった、すまなかった!」
この組手が今の百代にとって何よりも変えがたい時間であるた為、無しにされる位なら素直に謝る様になった。
それをヤレヤレと肩を竦めた士郎は呆れるが、百代は怒られたこと自体も嬉しそうだった。
友人や舎弟は年下ばかりで怒られてもなんか違うし、爺やルー師範代や最近は全く顔を見なくなった元師範代の釈迦堂さんも何かしっくりこなかった。
だが士郎は違う。
同い年の筈なのに、まるで父親のような存在としても認識していた。
だから今回の様な時は以前とは違い、子ども扱いされても不快な気持ちなど微塵も湧いて来なくなっていた。
「フフ・・・!」
それ故自然と笑みも零れる。
だが士郎としては気味が悪い。
「如何して笑ってるんだ?これでも怒ってるんだぞ?」
「いや、別に笑った訳じゃ――――」
そんな2人の様子を遠くから生暖かい目で見る者達が居た。
それは川神院の修行僧達である。
「いやー、今日で二回目だが未だに信じられんなー」
「確かに・・・。百代と互角に渡り合える奴が同い年に居たなんてな!」
「いやいや、俺が言いたいのはそこじゃないんだ」
「?じゃあ、一体何ですか?」
「あの百代が乙女の顔をしてるんだよ。しかも恋する乙女だなー、ありゃ?」
『えぇええええええええ!!?あの男勝りがぁあああああ!!?』
「お前らそれ、セクハラだぞ?」
幸い、いわれ放題の百代は士郎との会話に集中しているので聞こえていなかった。
その鍛錬場から離れた鉄心の自室にて、士郎の護衛としてついてきたシーマと部屋主が将棋をしていた。
「・・・・・・お主ルール覚えたてなのに、何でそんなに強いんじゃ?」
「生前の事は微かにしか覚えていないが、何度も戦場で大将を務め事がある気がするのだ。故に、このような遊戯版の戦術遊戯、容易に事を運ばせられるわ」
まだ向かい合って5分も経過していないにも拘らず、既に鉄心は二回も黒星を喰らっていた。
因みに鉄心はシーマの正体も聞いている。
何の英霊かも不明だとも聞いているが、目を見れば大抵(基本男のみ)如何いう性分か見極められるので、編入についても即時了承したのだ。
そんな鉄心だが、負けているとはいえ楽しそうである。
最近将棋していた相手は、色んな意味で痛いトコを付いて来る雷画ばかりだったので、凄く楽しそうだった。
「待った!」
「またか・・・。仕方ないなぁ」
こうして何度も待ったを許してくれているのだ。
その上で既に二回も負けている鉄心もある意味凄いが・・・。
その2人を置いといて、話を士郎と百代へと移す。
今日の組手を終えた士郎だったが、何故か動きが鈍かった。
「・・・・・・・・・」
「如何した?」
「川神学園の方から、剣呑な空気を感じないか?」
「ん?・・・・・・確かに、そんな気配だが・・・じゃあ、如何するんだ?」
「・・・・・・・・・」
百代の質問に士郎は押し黙る。
何故その程度で士郎は学園に戻るのを忌避しているかと言うと、単なる経験則からくる危機感知である。もっと簡単に言えば嫌な予感がするのだ。今行けば確実に酷い目に遭うと。
割りと真剣に如何するか決めかねている士郎に対して、百代は清水寺の舞台から飛び降りるというよりも、国会議事堂に突貫する気持ちで恥ずかしげな気持ちに整理をして口に出す。
「な、なぁ、士郎・・・」
「ん?」
「その、なんだったら、この前言ってた膝枕を――――」
「まさか、して欲しいのか?」
士郎の言葉に顔を真っ赤にさせながら恥ずかしそうに頷く武神。
「今、行き、たく、無いなら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いい・・・か?」
「まぁ、時間を少し潰さなきゃならないからな。いいぞ」
即座に縁側で正座する士郎は、自分の膝を叩いて何時でもバッチ来い体勢となる。
それを未だに顔を真っ赤にさせながら、失礼すると小声で断ってから自分の側頭部を士郎の膝枕へと預けた。
「~~~~~~ッッッ」
お世辞を言っても士郎の膝は只固いだけだ。
しかし何かしらの効果でも働いているのか、百代はこれまで頭を預けたどの枕よりも病みつきになりそうな感覚に襲われた。
更には幸福と言う名のある奇襲が百代を襲う。
「どうだ?寝心地の方は?」
「ッッッ!!!??」
ただ質問するだけでは無く、この状態で頭を撫でて来るのだ。
恋人でもない男からの反則技に、百代はたちまち心の中でノックアウト宣言をした。
願わくば、この時間が一秒でも長く続いてくれと願うほどに。
しかし百代は気付いていなかった。
少し離れた所から、数人の修行僧達にニヤニヤ顔で観察されていた事に。
因みに、士郎が学園に戻る前に、第一グラウンドを占拠している二つのファンクラブは教師の小島梅子とルー・リーにより、教育的指導の下で全員鎮圧されたのだった。
-Interlude-
鎮圧された二つのファンクラブと違い、魍魎の宴はそれに巻き込まれる事なく撤収できたという連絡をガクトから受けたモロは、一応安堵した。
そして携帯をしまって使用可能のエリアから出て、先程まで居た病室に戻るためにモロは足を進める。
今現在モロがいる所は、葵紋病院である。
定期的に育て親である祖父の付添いとして病院に通うモロではあるが、今日はその日では無い。
ではなぜモロが病院に来ているかと言えば、自分が体調不良に陥ったから――――と言うワケでは無い。
以前祖父の付添い時に、たまたま遭遇したのだ。彼女に。
『師岡君、友達とはもういいの?』
「うん、大丈夫だよ。天谷ちゃん」
『もう、ちゃん付けなんていいって言ってるのに・・・』
「そうは言うけど、天谷ちゃんもボクの事を君付けで呼んでるし、おあいこでしょ?」
『フフ、そうだったわね!』
楽しそうに談笑する2人だったが、彼らは触れ合う事叶わずに、とても厚い壁に阻まれている。
モロと透明な壁越しで談笑する彼女の名は『天谷ヒカリ』
この病院に数年前から入院している。
彼女の体は都市部の汚染された空気には適応できず、呼吸困難に陥る重い病だ。
それをきっかけに、世界でも珍しく治療法が確立していない別の病気にもかかっているので、今いる特殊な病室から出れないままなのだった。
それ故、日を重ねるごとに彼女の感情面が激減するなどしていたが、モロとの出会いにより笑顔を取り戻してきているのだった。
それを知ってか知らずか、モロは祖父に心配掛けさせない時間ギリギリまで彼女と談笑していくのだった。
後書き
予告みたいなものでしょうか。
風間ファミリーの中で最初に魔術の世界に巻き込まれるのはモロです。
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