英雄伝説~菫の軌跡~(閃篇)
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第一章~鉄路を越えて ~蒼穹の大地~ 第3話
6月26日、実習当日:早朝――――
実習日の早朝、リィン達A班は玄関に集合した。
~トリスタ・第3学生寮~
「―――しかし驚いたよ。まさか”ノルド高原”が実習地に選ばれるなんて。」
「確か士官学院を設立したドライケルス大帝ゆかりの地でもあるんだったわよね?」
「ああ、”獅子戦役”の折、大帝が挙兵した場所だったな。」
「逆に言うと、そのくらいしか知らない場所だけど……」
「ノルドの地については行きの列車で説明しよう。とにかく長旅になる。片道、8時間以上列車に揺られることになるだろう。」
リィン達が実習地についてそれぞれ話し合っている中、ガイウスが今後の方針を答えた。
「8時間も列車だなんて面倒ねぇ……」
「まあ、得がたい経験にはなりそうだな。」
実習地までかかる時間の長さにレンが疲れた表情で溜息を吐いている中ユーシスは動じていない様子で答えた。
「そうなると……到着は夕方近くになるのか。」
「うーん、お店でパンとか買った方がいいのかしら?」
リィンの推測を聞いたアリサが昼食の用意を考え込んだその時
「ふふっ……それには及びませんわ。」
”ラインフォルトグループ”から出向している”ラインフォルト家”に仕えているメイドにしてリィン達Ⅶ組専用の寮―――第3学生寮の管理人を務めているメイド――――シャロン・クルーガーがバスケットを持ってリィン達に近づいてきた。
「むっ……」
シャロンの登場にアリサはジト目になってシャロンの行動を警戒し始め
「おはよう、シャロンお姉さん。」
「そろそろ俺達も出発するつもりです。」
「はい、お気を付けていってらっしゃいませ。それと、よろしければこちらもお持ちください。」
シャロンはアリサの様子を気にせずリィンにバスケットを差し出した。
「これは……」
「サンドイッチと、ポットに入れたレモンティーでございます。朝食を用意できませんでしたので列車でお召し上がりいただければ。」
「うふふ、こんな朝早くにわざわざ用意をしてくれてありがとう♪」
「すみません、助かります。」
「気が利くな、管理人。」
「ありがたく頂戴する。」
シャロンが用意した朝食にアリサを除いたA班のメンバーはそれぞれ感謝の言葉を述べ、
「いえいえ、皆様のお世話がわたくしの役目ですから。」
シャロンは謙遜した様子で答えた。
「はあ、すっかり管理人として馴染んじゃってるし……あれだけ反対したのにまんまと外堀を埋めたみたいね?」
一方アリサは呆れた表情で溜息を吐いてシャロンを見つめた。
「ふふっ、滅相もない。―――――お嬢様、どうか道中、くれぐれもお気を付けください。このシャロン、一日千秋の思いでお待ちしておりますわ。」
「はいはい、気を付けるわ。……って、シャロン。あなたまた何か企んだりしてないわよね?」
「……?何のことでございますか?」
ジト目のアリサに見つめられたシャロンはアリサの行動の意味が理解できず、不思議そうな表情で首を傾げた。
「ち、違うならいいんだけど。……まあいいわ。それじゃあ行ってくるわね。」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
「それじゃあ、行ってくるわね。」
「留守中、よろしくお願いします。」
そしてリィン達はシャロンに見送られて寮を出た。
「ふわ~……A班も行ったわね。」
A班が寮を出るとサラ教官がシャロンに近づいてきた。
「サラ様、お早うございます。起きていらっしゃったのならお見送りされればよろしいですのに。」
「ま、”特別実習”は当日の朝から始まってるからね。指導・評価する側としては色々と気を遣ってるってわけよ。」
「なるほど、道理でございますね。」
サラ教官の説明を聞いたシャロンは納得した様子で頷いた。
「―――それより、一つ質問。”アナタの方”はいつ戻ってくるわけ?」
「ふふっ、サラ様はお鋭くて困ってしまいます。―――そうでございますね。お嬢様がたの実習が終わる頃までには、とだけ。」
「なるほどね。」
その後寮を出たレン達が駅構内に入るとB班のメンバーが構内にいた。
~トリスタ駅~
「あ、リィンたち!」
「皆さん、おはようございます。」
「そっちも出発か。」
リィン達に気付いたエリオットは声を上げ、エマは会釈し、マキアスは呟いた。
「ああ、そうだけど……」
「えっと……」
リィンとアリサは微妙な空気をさらけ出しているラウラとフィーに視線を向けた。
「……なに?」
「そちらは乗車券を購入しなくていいのか?」
「いや……うん、そうだな。」
「今回、帝都までは一緒の列車だし……」
ラウラの言葉にリィンとアリサは頷き
「とっとと購入するぞ。」
ユーシスに促され、レン達はそれぞれ切符を購入した後ホームに向かうと放送が入った。
まもなく2番ホームに帝都行き旅客列車が到着します。ご利用の方は、連絡階段を渡ったホームにてお待ちください。
「えっと……タイミングが良かったわね。」
「ふふっ、そうですね。」
「……そうだな。」
「……ん。」
微妙な空気をさらけ出し続けているラウラとフィーの様子にリィン達は冷や汗をかいた。
(相変わらずのようだな。)
その様子を見ていたユーシスは小声で呟き
(まあ、こちらのことは心配しないでくれ。あの二人のこともエリオットとエマ君と協力して何とかフォローしてみよう。)
(ちょ、ちょっと難しそうな気もするけど……)
(マキアスさんとユーシスさんの時と比べれば、まだマシですから恐らくフォローできると思います……)
(そうか、わかった。)
(よろしく頼む。)
マキアスとエリオット、エマの言葉にリィンとガイウスはそれぞれ頷いた。その後レン達は列車に乗り込み、席に座るとシャロンからもらった朝食を食べ始めた。
~列車内~
「へえ……このサンドイッチ、美味しいな。」
「ハム、レタス、チーズ……それにピクルスも挟んでいるのか。」
「うふふ、シンプルな素材を下ごしらえが引き立てているわね。塗っているバターも一工夫しているでしょうね。」
「紅茶の淹れ方も完璧……レモンの風味と甘さもいい。なかなか大したメイドを雇っているじゃないか?」
クラスメイト達がそれぞれ朝食の感想を言い合っている中、クラスメイト達と同じように満足した様子で紅茶を飲んでいたユーシスは感心した様子でアリサを見つめた。
「雇っているのは母だけどね。ま、実際メイドとしては大したものだと思うわよ。家事全般に各種接客はもちろん、RFグループ会長である母のスケジュール管理もしてたから。」
「どう考えてもメイドさんの仕事じゃない気がするんだが。」
「うふふ、シャロンお姉さんの事だからそれらも全て”メイドですから”って答えるだろうけどね♪」
アリサからシャロンの説明を聞き、メイドとしての範疇を超える仕事をしているシャロンの能力の凄さにクラスメイト達と共に冷や汗をかいたリィンは指摘し、レンはからかいの表情で指摘し
「ええ、それだけ優秀なのにどうして私の所に来るんだか……どう考えても母様と一緒に何か企んでるとしか……ブツブツ。」
二人の指摘に頷いたアリサはジト目で独り言を呟き始め、アリサの様子を見たリィン達は冷や汗をかいた。
「まあ、好意は素直に受け取っておくべきだろう。」
「そうだな、こうして朝早くに用意するのも大変だっただろうし。」
「わ、わかってるってば。……それより……ねえ、あっちの方なんだけど。」
ガイウスとリィンの指摘に気まずそうな表情で頷いたアリサは隣の席に座っているB班のメンバーの様子を見つめた。
「しかし”ブリオニア島”か……古代文明の遺跡があるらしいがどういった場所なんだろうな?」
「そう言えば僕、海ってみるの初めてなんだよね。委員長はどうなの?」
「私は山の中にある秘境で育ちましたから、私も海を見るのは初めてですね。ラウラさんとフィーちゃんはどうなんですか?」
マキアスはこれからいく実習場所がどんなところなのか考え、エリオットに話を促されたエマは答えた後ラウラとフィーにも話を促し
「……ふむ。私も見たことがないな。」
「わたしはあるけど。」
話を促された二人はそれぞれ真逆の答えを口にした。
「ほう、そうなのか?」
フィーの答えを聞いたラウラは目を丸くした後フィーに尋ねたが
「ん、団の上陸作戦について行った時に。」
「…………………………」
フィーの説明を聞いて目を細めて黙り込んでフィーを見つめ、その様子を見ていたマキアス達は冷や汗をかいた。
「そ、そう言えばラウラ。君の故郷の”レグラム”にも遺跡があるんじゃなかったか?」
「確か……”聖女のお城”だったっけ?」
そして場の空気を変えるかのように質問したマキアスにエリオットは続いた。
「ああ……”ローエングリン城”だな。レグラムの街から見える湖に面した壮麗な古城でな。霧の晴れた日など、あまりの美しさに溜息が出るくらいだ。」
「へえ~……」
「それは一度、見てみたいな。」
「ええ……一体どんな景色なんでしょうね?」
ラウラの説明を聞いたエリオット達はそれぞれ興味ありげな表情をしていたが
「んー……腕のいい狙撃手に陣取られたらやっかいそうな場所だね。」
「…………………………」
フィーの推測を聞いて真剣な表情でフィーを黙って見つめるラウラの様子を見て冷や汗をかいた。
「うーん、苦戦してるな……」
その様子を見守っていたリィンは疲れた表情をし
「フン、思った通りか。」
「はぁ、フィーにも悪気は無いんでしょうけど……」
「ラウラお姉さんもいちいちフィーの答えに反応しているものねぇ。」
「確かに、いつも泰然としている彼女らしくはないな。」
ユーシス達はそれぞれB班のメンバーを心配した。その後列車は帝都ヘイムダルに到着し、他の列車に乗り換えるリィン達は列車を降りた。
~ヘイムダル中央駅~
「帝都ヘイムダルの玄関口……相変わらず、巨大すぎる駅だよな。」
「帝国どころか、大陸最大の駅と聞く。大小合わせて10もの路線が集まる場所は他にはないだろう。」
「初めてここで乗り換えた時は人の多さに唖然としたが……さすがに早朝は人が少ないな。」
「まあ、出勤時間にはまだ早いからでしょうね。」
ガイウスの意見に頷いたレンが推測したその時、疲れた表情をしたマキアス達がリィン達に近づいてきた。
「……すまない。何だか自信がなくなってきた。」
「ちょ、ちょっと。あきらめるの早すぎない?」
「まだ、実習地にもついていないのですよ?」
マキアスの言葉を聞いたエリオットは慌て、エマは不安そうな表情で指摘し
「フン、不甲斐ないな。」
ユーシスは呆れた様子でマキアスを見つめた。
「ま、まあ、無理はしないでくれ。」
「A班、B班共に全員無事に戻ってくること……それが何よりも重要だろう。」
「そ、そうだな。」
「危険な状況に陥らないようそれだけは気を付けておくよ。」
そしてそれぞれの目的地に向かうA班とB班は向かい合った。
「コホン、それじゃあここでお別れだな。」
「B班が向かうのは西……海都オルディス方面の路線か。」
「俺達A班は北東……鋼都ルーレ方面の路線になるな。」
「ガイウスの故郷かぁ……土産話、楽しみにしてるから!」
「ああ、そちらこそくれぐれも気を付けてくれ。」
男子達は互いの顔を見てそれぞれの無事を祈った。
「アリサさん、レンちゃん。どうかお気を付けて。」
「その、お互い元気な顔で再会できるようにしましょう。」
エマとアリサは互いの無事を祈ったが
「フィーとラウラお姉さんはマキアスお兄さんとユーシスお兄さんの時のように学院生活どころか実習地でも喧嘩して周りの人達やエマお姉さん達に迷惑をかけないように気を付けてね♪」
「………うむ、気を付けておく。」
「ん。」
レンは笑顔を浮かべてある意味爆弾同然の発言を口にし、それを聞いたリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ラウラとフィーはそれぞれ視線を合わせずに頷いた。
(二人に注意する前にレン自身もラウラからフィーの時と同じような目で見られている事に気づいていないのかしら?)
(フン、むしろ気づいていてわざと煽っているのだと思うぞ。)
(ううっ……レンちゃんはB班じゃなくて本当によかったです……もし、互いに微妙な雰囲気になっているフィーちゃん、レンちゃん、ラウラさんの3人が揃ったらユーシスさんとマキアスさんの時以上に苦労したでしょうし……)
(まあ、フィーとラウラの事は置いておいて昔の知り合いらしいレンとフィーの関係は良好の上レン自身もラウラの事はなんとも思っていなく、ラウラだけがレンに対して何か思う所があるだけだから、あの二人の時よりはマシだと思うけど……)
(確かにレン自身はラウラに普通に話しかけていたな。)
(というかレンは何で僕とユーシスが喧嘩していた事を知っているんだ?)
(言われてみればそうだよね……?レンがⅦ組に来たのはついこの間だし。)
ジト目のアリサの小声に答えたユーシスは呆れた表情でレンを見つめ、疲れた表情で呟いたエマに指摘したリィンの推測にガイウスは頷き、マキアスの疑問を聞いたエリオットは戸惑いの表情でレンを見つめていた。その後A班、B班共にそれぞれが乗る列車へと向かった。
「え……………………」
それぞれが向かい始めたその時、黒を基調とした学生服を身に纏う清楚な黒髪の少女が駅に現れてリィンの背中を見つめた。
「あら……?どうしたの、エリゼ。」
その時少女と同じ学生服を身に纏った金髪の可憐な女子生徒が少女に近づいてきた。
「ひょっとしてカッコいい男の人でもいた?貴女のお兄さんみたいな。」
「またそんな……その、知り合いに似た人を見かけただけです。朝早くに帝都にいる訳がないので見間違いだとは思うのですが。」
「ふぅん……知り合いねぇ。―――それはそうと……ふふっ、否定しないんだ?貴女のお兄さんがカッコいいってことは♪」
少女の答えに納得いっていない様子の女子生徒は口元に笑みを浮かべてからかいの表情で少女を見つめた。
「も、もう……知りません!まったく姫様は……教えるんじゃありませんでした。」
女子生徒に見つめられた少女は頬を赤らめた後恥ずかしそうな表情で女子生徒から視線を逸らしたが
「うそうそ、怒らないで。お詫びに貴女にマリアージュ・クロスの新作をプレゼントしちゃうから♪」
「って、大人の女性向けの下着じゃないですかっ!」」
女子生徒の話を聞くと頬を赤らめて反論した。
「クスクス……」
するとその時帝国正規軍・鉄道憲兵隊の将校にして”鉄血宰相”ギリアス・オズボーン直属の”鉄血の子供達”の一人――――”氷の乙女”クレア・リーヴェルト憲兵大尉が微笑みながら二人に近づいてきた。
「す、すみません。クレア大尉……」
「ごめんなさい。呆れさせてしまったかしら?」
「ふふ、とんでもありません。―――まもなく、離宮行きの特別列車が到着いたします。今日一日、お供をさせて頂くのでどうかよろしくお願いします。」
「ふふっ、こちらこそ。」
「よろしくお願いいたします。」
そして少女と女子生徒はクレア大尉とホームに向かい、列車に乗り込んでどこかへと向かった―――――
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