英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
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第22話
~雨・旧市街~
「待てや、コラ。」
獰猛そうな声を聞いたロイド達が振り向くとヴァルドがロイド達を睨んでいた。
「あ……」
「ヴァルドか。」
ヴァルドを見たロイドは声を上げ、ワジは静かな表情で呟いた。
(えっと、この人は……?)
ヴァルドの事を知らないノエルはエリィに小声で話しかけ
(サーベルバイパーというチームをまとめている人だけど……)
話しかけられたエリィは複雑そうな表情で答え
(ロイド、彼は知り合いか?)
(……ああ。ただ彼が用があるのは俺達ではなく恐らく―――)
リィンに小声で尋ねられたロイドは静かに頷いた後答えたかけたその時
「ヴァルド、どうしたんだい?あんまりチームの方にも顔を出していないそうじゃないか。」
ワジは口元に笑みを浮かべて言った。
「……るせえ。俺のことはどうだっていい。それよりも、てめえ……サツの犬になりやがったらしいな?どういうつもりだ……アア?」
「どういうつもりも何も……テスタメンツのみんなは納得してくれたし、他の誰にも迷惑はかけていないけど?」
ヴァルドに睨まれたワジは静かな笑みを浮かべて答えた。
「てめえ……本気で言ってんのか?このオレ様と……ヴァルド・ヴァレスと決着付けずにチームを抜けようなんざ……許されると思ってんのか、アア!?」
「…………………………」
ヴァルドの叫びにワジは何も答えず
「ヴァルド、待ってくれ!」
「その、これには事情が……」
ワジをかばうかのようにロイドとエリィがヴァルドに話しかけたが
「やめとけ、2人とも。そいつの目にお前らは写っていない。言うだけ無駄だ。」
ヴァイスが制止の声をかけ
「し、しかし―――」
ヴァイスの制止の言葉を聞いたロイドは反論しようとしたその時
「るせえ!外野はすっこんでろ!」
ヴァルドはロイド達を睨んで怒鳴り
「ワジ、てめえがどんな狙いでサツに入ったのかは知らねぇ……だがな――――まさか五体満足で旧市街から抜けられるとは思ってねえだろうなァ!?」
自分の武器を肩に担いでワジを睨んで怒鳴った!
「……!」
「くっ……」
「こ、困ったわね……」
「……………………」
ヴァルドの行動を見たノエルは厳しい表情をし、ロイドは唇を噛みしめ、エリィは溜息を吐き、エルファティシアは静かな様子で目を伏せた。
「―――ヴァルド。」
その時ワジは静かな表情で言った後自分から進んでヴァルドの正面に移動し
「お、おい、ワジ!?」
ワジの行動を見たロイドは焦った。
「いいから任せて。……ねえ、ヴァルド。ひどく当たり前のことさ。テスタメンツにしろサーベルバイパーにしろ……ずっと居られる場所じゃないのは君にもわかっているんだろう?」
「なにィ……!?」
そしてロイドを制したワジの言葉を聞いたヴァルドは驚いた。
「僕がテスタメンツを結成したのは旧市街で好き勝手をしていた君達への抑止力になるためだ。だが、最初はひ弱だったテスタメンツのみんなも成長した。僕1人が抜けたって、君達に対抗できるくらいにね。僕の役目はもう終わってるのさ。」
「……て、てめえ………」
「そして……いつかきっと他のメンバーもチームから巣立っていくはずだ。モラトリアムの季節を卒業して自分だけの道を見つけて行く……僕はそう信じている。」
「ワジ……」
「ワジ君…………」
(これも”人”が持つ”優しさ”ですか、エルファティシア……)
(ええ…………)
「……………………自分だけの”道”…………」
ワジの説明を聞いたロイドとエリィはワジを見つめ、アルは小声でエルファティシアに話しかけ、話しかけられたエルファティシアは静かに頷き、リィンは複雑そうな表情をして考え込み
「…………………………」
ヴァルドは黙り込んでいた。
「君達サーベルバイパーも同じだ。乱暴者は多いけど、マフィアの誘いに乗らないだけの気概と根性を持っている。だからヴァルド……きっと君も道を見つけられるはずだ。」
そしてワジが静かな笑みを浮かべてヴァルドを見つめたその時
「……クク…………ハハハハハハハッ!!!まさかてめぇがそんな甘っちょろい事を抜かすとはなァ!もういい、それ以上喋るな!てめえはこの『聖域』を汚した!絶対に許すわけにはいかねえッ!!」
ヴァルドは不敵な笑みを浮かべて大声で笑った後ワジを睨んで叫んだ!
「そうかい……」
ヴァルドの言葉を聞いたワジは頷いた後構え
「おい、ワジ!」
ワジの行動を見たロイドは慌てたが
「止めてやるな、ロイド。今、ワジが1人でケリを付けるべきことだ。」
「局長……」
ヴァイスが制止し
「フフ、助かるよ。さすがは局長。話がわかるね。」
ヴァイスの行動を見たワジは静かな笑みを浮かべた。
「……もしこれから起こる戦いが問題になっても特務支援課のワジ一人を指名した”模擬戦”の支援要請という事で片付けといてやる。俺達に遠慮せず、存分に戦え。」
「……何から何まで感謝するよ、局長。」
「――ただし、絶対に手は抜くな。それがお前やその男を庇う条件にしてお前がその男にできる最後の礼儀だ。」
「ja(ヤー)」
ヴァイスの指示にワジは頷いた後ヴァルドを見つめ
「クク、そのくらいは判ってるみてぇだな……徹底的に叩き潰して地面に這いつくばらせてやる…………クク、そうすりゃてめぇも少しは目が覚めるだろ。」
ワジに見つめられたヴァルドは好戦的な笑みを浮かべて言った。すると
「―――お喋りは終わりだ。」
ワジは静かな表情で呟き
「あ……?」
ワジの言葉にヴァルドが眉を顰めたその時、ワジの足元からすざましい何かの気がさらけ出された!
「!?」
(これは……!?)
それを見たヴァルドとロイドは驚き
(…………どういう事かしら?とても人間が扱えるとは思えないような力が感じるわよ……!?)
(……何物だ、あの人間……!)
(あの”力”は一体……)
(かつて私が持っていた”神”の力とわずかながら似た雰囲気を持っていますが…………)
ルファディエルは目を細め、メヒーシャはワジを睨み、エルファティシアとアルは真剣な表情でワジを見つめ
「ヴァルド―――”本気で行くよ”。」
ワジはヴァルドを睨んだ後戦闘を開始した!
「て、てめえ……一体…………!」
ワジと対峙したヴァルドは戸惑ったが
「フッ……かかってきなよ。」
「てめえ……!うおおおおおおっ!!」
ワジの挑発に怒りの表情になった後ワジに襲い掛かった!
「フッ!」
「何!?」
しかしワジはヴァルドの攻撃を後ろに跳躍して回避した後一瞬でヴァルドに詰め寄り
「ハァァァァァ……ハアッ!!」
「ガッ!?」
クラフト―――ファントムラッシュによる連打をヴァルドに浴びせ
「セイッ!!」
「グッ!?」
連打をヴァルドに浴びせた後跳躍と共にアッパーを放つクラフト―――スカイアッパーをヴァルドの顎に命中させ、ワジのアッパーを受けたヴァルドは浮き上がった!
「フッ!!」
そしてワジは止めに魔力と闘気を纏った回転蹴りを放つクラフト―――ユベルティを放ったが
「舐めるなぁっ!!」
なんとヴァルドは武器でワジの放った蹴りを受け止め
「オォォォォッ!!」
クラフト―――鬼砕きをする為にワジに掴みかかった!しかし
「…………」
「なあっ!?」
ワジは華麗な動作で回避し
「オォォォォォォ…………ハアッ!!」
「グッ!?」
反撃代わりに光の魔力を纏わせた連打を放ち、止めは光の爆発を起こすクラフト―――セイクリッドラッシュを放ってヴァルドにダメージを与えると共に光の爆発で吹っ飛ばし
「さて……これで終わりにするよっ!そらっ!」
吹っ飛ばしたヴァルドに一瞬で詰め寄ったワジはヴァルドを蹴り上げると共に自分も跳躍し
「はぁぁああ!…………やっ! はっ! せいせいっ!」
「ガアアアアアアアアア――――ッ!?」
空中でヴァルドに高速の蹴りを浴びせ
「デッドリー……ヘヴン!!」
「ガハッ!?馬鹿な……ありえねえ…………!」
止めに自分自身に闘気を纏わせ強烈な蹴りを放ってヴァルドを地面に叩きつけ、ヴァルドを地面に跪かせた!
「たあっ!!」
そしてワジは地面に跪いたヴァルドに再び詰め寄りクラフト―――スカイアッパーを放って追撃した!
「カハッ……!……ググ……てめぇ……まさか今まで……ずっと……手を抜いて……?」
ワジの追撃を受けて再び空中に浮きあがって地面に叩きつけられたヴァルドは悔しそうな表情でワジを睨み
「……ランディじゃないけど今のはちょっとした反則技さ。でも、今日の君には手加減抜きで行かせてもらった。これが……僕が見せられる最後の誠意さ。」
睨まれたワジは静かな表情で答えた後真剣な表情でヴァルドを見つめた。
「ぎいッ…………ワジ…………てめえっ………………」
一方ヴァルドは歯軋りをしてワジを睨み
「さよなら、ヴァルド。この2年……けっこう楽しかったよ。」
睨まれたワジはヴァルドに背を向け静かな表情で言った後去って行き、ロイド達もワジを追ってヴァルドから去って行った。
「ふざけろ……絶対に認めねぇぞ……!てめぇ一人抜けるなんて……認めてたまるかよおおおっ!!」
ロイド達から去り、一人取り残されたヴァルドは怒りの表情で身体を震わせながら呟き
「ワジイイイイイイイイッつ!!!」
空に向かって大声で叫んだ!
~東通り~
旧市街を抜け、東通りへ行く橋の途中でワジは立ち止まって黙り込んでいた。
「ワジ……」
「ワジ君、その……」
ワジの様子を見たロイドとノエルは言い辛そうな表情でワジに声をかけ
「……ハハ。みっともない所を見せたね。ちょっと僕らしくもなく熱くなっちゃったかな?」
声をかけられたワジは振り向いて一瞬寂しげな笑みを浮かべた後いつものような静かな笑みを浮かべて言った。
「いや……何ていうか男なんてそんなもんだろ。」
「俺もロイドと同じ意見だよ。」
「男の子の気持ちはちょっとわからないけど……あなたが彼に、誠意をもって向き合ったのはわかったわ。」
「うんうん……!いつかきっと彼にもわかってもらえると思うよ!」
「フフ……そうだといいけどね。―――時間を取らせた。とにかく別の場所に行こう。」
そしてロイド達が支援課のビルに向かう為に東通りを抜け、中央広場に到着したその時、ロイドのエニグマが鳴りはじめ、ロイドは通信を始めた。
~中央広場~
「はい、特務支援課、ロイド・バニングスです。」
「どうも、ロイドさん~!雨の中ご苦労さまですー。」
「ああ、フランか。どうしたんだ?緊急要請でも入ったか?」
「えっと、それが……マインツのビクセン町長を覚えてらっしゃいますか?」
「ああ、もちろん。……ひょっとして鉱山町で何かあったのか?」
「ええ、それが鉱山に魔獣が現れたらしくって……あ、といっても、町から少し離れた場所にある旧鉱山らしいんですけど。」
「……?そんな場所なら魔獣が現れてもおかしくないと思うけど……」
「はい、鉱員の方達が被害に遭ったわけじゃなさそうです。ただ内部が、どうもおかしな事になっちゃっているみたいで……念のため調べてもらえないかということでした。」
「おかしな事……ちょっと要領を得ないな。―――判った。市内の緊急要請は片付けたし、これからマインツに向かうよ。」
「はい、お願いしますー。あ、ついでにお伝えしますが先程マインツ山道方面に手配魔獣の指定が出ました。余裕があったら対応してみてください。」
「そうか、了解だ。」
「それと、クロスベル市と違って山道方面は晴れているみたいです。せっかくだから導力車で行ってみたらどうですか~?」
「そうなのか、わかった。ありがとう、フラン。何かあったらまた連絡してくれ。」
「はい、それでは失礼しますー。」
そしてロイドはフランとの通信を終えた。
「フランからみたいですね。」
「マインツ方面で何かあったみたいだけど?」
「ああ、旧鉱山という所で妙なことが起きたらしい。市内の支援要請も片付けたし、準備ができたら行ってみよう。あ、山道方面は晴れているそうだから車で行ってもいいかもしれないな。」
「了解、リーダー。」
「わかった。」
ロイドの話にワジとリィンが頷いたその時、エニグマが2重に鳴りはじめ
「おっと、今度は俺か……」
「私もですね……」
エニグマの音を聞いたヴァイスとアルはそれぞれ通信をし
「…………こちら、クロスベル局長、ヴァイスハイト・ツェリンダー………………ああ……ああ……わかった………すぐ行く…………だから必ずすぐ行くから、一々念を押す必要はない。それじゃあ切るぞ。」
「……はい。アル・ノウゲートです。……………………ええ……ええ……わかりました。……それではすぐに行きます。」
それぞれの通信相手と通信を終えた。
「お二人とも、もしかしてこれから何か用事ですか?」
2人の様子を見たエリィは尋ね
「ああ。一課の課長が至急報告したい事があるから警察本部に戻って来てくれだと。」
「私の方は二課のドノバンから相談したい案件がいくつかあるから相談にのって欲しいとの事です。……それとできればルファディエルの助力も得たいそうです。」
「ルファ姉の?……わかった。―――ルファ姉、ルファ姉はドノバン警部を手伝ってくれないかな?」
「わかったわ。そっちもマインツの町長の支援要請、頑張りなさい。」
「ああ。」
その後ヴァイスとアル、ルファディエルと一端別れたロイド達は車に乗って鉱山町マインツに向かい、途中にいた手配魔獣を退治し、さらに人形工房を訪ねた後再び車に乗ってマインツに向かい、到着した…………
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