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おぢばにおかえり

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第三十二話 あちこち回ってその八

「けれど。先輩の方々は」
「いい人達だったんですか」
「前会わなかった?ほら」
「ああ、あの人ですよね」
 私の言葉に気付いたような顔になって頷きました。
「あの。高井先輩ですよね」
「高井先輩はとても優しい人なのよ」
 本当に今までよくしてもらって今でも御会いしたら。長池先輩もそうですけれど何度もよくしてもらってばかりで感謝することしきりなんです。
「他の先輩の方々も」
「けれど寮ですよね」
 阿波野君はあくまでこのことを言います。
「親元を離れてずっと寮にって」
「確かにお父さんやお母さんとは離れて暮らしてるけれど」
 これは事実です。それで寂しい気持ちを味わってきているのは事実ですけれど。
「それでも会えることは多いし」
「会えるんですか」
「だって。あれよ」
 阿波野君に対して細かいことを伝えました。
「お父さんもお母さんもおぢばに帰ってくること多いし」
「その時に会えるんですか」
「そうよ。会えることは多いからね」
「それは寂しくはないんですか」
「寂しいのは事実だけれど」
 このことは隠しませんでした。
「それでも。おぢばにいさせてもらうのはね」
「いいんですか?」
「最高のおしこみなのよ」
 おしこみという言葉を出して阿波野君に説明しました。
「おみちの教えではね」
「ふうん、何かよくわからないけれどそうなんですか」
 阿波野君の返事はあまりよくはわかっていないという感じでした。
「結構暑くて寒い場所で大変なのに」
「夏暑くて冬寒いのは確かだけれど」
 これは否定できません。神戸育ちの私にとっておぢばの夏の暑さは大変なものがあります。冬は神戸は風が強くてそれと比べれば、なんですけれど。
「それでも。ここに住まわせてもらうのはね」
「有り難いことなんですか」
「そうなのよ。私天理高校志願して受けたんだし」
 最初から決めていました。高校は絶対に天理高校だって。その為に受験勉強も頑張ってきたんです。八条学園高等部を受けずに。
「大学も天理大学にするつもりだし」
「じゃあ僕と同じですね」
「阿波野君と同じ!?」
「僕も天理大学受けるつもりですよ」
 何かまたまたおかしなことを言ってきました。
「天理高校からそのまま」
「止めた方がいいわよ」
 はっきりと言ってあげました。
「それは」
「何でですか?」
「何で大学まで阿波野君と一緒なのよ」
 もうそれが嫌でした。どうしてここでも一緒なのか、それが不思議で仕方ないっていうのに。どういうわけか三年になってからいつも一緒にいます。
「大学は他の大学に行きなさい。いいわね」
「じゃあ学科は」
「当然天理大学にない学科にしなさい」
 こうも言ってあげました。
「わかったわね」
「先輩はどの学科に?」
「天理教のことを専門に勉強したいから」
 これももう決めていました。やっぱり私は教会の娘ですし。
「やっぱり。そこね」
「じゃあ僕もそこで」
「はったおすわよ」
 何考えて生きているのかって本気で思いました。
「今までの話聞いてたの!?何で大学まで阿波野君と一緒なのよ」
「そこはまあお引き寄せというところで」
「それは絶対にないから」
 はっきりと否定しました。
「阿波野君は天理大学に行ったら駄目だから」
「まあ受けはしますけれどね」
「落ちてくれることを祈るわ」
 うんざりとした顔になっているのが自分でもわかりました。 
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