ハイスクールD×D 新訳 更新停止
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第6章
体育館裏のホーリー
第111話 四精龍
前書き
気付いてるかもしれませんが、ドレイクのドラゴン名が変更されています。
「それにしても、イッセー君達がテレビ取材とはね」
「部長が言うには、若手悪魔の特集に出演するみたいだ」
休日である今日、イッセー達グレモリー眷属は冥界のテレビ番組からのオファーが入り、その出演の為に冥界に赴いていた。
「元々魔王の妹と言う事で有名なところにコカビエルや『渦の団』との戦い、先日のロキとの戦いで更に有名になったみたいだ」
「神様と戦って生き残ったって事実は確かに知名度を上げるなぁ」
「冥界の番組なのが残念だなぁ」
「この家のテレビなら観れるんじゃない?」
「ああ、この家って悪魔の力が働いてできたものだからな」
冥界の番組だから人間界のテレビでは見られないが、この家のテレビならたぶん見られるだろう。
「ギャー君大丈夫かな?」
「あ〜、引き篭りのあいつにはキツいなぁ」
「夏休みでの冥界合宿で多少は改善されてるからなんとかなるんじゃねえのか」
「ふーん…うっ……」
姉貴が表情を引き攣らせる。
さて、俺達兄弟が今何をしているかと言うと、兵藤家の千秋の部屋でババ抜きしていた。で、たった今、俺の手札から姉貴がババを引いたのである。
イッセー達が冥界に行ってオカ研の活動も無く、暇を持て余していたところを兄貴が久しぶりに兄妹水入らずで遊ぼうと言う事になった。で、それが今やってるババきである。
ちなみに他の住人だが、鶇は燕を抱き枕にして昼寝している。燕も鶇の眠気に当てられたのか一緒に寝ている。
神楽は姉の神音さんと町を廻っている。
イリナとユウはライニーと教会関連の用事で出掛けている。
「ほい。はい、千秋」
「…………」
千秋は無言で兄貴の最後の一枚を引く。
「アガリ♪」
その瞬間、兄貴の一番抜けが確定した。
「……まーた冬夜が一番かよ……」
今回で三回目だが、姉貴の言う通り、兄貴は三回連続で一番にアガっていた。
兄貴はどうにもカードゲームの類いが得意なのかやたらと強い。
……実を言うと、この三回目、兄貴を下そうと千秋と姉貴で手を組んでやってた。さっき姉貴がババを引いたのもわざとで、顔を引き攣らせたのも演技だ。敢えてババを持つ事で次の番である兄貴にプレッシャーを与えようって魂胆だったが、兄貴は特に気にする事無く、姉貴からババ以外のカードを正確に引いていき、結局一番にアガられてしまった。
その後、兄貴がアガった事で組む理由が無くなったので普通にやり、俺が二番目にアガった。
「うぅぅ」
「ほい」
「あっ」
「アーガリィ♪」
千秋が持つババを含めた二枚から当たりを引き当てた姉貴がアガリ、千秋がビリとなった。
「フ、姉に勝る妹などいないのだよ」
内心で「弟はいるんだな」と姉貴の言葉にツッコむ。まあ確かに、毎回千秋より先にアガっちゃいるが。
「さて、次は何しようか?それとも、またババ抜き?」
「なーんか悔しいけど……」
「……俺はもう良い」
「……私も」
正直、悔しいけどな。
『明日夏明日夏』
ドレイク?なんの用だ?
急にドレイクが話し掛けてきた。
『ちょいっと変わってくれ。俺も勝負してぇ』
「兄貴とか?」
『おうよ。あの時の借りを返してえしな』
あの時って言うと、お前が俺の体を奪おうとして兄貴に妨害された時の事だろうな。
断ると煩そうだし、それぐらいなら別に良いか。
「まあ、別に良いが、兄貴はどうする?」
「僕も良いよ。それにしても……」
兄貴が興味深そうに俺の事をジロジロと見てくる。
「……なんだよ?」
「いや、明日夏とドレイクがずいぶんと仲良くなったなぁって思ってね」
まあ、色々あって最初の頃程の警戒心は抱かなくはなったな。
けど、仲が良いかと訊かれれば、微妙なところだな。
敢えて言うなら…。
『ちょっとした腐れ縁の仲か?』
ドレイクがそう言い、俺もそんな感じがしてきた。
「まあ、良っか。弟と仲良くしてくれるのならそれで良いし。でも…」
兄貴は俺、正確には俺の中のドレイクに鋭くした視線を向ける。
「また明日夏に変なちょっかいを出そうとしたら、容赦しないからね」
明らかに敵意を出していると言うのに、表情も目も笑っていた。
その姿から『三狩王』の一角、『魔弾の竜撃手』と呼ばれるだけの貫禄、と言うより不気味さが感じられた。
『へいへい、肝に銘じておきますとも』
ドレイクはいつも通りの口調だが、僅かながらの戦慄も感じられた。
こいつは腐っても上位のドラゴン。そんなこいつを戦慄させるとか、レイドゥンとは違った恐ろしさが感じられるな。
「さて、じゃあ早速何で勝負しようか?」
兄貴は一変して普段の雰囲気に戻る。
俺とドレイクは人格を入れ替え、体の所有権をドレイクに渡す。
「んじゃ、ポーカーで勝負だ」
ドレイクはババ抜きをしたカードを回収しながら俺の声で言う。
「うん、良いよ」
兄貴は特に異存は無い様だ。
ドレイクは鮮やかなカード捌きでカードをシャッフルした後、交互に自分と兄貴に一枚ずつ五枚のカードを配り、残った山札を自分と兄貴の中央の位置に置く。
「で、どっちから先に交換する」
「じゃ、お先にどうぞ」
「んじゃ、遠慮無く」
ドレイクの手札はカードのスートも数字もバラバラで全く役ができてないノーペアの状態だった。
ドレイクは手札から四枚のカードを捨て、山札に手を伸ばす。……そして、その手にはカードが隠されていた。つまり、こいつはイカサマをしていた。
最初にババ抜きしたカードを回収する時、こいつはこっそりと四枚のカードを抜いていた。その様子は俺にしか見えていなく、兄貴達は話すドレイクの方を見ていた為、こいつの手元を見ていなかった。
隠していた四枚のカードを器用に兄貴達にバレない様に山札のトップに置いてその四枚を引く。
引いたカードはそれぞれのスートの数字の4の四枚、つまり4のフォーカードの役ができた。
ずいぶんと手馴れてるな?
『前の宿主にギャンブル好きがいてな。イカサマの常習犯でそいつの手元を見てる内に覚えた』
……正々堂々とやる気は無しと。
『カードゲームにイカサマは付き物だろ?それにバレなきゃイカサマじゃねえしな』
イカサマ常習犯の典型的なセリフを言うドレイクに俺は嘆息する。
「ほい、そっちの番だぜ」
「はいはーい」
自分の番になった兄貴はなんの躊躇も無く全ての手札を捨てて山札から五枚のカードを引いた。
見た感じ、ずいぶんと適当だった。
「んじゃ、オープンカードだぜ」
ドレイクは意気揚々と手札を公開する。
「フォーカードねぇ」
姉貴がドレイクの役の名をを言う。
「で、冬夜は?」
「僕はこうだよ」
兄貴は微笑みながら手札を公開する。
「なっ!?」
兄貴の手札を見て、ドレイクが驚愕の声を上げる。
兄貴の手札はそれぞれのスートの数字の5とスペードのAの五枚、つまり5のフォーカード。ドレイクの負けであった。
「……マジかよ……」
ドレイクは笑顔を浮かべるが、その笑みは引き攣っていた。
勝てる様にイカサマをしたのにあっさりと負けたからな。
「残念。僕の方が一枚上手だったね♪」
兄貴は悪戯が成功した時に浮かべる笑みを浮かべながらそう言う。
その笑みを見て俺は確信する。兄貴もイカサマをやったのだと。
まあ、イカサマをやったのはドレイクも同じなので特に追求はしない。そもそも証拠がねえし。って言うか、あの様子じゃ、こいつのイカサマにも気付いていたんだろうな。
『アッハッハッハッ!ざまぁねえな、ドレイク』
突然、謎の声が部屋に響き渡る。
その事に千秋は驚くが、兄貴と姉貴は特に驚いていない。
俺もなんとなくこの声の正体が察せたので、それほど驚いていない。
「うっせーよ」
ドレイクは声に対して、不貞腐れた様に答える。
それと同時に俺とドレイクは人格を入れ替えて元の状態に戻る。
「兄貴、今のが兄貴の神器に宿る……」
「うん、そうだよ」
兄貴の持つ神器『四精龍の竜秘術』はドラゴン系の神器と兄貴は言っていた。つまり、俺の『幻龍の緋衣』とイッセーの『赤龍帝の篭手』と同じくドラゴンを宿していると俺は思っていた。で、ビンゴだった訳だ。
『こうして話すのは初めてだな、冬夜の弟に妹二号』
「……妹二号って……」
千秋は自分の呼ばれ方に眉をしかめる。
『すみませんね。彼は人の名前を覚えるのが苦手でして。いっつも大雑把な呼び方をするのですよ』
「っ!」
新たに聴こえてきた声に俺は驚く。
『ああん!テメェバカにしてんのか!』
『……本当の事を指摘されただけであろう』
『バカなのは本当なんじゃないの♪』
さらに別の声が聴こえてきたので、俺と千秋は混乱する。
「……兄貴、まさか……」
「うん。僕の『四精龍の竜秘術』にはそれぞれの属性を司る、つまり計四体のドラゴンが宿っているんだ」
四体のドラゴンが宿っている神器って、かなりの規格外な物じゃないのか!?
兄貴に宿る四体のドラゴンがそれぞれ自己紹介を始める。
『俺は焔斬だ。火の属性を司ってる。ま、よろしく頼むぜ』
『私は瀧弩。司る属性は水。他の者共々よろしくお願いします』
『イェーイ♪オイラは秋嵐♪風を司ってるよ♪』
『……地属性を司る王巌と言う』
……なんと言うか……個性的なメンツだな……。
『ああん?お前らに名前なんてあったか?』
「どう言う事だ、ドレイク?」
『私がお答えしましょう。我々は元々ある一匹のドラゴンだったのです。話すと長くなるので割愛しますが、紆余曲折を得て我々四体のドラゴンに分かれてしまったのです。その為、我々には名前など無く、総称として四精龍と名乗っていました。そんな我々の為に幼かった冬夜が先ほどの名前を与えてくださったのですよ』
「名前が無いと不便だったからね」
そう言う事があったのか。
元は一体のドラゴンがなんだってそんな事になったんだろうな?
「ほう、前々から気にはなっていたが、面白い神器だなぁ」
「アザゼル?」
いつの間にか、アザゼルが部屋の中にいた。
相変わらず神出鬼没な先生だ。
「お前、ちょっと『神の子を見張る者』の施設に来ねえか?お前の神器をちょっと調べたい」
「個人的に興味ありますけど遠慮します」
アザゼルの提案を兄貴はやんわりと断る。
「ちぇ、連れねえな」
「今はせっかくの兄弟水入らずの時間を過ごしたいですからね」
「そうかい」
「……でも、別の頼みの方なら聞く余地はありますよ」
柔和な表情をしていた兄貴が唐突に狡猾そうな笑みを浮かべてアザゼルを見る。
表情は笑顔だが、その目は真面目で真剣なものだった。
「気付いてんのかよ。だったら話は早い。ポーカーでもやりながら話させてもらうぜ」
アザゼルはカードをシャッフルしながら真剣な表情である事を話す。
「……じゃあ、ディオドラのあれは……」
「ああ。十中八九あいつの力だ」
「そうなると、イッセー達がやるって言うゲームは……」
「まあ、ご破算だな」
「……その事、イッセー兄達には……!」
スリーカードの役を出しながら千秋は目線を鋭くしながらアザゼルに詰め寄る。
「あいつらには悪いが、この事はあいつらには知らないままでいてもらう」
「……ッ……!」
アザゼルの答えに千秋は表情を険しくする。
「落ち着け、千秋」
ストレートの役を出しながら千秋を宥める。
「で、冬夜への頼みってのは…」
「まあ、そう言う事だ。戦力は多いに越した事は無いからな」
姉貴がフルハウスの役を出しながらアザゼルに訊くとアザゼルも頷いて言う。
「で、どうなんだ?むろん、それなりの報酬を払ったって良いぞ」
フォーカードの役を出しながらアザゼルは兄貴に訊く。
「良いですよ。報酬もいりません」
「良いのか?」
「ええ。イッセー君達が危ない目に遭うのに行かない理由は無いですね。それに…」
兄貴は俺達の方を向く。
「明日夏達も行くつもりなんだろう?」
「当たり前だ」
俺の言葉に千秋も頷く。
「俺としちゃ、あんまり若いお前さん達を戦場に送り出したくないんだがな。あいつらに関しても、事が起こったらすぐに安全な場所に避難させるつもりだからな」
「……部長が素直に避難するとは思えないんですけどね。それにイッセー達が真っ先に一番危険な場所に何も知らずに行くってのに、自分は安全な場所で無事を祈るって言うのは性分じゃねえしな」
「っと言う事なんでね。こうなったこいつは頑固だから。あと、私も行くから」
姉貴が俺の肩に手を回しながら言う。
「僕個人的にも、明日夏達には安全な場所にいてほしいんだけどね。でも、ちゃんとイッセー君達共々無事に帰ってくるんだよ」
「分かってる。そう言う兄貴もな」
俺達のやり取りを見てアザゼルは嘆息する。
「……鶇と燕にも言わない方が良いよな。知ればあいつらも来ようとするだろうからな」
「さすがに二人には荷が重いだろうからね。まあ、雲雀を連れてくってなればなんとか納得してくれるかな」
「……雲雀さんも連れてくのか?」
「元々僕達が帰ってきたのは明日夏達の体育祭の応援だけじゃないんだ。彼らが不穏な動きがあるって情報があってね」
なるほど、雲雀さんが素直に来たのはそう言う事があったからか。
「……それに、僕らにとってはそれなりの因縁があるかもしれないからね」
「「「………」」」
兄貴の言葉に俺と千秋と姉貴は表情を険しくする。
奴らが事を起こす以上、奴が関わってくる可能性は高いからな。
「ま、とりあえず、みんな無事に帰ってきて体育祭に臨む、一番にやる事はこれだね」
そう言いながら公開された兄貴の手札はロイヤルストレートフラッシュの役だった。
━○●○━
「お帰り、父さん、母さん」
「旅行の方はどうでしたか?」
「いやー、非常に楽しかったよ!」
「まさか世界一周旅行ができるなんてねぇ!」
夕方頃にイッセー達が冥界から帰ってきてから数刻が経ち、イッセーの両親が帰ってきた。
「お帰りなさい、お父様、お母様」
「アーシアちゃん、ずっと会えなくて寂しかったよぉ!」
「そんな」
「ほんと。アーシアちゃんどうしてるのかなぁとか、私達の口癖になっちゃったぐらいよ」
「この通り、私は元気です」
アーシアとおじさん達のやり取りは微笑ましく、本当の親子の様なものだった。
「なんだか、アーシアちゃんが本当の娘みたいだね、イッセー君」
「……息子の立場がどんどん無くなっていきますよ」
「あら、だってアーシアちゃんの方が可愛いんですもの」
「アーシアちゃんが本当の娘なら良いのにねぇ」
アーシアはもじもじしながら遠慮がちに言う。
「……わ、私、両親を知らないので、そう言っていただけるだけでとても嬉しいです……」
おじさん達がアーシアの肩に手を置いて優しげな表情で言う。
「本当の親だと思ってくれて良いのよ」
「……お父さん、お母さん……」
「そうさ。ここはアーシアの家で、父さんも母さんも俺もアーシアの家族だ。部長やみんなだって、仲間で友達で家族だ」
「その通りよ、アーシア」
「……イッセーさん、部長さん……」
目の前で展開される家族団欒に微笑ましく思っていると、兄貴が小声で話し掛けてきた。
(絶対守ろうね、この温かい団欒を)
(そうだな)
小声で答え、アザゼルの言う作戦に向けて決意を新たにする。
「それにしても、体育祭に間に合って良かったよぉ」
「そうね。アーシアちゃん、親としてバッチリ応援に行くからね」
「なら、その勇姿をしっかりカメラに収めて、また鑑賞会をしましょうか」
「おお、良いねぇ!」
うっ、それは勘弁して欲しいんだが……。
━○●○━
イッセー達の冥界でのテレビ取材の翌日の夜、俺はイッセーと木場と戦闘の訓練をしていた。
「……ふぅ……」
「流石だね、明日夏君。中々近付けなかったよ」
「全くだぜ。殴り合いや斬り合いが主な俺達だと厄介極まりないぜ」
一旦休憩に入り、スポーツドリンクを呷りながらイッセーと木場がそう言う。
「……こっちはいつ木場の俊足やイッセーの突破力で懐に入られるかでヒヤヒヤしてたんだがな」
冥界から帰ってきてから俺達はよくこうして、兵藤邸地下にあるトレーニングルームで戦闘訓練をしていた。
その訓練で、冥界での成果をさらに形にした俺は新たな戦い方を編み出し、今日の訓練ではこの二人を懐に入らせなかった。まあ、その新しい戦い方は懐に入られるとキツイから入らせる訳にはいかなかったからなんだがな。
とは言え、イッセーも木場も訓練で力を付けてきているから一杯いっぱいって感じだった。
「まあ、赤龍帝であるイッセー君と対峙するのは確かにプレッシャーを感じるよね」
「聖魔剣のお前との対峙だって結構プレッシャー感じるんだぜ」
「人間の俺からすればどっちもどっちだよ」
「神器の力があるとは言え、人の身でありながらここまでやる明日夏君も凄いと思うけどね」
「案外、レイドゥンの奴よりも強くなったんじゃねえのか?」
「……どうだろうな。あいつは戦闘力以外でも厄介なところがあるんじゃないかと思えてならないんだよな」
力だけじゃあいつは倒せない、最近はそう思っちまう。
「ま、お前はディオドラの方に集中してろ。万が一負けたらアーシアを取られるかもしれねえんだからな」
「言われなくて分かってるての」
「それじゃ、もう少し休んだら再開しようか」
訓練を再開しようとしたところで、トレーニングルームに誰かが入ってきた。
「やあ、なんか面白そうな事してるね」
入ってきたのは兄貴だった。
「せっかくだから、僕の胸を貸してあげようか?」
兄貴の言葉に俺達は目の色を変える。
兄貴の実力は未知数。コカビエルが相手の時でもその一端程度しか出していなかった。間違いなく、俺達が会った中でも強者の部類に入る。
そんな兄貴の胸を借りられるのなら、かなり貴重な訓練になるだろう。
「一人ずつやるのも面倒だから……三人纏めて掛かってきなよ」
「「「ッ!?」」」
俺達は絶句する。……兄貴の言葉にじゃなく、言葉と同時に笑顔から放たれたプレッシャーに。
「……どうやら、三対一でも問題無さそうだな……」
「……みたいだね……」
「……どんだけだよ……冬夜さんは……」
俺は緋のオーラを出し、イッセーは鎧を着込み、木場は剣を握り、三人で銃を取り出してる兄貴を睨む。
「じゃあ……来なよ」
兄貴の言葉を合図に俺達は兄貴に仕掛ける!
━○●○━
「ぷはー。風呂上がりのこの一杯が最高だな!」
「そうだな」
訓練を終えた俺とイッセーは兵藤邸地下にある大浴場で汗を流し、風呂上がりの牛乳を飲んでいた。ちなみにイッセーはフルーツ牛乳、俺はコーヒー牛乳だ。
部長が風呂上がりに各種牛乳を飲む派で、この兵藤邸の大浴場には各種牛乳が冷蔵ケースに入って完備されていた。
この兵藤邸に住む者達はイッセー、ユウが日替わり、千秋、燕、部長がフルーツ牛乳派、神楽、副部長、アーシア、塔城が普通の牛乳派、鶇、ゼノヴィア、イリナがコーヒー牛乳派だ。ちなみに俺はコーヒー牛乳派、兄貴は牛乳派、姉貴はフルーツ牛乳派だ。雲雀さん、神音さん、木場、ギャスパー、ライニー、アルさんのは分からないが。アザゼルは…まあたぶん、酒だろう。
「にしても冬夜さん、半端無かったな……」
「……まさかあれ程とはな」
兄貴との模擬戦は俺達の完敗だった。
兄貴が俺達に初めて見せた複合属性の力にも苦戦したが、兄貴の強さは神器だけでなく、卓越した体術と銃の技術によるところもあった。
近・中・遠、全て距離をオールラウンダーにこなし、全く付け入る隙が無かった。
だが、おそらくそれでも兄貴は全力じゃなかった。
「その冬夜さんと同じぐらい強いって言う雲雀さんや竜胆もどんだけ強いんだよ」
「……そうだな」
『十二新星』からさらに『三狩王』なんて呼ばれる様になったのは、その十二人の中で実力があまりにも飛び抜けていたからじゃないかと思えてならない。
「ん?」
「どうした?ん?」
俺達がさっきまで使用していたトレーニングルームに明かりが点いていた。
木場も兄貴も帰ってきて、俺とイッセーも汗を流しに行ったので、トレーニングルームには誰もいないはずなんだが、誰かいるのか?
扉が開いていたので中を覗くと、ゼノヴィアがデュランダルと木刀の二刀流で剣の鍛錬をしていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……あ……イッセーと明日夏か」
「明かりが点いてたもんだからさ」
「精が出てるな?」
「ゲームも近いからね」
「日が落ちる前にも相当練習してたろ?」
最近のゼノヴィアはかつての俺や塔城程でないが、少し焦っている様な素振りがあった。
「……私は……木場よりも弱いからな……」
初めて会った時は復讐心に駆られて冷静じゃなかった事を差し引いても、木場の方が劣っていた。それが、冥界から帰ってくる頃には木場の方が一枚も二枚も実力を伸ばしていた。
その事がゼノヴィアを焦らせていたみたいだな。
「悔しいが、才能と言う点では明らかに木場の方が上だ」
「俺からしてみれば、お前も木場も凄ぇよ」
イッセーの励ましにゼノヴィアは笑みを浮かべる。
「ありがとう」
ゼノヴィアから礼を言われたイッセーは唐突に『赤龍帝の篭手』を出す。
「よっしゃ、アスカロン」
『Blade!』
イッセーはアスカロンを出し、篭手からアスカロンを分離させる。
普段は『赤龍帝の篭手』と同化しているアスカロンだが、イッセーの意思で分離させる事ができる。
イッセーは取り出したアスカロンをゼノヴィアに差し出す。
「使えよ」
「え。しかし……」
「デュランダルには及ばないかもしれないけど、木刀よりマシだろ?」
「良いのか?」
「ああ」
イッセーは遠慮気味のゼノヴィアにアスカロンを持たせる。
「必要ならいつでも言ってくれ。俺達は仲間だからな」
「それ以前に滅多に使わねえから、宝の持ち腐れ気味だったしな」
イッセーは基本的に徒手空拳による接近戦にドラゴンショットによる砲撃を織り交ぜた戦い方をする為、剣であるアスカロンをあまり使わないでいる事が多かった。
そのまま持て余すぐらいなら、扱える者に使わせる方が良いだろうからな。
「仲間……。なあ、イッセーは将来部長の元から独立するのだろう?上を目指す為に」
「え。ああ、いつかは」
イッセーは野望の為に上級悪魔を目指しているが、最近じゃ、色々な想いもあって目指しているみたいだ。
「アーシアはお前に付いて行くと言っていた」
「あと、千秋も眷属入りする予定だったな」
「うん。二人とはずっと一緒にいるって約束したんだ。って、なんで明日夏それ知ってんだ?千秋は秘密にするって言ってたぞ?」
「あ」
やべ、つい口を滑らしてしまった。
「あぁ……盗み聞きするつもりは無かったんだが、偶然聞いてな……」
とりあえず、適当な言い訳を言っておく。
イッセーはまだ訝しんでいたが、とりあえずは納得した様だ。
「イッセー、私も共に連れて行ってくれ」
「え、お前も?」
「イッセーと一緒にいると面白い」
「面白いね……了解。考えておきますよ」
ゼノヴィアもイッセーに付いていくのか。
千秋にアーシアにゼノヴィアか。中々面白いチームができそうだな。
「君と話したら、張り詰めていたものが良い感じに解れた気がするよ」
どうやらその様で、大分スッキリした様な晴れやかな表情をゼノヴィアは浮かべていた。
すると、ゼノヴィアは唐突にイッセーの頬にキスをした。
キスされたイッセーは目に見えて狼狽していた。
「お礼だ。口の方が良かったかな?」
「い、いや、大丈夫!十分気持ちは伝わったから!」
「そうか?」
「じゃあ、明日夏、ゼノヴィア、おやすみ!?」
声を上擦らせながらイッセーはそう言い、自身の部屋へと走って行ってしまった。
「どうしたんだ、イッセーは?」
イッセーの様子に首を傾げるゼノヴィア。
「ある意味魔性の女だな、お前」
天然のな。
「そうか。悪魔の女として泊が付いてきたという事か」
「ああ、まあ、そうだ」
胸を張るゼノヴィアにとりあえず俺は適当に頷く。
「じゃあ、俺も戻る。お前も根を詰めすぎない様にな」
俺はそう言い、トレーニングルームを後にして家に帰った。
後書き
明日夏の新しい戦い方はテロ勃発時に披露します。
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