ソードアート・オンライン〜Another story〜
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マザーズ・ロザリオ編
第236話 少女たちに誘われて
前書き
~一言~
はぅ……、何度目なのか、判らないですが……、ほんとーに遅れちゃってすみません………!
この苦境を乗り切れるのはいったい何時になる事か……、そして 乗り越えた先には楽しみが沢山あるのが良いんですが――、小説更新が遅くなっちゃうのは申し訳ないです・・・・・ 涙
あ、楽しみと言えばプレイステーションVRですー。 流石にSAOクラスのは 何十年~とかかりそうですが、とても楽しみですっ!
とと、脱線しかけたので、話を戻します。
何とか、1万字執筆、纏める事が出来たので 更新します! お待たせしてすみませんっっ!!
この話で、《眠れる戦士》達とは完全に合流する事が出来てなかったのは、ちょっと誤算でしたが……次の話で確実ですねーっ! ユウキ達とのコントも楽しそうです! アニメ版では無かったんですが…… 苦笑
改めまして、とても遅くなりましたが、この小説を読んでくださって ありがとうございます! これからも、何とか頑張っていきますので、温かい目で 見てくだされば幸いです。
じーくw
場の興奮が冷め止まぬままに――、白銀と剣聖の戦いは終わりを告げた。
確かに終わりを告げたのだが……、この戦いの勝敗は? 勝者は?? と言われればちょっぴり微妙な結末だと言えるだろう。よくよく思い出してみれば降参の宣言もしていない。
デュエルの内容を考えたら、確かに オリジナル・ソードスキルを発動させ、直撃させたリュウキに軍配が、と言うのが一般的だ。
それも、まだ認知されていない代物。仲間達でさえ知らなかった強力なソードスキル(厳密には違うが、別のタイプを見た事がある者はいたが)。絶剣や剣聖の2人にも引けを取らない前人未踏の領域の必殺技と言えるスキルを直撃させた事と、その最後の一撃を確実に入れていれば、リュウキに軍配が上がっていた、と言える要因の1つだろう。
現時点のランの残りのHPゲージを見れば更に明らかだ。
別の意味では、あのリュウキのオリジナル・ソードスキル。怒涛の10連撃。その最後の一閃をあの時点で止めた事もある意味では凄いと思える。先の戦いで ユウキとランのOSSを止めたのも今考えれば、そのスキルの凄さよりもキャンセルした事も十分に凄いと言えるだろう。
あれだけの速さで、連撃で、最後の残を見極めて、発動すれば、殆ど全自動で動くソードスキルの攻撃を止めたのだから。現実で言えば、激しい動きを無理やりに止めたから、筋肉繊維が悲鳴を上げかねない程のものだと推察できるから。それ程の域のスキルを持ち合わせている者が絶対的に少なく、更に言えば、ソードスキルを途中で止めようとする者も少ないと言える。
「……あのお兄さんが最後の攻撃を、止めたのは、ボク達と同じ様な理由、かな?」
まだまだちょっと、熱と力の入っているユウキだったが、少々疑問に思った事もあって、ぽつりとそう呟いた。
ユウキ自身も、アスナに入れる最後の一撃を寸前で止めたのだ。理由は 『あれだけ戦えれば十分。とっても満足』と言う理由。辻デュエルを続けてきた理由、目的が達成されたのだから、尚更だった。
目的云々に関しては、勝負の件を考えたら、リュウキにとっては、正直あまり無い、と言えるだろう。目立つ事はあまり好まないから。
だけど、それらを差し引いてでも、純粋に、絶剣や剣聖、と名が轟いている相手に勝負をしてみたい、と言う思いがあったであろう事と ラン自身がリュウキとの勝負をしてみたかった事、そして 最終的には周囲の熱に背中を押された、と言う理由が挙げられるだろう。
だから、ユウキにとっては 自分達とさほど変わらない理由で、終えたのだろう、と推察していた。
ユウキの呟き、それを訊いていた、レイナはニコリと笑いながら首を横に振った。
「う~ん、それは ちょっぴり違うかな?」
「え?」
レイナの言葉を訊いて、ユウキは魅入っているのを止めて、レイナの方に向く。
「あのね……。えーっと、そのー、いわゆるリュウキ君は、紳士なんだよーって事だよ!」
「???」
レイナは、とびっきりの笑顔でユウキにそう説明をする。
……が、ユウキは意味が分かっていない様で、首を傾げていた。頭の上に《???》を何個も浮かべながら。
「あはは……、レイ? それだけじゃ絶対に判らないって」
苦笑いをしながら、レイナの発言の補足をしようとするアスナ。
ユウキは、アスナの方も見て。
「え? え?? つまり、どー言う事??」
戸惑っている少女に。先ほどの、絶剣の渾名を持つ勇猛な剣士……の印象も完全にすっかり忘却の彼方になってしまっているユウキを見て、アスナは笑顔で説明をしたのだった。
彼が昔から――幼少の頃より、教えられた事があるのだと言う事。
現在の年頃の男の子には、凡そ持ちえぬ感性を持っているという事。思春期で、極一般的な男子であれば……正直 女の子であったとしても、思わず赤面してしまう様なセリフを、
何の計算も無く、伝える。まるで息をする様に、自然に、思った事を口にする正直な性格である、と言う事。
そして今回。この決着の付け方に 申し訳なさが出ているのが、教えがあるとはいえ、真剣勝負で手を抜く様に捉えられかねない事をした、と 感情の狭間で少しばかり苦悩をしていると言う事。
それらが渦巻いていて、今のリュウキがあると言う事だ。
「あー……成る程ー……。……ぷっっ!! あははっ!」
ユウキは、説明を最後まで聞いて、完全に理解したと同時に、笑顔を見せながら吹き出した。
「と言う事は、お兄さん、姉ちゃんの事、女の子扱いしてくれてるんだねっ! あはははっ!!」
口に出して、更には お腹を抱えて笑うユウキ。
その姿を見て――レイナは、いや アスナも勿論 殆ど同時に。
「「(いや……同性の私から見ても、とっても魅力的な女の子だよ? 貴女も……、彼女も……)」」
と、苦笑いをしながら そう思っていた。
まだ、ちょっと幼さが残っている少女。美少女、と言っても良い容姿だから。……自分達の事を少々過小評価をする2人なのだが、嘘偽りは思ったりはしないのである。
そんな会話が行われている頃、丁度 ランとリュウキが地上に降りてきた。
「もうっ ユウったら………、後で酷いんだからね?」
ジロリ、と要らぬお世話を口にしてくれたユウキに対して、視線をやや鋭くさせて、睨みを入れる。まだまだ、騒がしさが抜けてないこの場だけど……ランははっきりとユウキの言葉を訊いていた様子。
……地獄耳?
それは兎も角 一先ず宙に浮いていた為、翅を畳み 地上へと2人は降りた。
「……何であれ、こういった決着の付け方は、手を抜いた、と取られても仕様がない……かな。オレ自身は、そのつもりは全く無いんだが、それはオレ個人のエゴだ。……悪い」
リュウキは、地上に降りて 改めてランに謝っていた。
先ほどのユウキとアスナの話、少しではあるが、聞こえてきた。目の前の彼は、決して 見下したり 嘲笑ったりする様な事は無いと言う事。――と言うより、ラン自身 そんな事ちっとも考えてないし、思っても無い。
「いえ」
だから、笑顔で答えた。
「とても清々しい気分ですよ。――――本当に気持ちいいくらいの完敗でした。とってもお強くて、まだ 胸がドキドキしてます」
そっと、自身の胸に手を充てて、ランはお辞儀をした。
アスナとレイナと戦う前の戦いで ユウキとランが丁寧にお辞儀をした要領で。今回は芝居がかかった様な感じではなく、心からの所作だと言える。
「私も、まだまだ未熟、と言う事ですね。何度も戦ってきて、沢山勝ってきましたが、天狗になるには早すぎます。とても 勉強になりました」
ランのやや大袈裟ともとれるセリフを訊いて、一瞬だけきょとんとしたリュウキだったが、即座に返答を返した。目の前の彼女が未熟だ、と言うのなら この世界の大多数の剣士たち、全員が未熟者め! と言われかねないだろう。
そう 思ったからこそ、自分の事を過大評価しないリュウキは、直ぐに返答をした。
「いや……。そこまで謙遜をしなくても良いと思うよ。――それに」
直ぐに首を横に振った。
そして ゆっくりと、空を見上げて――先ほどの戦いを思い返した。
戦いの最中は、一秒が何時間にも感じる程の時の圧縮、矛盾を感じていた。あれ程の昂りと高揚感は 一体何時以来だと言えるだろうか。一撃一撃が強力であり、一瞬も気の抜けない神経戦。……何よりも、同属性と言える業、技能を持っている相手には この世界ででは、初めて出会ったのだから、尚更だ。
世の中には、『同族嫌悪』と言う言葉があるが――、今のリュウキには、まるで意味が分からない。いや、そう思う理由が判らない。
ただ、喜びに似たものしか感じられなかった。それは――あの世界ででも、出会った事が無かったから。
「本当に楽しかった。それに勝負は僅差だ。……本当に、どうなるか最後の最後まで、判らなかった。オレが勝ちを拾ったのは、必然ではない。……正直、ここまで熱くなったのは、本当に、―――本当に、久しぶり。とても、楽しかった」
リュウキは、にこり――と笑顔を見せた。
その笑顔を見て、その目の奥の輝きを見て――ランの心には再び声が響く。
『本当に楽しそうな目をしてるんです――』
そして、言葉は更に紡ぐ。
『真剣な表情から一変して――、そこから出てくる笑顔。それが 本当に素敵なんですよ♪ 見惚れてしまいますっ♪』
笑顔でそう話してくれる。内容はちょっぴり赤くなってしまいそうな事があったりするのだが、正直愚痴を訊いて貰ってばかりだから、惚気の話の類でも訊いてあげなければ 罰が当たると言う物だ。
『素敵――と言うより、可愛らしい。と言えるかもしれません。凛とした表情なのに、何処か、可愛いんですっ。無邪気って感じでっ! ……んん~~、もうちょっとで思い出せそうなんだけどなぁー。やっぱり、直に見てみたい、かな? ふふ♪』
感情や、その素顔を思い出せると言うのに、肝心な所が思い出せない。本当にもどかしさを感じているだろうと、聞き手でも強く思えるのだが、それでも 彼女の笑顔が崩れる事はやっぱり無かった。
―――本当に、あらゆる符合が一致し過ぎている。
それは、彼女から話を聞いただけで、写真を見せてもらったり、映像を見た訳でもない。ただ 印象を得ただけに過ぎないのだが、ランは強く感じていた。
でも、全てが偶然。ただの偶然で、自分が思い起こしてしまっただけなのかもしれない。だけど、それを言えば、《笑顔》と言う意味だけであれば、今までも 沢山の笑顔は見てきたつもりだった。
この、空の上を……空高くに妖精達が舞う美しい世界《アルヴヘイム・オンライン》。
数多くの世界を見て、旅をしてきたけれど……、その中でも随一の世界だと胸を張って言える。
一緒に旅をして回った皆、心から思えた素敵な世界。
だからこそ、沢山の笑顔にも巡り合えた。本当に皆笑顔だった。……だけど、こんな感覚は やっぱり初めてだったんだ。
様々な思考が頭の中を巡らせている間。ランは 気付く事が出来てなかった様だ。
今の自分が、目の前の彼を、彼の顔をガン見? している事に。にこやかに ユウキやアスナと話をしていたレイナは 気付かなかった様だが、丁度円状に展開している観客席の対局側に居座るヤマネコ―――シノンは気付いた様だ。
この世界よりも遥かに殺伐としていて、一瞬の判断ミスが即命取りとなる銃の世界で培われた鋭利な感覚は、この世界ででも健在らしい。
気付いたからこそ、並々ならぬ視線を送っていたのだろう。云わば、殺気に近しい性質をはらんでいる様子だったのだが……、真の悪意とは程遠い。
殺気は殺気でも、嫉妬の類が9割以上を占めている様で、それとなく視線に気づいたリュウキだったが、問題なし、と判断し 眼前にいる自分の事を見ている剣聖と謳われる凄腕猫剣士、ランを見ながら首を傾げた。
「ん? どうした?」
その言葉を訊いて、ランは漸く自分が、リュウキの事を見て ほとんど固まってしまっていた事実に気づき、思わず両手を振った。
「あ、いえ。何でも無いですよ。ちょっと考え事をしてて………」
「そうか」
さしたる疑問、そして 疑いを持つ訳でもなく リュウキは追及をする事なく、あっさりと話しを終わらせた。
が、ランにとってはまだ内心穏やかではなく、口調こそ動揺を隠せているが、それでも合いすぎた符合、ここから どう進めていけば良いかを模索し続けていた。
そして――数秒ではあるが、ランは何度も考えに考え、一周回った所で 手を選択した。
「今後の参考までに訊いてみたいんですが、僅差……と言いましたが、具体的には判りますか? 勝敗。明暗を分けた差が何なのか」
ランは質問をしながらも、既に回答を頭に思い浮かべていた。
何故なら、彼女なら……、彼女なら 間違いなく、こう言うだろう……と思っていたから。だからこそ、直ぐに頭の中で解答例を思い浮かべる事が出来たのだ。
「ん―――」
リュウキは、ランの言葉を訊いて 腕を軽く組み、人差し指の第二関節を折り曲げて、顎下に添え、考え始めた。
そして――ものの数秒後。
「敢えて言うなら、君の太刀筋は―――――――」
ランは、その先の言葉を訊いて――、目の前の景色が変わった。
それは見覚えのある景色。……そう、まるで初めて体感したあのVR世界。
彼女や妹のユウキと 初めてフルダイヴした自然と太陽で満たされた世界。
「―――少々素直すぎたな。だからこそ、手の先を読む事や最善策の手を択べた。……相手を視抜く君の技量は本当に凄かった。……でも、少し老獪さが足りなかった。――が、とは言っても、言う様な明確な差ではない。刹那程の差だ。次はどうなるか判らない」
『どんな勝負でも、二手、三手先を読まないとダメって事だね。―――ランさんも、とっても素直な性格だからかな? とっても読みやすいよー―』
これも、単なる偶然かもしれない。
そう、冷静に考えてみれば――、直接勝負をしたのだ。自分自身の印象が伝わる事だって、きっとある筈だ。……全力でぶつかったからこそ、伝わる事だってある筈だから。だから、深い意味は無い事だってあり得る。
だけど、ランは 無意識に リュウキの方へと手を伸ばした。
真っすぐに伸びる右手は、リュウキの手を求めている。
リュウキ自身はただの挨拶。勝負が終わった後の挨拶程度にしか考えてなかったのだが。
「ん?」
手を握った途端に、ふわりと身体が浮いた。
ランが翅を広げて、空へと誘おうとしているのだ。
「すみません。少し――少しだけ、付き合っていただけませんか」
ランの言葉。
それは、何処か真に迫る気がした。リュウキ自身も、何かを感じられたのだ。
何処か遠くで、微かに聞こえてた気がした小さな鐘の音。何かが始まる鐘の音が聞こえた気がしたのだ。
猜疑心や不信感よりも 遥かに好奇心が勝ったリュウキは、断る事無く『構わない』と頷くと、そのまま宙へ。
「あっ、ねぇちゃんっ!」
空へと飛ぶランを見て、慌てて呼ぶユウキ。ランは、ユウキの方を見て、ニコリと頷くと。
「ユウも早く」
一言そう伝えた。
ユウキは、まだまだ話をしていたかったから、う~ん……と少しばかり唸っていたが、とりあえず ランに置いて行かれる訳にはいかない事と後で話は出来る、と判断して。
「お姉さん達! ごめんなさいっ 今、時間あるかな?? ちょっと付き合って貰えないかな??」
ちょっぴり慌てながら、そして 上目遣いでおねだりするかの様な素顔は本当に愛らしい。突然に驚いているのは、アスナもレイナも同じだったのだが、当初の戦いの後にランが『説明を』と言っていた事を思い出し、何か訳がある、と言う事も察していた為、リュウキ同様に断る事無く 頷いた。
すると……、リュウキの時と同じく、ユウキはアスナとレイナの手を左右其々で掴むとそのまま宙へ。
ユウキは、ランとはちょっと違い……、引く力に遠慮があまり見受けられない。ランに置いて行かれないように慌てていた、と言う理由もあるかもしれないが、元々勢いのままに、と言う素直な性格だから、と言う理由なのかもしれない。
勢いよくまるでロケットの様な勢いで急上昇をしていったのだ。
凄まじい戦いが2戦も続き、場も色んな意味でお腹いっぱいになっていた様子だったのだが、流石にこれは想定外。
特に一緒に連れていかれた? 3人を知る者達の困惑は2倍増しだ。
「ちょ、ちょっと どこいくのよアスナ! レイ! ……って、そだ! リュウキもどっか連れてかれちゃったんだった! 3人とも、どこいくのよー」
甲高い声が場に響く。
その声の主は、驚き半分呆れ半分と言った様子のリズだ。最初、リュウキとランが空高くへと向かっていったのは、あまりに突然だった為(OSSや勝敗)反応しきれなかった様だが、流石に続けざまになれば、話は別だ。
「……連れてかれちゃいましたね……?」
「あははは………」
感覚はリズ同様。
半ば呆然としているのが、シリカとリーファ。
リュウキが帰ってきたから、色々と問いただしたい事が多かった為に、色々と項目を脳内でアップしている所の不意打ちだったから、笑うしかない。
「……とりあえず、行ってこいよ。2人とも。……あ、リュウキについては、後でみっちり訊く事があるからって、その辺も伝えといてくれ」
「…………」
そして、黒衣のスプリガン キリトはどうやらこの展開をある程度は予測していた様だ。だけど、穏やか、悔しさ、好奇心、それらが均等に表情に様子が出ている。その原因は明らかにリュウキである、と言う事は最早一目瞭然だ。
そして キリトの隣で、意味深な表情をして、じっと見つめているのは、シノン。
色んな意味で、一緒についていきたかった彼女だったのだが……、何か訳があると言うい事は察したため、一先ず身を引いたのだ。当然、後で追及をしてみよう。と決めて。
色々な表情が並んで、ある意味元気づけられたのは アスナもレイナも同じだ。
ユウキの進む速度が速くて、一瞬の笑みしか返せなかったが、大きく返事をする。
「え、えっと……、あ、あとで連絡するーー!」
「ま、待っててねーー! 絶対するからーー!」
皆に向けてそう叫んだ直後だった。
先頭に立つユウキが、両の翅を震わせた。翅は、闇妖精族を象徴する輝き……紫色の輝きを放つ。ついさっき引かれた速度でさえ、びっくりしたのだが 更に上がるのか? と思ってしまえば 強張るのも仕様が無いだろう。
そして、1秒の立たない内に、ユウキは猛ダッシュに入った。
アスナもレイナも手を引かれつつも、懸命に背中の翅を震わせて、追いかける。
先行く2人を追いかけて、もう 姿形が小さくなっている2人に追いつく為にも。
―――それは、本当に突然の出会いだった。
噂を聞いて、気になって来てみて……戦ってみて……そして、今一緒に空を飛んでいる。
アスナとレイナの2人は現実世界の葛藤をまだ胸の奥で渦巻いていたのだが、今日の衝撃的な出来事のおかげで、考えずに済んでいる。いや、考えたりする余裕自体が全くないのかもしれなかった。
―――何かが始まる。そう、2人も思えたから。
軈て、3人は前を行く2人に追いつき、並列飛行に入った。
24層に広がる湖の上空を一直線に南下し続け、アインクラッド外周の開口部から、一切の躊躇する事なく、外の虚空へと飛び出す。
「わっ!」
「わぷっ!!」
突入したと同時に、濃密な雲の塊がアスナとレイナの顔を叩いたのだ。
白一色の空間を更に数秒突き進むと、不意に雲が切れ、セルリアンブルーの空が無限に広がっていた。ランやユウキ、そして リュウキは 濃密な雲の中であってもなんのそのである。ランやユウキの事は知らないが、リュウキ自身は、リーファ達と 飛行レースを何度もしているから、もう慣れっこなのだろう。アインクラッド近辺でも行われたと言う話は聞くし、実際に見た事があるから判るのだ。
「ん――ウンディーネ領、三日月湾の丁度上空……か」
リュウキは、丸く抉ったような海岸線と、その沖に浮かぶ真円形の島から判断し、呟いていた。その言葉の通りであり、アスナ自身も、自分が選んでいた種族だから、と言う理由もあり、ウンディーネ領土で浮遊城アインクラッドが飛行しているのを理解していた。
「だね……、もう ここまで 移動してたんだ」
レイナは、広大に広がる世界樹の梢に目線を配らせた後に、あの特徴的な島を見て、移動距離を頭に思い浮かべていた。
アインクラッドの移動速度に少なからず驚いていた様だ。
だが、色々と考える暇は無い様で、合流して、ユウキが皆の先頭になり 今度はいきなり90度ターンして、垂直上昇を開始した。それに続く様にランが飛び、リュウキ、アスナ、レイナもついていく。
このまま、どんどん上昇を続ければ、遂にアインクラッドの紅玉宮まで一気に攻略――なーんて事は当然ながら出来はしない。そんな図々しい事をしない、と言う事もあるが、システム的に、未踏破層の外周部は不可侵領域になっているのだ。
「(まさか、知らない訳無いよね?)」
先頭を飛び続ける2人を見て、やや心配になってきたアスナは 一言確認をしようとしたのだが、もう少しで口から出かけたその時、再び進行方向が90度変わった。どうやら、目的地はアインクラッドの27層の様だ。
「あ……(27層……、確か攻略の最前線……だった筈)」
目的地がはっきりと判り、レイナは自分の記憶を辿って、結論に達していた。
まだ、27層のBOSSは攻略出来ておらず、大型ギルドもそれなりに手古摺っている様で、突破は厳しいとの事だった。
SAO時代と違い、攻略に精を出していないから、以前ほど、最前線の状況把握は、アスナもレイナもしていなかった。主に仲間達と楽しむ事を第一に優先させていたから、と言う理由だってある。
勿論――22層に還る事が出来たから、改めてそこでの思い出を沢山作っていたから、と言う理由も大きかった。
何より、最前線と言う言葉は あまり好ましくない。
楽しい思い出もある事はあるのだが……辛く悲しい事も同じくらいあったから。
アスナとレイナは、以前の事を思い出しかけて……直ぐに首を振った。
もう、あの世界とこの世界は違うんだ、と自分に言い聞かせる様に。
そして、色々と考えを過ぎらせてはいたが、(主にアスナとレイナ)何はともあれ、4人は27層の開口部へと突入したのだった。
~新生アインクラッド 27層~
ここは別名《常闇の国》と称されている27層。
その内部へと勢いよく飛び込んだ5人。
その時の豪快さがまるで、嘘だったかの様に、内部に突入してからはうって変わって、精密で、安全運転を心がける様になっていた。その理由が、時折群れを成して飛翔をしている飛行型モンスター《ガーゴイル》を避ける為だろう事は直ぐに判った。
スプリガンに並んで、暗視能力に優れている闇妖精族のユウキは、誘導を続けていた。どうやら、戦闘を行う気は無いのだろう。
すいすいと、ごつごつの岩々の間を縫い続け、軈て27層の主街区である《ロンバール》へと到着。
翅を畳み、地に足を付ける5人。
「……ね、そろそろ教えてくれない? どうして ココに連れて来てくれたの? 何か、この町にあるの??」
漸く一息つける徒歩の状態になった為、ユウキとランに訊いた。
レイナも同じ気持ちだったらしく、うんうん、と首を縦に素早く振る。
「あ、えっとですね……」
ランが説明をしようとしたのだが、勢いよく飛ぶように出てきたのは ユウキ。
「その前にさ! ボク達の仲間の事、紹介させてっ! もう ちょっとでつくから!」
「えっ!? あ、ちょ……」
「わわ、逃げないってば。だいじょーぶだから!」
ぐいっ、とアスナとレイナの手を引くユウキ。
半ば呆れた様子だったのは、ランだ。
こうなってしまえば、話を聞き入れてくれるまでに、時間がかかりすぎる、と言えるのは ランだけだ。
「すみません。どうか、お願いします」
ランは、残ったリュウキに改めて頭を下げてそういう。
それを訊いて、リュウキは軽く笑った。
「付いて行く、と決めたのは オレだからな。きっと アスナとレイナも同じだ。だから、そこまで畏まらなくても良いと思うぞ?」
賑やかなのには、正直な所 以前とは比べものにならない程手慣れたものだ。……ここ数年で、人生が劇的に変わったのだから。……以前までの自分を知る者、綺堂源治に言わせれば、リュウキは見違える程になっているのだ。
だからこそ、自然な笑顔を出す事が出来る。……ランにとっては、気になる笑顔に。
「そうですか。ありがとうございます。場所は この先にある宿屋、その中の酒場兼レストランの1階フロアです」
「ん。了解だ。……少し速度を早めよう。もう 3人が見えなくなった」
「ふふ。そうですね」
広場から見えなくなったユウキ達を追いかけるリュウキとラン。
軈て、放射状に延びる狭い路地の1つに潜り込んだ。そこの小さな階段を昇って、降りて、橋を渡り、トンネルを潜って……、到着したのが ランの言っていた宿屋が見えてきた。象徴となる《INN》の文字、そして大釜を象った鋳鉄製の釣り看板が揺れる戸口を跨ぎ、恐らくはもう到着しているであろう3人を足早に追いかける。
宿屋のエリアを1つ移動すると……声が聞こえてきた。
『お帰り、ユウキ、ラン! 見つかったの?? ……って、あれれ?? いるかと思ったら、ランいなかった……。 ユウキ、ランは?? リーダー置いてきちゃダメじゃんっ!』
それは、まるで はしゃいでいる様な少年の声だった。
盛大にダメ出しを喰らっているユウキの『てへへ~』と笑う声も同じく聞こえてきて、『もう直ぐくるよー。ちょっと 慌てちゃってたから』と弁明をしていた。
その話を聞いて、ランは苦笑いを浮かべると、奥へと指をさす。
入ろう! と言う意思表示だ。リュウキもそれを見て ゆっくり小さく頷くと2人で、光溢れる場所へと入っていったのだった。
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