μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜
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第35話 残り十センチの勇気
穂乃果に相談した翌日。
いくらかは気持ちが楽にはなったけど、それでも完全に吹っ切れたというわけでは無い。
今日も今日とていつもの如く音ノ木坂に足を運んでいた。
いつまでも引きずっているわけにもいかない。いつもの様に振る舞わないと他のメンバーに疑いをかけられる。特に...昨日話した穂乃果や絵里、希。そして勘の鋭い真姫なんかには気を付けておきたい。
そう思い、俺は昨日の出来事がまるで嘘だったかのように自分の席に着き、カバンから本日の科目の教科書を取り出す。いつ見ても大して分厚くない教科書も塵も積もれば山となる。意外とバカにできない教科書の山を机に積み上げ、感傷に浸る。
「......未遥」
まるで、女の子に恋をしたかのような呟きを零す。
理性じゃなくて、頭で、心で、言葉で...未遥の”何か”がグルグルと回っている。
そして.........穂乃果のあのセリフ
”他の女の人に取られちゃうからって片方の想いを押し付けて、もう片方の想いを無視するなんて、穂乃果は絶対嫌だ”
あの時はてっきり未遥の事を言っているように聞こえたけど、昨日帰って冷静に考えてみると何かが引っかかる。そんな気がした。
なんだろう......この胸騒ぎは?なんていうか...心臓の周りにべっとり油がまとわりついているような...。
ふと、教室の扉を見る。
丁度幼馴染三人組が登校してきたらしい。クラスメートに「おはよう」と三者三様の挨拶を交わし、各々自分の席へ向かう。
当然、俺の席の隣の穂乃果と目が合うわけで、
「あ...お、おはよう、大くん♪」
「お、おう...なんか今朝から妙にご機嫌だな。なんかいいことあったのか?」
「うぇっ!?..だ、大くん昨日約束したよね?」
「......約束?」
果たして昨日のやりとりのどこに約束する内容なんてあっただろうか...
地雷を踏みたくない俺は穂乃果の言葉に苦笑いで返答しつつ脳の記憶回路をフルで接続する。
...そして、パッと一つだけ約束と思われる心当たりのある会話が浮かんだ。
『す、水族館に行きたいな』
『水族館か。いいな、今度みんなも誘って──』
『2人で!!2人で.....行きたい』
『わかった。今度ちゃんと2人で行こうな』
『うん!!えへへへへへ♪』
な、なるほど...確かに『行こう』とは俺言ったな。約束はしてないけどな。
でもこの会話の流れからして”約束した”と捉えられていてもおかしくは無い。穂乃果は見事、それを正直に受け取ってしまったようだ。
「もしかして忘れちゃったの?」
「うん?いや、水族館の話だろ?忘れてないからな。時間空いたら一緒に行こうな〜」
「えへへへ♪もちろんだよ!」
穂乃果様は大変ご機嫌麗しゅうこと。対して俺は心の中でこう考えていた。
────あぁ、すっげぇ嫌な予感がすると、
この予感が外すことなくやってくるのは後日の話。
───第35話 残り十センチの勇気───
時が進むのは早い。穂乃果と軽く雑談してSHRが始まり、1限から6限へとタイムスリップするかのように時間は進んでいった。
ほとんど授業の話は聞いてないけど内職で脳の運動をしていた為、居眠りはしていない。
個人的には知識とかそういうのよりひらめきとか欲しいなぁ~なんかつまんないなぁ〜と考えていたのは気のせい。
と、いうことで放課後。各自自分の予定通りに行動するクラスメートを他所に俺はまだ、窓の外を見て黄昏ていた。
「海未ちゃ〜ん、早く部室行こうよぉ〜。ってあれ?大地くんどうしてまだ荷物片づけてないの?」
「そうみたいなんです...授業中勉強していたかと思えば今度は窓をずっと見てますし。いつもの大地の雰囲気を感じられないのです。」
ことりと海未の声がなんとなく聞こえるが、それは右から入って左で受け流す。
昨日穂乃果の前でこう言った。
”もう一度未遥に会ってくる。未遥とちゃんと、話したい”と。
だけど実際会って何を話す気なんだ?
すまなかった、やり直そう?
...絶対違う。これじゃあ別れたカップルが復縁するときに用いられる常套句じゃねぇか。
好きだ?
...そうなのか?俺は、未遥のことが好きだったのか?
でも、そしたら昨日拒んだ理由に繋がらなくなる。
そもそも未遥の本心を聞いていない。
昨日のあの状況じゃなく、もっとしっかり聞きたい。
その上で結論を出すべきなのか?
...わからない。俺には、わからない。
「はぁ〜。だから...めんどくさいんだよ。」
誰にも聞かれないように小さく呟く。
一度この話は忘れよう。忘れてμ‘sのラブライブ!予選に向けてまた頑張らねばな。きっと花陽あたりから聞かされているはずだし......
俺は重い腰を上げて机の上に散らばった教科書や参考書、テキストやノート適当にカバンにぶち込み、筆記用具も中身をケースに入れずにそのまま中へほうり込む。
「大地、大丈夫ですか?」
「え?何が?」
「で、ですから...今日ずっと”心ここにあらず”な感じでしたので...何か悩んでるのかと。」
「......」
海未の鋭敏さを失念していた。
そう言えばコイツもなんだかんだ人の気持ち読めるんだっけ?何その超人じみた能力。
俺としてはそんな能力要らないから捨てて欲しいものだ。
「大丈夫。ちょっと家で漫画読んでて気が付いたら3時過ぎてた。」
「嘘だよ大地くん♪大地くんお部屋に漫画一冊も無いよ?」
「ぐっ.........」
そうだ、ことりは俺の部屋の中に入ったことあるからどんな部屋なのか知ってるし、今俺が嘘ついたことも知っている。
その結果海未が俺をじっと睨んで、
「なに...してたんですか?そんな夜遅くまで...まさか遊んでたなんてことは無いですよね?」
「それはないよ...絶対ない。」
俺は語尾を強くしながら否定する。海未は俺の様子を察したらしく「そうですか、無理しないでくださいね。」とだけ言ってことりと共に部室へ向かった。
俺は二人がいなくなったのを見計らい、一人ため息を零す。俺の周りだけ重い空気が漂う。
「......いつまでもこうしているわけにもいかねぇよなぁ」
「まだ悩んでるの?」
「穂乃果...」
さっきから隣で始終を見ていた穂乃果が心の中を何か震えおののくような感情が走り、苦しげな表情にしながら話しかける。
昨日の今日だ、心配するのは当たり前で『心配しなくてもいい』と言う方が無理だ。
「...だいじょう、ぶ」
「...ほんと?」
穂乃果のいつになく真面目な言葉に一瞬たじろぐ。
が、すぐにいつもの太陽スマイルに戻る。カバンを肩にかけた穂乃果は空いたもう片方の手を俺の前に差し出す。
───手を出せ、ということだろうか...?
とにかくあまりごちゃごちゃ考えても仕方ない。そう考えた俺は彼女のその手をギュッと握りしめ立ち上がる。
「そうだな...よし!頑張ろうか!!ラブライブ!も近いからまた気合い入れ直すか!!」
「......へ?」
「ん......?」
次のラブライブ!に向けて意気込みを入れた俺とは裏腹にキョトンとした顔で見つめる穂乃果。
俺が何を言ってるのかわからないとでも言いたげな表情に対して俺は、
「どうした?鳩に豆鉄砲食らったような顔して...。遂にボケたか?」
「ち、違うよ!穂乃果はボケてないもん!!確かにおバカさんだけど...違うもん。」
「そうか...自覚あるんだな」
「そ、そうじゃなくてっっ!!!」
バンッと机を思い切り叩いてずいっと顔を近づける。そしてふわっとした香りと共に、
「ラブライブ!ってどういうことなの!?」
...どうもこうもお前、花陽から聞いてないのか?
そんな疑念と鼻腔をくすぐる甘い香りに翻弄された俺は、一度深呼吸をして.........溜息をつく。
「どうもこうも、今言った通り第二回ラブライブ!の開催が決まったらしいよ?俺も聞いた話だから自分が仕入れた情報みたいに言えないけど」
「聞いた話って........誰から?」
「そりゃもちろん花陽に決まってるじゃん。スクールアイドルの情報といえば彼女かにこだし」
「花陽.......ちゃん?」
俺は正直にそのまま伝えた。
すると穂乃果が謎めいたように眉をひそひそと歪め、何が思い当たる節があるのか急に閃いたような顔になる。
「.........電話、したの?」
「ん?ま、まぁ」
喜怒哀楽はっきりしているのが穂乃果の特徴とでもいえるだろう。そのまま穂乃果はず〜んと重たげな雰囲気を出した。まるで俺がさっき放出した雰囲気のように。
なにを考えてるかさっぱりだから放置して教室を出ようと鞄を持つ。
穂乃果は俺に気づき、「あ!待ってよ〜!」ととてとてと後ろにぴったり付いてくる。
そんなにぴったりついて来られるとすごく歩きづらいんだけど一体何を考えてるのだかさっぱりわからん。
理解不能の彼女ともにアイドル研究部の部室へ足を運ぶ。
ガチャリと部室の扉を開けた先にはいつものメンツが揃っていなかった。真姫に凛、花陽、にこ、ことり、海未に........絵里と希の姿が見当たらなかった。
彼女たちは生徒会だろう。そういえばすっかり忘れていたけど、俺は生徒会副会長の推薦を受けていたんだった。
だけど、元々生徒会を引き受けるつもりもなかったし、今の俺じゃそんなものを引き受けるなんてなおさらできない。
「ちっす」
「あ!大地くん来たにゃー!」
「ぐぇっ!?おまっ凛!会って早々タックルかましてくんじゃねぇ!?」
いきなりのタックルに受け身の準備をしてなかった俺はもろに受けてしまい腹に圧力を感じてそのまま倒れこむ。凛はそんな惨めな姿の姿の俺を見下ろして、
「大地くんよわいにゃ」
「.......うっせ」
と、毒舌を吐いた。
「穂乃果遅いですよ、何してたんですか?」
「それがね!それがね!聞いてよ海未ちゃん!大くんがすっごい大事なこと隠してたんだよ!!」
「か、隠してたって......何をです?」
地べたで蠢く俺を置いといて穂乃果はとんでもなく大切なことを話そうとしている。
「待てっ!」と言う前に────
「大くんがね!第二回ラブライブ!の開催のことをずっと隠してたんだよ!!!!酷いよね!」
「.....はい?」
「なっ....」
「にゃ?」
アイドル研究部部室内に凍てつく風が横切った。その後に皆一斉に俺に視線を向ける。......何故か花陽は『どうして黙っていたの?』とでも言いたげな表情を見せて。
「あの、さ...どうして俺が悪いみたいな目で俺を見つめるんだよ?」
「もちろん貴方だからです」
「なにその理不尽は!?」
「だってアンタしか知らないし...というかこの前A-RISEの優勝で終わったばかりなのにこんなすぐ二回目の情報が流れるなんてありえないんだけど!!」
海未とにこに否定されるも俺は本当に悪いことしてないし、どちらかというと......
「っ!!!」
「......?」
部室の隅でいつもより縮こまったお米系アイドル小泉花陽は俺と目が合った途端逸らした。
な、なんだろうか...そんな酷い子ではないはずだけどちょっとショックを受ける。
...もしかして昨日電話越しで”あの会話”を聞いていたのか!?それだとしたら少々厄介なことになる予感がする。
昨日の出来事について何を知ってるのか尋ねようとして...
「ねぇ、花陽は話して───」
「大くん説明して!どういうことなの!?
「そうよ!嘘だったら承知しないわよ!!!」
「大地くん...おねがぁい♡」
「おまっ!いいから落ち着け〜!話す!ちゃんと話すからぁぁぁぁぁぁ!!!!」
スクールアイドル所以なのか。それとも別の理由なのか、ここにいる7人のうち海未、真姫、花陽を除いたメンバーに押しつぶされてごった返しになる。
柔らかいし、いい匂いするし、男の俺としては至福な状況であることに間違いは無いのだが、季節は夏。
ムンムンと熱気を発する男一人に女の子4人がごちゃごちゃしているから当然、無駄に汗をかく。
幸せと不快感を同時に味わう羽目になった。
「あ...っつい...てば!!は〜な〜れ〜ろぉ〜!!!」
「にゃ〜〜!!教えるにゃーーー!!」
腰回りに引っ付にもく凛を振り払い、左右から引っ張る穂乃果とことりにデコピンをぶちかまして収集をつける。
そしてにこが無い胸を背中に当ててるので同様に引きはがす。
ぜいぜい、はぁはぁと...呼吸を整えながら場を落ち着かせようと俺は話題転換を試みる。
「と、ところで花陽」
「ふ、ふぁい!?!?な、なに大地さん?」
「いや...昨日、俺に話してくれたラブライブ!の件は他のみんなに話さなかったのか?」
「えっと...まだ話してない。」
「どして?」
「それは......」
”何か”言いたげな彼女は一度口を開いては閉じる、また開いたかと思うと閉じるを繰り返して、結局その真意を語ることは無かった。
「どうしたの花陽ちゃん?」
「え、あ、なんでもない...です」
いつもより声が小さく...いや、元から大きな声が出せる少女ではないけども、それでもあまりの小ささに疑問を感じた。
花陽は視線を床に向け、喋らなくなったことで雰囲気ががらんと変わった。そんな彼女の姿に見かねた真姫はすっと音を立てずに立ち上がり、花陽の傍までくると、
「え?ま.........きちゃん?」
「花陽ちょっとこっちに来なさい。」
「ふぇ?う、うん......,.」
真姫の声のトーンも何故か低かった。それが俺の心のざわめきを引き立たせ、もしかすると......もしかすると..........またなにか問題でも抱えてしまったのではないか?そんな嫌な予感が俺の中に沸き起こさせる。
真姫は俺の心情なんか気にもせずに花陽を無理やり部室の外へ。
バタンと、二人がいなくなった部室でポツリと誰かが呟く。
「..............かよちん、昨日の夜も元気なかったにゃ〜。」
花陽の幼馴染、凛だった。
「凛はなにか花陽から聞いてないのか?」
「うん。かよちんが変な様子だったのは凛も真姫ちゃんも知ってるけど、寝るころになると元気にお喋りしてたから『大丈夫かにゃ〜』って思ってたんだにゃ。」
「凛ちゃん達は三人でお泊り会とかしてたの?」
ことりの質問に凛は無言で頷く。
第二回ラブライブ!という、普通ならテンション上がって盛り上がり、『出場に向けて頑張ろう』と意気込みを入れるはずなのに、妙にしんみりしてしまった。
────花陽は一体何を悩んでいるのだろうか
この時点で俺が知りたいことはそこだ。
電話をくれた時の彼女はいつも通り.......いや、アイドル語る時の花陽だった。まぁそれも”いつもの”彼女に変わりはない。それから今日この時間に至るまでに何かあった。そうとしか考えられない。
(ラブライブ!のこと、未遥のこと、恋のこと........そして)
──────記憶のこと
「っ!!!!」
瞬間、俺の脳に電撃が迸った。
それと同時に花陽が今考えてる事、何かに躊躇っていること、悩んでいること
彼女の心情がなんとなくわかったような気がした。
まさか.........まさか
そうだ。
よく考えてみろ。未遥と話してた最中に花陽からの電話があり、それに嫉妬した未遥にスマホを取られた。
この時俺はてっきり未遥は通話を切ったもんだと思い込んでいた。だから考えなかったんだ。
──────花陽に通話の内容を聞かれてしまっている。
というあるかもしれない仮定に。
つまり、俺にとって誰にも知られたくない”あの事”も当然聞かれている可能性がある。
.......そう、記憶喪失という俺の秘密を。
「大くん?どうしたの?顔真っ青だけど」
「え?あ、あぁ。気にするな。それよりあいつら戻ってくる気配あるか?」
俺の質問に海未が反応した。海未は部室の扉を開けて上半身だけ外に出して様子を伺う。
扉を閉めた海未の答えは、
「来ません......ね」
「そう、か」
このままでいいのか?と思った。
このまま一人で悩ませていいのか?しかも花陽の悩んでることは自身のことではなく俺の事であんな辛そうな表情でいるんだ。
────花陽の笑顔も............俺が守ってやる!
まだμ‘sが結成されて間もないころに彼女に伝えた想い、約束。
それを今俺が招いた出来事で花陽を苦しめている。
”守る”と言った”俺”という張本人が。
「.......そんなの、許されるわけねぇよな」
誰に言うでもなく、一人呟く。ガタンと音を立てたせいで皆一斉に俺の方を見て不思議がるもそれを無視して部室を出ようとする。
花陽にどう言うか、どうやって解決させるか何も策なんてない。でも、俺が行かなきゃ......俺がやらなきゃだめだということだけは決まっている。
「ちょっと大地!アンタどこに行くのよ。もう少しで絵里も希も来るんだから花陽は真姫に任せなさいよ」
「......俺が行かなきゃ意味がねぇんだよにこ」
「なんで関係ないアンタが───」
「尻拭いだよ.......クソッタレ」
意味が分からない、といったような顔の先輩を置いといて俺はドアを開ける。
いつもいつも......何をやってんだかなぁ~俺は
俺は俺自身に嫌気が差す。
〜☆〜
笹倉大地という音ノ木坂で唯一の異分子が部室を出て行って数秒後に生徒会の二人は戻ってきた。
「みんなもう練習する準備はできたかしら〜って、あれ?」
「みんなお疲れ様〜........真姫ちゃんに花陽ちゃん、それに大地くんもおらんね。どうしたん?」
三人の存在が無いことに気づいた希は穂乃果に尋ねる。が、彼女は黙って首を横に振るだけで、何が起こったのか答えられなかった。
絵里が他の子にも視線を向けるも誰もがみな、同じ反応だった。
「みんなも知らないって....どういうこと?」
「すいません絵里、私たちが尋ねる前に花陽と真姫がどこかへ行き、大地も何か呟いていなくなりました。」
「アイツ、『尻拭いだよ』とか言ってたわよ」
海未の言葉ににこはそう付け足す。
そう、本当に誰も知らないのだ。突然黙り込んだ花陽、彼女をいきなり連れて行った真姫、そして意味深に呟いていった大地。
突発的な彼女たちの行動理由を理解できるものなどいるのだろうか...........
そんな時、凛が小さな声で囁く。
「........やっぱり”昨日の事”もっとちゃんと聞いておくべきだったにゃ」
「昨日?昨日何かあったの?」
絵里が聞き返す。
「うん.........昨日かよちんの家に真姫ちゃんと泊まりに行ったときに何か変なかよちんだったにゃ。時々ぼ〜っとしてたり、真姫ちゃんの苦手な柑橘系の食べ物だしたり.......普段のかよちんじゃ考えられないにゃ」
あの時凛は確かに心配はしてた。でも真姫が花陽のことをかなり心配して声をかけていたし、もし本当に悩んで悩んで苦しんでいたなら向こうから相談してくる。
花陽の”幼馴染”だからこそ下手に自分から聞くことはしなかった。
だけど、それが”裏目”となり今もまだ悩んでいることを凛は痛感した。
”幼馴染”所以に......判断を誤った。
凛はそう思っている。
でも今は......真姫がいる
彼女に任せておけばきっと。
「でもたぶん、大丈夫にゃ」
「凛......それはどうしてですか?」
「かよちんには真姫ちゃんもいるし.......大地くんもいる。きっと大地くんもかよちんを追っていったんだよ」
凛は思う。
悩んでるかよちんを助けてあげて、凛にはできなかった。だから。。。。。。。真姫ちゃん、大地くん。
幼馴染である凛にできなかったことを彼女たちはきっと........
〜☆〜
三階ロビー
花陽のあの姿を見ていてもたってもいられなくなった私は彼女を引っ張って二回の部室から三階の階段ロビーまでやってきた。
ここまで花陽は一言も発さず、ただただ無言で俯いたままだった。
───昨日、何をするべきか.....何を”彼”に伝えるべきか心に決めたんじゃなかったの?
昨日の夜中んの花陽を見て決心したんだ、と思っていた。
だけど、今の花陽は元の花陽に戻っていて。
昨日話したことが無駄になってしまったんじゃないか、何を躊躇っているのか。
私にはわからなかった。
だから私は無理やりにでも花陽を連れ出した。
何を考えてるのか真意を聞くため。そのうえでどうするのかもう一度再確認するため
「真姫ちゃん.......」
漸く口を開いた花陽の最初の一声は私の名前。
くるりと彼女に向き直って私は言い放つ。
「貴方.......心に決めたんじゃなかったの!?私昨日言ったわよね!『助けたいなら......ちゃんと行動を起こしなさい?”あの人”が貴女を救ったように』って!本当に彼を想うなら!本当に救いたいって思うならいい加減決心しなさい!」
「で、でもぉ!そんなことしたら大地さん絶対────」
「それが余計だと言ってるのよ!!!!」
「っ!?」
私の怒声にビクンと花陽は縮こまる。
正直花陽になんて怒声なんて聞かせたくなかった。優しくて人の事を良く考えるこんな子に対して、怒るなんてことはしたくなかった。
だけど私は今の花陽を許せない。
一度決めたことを.......決意を揺るがせるなんて認められなかった。
────μ‘Sに加入したときの彼女の面影が私の前から消えそうになったことが許せなかった。
だから、
「貴方には私には持ってないものがあるのよ」
「真姫ちゃんに持ってないもの......?」
「いい花陽、よく聞きなさい。花陽には他のみんなよりも強い”意志”を持ってる!小さなころから憧れていたアイドルに今こうしてなってる!諦めかけたアイドルに勇気をもってなって、そして貴方は変わったわ!!きっと花陽と同じ立場だったらそんなことはできない。だからね!今の花陽は許せない!!」
私は........私の花陽に対する思いを全力でぶつける。
それは信頼。
それは憧れ
私の想いが、言葉が彼女の為になると信じて私は気持ちをぶちまける。
「大地の何を知ったのかは私にはわからない。でも知ったから彼が苦しんでいることに気付いた。救いたいって!助けになりたいって!だったら行動を起こしなさいよ!損得なんて関係ないわ!思ったことに素直になりなさい?」
「真姫、ちゃん」
「貴方ならできるわ、私がこう言ってんのよ?」
涙目で私を見る花陽をそっと撫でる。
まだ少し肩は震えているものの、昨日の会話した時と同じいい目をしてると思う。
すっと、涙を拭った花陽は、
「真姫ちゃんありがとう、私..........私」
「まだその先のセリフは早いわよ」
花陽のぷっくりとした唇を人差し指で塞ぐ。
「そのセリフは........後ろの彼と話をしてから。それでも遅くはないわよ?」
陰から私たちのやり取りをこっそり見ていた、花陽をここまで悩ませていた張本人が姿を見せた。
「タイミング悪かったな」と言いながら階段を上る。
「よくわかんねぇけど......まぁ、十中八九俺のせいっぽいな」
「そ、そんなことは────」
「勿論あなたのせいよ、まったく」
「ちょっ、真姫ちゃぁ〜ん!?」と背後で花陽が遮られたことであたふたする。
「さて、邪魔者はお暇させてもらうわ」
「........あぁ、すまんな」
私はそのまま階段に足を運び、大地とすれ違う。
........えぇ、これでいい。
私の出番は終わった。あとは
(花陽、しっかりしなさいよね?)
親友に向けて私は激励の言葉を胸の奥から送った。
花陽はこれから、一つの大きな”壁”に立ち向かう........
「あのね大地さん、聞いてほしいことがあるんです」
最後に花陽の、そんな言葉が聞こえた。
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