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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

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第32話 過度の友情(前編)

 
前書き
 

 

「........」







胸が痛い

最後まで話しきったけど、やはりそうするべきじゃなかったかもしれない




胸を抑えつつ、飲み残しの冷え切った缶コーヒーに口をつける




「大地くん.....どうして今まで話してくれなかったの?」




絵里の言葉には若干苛立ちが込められていた




「ほんと......俺はなにしてんだろうな」




ため息混じりにぼやく

今までこの話題は誰にも話してこなかった

というよりは、話したくなかった




未遥は俺にとって無くてはならない存在

彼女に何度も助けられ、そして傷つけた




直接手を下したのではないが、俺があの状況を招いたのは確かだ




「別に意地悪で話さなかったわけじゃないんだ。《話したくなかった》んだ」




「それはなぜ?私達は仲間でしょ?.....辛いことはみんな共有すれば解決策あったかもしれないのに」




「それが出来ないから話さなかったんじゃないか!!!」




ピリッとした空気が俺と絵里の間を吹き抜ける

希はそれを見てただオロオロするばかり




「俺は.......怖かったんだ、もし俺が本当に《人殺し》だったら....もしこの事をみんなに話したらどんな目で俺を見るのか....怖いんだ」




確信のある事実は事実である

だが確信の無い事実は事実とは言えない




空虚の《人殺し》はどっちに転んだっておかしくない




いや、普通に考えて不味い方向に転ぶに決まってる







「........」




絵里は睨みつけるような眼差しを暫く向け、「はぁっ」とため息を落として髪の毛をかきあげる




「ごめんね大地くん.....嫌な事言わせちゃったわ」




「ウチら心配やったんよ?たま〜に大地くん《心ここにあらず》って時あったから」




ふと、俺の頭の上で感じる暖かな感触.....希の手が優しく撫でていた




「.....ごめん」




ぐしゃりとアルミ缶を握りつぶす




「でも、大地くん。これだけは忘れないで」




「ん?」




絵里は中腰になって俺と同じ高さの視線に合わせてからにっこり微笑む







「私だけじゃない.....μ'sのみんなは、今まで大地くんに助けてもらってばかりよ。それこそ、感謝しきれない程ね。だから今度は大地くんを助けたいの、1人で抱え込まないで?私達を頼って.....」




「絵里......」




μ's加入前の絵里だって1人で抱え込む奴だったじゃないか....

という思いは心の中に留め、俺は微笑み返す




「あぁ.....今度からそうするように努力する。ありがとう....絵里、希」




「ふふ.....ほんと大地くんもえりちと同じなんやから」




どうやらお見通しみたいだ




「言っとけ、希だって同じようなもんだろ」




「へ?ウチも?」




きょとんとした希の顔にちょっとばかりドキッとした




「まぁ今はそんなことはいいよ。さて、もう暗くなる....帰ろうか」




「ええ、そうしましょ」




潰れたアルミ缶をゴミ箱に投げ捨て、帰路につく































私達を頼って.....か

















































「ところで大地くん?」




「ん?いきなり真面目な顔してどうした」







秋葉原の駅に着いたところで突然希が俺の肩をトントンと叩いて

呼びとどめる




「ずっと聞こうと思ってたんやけど、さっきの話に出てきた《未遥》って女の子........大地くんとどんな関係?」




「へ?」




「ちょっ!!希!!」




想像してたのと少しばかり違う質問に眉をひそめる俺と、

何故か真っ赤になって動揺しまくる絵里がいた




絵里に関してはまぁいいとして




「どんな関係って.....さっき言ったとおりだけど」




「彼女ちゃうの?」




「希、そんなこと聞かなくても--「えりちは気にならないの?」




「え....あ、そ、そんなこと....」




余程聞きたいことなのか、絵里は焦点が合わず、めちゃくちゃ宙をさまよっている




「そうだな.......彼女ではないな。友達以上恋人未満だ。それが俺と未遥の関係。それ以上でもそれ以下でもない」




「じゃあ言い方を変えるよ。大地くんは未遥ちゃんのこと《好き》?もちろん、loveの意味で」




love......異性として好きか

恋愛なんてした事ないし、そもそも恋って何が基準なのかイマイチパッとしない

未遥の事を好きか嫌いかなんて問われたら間違いなく好きと答える




じゃあ.....恋愛方面としてはどうか




容姿なんて否定する部分なんてない

頭はもちろん、性格は人当たりいい、男子には若干距離を置いてるところはあったけど、毛嫌う様子はなかった

運動だって未遥は陸上のハードルの選抜選手だ




そんな子を好きにならない男子なんていないだろう




........俺は.....よくわからない




「よく...わかんない.....でも、もしかすると....天変地異な事があっても....未遥の事が....好きだったのかもしれないなぁ....」




未遥はどうだったのか今では知る由もない

だけど俺は未遥と共に過ごす時間はとても心地のいい時間だった

2人で帰り道一緒に喋って、買い物して、勉強して.....未遥の大会にも応援に行った




選抜メンバーに選ばれた時の未遥の喜びの笑顔はよく覚えている




だから、そばで支えてやりたいって思ってた




「......そう」




俺はこの時、絵里と希の顔から笑顔が消えていた事に気づかなかった








































----お前に人を支えるなんてできるのか?










----あの時---を見失い、酷い目に合わせた張本人のくせに










----何が出来るんだ?










----言ってみろよ、腰抜け














































----------------------------










あれから、絵里たちと駅で別れ俺は1人、秋葉原のCDショップに来ていた




昨日からとあるアーティストのCDが発売され、予約していたので取りに行こうと思っていた







最近人気が急上昇し、ライブも頻繁に行うようになり

先月は東北地方まで行ってライブしたとか




4人編成で皆ローマ字の呼び名であり、歌詞も大半は英語が多い




聞きやすく、ロックなところがカッコよく

2005年に結成されたその年から俺はあのアーティストに魅了され続けている







とまぁそんなことは置いとくか










「すみません、CDを予約した笹倉ですが」




俺は予約した時にもらったレシートを店員に見せ、「しばらくお待ちください」と言ってから店員は奥へ消えた




言葉通り、しばらくしてからCDと特典のクリアファイルを片手にやって来た




「こちらでよろしかったですか?」




「はい」
















〜☆〜
















「ありがとうございました〜!」










さて....帰るか....




いろいろ考えなきゃいけない事もあるし




副会長の件、μ'sのこれからの日程、そして.....




「何か....きっかけないかなぁ.....」




俺の記憶について

今の今まで記憶についてこれっぽっちも考えて来なかった

そりゃ戻って欲しいとは思ってたけど、日常生活に支障はなかったし、記憶が無いからといって不便ではなかった




ところが、最近....この春音ノ木坂に来てからというもの妙にキリキリ頭を締め付ける感覚に襲われる

悪夢なんてしょっちゅう見るようになった




そして.....さっきの話にも出た《殺人》について




「記憶.....思い出したくねぇな....なんか怖い」




もし.....西井があの時言ってた事が本当なら由々しき事態である

思い出してしまったら....果たして俺は俺でいられるのだろうか

思い出したところで一体どうしようというのだろうか




「それに、あの穂乃果似の少女も気になるしな」




ありえない.....とは言いきれない

今の穂乃果がそのまま小さくなったのがあの少女に物凄く似てるからだ




「ちっ...考えたところで仕方ない....口を割らないとは思うけど後で母さんに聞いてみるか」










俺は自動ドアの前に立ち、勝手に開くのを待つ






















その時、入口から1人の女子高生がやって来た

二重で青紫色の瞳はこっちを捉え、肩までかかるその藍色の髪




そして俺が前まで通っていた高校の制服

身長は.....凛と同じくらいに見えるから155といったところ







.........あ......どうしてだ?
















「.......大......地.....くん?」










「......未遥......か?」







噂をすればなんとやら

店の前で2人は出逢ってしまった







「なに.....してるの?」




「や!え、えっと....だな...CDを買いに...」




「そ、そうだよね!CDショップだもん!当たり前だよね!」




「お、おう!」




なんともぎこちない会話が続く

お互い衝撃のあまり気が動転している




なにか....なにか話題は無いだろうか

頭をフル回転させるも一向にいい話題が見つからない




....そうだ




「な、なぁ未遥」




「な、なに?」



















「もし.....よかったらさ.....家に...来ない?」
















何を言ってるんだろう俺は





































----------------------------













正直失敗したかもしれない




あれから大体20分くらいして俺の家に着き、お茶とお菓子を出したのはいい。そこから一言も話せない状態でいた




いや、正確に言うと話したくてもお互い遠慮して話せない、というとが正しい




とにかく、この空気を変えたい




未遥は俺をチラチラと見て、目が合うとさっと顔を隠す

または部屋をぐるりとまじまじ見つめるかと2つの行動をとっていた




前にもことりを部屋の中にいれたことがあったが、それと同じことをしているから多分「この部屋何も無い」とか思ってるんだろうなぁ....




あまりの空気の悪さに1つ咳払いをしてコップに口をつける




「お茶.....いるか?」




やっと出た言葉が相手を気遣う言葉




「え?う...うん、ありがとう」




未遥は残りのお茶を飲み干し、新しく俺がコップに注ぐ




「あの、さ..」




「ん?」




「あんなに私達...仲良かったのに考えてみれば私が大地くんの家に来たの、初めてだよね?」




さっきの俺の言葉がきっかけで未遥が少し躊躇いながらも語り出す




「.....あぁ、そうだな」




「どう?そっちの生活は」




「ぼちぼち....って言うのが定番なんだろうけど。すごく充実しているよ。それこそ、前の学校以上に友達が増えた。女の子ばかりだけどね」




苦笑しつつも、久しぶりの未遥との会話に胸がドキドキしてる自分がいた




「....そ、そう....そうだよね。女子高だもん」




「え?ごめん、最後なんて言った?」




「ううん.....それより、音ノ木坂って最近スクールアイドルできたよね?《μ's》っていう」




「おう、あるな」




「ランキング19位まで上ってきたっていうから少し調べてみたんだけど......大地くん、マネージャーしてるの?」







若干目を伏せながらも何か意図のありそうな....なんていうか、俺の話すことに探りを入れてるような




とにかく、そんな感じで質問してくる




?と、不思議に思いつつもそれを表に出さないようにいつも通り答える




「そうだよ。俺はμ's....初期の3人の時から今日までずっと傍で見てきた。たまに指導とかしてきたしね」




「ふふ.....そうなんだ、もっと....詳しく教えてよ。気になるな」




本来μ'sの裏側について他人に語る気は毛頭ない。




だけど未遥なら.......




俺は語ることにした。大丈夫、未遥なら問題ない




「俺が音ノ木坂にやって来て初めて会話したのがその3人。リーダーの高坂穂乃果を初めとする、衣装係の南ことり、作詞係の園田海未。彼女達が始めたんだ....音ノ木坂を救うためにスクールアイドルを立ち上げて.....」




















































俺はぽつりぽつり...それこそ、今までの出来事を噛み締めるように未遥に語った




廃校になるのを止めるために3人が立ち上がったこと




ファーストライブ、観客は少なかったけど自分達のやりたいことが見つかったこと




みんなの笑顔を守りたいということ




小泉花陽の夢を叶えるために背中を押してあげたこと




西木野真姫の本当の夢を見つけたこと




矢澤にこが本当はμ'sでスクールアイドルをやりたがっていたこと




絢瀬絵里の本当にやりたかったことを教えてあげたこと




東条希と《再開》できたこと




星空凛のトラウマを助けようとしたこと




μ'sが解散になりそうになった時は俺自身も転学の危機があったこと




それでも心配だった高坂穂乃果を溝から引っ張りだしたこと




....みんなに助けてもらったこと













充実した半年だった.....

学問がすべてじゃない




こうやって笑い、泣き、怒り、助け、励まし

誰かに足りないものを誰かが補うそんなμ'sだからこそ、俺はこうして今もいるんだと、感じていること










「.....」




「だから俺はさ、救われたんじゃないかなって思う。あの時のどん底からさ」




「........そう」




「それにみんなは俺のことを『μ'sの10人目のメンバー』って言ってくれたんだ。初めてだったんだよな、こんな気持ち」




中学の部活とは違う。




確かにみんなダンスがやりたくて集った俺らだから、そこに後悔はない

だけどほんのちょっとだけ、中学の部活というものに縛られていたものはあったのかもしれない




ただ単に俺らが気にかけないだけで、無意識に.....




それと比べてスクールアイドル....アイドル研究部は違う

部活そのものはあったものの、スクールアイドルは自ら結成し、自分達の力で仲間を集め、19位までのぼりつめた




達成感や充実感は心地よく俺の体に染み込んでいった




「..........」




きっと未遥ならこの事をわかってくれるだろうと思った

俺の全て....性格はもちろんお互いの秘密を打ち明けた者同士だから




「.......」




「.....?未遥?」




だけど、彼女は表情を暗くしていた

具合が悪いのだろうか




「大丈夫か?未遥....具合が悪いなら--「----は--の?」




「へ?」




何を言ってるのか聞き取れずもう一度耳を傾ける

もう《地獄耳》は引退かもしれないな




「μ'sの中に.....好きな人はいるの?」




「いや、好きな人....はいないよ」




意図がわからなかった

そもそも俺が恋愛に興味無いと昔言ったはずなのに




「ほんとうに?」




「あ、あぁ....前にも言ったけど恋愛は俺には向いてないし、興味ないからね」




「........あのね.....えっと....そ、その....」




未遥が珍しく歯切れが悪く、これから出てくる言葉に少々不安を覚える




「未遥......?」







俺、自分の手、俺、自分の手を交互に見て.....そして

























ふわっ........

























「み.........はる?」



















彼女は俺を正面から捉え、未遥の柔らかな身体を俺の体に押し付ける




抱きつかれていると頭が理解したの数秒後の出来事だった

今まで手を繋いだり、俺の肩に頭を乗せたりとしてきた未遥は

初めて俺に抱きついてきた




未遥の体温と大きいとは大袈裟には言えない控えめな胸、女の子らしい匂いが俺の鼓動を速める




俺の左頬には未遥の左頬が直接あたり、彼女のスベスベな肌を堪能してしまう




未遥も緊張してるのか?

と、思うのは未遥の鼓動が直接俺に届くほど強く強く抱きしめられているから










初めてだった




彼女がトロンとした目で俺を見つめているのは




「ど、どうしたんだ?らしくない」




あくまで冷静....冷静になるんだ俺




「寂しかった」




それを聞いて俺は理解した

俺がいなくなってからの未遥の気持ちを




「大地くんがいなくなって私と一緒にいてくれる人が傍から離れて.....連絡先も交換しないまま大地くんいなくなっちゃって.....どうしたらいいかわかんなくって....」







俺はあの学校から離れたかった

だけどそれは俺の自分勝手な願いでしかなかった




未遥の気持ちを考えてやれてなかった




そのことが....とても胸深くに響いた




「大地くん大丈夫かな?向こうで元気に学校行ってるかな?友達できたかな?ちゃんとご飯食べてるかな?とか毎日毎日毎日心配してるのに.....会いたいな...お話したいなって思っていたのに......でも大地くんは《今の学校生活が充実してる》とか、《μ'sの笑顔を守りたい》とか言っちゃってさ」




徐々に未遥の声のトーンが落ち、少し寒気がした




「今の大地くん.....すごく楽しそう、とても輝いて見えるの。μ'sの子達との出会いが大地くんを変えたというのはわかる......だけど大地くんをそこまで変える彼女達はなに?」




「何って.....《友達》に決まってるじゃん」




「《友達》......ね」




未遥はゆっくり俺から離れ、真正面から俺の目を捉える




「私じゃ......ダメだったの?」




「.....どういうことだ?」




「私じゃ.....あなたの傍に立つことはできないの?」







涙目で訴える未遥に顔を向けることはできない

未遥の気持ちを考えてこなかった俺自身が憎く、どのツラ下げて

未遥を見ればいいのか俺にはわからない




申し訳なさが胸いっぱいに広がる




「私はあなたの力になりたかった。初めて大地くんに出会い、話した日は入学式の時だよ。覚えてる?」




入学式?

あまりよく覚えてない

未遥と初めて話した日が入学式?

そうだったかな




「その顔、覚えてないって顔だね...大地くん、入学式初っ端から先生にこき使われていたね」




「あ、あぁ」




確かに俺はパシられた

学校の生徒指導の先生からあれ運べこれ運べこれはそこに置いておけと散々な入学式だった




そしてその隣には.....




「あ」




「ふふ....思い出してくれた?」




そうだ。俺が苦労してダンボールを5段積み重ねていた時、1人の女の子が助けてくれた




それが未遥だったのか




「あの一瞬でなんとなく思ったんだ。《この人、1人で抱え込んで苦労するタイプなんだな〜》って。その日からずっと大地くんを見てきた。」










「そうか....でも、どうしてそこまで俺の事を?俺と未遥ははっきり言って食堂の件まであまり関わりがなかった。なのに....」




言葉を遮り、彼女は続けた










衝撃的な一言を






















「私はずっと1人で苦しんでる大地くんの傍で支えていたかった

















































大地くんの事が大好きだから」




























大好き、その言葉に俺の鼓動はドクンと反応した

未遥の言葉と俺の鼓動以外何も聞こえない







前からそうなんじゃないかって思ってた

俺もしかするとそうなんじゃないかって思ってた




だけどそれは表に出さず隠したままでいた

もし、俺の想いと未遥の想いがすれ違いだったら

この関係は崩れるんじゃないかって怖かったから




でも未遥の想いを知った今、迷わなかった














































俺は.........














































未遥とは付き合えない








































俺は《友達》としての未遥が好きだから










「........え?」

























だけどそんな俺の想いは露知らず

ゆっくり顔を近づけてくる







「大地くん.....好き」




























後2センチ.....1センチ.......そして




唇と唇が触れ合う瞬間








































悲しみに閉ざされて♪泣くだけの君じゃない♪




スマホの着信音が鳴った







「きゃっ!」「わっ!」




いきなり過ぎて俺と未遥はお互い離れてスマホに顔を向ける




正直助かった

もしここで.....未遥とキスしてたら...後戻りできなかったような気がした







「な、なんだいきなり.....」







俺は鼓動の速い胸を抑えながら着信相手を確認する










「............花陽?」







「.......」




花陽、と俺が名前を呟いた時の未遥の表情はとても暗く濁んでいた

目のハイライトを失い、睨みつけるような




そんな表情をしていると気付かずに俺は着信に応答する







「はい、もしも--『ダレカタスケテェ〜!』




「.....チョットマッテテ?」




いきなり甲高い声をまともに喰らい、耳鳴りする

花陽はいつもことりと同じく脳トロボイスだ

だけどこんなに甲高い声を出す時は決まってお米の話か、アイドルの話に限る




多分後者かな?と予想を立てつつ話を聞く




『じゃなくって!大地さん!ビッグニュースですぅ!!!』




「なんだよ...ビッグニュースって」
















『ラブライブです!第2回ラブライブが開催されることがつい先程決定しました!!!』










「なに!?それは本当か!?」




これは驚いた

つい先日やっと第1回ラブライブが終わったばかりだというのに




『はい!今回は前回を上回る大会規模で会場の広さの数倍!ネット配信の他ライブビューイングも計画されています!』




「それは...すげぇな」




『すごいってもんじゃないです!ここからが重要です!』




始まったら止まらない花陽のマシンガントーク

俺はこっちのかよちんも好きだけどね




『大会規模の大きい今回のラブライブはランキング形式ではなく各地区で予選が行われ各地区の代表になったチームが本戦に進む形式になりました!!』




「というとつまりは人気投票により今までのランキングは関係ないということか?」




『そのとおり!!これはまさに《アイドル下克上》!ランキング下位の者でも予選のパフォーマンス次第で本大会に出場できるんですぅ!!!』




「それって俺達でも大会に出場できるチャンスって事だよな!!」




『そうなんです!!』




これは願ったり叶ったり!

まさか俺達も努力次第でラブライブに出場できる可能性がやってくるとは夢にも思ってなかった







わくわくしてきた!絶対みんな出ると言うに違いない!

俺もサポート役しっかりやらないと!

自然と頬が緩み、ガッツポーズをする




「よっしゃ!俺もなんかやる気出てきた!花陽!それはみんなには伝えたのか?」




《いいえ!まだです!今から言うつもりです!》




「よしよしよし!楽しくなってきた!俺になにか出来ることがあったらなんでも----」

























俺の手元にスマホが無かった



















「あれ?スマホは?」




辺りをぐるりと見渡し、そして見つけた













「......未遥、それは返してくれないか?」




肩をわなわなと震わせ、表情を失った未遥がそこには立っていた

明らかにいい雰囲気ではない




怒っているようにはみえないけど.....




「未遥」




「やだ」




「未遥....返してくれないか」




「やだ!!!!!」







初めて聞いた未遥の大声

あまりの出来事に一瞬放心になってしまった







スマホはまだ通信がつながっている為

『あれ?大地さん?大丈夫ですか?』と花陽の声が微かに聞こえる




「どうしたんだよ未遥....」













暫く.....無言が続いた




未遥の気持ちがわからない

どうしてそんな言動を取るのか

どうしてそんなにも悲しそうな表情をしているのか

どうして空虚な目をしているのか







俺にはわからない




ただ一つ言えることは







今ここで電話を取るべきじゃなかった

























そして































「なんで!!!なんでなの!!!!!なんで今ここに私がいるのに他の女の子と楽しそうに電話するの!?やめてよ!お願い!お願い!私を見て!!!私だけを見ててよ!!!!」


































悲痛な叫びが俺の胸と、電話先の花陽、部屋いっぱいに突き刺さった 
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