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東方大冒録

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第三部・風神録~二人の巫女の奇跡と幻想の力~
  深夜から翌朝にかけて。

 
前書き
紅魔館に引き続き、永遠亭のマガイモノを退治した暗基零。やっとのことで朝食がてら休むことができると思っていたが、そんなに思い通りに休むことはできなさそうだ。 

 
暗基達が永遠亭に突入する、ちょうどその頃。
妖怪の山も、例外なくマガイモノたちに侵略されていた。山頂付近に建てられた守矢神社では、勝敗の決まりかけた戦闘が繰り広げられていた。

「ぐあっ!!?」
「うわぁ!!?」
「神奈子様!! 諏訪子様!!」
「よそ見とはずいぶんと余裕ありげだな? 本物の早苗よ」
「えっ!? きゃっ!!?」

八坂神奈子、守矢諏訪子、東風谷早苗の3人は、神奈子とうりふたつの姿をしたマガイモノの猛攻によって、ひどく消耗していた。どんな弾幕を放っても、まったく効果がなく、むしろ力が強くなっている。そんな気がしてしまうほど、マガイモノたちの勢いは止まらなかった。

「ぐっ……、貴様、何が目的なんだ!?」
「目的……、か」

神奈子が膝をつきながら問うと、神奈子のマガイモノは無表情のまま、声色すら変えることなく答えた。

「二度と動くことができない体となるお前たちに、我らの目的を伝えたところで何の意味がある?」
「二度と動くことができなくなるだと……!? やれるものならやってみろ!! 偽物ごときに神は負けん!!!」

神奈子は叫ぶと同時に、弾幕と御柱を同時に発射する。しかしそれも、それすらも。

「ふん」
「なっ……!?」

マガイモノの神奈子の一薙ぎによって、一瞬で弾き飛ばされてしまった。

「そんな……、神奈子様のあれだけの弾幕が、たったの、一薙ぎなんて……!!」
「これは、正直まずいよ……」

諏訪子と早苗も、それ以上に言葉が出てこなかった。

「所詮はその程度なのだ。あきらめろ、本物よ」
「まだ、まだだ!!」
「いいや、もう終わりだよ」
「なっ、がっ!?」

突然神奈子の後ろから声が聞こえたかと思うと、彼女の後頭部は強烈な衝撃に襲われ、そのまま倒れてしまった。

「それだけ我を忘れて攻撃することに専念した状態で、私の気配も感知できないなら、私たちには勝てないよ」

なんと、どこからともなく現れた諏訪子のマガイモノが、神奈子の後頭部に手刀を決めていたのだ。それを見た本物の諏訪子は、

「早苗」
「す、諏訪子様?」

早苗の前に出ると、彼女のことを見ずに、言葉だけ。

「早苗だけでも逃げてよ」
「諏訪子様!!? 何を仰るのですか!!!?」

逃げろと。
早苗は納得できず、口を返した。

「私一人だけ逃げるわけにはいきません!! 私も戦います!!」
「だめだよ」
「なぜですか!!? 諏訪子様お1人だけなんてとんでもございません!!!」
「ちがうよ」
「何がどう違うと言うのですか!!?」
「私は、あくまで早苗が一時的にここから逃げるために時間稼ぎをするだけ。このままやられるつもりは全くないよ。それに神奈子一人だけ置いて私も逃げるっていうわけにもいかないしね。だから早苗、今は逃げて。そして対抗策を見つけたら、必ず帰ってきて、私たちを助けてほしいな」
「諏訪子様……」

早苗は諏訪子の言葉に泣きそうになった。しかし、早苗は、ここでいつまでも自分が駄々をこねていても、諏訪子にとってはきっと迷惑でしかないだろうと判断し、

「……、申し訳ありません!!!」

精一杯の謝罪の言葉を述べると同時に、山のふもとへと全力で走った。

「何とか逃げ切ってよ、早苗……」
「さて、そろそろ貴様も片づけてやろう」
「やれるならやってみなよ、太古の神の力をなめてると、痛い目を見るよ!!!」

そして諏訪子は、マガイモノたちに抗うため、突撃した。

































「妖怪の山上空は、白狼天狗のマガイモノばかり……、これでは満足に飛ぶこともできない……」

早苗は草木の陰に身を隠しながら、少しずつふもとへと足を進めていた。上空を飛ぶことさえできれば、霊夢のいる博霊神社まですぐに向かうことができるのだが、上空にはちらちらと白狼天狗のマガイモノの姿が見えている。おそらくは逃げ出した早苗を見つけ出すためのものだと思われるため、うかつに飛んでしまえば即刻つかまってしまうだろう。

「今のところは何とか見つからずにここまで来ることができましたが……、いつまで持つでしょうか……」
「いたぞ!!」
「もう見つかってしまいましたか……!!」

どうやら、上空だけでなく山の中にも見張りがいたらしい。見つかってしまった。早苗はやむを得ず超低空かつ高速飛行で山のふもとを目指すが。

「だいぶスピードを出しているようですが、私の速さには及びませんね、やはり」
「!!?」

早苗の目の前に新手が現れた。しかしそれは白狼天狗ではなく。

「射命丸さん……、のマガイモノ……!!」
「あやや、随分と怖い顔をなさりますねー早苗さん」

烏天狗の射命丸文のマガイモノだった。

「あなた方はいったい何をするつもりなんですか!?」
「何を、というと、あなたのことでしょうかね? それとも今の幻想郷のことでしょうかね?」
「ふざけないでください!!」
「おやおや、心外ですね? 私はちゃんと答えるために、あなたのことか今の幻想郷のことかを聞いたんですけれども?」
「……、今の幻想郷のことです、答えてください!!」

早苗はくだらないと思いながらも、仕方なしに今の幻想郷のことを聞きたいと言いつつ、質問の答えに答えるように急かすと、文のマガイモノは、

「うーん、そうですねぇ、簡単に言うと偽物たちだけの世界を作る、と思っていただければ」

案外素直に、そして簡単に答えた。

「偽物だけの世界!? 何のためにですか!!?」
「おっと、これ以上はあなたにお話ししたところで、あなたにはどうすることも出来ない事なので、話すつもりはありませんよ」
「なっ!?」

そして、それ以上聞き出すことが不可能になった。文のマガイモノは残念そうな顔をしながら言う。

「いやー残念ですねぇ、奇跡を起こす程度の能力を持ったあなただったとしても、それすらも意味のないものとする私たちには勝てないんですからねぇ。だから今こうして逃げているわけでしょう?」
「違いますよ……。あなたたちを倒す手段はあるはずです。だから今は逃げて、策を探すんです!!」
「ほう? 神奈子さんと諏訪子さんを見捨てたにもかかわらずですか?」
「……、それが神奈子様と諏訪子様の意思です……!!」
「ほうほう、そうでしたか。まぁそれがどうであろうと、私にとっては知ったことじゃないんですけどね! では、お命頂戴!!」
「!!?」

残念そうな顔から一転して楽しそうな顔をした途端、早苗に襲い掛かった。早苗はそれをぎりぎりで交わし、そのまま先へと進む。

「ほらほら、避けたりなんかしないでさっさとやられちゃってくださいよ!!」
「そんなのごめんですよ!!」

文の猛攻をぎりぎりでかわし続けながらふもとへと急ぐが、それも限界が近づいてきた。何しろ文のマガイモノだけでなく、白狼天狗のマガイモノの攻撃もかわしながら進んでいるので、その辛さは言わずとも分かるだろう。

「しつこいです!! 諦めてください!!」
「それはこちらのセリフですよ早苗さん! 諦めたほうが楽になれますよ!!」
「諦めてたまるもんですか! この妖怪の山を、守矢神社を守るために!」

叫んでみたものの、幻想郷に来てからろくに運動をした記憶がなかった早苗の体力は、すでに6割ほど消費してしまっていたため、下手に回避行動などをして体力を消費したくないのが彼女の本音でもあった。

(くっ、まずいです……、射命丸さんのマガイモノなだけあって、ただでさえスピードであちらのほうが有利なのに、ここにきて私のスタミナが切れかけるなんて……、って!?)
「きゃっ!!?」

横から飛んできた攻撃をかわした目先には、橙一色。木の枝だった。結果として、早苗は紅葉いっぱいの木の枝に突っ込んでいく形になった。そのままバランスを崩し、早苗は墜落した。顔面から落ちる悲惨な状態にこそならなかったものの、受け身をとることに失敗し、足首を痛めてしまった。

「いたたた……、やられましたね……。これでは満足に動けないじゃないですか……」
「東風谷殿危ない!!!」
「えっ!? ちょっと!!?」

だれかの叫びと同時に、何者かが早苗を抱きかかえ、その場を離脱する。それと同時に、切りかかろうとしていた白狼天狗のマガイモノたちの剣先が空を切った。

「間に合ってよかった!!」
「も、椛さん!? 無事だったんですか!?」
「えぇ何とか。にとり殿がかくまってくださったので、事なきを得ました」

早苗を抱きかかえたのは、白狼天狗の犬走椛だった。椛が言うには、普段から仲良くさせてもらっている河童の河城にとりにかくまってもらっていたため、椛だけはマガイモノに襲われることがなかったのだという。そして、自身の能力『千里先まで見通す程度の能力』で、守矢神社から今に至るまでの様子を見て飛んできたのだという。

「私の能力で、神社でのことを見させていただきました。まさか八坂殿と守矢殿の御力すら届かぬ相手とは……。相当厳しいものがありますね……」
「はい。苦渋の選択とはいえ、神奈子様と諏訪子様」
「今は悔やむだけでは進むことができません。あれに対抗できる力を持つ者をここにお連れすることが先です。どうやら現在、その力を持つものが、永遠亭にて交戦中のようです。何とかしてここにお連れすることができれば、可能性はないとは言えません」
「本当ですか!!? 神奈子様と諏訪子様も助けることが!?」
「その者なら、もしかすればたやすいかもしれません」
「なら、永遠亭に急ぎましょう!!」
「えぇ! 今向かっているところです!!」

そして椛は速度を最大まで上げて、永遠亭まで飛んだ。














「あの2人を追跡するのは2、3人でお願いします。本当であれば私も行きたいところなのですが、さすがに今の守矢神社にたどり着かせないための駒は必要でしょう」

射命丸のマガイモノは、白狼天狗たちに指示を出した後、自らの持ち場に戻るために踵を返した。

「さぁ、楽しませてもらいますよ? 優理亜さんの弟、零くん?」 
 

 
後書き
暗基が一度も出てこなかったのは今回が初めてな気がする。 
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