覇道を捨てて
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第三章
「貴方達はエルフの国の緑や水や果物を手に入れたいのですね」
「そうだ、あの美しいものを全て我々のものにするのだ」
「甘い果物達をたらふく食う」
「そして緑の日差しの中で遊ぶのだ」
「そうするのだ」
こうです。ドワーフ達も詩人に答えます。けれどです。詩人は彼等にも言うのでした。
「ですが戦わずともそうしたものは手に入りますよ」
「馬鹿を言え。エルフ達のものはエルフ達から奪わずしてどうして手に入る」
「違うか。あれは奴等が専有しているのだ」
「それでどうして闘って奪わずに手に入れられるのだ」
「ましてや奴等は我々の富を狙っているのだぞ」
彼等もこのことを知っていたのでした。
「それで何故戦争にならずに済むのだ」
「戦わずに手に入れられるのだ」
「そんなことが出来る筈がない」
「人間は黙っていろ」
こんなことを言うドワーフもいました。
「これは我等の問題だ」
「そうだ、人間は関係ない」
「黙っているんだ」
「いえいえ。戦わずして緑や水や果物を手に入れられますので」
詩人は彼等にもです。にこやかな笑みでこう話すのでした。
「ですからまずは武器を収められてですね。そしてです」
「そして?」
「そして何だ」
「宴の用意をお願いします」
ドワーフ達にもです。このことを用意して欲しいというのです。
「是非共です」
「何故宴だ」
「エルフ達と戦うのではなくか」
「宴だというのか」
「それだとか」
「お酒を沢山用意してです」
ドワーフはお酒が大好きです。だからこその言葉です。
「そして楽しく歌い踊る用意を」
「御主は何を考えておるのだ?」
ドワーフの王様は玉座からその太い眉を顰めさせてです。詩人に問い返しました。
「一体何を」
「戦えば多くの人が傷つき倒れます」
詩人は王様にこのことを言います。
「それと止めたいのと。そして」
「そしてか」
「エルフとドワーフの方に戦わずして幸せになって欲しいのです」
「その為に提案するのか」
「はい、では宴の用意をお願いします」
王様にもです。詩人はこのことをお願いします。
「そしてエルフとドワーフでお互いにです」
「双方を交えての宴か」
「それを開きましょう」
「よくわからぬ考えだな」
ドワーフはその眩かんばかりの。ドワーフの玉座から詩人に言いました。
「御主の言葉も信じられるかというとだ」
「信じられませんか」
「ペテンではないのか?」
具体的にはそれではないかと。ドワーフの方でも思うのでした。
「そうではないのか」
「そう思われるなら何時でもです」
「何時でもか」
「私の首を刎ねて下さい。その斧で」
「その言葉二言はないな」
「詩人は言葉と歌で生きているものです」
だからだと。詩人は王様に恭しく述べました。
「ですからどうか私の言葉を信じて下さい」
「わかった。それではな」
「はい。お願いします」
こうしてです。まずはドワーフと話をつけてです。もう一度エルフのところに戻って同じ様にお話を決めました。ドワーフとエルフは互いの境の場所で宴をはじめました。
そしてその中で、です。ドワーフの王様とエルフの女王様はです。詩人の仲立ちで会いました。
そのうえでお話をしてです。まずはです。
王様がです。こう言いました。
「実はわしは今は」
「今は?」
「うむ。妻に先立たれて」
そうしてだというのです。
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