大統領 彼の地にて 斯く戦えり
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第十七話 会談前
「で、外に並んでいるテントは?」
「難民用の仮設住居です・・」
予測していたことが的中してハイドリヒは深い溜息を吐いた。俺も今同じことをしているだろう。
アルヌスに帰投して、見てみれば城壁の近くにはテントが所狭しと犇めき合っていた。それで代理でアルヌスの基地管理の任せていた柳田を問いただしてみたらこの通りと言う訳だ。
「ちなみに難民の数は?」
「現在約、六千人です」
その数を聞いた途端俺は会議室を出たくなった。現在六千人だとしても、難民とは増えることはあっても減ることは滅多にないのだ。たった一日で六千人ということは1週間もあれば軽く4万人は超えるだろう。そんな数をここで養うなど困難極まりない。
独裁国家であれば適当に”処理”できるだろうが、あいにく我が国は民主主義国家なので民間人を虐殺すること等できない。
「現時点では住居や生活物資、食料など必要最低限の量は供給できていますが、1万人を超せば追加物資を要請しなければ到底賄いきれません」
「・・・仕方ない、本国に仮設住居と生活物資、それと食糧を追加要請しよう」
俺がそういうと柳田はほっと溜息をついた。
「ああ、そうだ。ちょうど良い、今回の事も良い経験になるだろう。頑張ってくれたまえ」
俺はそう言いながら柳田の肩をポンと叩くと、会議室をを出た。あえて柳田の顔は見なかったが、多分何を言ってるんだという表情だろう。あと数十秒で気づくだろうが、その間に俺は会議室からできるだけ離れる。途中ハイドリヒが”自業自得”と呟いたが、一応柳田はお前の部下だぞ?部下の失敗は上司が背負うという言葉を知らんのか?
まぁそんなこと言っても無言で無視されるだけなので俺も聞き流した。
その後ピニャ皇女を待たせていたことを思い出し、俺はハイドリヒとともに急い来賓室に向かった。
■ピニャ・コ・ラーダ
アルヌスの丘に着くとミースト殿はすぐにどこかへ行ってしまった。せっかくの説得の機会を逃したことは痛いが、まだ挽回できる。いや、挽回しなくてはならない。
いま彼らと関係を作らなければ我らは滅びるのだから・・
あの後シェーンコップ殿が客間に案内してくれた。どうやらミースト殿は外にあるテントというものの件で少し話しているそうだ。テントとは簡単にできる住居的なものらしい。
「待たせて申し訳ありません」
10分ほど出された紅茶を飲んで待っていると、部屋の扉があいてミースト殿ともう一人男が入ってきた。その男はこちらを冷酷な目で見つめてきた。あまりの冷たさにこっちまで凍りそうだ。
私とボーゼスは立ち上がって二人に礼をした。
「どうぞ、お掛け下さい」
ミースト殿の言葉を聞いて私たちは座った。
ミースト殿の横にいるのがロンディバルト軍の指揮官なのだろう。随分と厄介そうな相手だ。二人だけで交渉が出来るだろうか・・・。
「こちらは特地派遣軍のラインハルト・ハイドリヒ副将」
この男が副将?ではミースト殿は・・・。いやな予感がした。
「そしてこちらがペルシャール・ミースト皇帝」
やはり・・ん?今なんといった・・?ペルシャール・ミースト”皇帝”?
皇帝、だと・・・?
そんな、私は今までロンディバルト国の皇帝に無礼にも平然と話しかけていたのか・・?
私は今までこの男にどう話してきた?敬語を使った?いや、使っていても形だけのもの、高圧的な態度だっただろう。
では皇帝として相応のもてなしをしてきた?いや、もてなすどころか何度無礼を働いた?挙句の果てに全身に傷を負うほどの重傷を負わせている・・。
だめだ、今更頭を下げたところでどうにかなる問題ではない。ではこれからどうなる?帝国は?民は?イタリカは?妾は?
…一体どうなるのだ……?
後書き
今回はだいぶ短いです。申し訳ありません(´;ω;`)
ちなみにペルシャールが”皇帝”となっていたのはレレイ翻訳的にそれが現状で一番ピニャに対してわかりやすい表現だったからです。まぁこの時代皇帝とか国王とかしかいないので、たとえ大統領が1国の長であると理解できても「神様的存在のミースト殿に」という思いは変わらないでしょう、前国家君主制かせいぜい立憲君主制ですから民主共和制なんて知りませんからね。
あとおまけで前々に言われていた武器の紹介をします。もし新たに登場することがあったらその度にあとがきに記載します。
「H3A1」
種別: アサルトカービン
口径: 5.56mm
銃身長: 370mm
使用弾薬: 5.56mmNATO弾
装弾数: 30発
全長: 840mm
重量: 2120g(弾倉除く)
発射速度: 750-900発/分
有効射程: 約700m
コルト・ファイヤーアームズ社が製造しているM1カービンをベースに、ヘルク・ファン・ルメーン社が開発、製造したロンディバルト軍の標準ライフル。M1をベースにしているため、いたるところにM1の名残が残っている。多数の派生型もあり、アクセサリーも数十種類存在する。
5.56mmNATO弾を使用しているのは建国当時から新たに統一しようとして失敗しているため、現状維持が暗黙の了解とされているためである。
ちなみにH3A1とは”ヘルク・ファン・ルメーン社製の第三世代のA型第一モデル”という意味である。
「H160」
口径: 5.56mm
銃身長: 450mm
使用弾薬: 5.56mmNATO弾
装弾数: 150発又は200発
全長: 1080mm
重量: 6.7kg(弾倉除く)
発射速度: 760-820発/分
有効射程: 約800m
支援火器として、また歩兵との弾薬共有を可能にするために開発、製造された、ヘルク・ファン・ルメーン社製の軽機関銃。それまで使用されていたH140は弾薬が7.62mmと5.56mmに比べ貫通性破壊性の強いものだったが、歩兵と弾薬共有が出来ない点や、反動過多により扱いが難しかったため、ロンディバルト軍では順次こちらへの更新が行われている。
「FA190」
口径: 9mm
銃身長: 120mm
使用弾薬: 9mmSHK弾
装弾数: 13発
全長: 210mm
重量: 890g(弾倉除く)
有効射程: 約120m
フォーケン・アイラント社製のロンディバルト軍の標準自動拳銃。第二のベレッタと言われるほど使い勝手が良く、警察を始め憲兵隊といった多くの法執行機関で使われている。
ちなみに使用弾薬である9mmSHKの「SHK」とはこの弾薬の製造元であるシャーミング・ハインツ・カエステオ社の略である。
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