大統領 彼の地にて 斯く戦えり
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第十六話 帰還
ペルシャールの一行は、その後5人ほどのメイドが新たに加わり和気藹々と交流を楽しんでいた。
しかしそれはその数分後幕を閉じることとなった。
「・・・な、閣下!!」
メイドから受け取った水を飲んでいたディートヘルムがとっさにペルシャールの前に立ちふさがった。
ディートヘルムの前には金髪の女性が顔を真っ赤にして平手打ちの構えをしていた。
彼女はすぐにそれに気が付いたローゼンカヴァリエの隊員が捕えて動きを封じた。その間に他の隊員も銃を構えて入口や窓を警戒していた。
「・・・騎士団の隊長・・だったか?」
ペルシャールは突然のことに驚きつつも金髪の女性の顔をうかがいつつ小さく口にした。
「・・・・」
その女性はペルシャールの言った通りバラ騎士団の隊長であるボーゼスであった。しかしいつもの服装ではなく売春婦の様な服か下着かわからぬほど露出度の高い服を纏っただけである。
ペルシャールはため息を吐くとベッドから出てピニャのいる大広間に向かった。
「・・・何か、あったのか?」
大広間にはピニャとグレイが会話していたが、ペルシャール一行が来たときに驚きつつ、拘束されているボーゼスを横目に尋ねた。
ペルシャールはそれに答えるように説明を始めた。説明が進むにつれてピニャの顔は徐々に真っ青になっていった。
説明が終わると同時にピニャはその場に泣き崩れた。
「この始末・・どうしてくれよう・・・」
ピニャは頭を抱えて頭をフル回転させた。
「我々は朝にはここを出発しアルヌスへ帰還します。今回の事は・・・そちらですべて決めてください」
ペルシャールはこれ以上厄介ごとに巻き込まれたくない一心だったため、できるだけ関わらないようにした。
「勝手に決めて良い、と」
ペルシャールのそばにいるレレイが有ってるようであってない翻訳をした。
「そ、それは困る!そうだっ朝食を一緒に摂ろう!!そしたら考えもっ!」
「あー申し出は嬉しいのですが、本国で特地の件で説明を行うことになっておりまして」
「ミーストは元老院に報告をしなければならない、と」
「げ、元老院!?」
ピニャは元老院という単語に敏感に反応した。ピニャは今回の不手際を元老院に報告し、帝国を攻め滅ぼそうとするのではと考えた。
「だから急ぎ戻らねばならない」
「ま、待ってくれ!!」
ピニャはレレイの翻訳が終わる前にペルシャールに歩み寄って行った。隊員達も警戒して銃に手をかけている。
「では、妾も!妾もアルヌスに道々させてもらおう!!」
「は!?」
「このたびの条約違反、ぜひ上位の指揮官に正式に謝罪しておきたい。よろしいな?ミースト殿」
ペルシャールはこの時一つ失念していたことを思い出した。ピニャに自分が異世界の国の長だと伝えていたいなかったのである。ペルシャールはやってしまったと思いつつも、ピニャの顔を見て断わるわけにもいかず、条件付きで同行を許可した。随行員はピニャ自身を含めた二人のみ、武器の携帯は禁止、この二つである。
ピニャは二つ返事で承諾し、すぐさま準備のために自室へと走り去っていった。
ペルシャールは面倒だな、と思いつつ大広間を出た。
ペルシャールの一行は日の出と同時にピニャと随行員ボーゼスという荷物を乗せてイタリカを出発した。南門から城外へ出ると、上空には5機の戦闘ヘリ、前後左右には計40台の機甲部隊が周囲の警戒を厳にしつつ追従した。
「鉄の天馬に、鉄の象・・まさしく異世界の怪物・・・」
周囲を囲んでいる戦車部隊を窓越しに見たピニャは声を震わせながら呟いた。
「!?殿下!アルヌスです!」
「もう着いたのか!?なんという速さだ・・・」
ピニャはあまりの速さに唖然とした。半日どころかたった二時間程度走っただけでアルヌスの丘に到着である。
「あの杖・・ロンディバルト軍の兵は皆魔道士なのか?」
平原で行われている射撃訓練を見たピニャは疑問を口にした。
「あれは魔導ではない。銃、あるいはライフルと呼ばれている武器」
その疑問にレレイが答えた。
「武器だと!?」
ピニャが驚くのも無理はない。帝国では銃はおろか火薬を使った兵器は何一つ開発されていないのだ。無論大砲なんてものも存在しない。
「原理は簡単。鉛の弾を炸裂の魔法で封じた筒で弾き飛ばしている」
「それをすべての兵に持たせているというのか・・」
「そう、ロンディバルト軍はそれを成し銃による戦い方を工夫して、今に至っている」
「戦い方が・・・根本的に違う」
「だから帝国軍は負けた」
レレイは表情が買えずに言い放った。その一言がピニャに鋭く突き刺さる。
「なぜ・・こんな連中が攻めて来たのだ・・・?」
「帝国は鷲獅子の尾を踏んだ」
「帝国が危機に瀕しているというのに、その物言いはなんですか!!」
ボーゼスがレレイに対して怒鳴った。
「私は流浪の民。帝国とは関係ない」
レレイは平然を返した。
「さっきから聞いてましたが、帝国とは攻め込む覚悟はあっても攻め込まれる覚悟はないのですかな?それもそちらから攻めてきて”なぜ攻めてきたのだ”など、冗談も大概にしていただきたいですね」
ペルシャールの言葉にピニャは沈黙した。それをミラー越しに見たペルシャールはふっとため息をつくとアルヌスの方に目を向けた。そこには数えきれないほどのテントが張られていた。
”緊急用避難テント”
テントにはそう書かれていた。
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