魔界転生(幕末編)
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第61話 造反
龍馬は呆れていた。
隣の部屋から聞こえてきていた女の喘ぎ声に。
(総司君も肺病だというのによくやるぜよ)
だが、女とことを初めていたころは、総司の喘ぎ声と咳き込む声が聞こえてきてはいたのだが、数日はその声も聞こえなくなり、女の喘ぎ声だけが聞こえてくるだけになっていた。
龍馬はまさかとは思ってはいたが、男女の秘め事に首を突っ込むことは野暮だと思い、そのままにしておいた。そして、数日たち、奴らが現れた。
奴らとは、武市半平太と天草四朗時貞。そして、新政府軍総大将・西郷隆盛も彼らと連れだって現れた。
「龍馬よ。沖田君は息災か?」
(まるで、天草のようぜよ)
龍馬は青白い顔の割には唇だけが異様に赤い武市の顔を見て思った。
「あぁ、元気も元気。今も連れてきた女とよろしくやっているところぜよ」
龍馬はため息交じりに言い放った。
「そうか」
武市は一言いうと龍馬に沖田の部屋に案内するように言った。
3人は龍馬の後に続き沖田が療養しているであろう部屋に歩みだした。
「ここぜよ」
龍馬は顎で部屋を3人に指し示した。中からは、女の喘ぎ声が聞こえてきてくる。
「なるほどな」
武市と天草はニヤニヤと笑ってはいるが、西郷だけは苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せていた。
龍馬が部屋の障子をあけた途端、生臭い強烈な匂いが鼻を刺した。
「こ、これは・・・・・・・」
血を見ることには慣れている龍馬ではあったが、その凄惨な光景に絶句した。
それは、部屋中が真っ赤で、その中にやはり赤く染まった女が男の上に乗り、腰をふり、喘ぎ声をあげている。
男は、女が腰を振るたびに口から血を吹き出し、目はすでに瞳孔が開き、白目をむいていた。
その男こそ、すでに絶命していた沖田総司その人であることはすぐにわかった。さすがの豪傑・西郷隆盛でさえ口を押え吐き気を堪えるほどの光景だった。
「おぉー、これはいい忍体になっておるは」
天草は歓喜の声をあげた。
「では、さっそく取り掛かるといたしましょうぞ。四朗殿。西郷さん、忍法・魔界転生。お目にかけましょう」
武市と天草は西郷に向かってにやりと微笑んだ。ともに目が金色に輝いていた。
嫌がる女を無理やり沖田から引きはがし、天草と武市は女を庭に引き立てた。そして、水をぶっ掛けて女の体から沖田の血を洗い流した。
女は体をちじこませ、寒さに耐えるように体を震わせている。
「西郷殿、これより魔界転生をお見せいたす」
武市と天草が並んで座り、その後ろには龍馬。そして、その後ろに西郷が座った。
武市が呪文のようなものを唱え始めた。そして、その後から天草が同じような呪文を唱え始めた。
しばらく、二人の呪文が交互して庭に響いていたが、段々と女の体が熱を帯びたように赤く染まって来た。と同時に、女の口からは呻き声のような野犬が敵を威嚇するような声を漏らし始めた。
いつの間には、武市と天草の呪文がリンクしていた。すると、女は白目を剥き、苦しげで悲鳴のような声を上げると口から蜘蛛の糸のようなものを吐き出した。
それは、女の体を徐々に覆いつくし、一個の巨大な繭玉のようになっていった。
「さぁ、蘇るのです。わが秘術・魔界転生によって!!出でよ、サタン。出でよ、沖田総司!!」
武市が大声で叫ぶと繭玉はぷるぷると震えだした。西郷は恐怖のあまり声も出せず、動くこともできず、目を大きく見開いていた。
繭玉が徐々に割れ始めると全裸の女が姿を現した。
女は微笑んでいるかのような表情をしていたが、腕が取れ、顔が崩れ、乳房が解けるように落ち、原型がわからなくなるように崩れて去っていった。そして、一人の美しい男が裸のままで現れた。
「さぁ、目を覚ますのだ。沖田総司」
武市は大声で叫んだ。その沖田と呼ばれた男は徐々に目を見開きだした。
「そこまでぜよ、武市さ」
その声が聞こえたと同時に、後頭部に固いものを押し付けられたような気が武市に感じられた。
「なんの真似だ、龍馬?」
武市は眼だけを後ろに向けるように龍馬を見つめた。と同時に、天草も立ち上がろうとしていた。
「おっと、動くなよ、天草」
天草には太刀を振り上げた格好で龍馬は言った。
「武市さ。あんたの役目はもう終わりじゃろ?」
武市の後頭部に当てているのは龍馬の拳銃だった。
「役目が終わったじゃと?何を馬鹿なことを言っておる」
武市は龍馬が隙を作るのを待った。
「知っとるよ、武市さ」
龍馬はにやりと笑った。その時、天草が中腰に立ち上がろうとしていた。
「動くなといっちゅ」
龍馬は大刀を天草ののど元に狙いを定めた。
「さて、武市さ。なぜ、わしがそう思うか言ちゃろうか。それは、おまんも武道家じゃということぜよ」
龍馬は淡々とした口調で武市に語りだした。
「フフフ。龍馬よ。おまんはなんか勘違いしとるよ。わしはもう武道家でもなんでもないぜよ」
武市は内心を悟られないように冷静な口調で龍馬に言った。だが、その反面、龍馬の言った言葉により動揺していた。
「じゃあ、聞くが武市さ。あと誰と誰と誰を転生させるつもりぜよ?」
確かに剣豪・武道家、名だたるものはこの幕末にもいることだろう。今いる、西郷もその一人だ。
「おまんに答える義理はない」
武市はじっと待った龍馬の隙を。だが、まったく隙がみあたらなかった。あったとしたら、天草が動いた時だったが、時すでに遅し。
「さて、武市さ。そろそろ、逝く時間ぜよ。これからの時代、化けもんは不要じゃきに」
龍馬は、トリガーの指に力を込め始めた。
「ふざくんな、龍馬。おまんもばけもんじゃろうが!!蘇らせてやった恩知らずが!!おまんは、いつもそうじゃ。この恩知らず、恩知らず」
武市は怒りに震え、拳を握りしめた。
「武市さ。言いたいことはそれだけか?では、先に地獄で待っていてつかぁさい」
龍馬はトリガーを引いた。爆発音が響き、銃弾が武市の頭を貫いた。
「おのれ、おのれ、りょ、お、ば」
武市は端末魔を残し、ゆっくりと土下座をするような体制で倒れていった。そして、岡田以蔵、高杉晋作と同じように灰と化していった。
龍馬はその様子を何も言わず見つめた。
「おのれ、坂本!!」
天草の声に龍馬は我に返った。が、すでに天草は半身の体制からまるで軽業師さらがらの動きで後ろに跳んでいた。
「逃がすか」
龍馬は拳銃を2発発射した。
「忍法・髪切り丸奥義、渦髪」
天草はキリスト弾圧時に死んだ女たちの髪で結った鞭状のものを凄い勢いで回転させ拳銃の弾を防いだ。が、その安堵感から隙ができてしまった。
目の前に全裸巣姿の沖田が剣を構えていた。
(し、しまった)
と思ったてもすでに時遅しで、沖田の剣が天草を襲っていた。が、沖田は天草が防御する隙をあたえるかのように剣の動きを止めていた。
(しめた!!)
天草は髪切り丸の奥義・渦髪を繰り出そうとした。その刹那、沖田は狙っていたかのように天草の小指を切り落とした。
「ぐわっ!!」
天草は痛みを堪え、渦髪を繰り出しながら後ろへと何度もバクバク宙を繰り返し天高く舞ったと同時に姿を消し去った。
「逃がしたか。しかし、沖田君が加勢してくれるとは以外だったぜよ」
龍馬は沖田に向かって笑いかけた。
「単なる気まぐれですよ。さて、龍馬さん、あなたとも戦ってみたいのですがどうですか?」
沖田は龍馬の方を見ることなくさらりと言ってのけた。
「いや、いや、沖田君。今は遠慮しておくよ」
龍馬もまた天草が去った方角を見つめた。
「そうですか」
感情のない声で沖田は言った。
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