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とある地下の暗密組織(フォートレス)

作者:@観測者
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第2話
  ep.011  『室内にも雨は降るってコト、これ教科書にも出るからっ!』

赤く染まる幼い少女の後書き、というよりかは後日談。




学園都市から『シ 296』の移送先が決まった。


「シーちゃんの事に関する書類が来ましたよ、叶先輩。」
御臼がクリアファイルに入った数枚の書類を見ながら言う。


会議室の椅子を三つ横に並べ、そのうえで横になっている夢絶。返事はないが寝ている訳でも無い。ただ、部屋の灯りから目を隠している左腕が少しだけ上がった。




「外国に行っちゃうらしいです。行き先は、アメリカ・・・・・・・・・・・・。」
御臼の言葉に少し悲しそうな声色がうかがえる。

たった一日だけ(そば)にいただけなのにこんなに悲しませてくれる彼女に、『ありがとう。』といっしょに『さよなら。』でなく『またどこかで。』という言葉を贈る。今度、元気で。

ふと、眠りにつく。

































深夜。

目が覚める。灯りは消されていて、掛け布団が腰に掛けられていた。
(そうか、夜なのか。)

部屋にかかっている時計を見る。暗くてよく見えないが、短針はおそらく12時を回っている。
(部屋に戻るか。)






























自室。

電気をつけるとほとんど何もなく、使わないまま物置と化した机とベッド。ゲームのみが隙間なく並べられてある棚に、ゲーム用のテレビ、PC。

ゲーム好きが憧れる装備一覧表(ひつようぶっぴん)が全て揃ってある。


時間を今度はしっかりと確認する。午前の2時20分を数メモリ過ぎている。




あのまま眠りについてしまったのか。それにしてもよく寝た。実に17時間くらいだろうか。通常では考えられないような時間だ。

と言ってもそれは常人であって、こんな過去の経緯が複雑すぎで、更には部屋からも察せる程のゲーム廃人ともなれば案外普通なのかもしれない。








灯りを消し、眠りにつく。

不思議な安心感があるのにも関わらず、身体の奥の方で何かの危険信号の様なものを察した。時刻的にも季節的にも怪談にもってこいな状況だが、彼自身はそんなふざけた感覚でなく少し昔を思い出してしまうよう。





























その日の夢には、立前さんが出てきた。目を(つむ)り頬を張るいつもの不思議と背中を刺されそうな怖くも元気な満面の笑顔を見せている。

辺りを見回す。過去に1度見たことのある場所。(こわ)れたビルが並び、地面も(こわ)れている。辺りは瓦礫と炎しかなく、空は月も星も無い真っ暗な空だった。




そして正面に彼女。




数日前の出来事が脳裏で再生されると同時、あの人は一歩を此方に。小さくも(ほこ)らしく(たくま)しく優々(ゆうゆう)しく猛々(たけだけ)しく、そして可憐な乙女の一歩。

その一歩に続いて二歩、三歩と此方に歩み寄る。先日の事もあり身体を後ろに、彼女から距離をとろうと下げるが、身体は全くに動かない。







また視界が停止する。

彼女の元々いた位置とここからちょうど真ん中辺り、姿が固定され停止する。それでも足音は聞こえ、段々と近づいて来る。


次の瞬間、テレビのカットが変わる様に一瞬で、奇怪ながらも当然に彼女は俺の前にいた。














「やっぱり君の翼は綺麗(きれい)だね、昔見たまんまだ。黒って汚い色のはずなのに、この翼は綺麗。」

そう言って立前さんは俺の右肩よりもさらにもう少し上を見る。


「私もこんな翼があれば、君の隣に入れたんだろうか。君の翼と同じようなものが欲しかった。」
はっきりと言って、何を言っているのか分からない。


動かない首を無理矢理に曲げて右後ろを見る。そこには、長さで言うと2mくらいの真直ぐなバーナーの炎のような翼がある。

そしてその目は、次第に付け根まで確かめるように。付け根には翼はなく、本当にバーナーの様。




「綺麗だよね。」
と彼女が言う。確かに言葉では綺麗としか言えない。




見たことがある。昔、同じものを見たことがある。もちろん学校の理科の実験で取り扱ったバーナーでなく同じ黒を、この方から()びる真っ黒色の焔を。


「それが君なんだね、ジェネス君。この子と一緒にいるのはいいけど、そろそろこの子の前にも姿を見せてあげてはどうかな?」
立前さんが俺でない俺の中に言う。

「この者は、まだ我を受け入れきれていないのだ。姿は見せるにしても、まだもう少し時間が欲しい。」
口が動く。それも達者に。でも、自分とは思えない口調に声の響き、洞窟にいる様な程の響き具合だ。


「見せる気はあるんだ。」
立前さんは俺の目を見ているのに、俺に言っている気がしない話し方だ。

「我の力がもう少し程戻ってから、教査会に縛られないほどの力が溜まるまでは、まだ姿を明かさずにおりたい。」
また口が勝手に動く。


「でも、すぐそのうちに会えるんだね。その時は、しっかりと会ってみたいものだよ、君にね。」


夢はここで終わった。

































朝、おそらく5時前。朝という気が起きない現状。時間は『たぶん』だとか『おそらく』でしか測れない。太陽の光の無い地下では時間はとても大事なのだ。

身体を起こす。まだまだ目と頭が眠っているのだが、身体は不思議を眠たくなくダルッとした感じもしない。


取り敢えずは毎日の習慣として部屋を出る、朝食を探しにだ。




部屋を出て、机に座る。

ガタッ!!

扉が開いた。叶世。

「おう、お前にしてはあり得ない(めずらしい)ことだな。今日の予報は隕石か何かか?」
と、全くに笑えないジョークを瞬きをせずに、その死んだ魚のような目で言う。


「アホか。ちょっと昔の夢を見てただけだ。」
本当は全然違う内容の夢だ。背景は見たことがあるのに肝心な人物がいなかった、憎らしくも仲間意識の持てるあいつだ。だが、口はそうしか動かず本当のことを言わせてくれなかった。


「ああ、そうだ。全員でしたい仕事がある。今から全員起こしてくれないか?」
叶世が会議室の扉を指さしながら言う。

夢絶はそれに対して、
「無理なやつでいいか?」
叶世は何も言わなかった。それは『良い』と言っているのではなく、『駄目』と背中で語っていた。































ならしよう。


ビニール袋を用意する。それを天井にあるスプリンクラーのつなぎ目で結び、準備完了。



これやってこの前御臼ちゃんに怒られたっけ。

夢絶は、壁に掛けられたとある赤い箱の前まで行き、その箱にある『押すな』のボタンを押す。




ジリジリというサイレンが鳴り響き、全ての部屋に一斉に『恵みの雨』ならぬ、『目覚めの雨』が降り注ぐ。

「叶先ぱあぁいいいいいいいいいいいいいッ!!!!」


御臼が自室から怒っているのが聞こえる。


スプリンクラーは、5秒ほど降るとすぐに止んだ。これも、夢絶が使うからこういう風に叶世が変えたのだ。


(さ、さて。会議室に入っておくかな。)
夢絶は、御臼の怒った顔を想像しながら会議室に結構満面の笑みで入った。 
 

 
後書き
更新です。

今回は少し夢絶の過去に触れてみるお話ですね。そろそろ神様も出してあげないといけないので、次の長編には神様も戦ってもらいましょう。 
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