魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第52話「辿り着いた世界で」
前書き
この章の今の展開は、無印で言う所の魔法少女になる手前。(つまりまだプロローグ)
...もしかしたら2章分の量になるかもしれません。
=優輝side=
「ここが....。」
「....私の、ご先祖様の故郷...?」
アースラに乗ってから数日。
ようやくシュラインが示していた世界に辿り着いた。
〈世界の名前は“プリエール”。...地球で言う、フランス語での“祈り”という意味です。〉
偶然とは思えない意味を持つ名前だけど、クロノ曰く珍しい事ではないらしい。
次元世界と言うのは、どこかで共通点を持つらしく、文化・魔法・言語などのどれかが似ている、もしくは全く同じという事があるらしい。
ミッドチルダも英語に近いし、ベルカもドイツ語に近いからね。
...そうなると地球って凄いな。魔法はないのにそう言う世界と共通点があるし。
「シュライン、奴の居場所は?」
〈...まだ来ていません。〉
「...よし、今からこの世界に転送する。各自準備はいいか?」
クロノがそう言って皆を見回す。
...皆、準備は既にできているようだ。
「じゃあ、行くぞ!」
転送ポートを使い、僕達は天巫女一族の故郷“プリエール”に転移した。
「森...やはり自然が多いな...。」
転移した先は森の中。...まぁ、まだこの世界の地理は欠片も知らないからな。
「エイミィ、この星はどういった環境だ?」
『えっと...ざっと見た所、地球に似てるかな?文化レベルは低いよ。』
アースラにバックアップとして残っている人達からそんな情報が来る。
ちなみに、バックアップに回っているのはエイミィさん、アリシア、プレシアさんだ。
「...集落かなにかはあるか?」
『ちょっと待ってて....あ、近くにあるよ。』
「そうか....とりあえず、そちらへ向かおう。案内してくれ。」
『りょーかい。』
エイミィさんと通信をしながら、クロノは集落へ向かっていく。
僕らもそれについて行く。
「ここか...。」
ちょうど木陰で向こうからは見えない所から、クロノは見つけた集落を見る。
「....見た目は昔の村みたいな感じか...。」
僕も集落を見てみると、昔の山奥の村にありそうな雰囲気の集落で、ファンタジー物の村を連想するような感じだった。
「天巫女の一族がいたって事は、魔法もあるのか...。」
「...とにかく、こんな大人数で行く訳にもいかないな...。なら...司、優輝、椿、葵の四人は僕と一緒に来てくれ。他の皆はここで待機だ。」
...司さんは先祖がここに住んでたから分かるけど、なんで僕ら?
椿と葵は長生きしてるから経験豊富だし、僕も導王だったから交渉とかはできる。
だけど、クロノはそれを知らないはずだが...。
...まぁ、理由なんてないかもしれないけどな。
「...行くぞ。」
クロノの言葉と共に、僕らはごく自然に集落へと歩いて行く。
「...そういえば、言語の違いとかは大丈夫なのか?」
「ああ。翻訳魔法があるからな。」
そういえばあったな。そんなご都合主義魔法。
原理としては、言葉に込められた言語の違いがない“意思”を伝えあえるようにする魔法で、そのまま翻訳と言う訳ではないらしい。
傍から見れば翻訳しているみたいで翻訳魔法という名前が付けられたとか。
「すみません、少しよろしいですか?」
「...ん?見掛けない人達だな...。」
クロノが近くの男性の村人に話しかける。
...なにか、警戒されている...?
「その服装....まさか、異世界の者か?」
「...まぁ、その通りです。異世界とかを認識しているんですね。」
「以前に異世界から来た奴がいてな。」
男性はそう答える。
...以前?もしかしてクリム・オスクリタの事か?
「っ...聞きたい事があるのですが....この男とジュエルシードと呼ばれる物に心当たりはありませんか?」
「...!こいつは...!」
クロノが提示した写真(データではなく紙媒体)を見て、男性は驚く。
「見覚えが...?」
「...村長を呼んでくる。俺の判断じゃどう答えればいいか分からない。」
そう言って男性は集落の中心の方へ走って行った。
「...あの様子だと、何かあったみたいだな。」
「そうだな...。」
「...顔を見た時の驚き様と僅かに聞こえた歯軋り...。多分、襲われて何人か犠牲を出してしまったのかしらね...。」
椿の言うとおり、男性が写真を見た時、因縁があるようなそんな表情をしていた。
怒りや悔しさが滲み出ていたため、生半可な因縁じゃないな...。
そんな会話をしていると、さっきの男性が村長らしき老人を連れてきた。
「...そなた達が、あの男を知っていると言ったのじゃな?」
「はい。...その様子だと、何かあったんですね。」
クロノが恐る恐る聞く。
...老人は写真に対して明らかな怒りを持っていた。
おまけに、それを持っている僕らに対しての警戒も強い。
「...あ奴は、突然村の中心に気絶した二人の男女と共に現れおった。その時は言葉も通じず、ただ情報を共有するのに必死だった...。」
...気になるワードがあったが、それは後回しだ。
おそらく、メタスタスでこの世界に転移して、自分の事を知らないからと隠れ蓑にしようとしたんだろう。
「...だが、あ奴が祠に行き、ジュエルシードについて知った途端、いきなり儂らに襲い掛かってきたのじゃ...!」
「....まさか、悪用しようと?」
「おそらくそうじゃ。儂らはあ奴を止めようと村総出で立ち向かったが....。」
そこまで言って老人は顔を伏せる。言いたくないのだろう。
「...なぜ、そなたらはあ奴について尋ねる?...事と場合によれば...!」
「っ...!」
老人から魔力が迸る。また、隣の男性からも殺気が溢れる。
...もし奴の味方とでも言えば、即座に攻撃してくるだろう。
「ま、待ってください!別に私達は...!」
「ならば、示してもらおうか...!そなたらが、奴の仲間ではない事を...!」
前に出て僕らを庇うように立つ司さんに、老人はそう言う。
「っ...私達は時空管理局と言います。それと、私は天巫女の子孫です!」
「なに....?」
司さんの言葉に、男の方は訝しんだままだが、老人は目を見開き驚く。
「まさか...そんなはずが...!?」
〈そのまさかですよ。ご老人。〉
「っ....!?」
シュラインが光に包まれ、槍の姿になる。
また、司さんの姿もあの聖女のような衣を着た姿になる。
「おお...おおお....!まさしく...まさしく伝説の姿...!!」
「そ、村長...?」
膝を着き、感激するかのように声を上げる老人に、男は驚く。
「....かつて...天巫女と呼ばれた女性が、ジュエルシードを使い、この世界から姿を消す事で災いを退けた...その伝説の存在が、こうして戻って来ようとは...!」
「え、えっと...この反応は私も予想外なんだけど...。」
戸惑う司さん。うん、僕も予想外だ。
「そ、村長...彼女は一体....?」
「...お主もかつての出来事を記された古記録...ジュエルシードにまつわる伝説を知っているじゃろう?」
「あ、ああ。だからこそ、俺達はジュエルシードを...。」
「そのジュエルシードを作り出した一族の末裔が、彼女なのじゃよ...。」
ようやく理解できたのか、男の方も固まるレベルで驚く。
...どうでもいいけど、さっきから僕ら蚊帳の外だぞ。
待機している連中なんか、ただ待ちぼうけ喰らってるだけだし。
「だ、だが、どうしてそんな事が...。」
「古記録に記された天巫女の姿...そして天巫女が使用していた杖...どちらも、今の彼女と同じなのじゃよ...。」
「っ....!?」
声にならない程に驚く男。
〈....感激に浸る暇はありません。早急に協力してほしい事があります。〉
「っ、そうだった。この男についてです!」
シュラインの一言に、クロノが再起動してもう一度写真を見せる。
〈この男は歪み、変質した21のジュエルシードを持って、すぐにでもこの世界にやってきます。狙いはもちろん残りのジュエルシード。...我々はそれを止めに来たのです。〉
「21...!?古記録には、一つだけでも世界を壊す程の力が込められていると...!」
「ですから、協力してもらいたいのです。」
シュラインの言葉に狼狽える二人に、僕がそう言う。
〈...そして、マスターがジュエルシードを使う許可をどうか....。〉
「....本来であれば、ジュエルシードを使わせる訳にはいかない。...じゃが、天巫女様であれば...あ奴を倒してくれるのであれば...!どうか...どうか仇を取っておくれ...!」
“仇”...やはり、誰かが犠牲になっていたのだと、その言葉を聞いて思った。
「...任せてください。」
「...司、君が中心となってくれ。...彼らにとってもその方が救いになる。」
「分かってるよ。」
司さんはクロノの言葉にそう返す。
...だけど、少し焦ってるような...プレッシャーに押し潰されそうな司さんの表情から、途轍もない嫌な予感を感じた。
〈...!転移反応を確認...来ます!!〉
『クロノ君!来たよ!!』
シュラインとエイミィさんの警告が同時に響く。
それに伴い、僕自身も転移反応の魔力を感じ取る。
「っ、村長さん方!急いで村人の避難を!ここからの対処は僕達が行います!」
「だ、だが...。」
「....あい分かった!ほれ、急ぐぞ!」
老人が男を引っ張り、集落の中へと戻っていく。
それと同時に、待機していた皆も出てきた。
「...いきなり修羅場ね。」
「まぁ、慣れたものだけどね。」
椿と葵も臨戦態勢に入る。
「司さんは祠らしきものを探して。そっちにジュエルシードがあるはずだから。クロノ!」
「分かってる!」
僕がクロノに呼びかけると、クロノは結界を張る。
規模は集落をまるまる包むほど。できるだけ村人を危険に晒さないための結界だ。
「フェイトと奏は奴がジュエルシードを見つけ、油断した所を速攻で確保するようにしてくれ!くれぐれもそれまでに仕掛けるな!」
「他の人達は集落の人達の安全確保へ!椿、葵....いざと言う時の咄嗟の判断は任せる。」
「分かったわ。」
当初の作戦通りにジュエルシードを囮に奴から“逃げる気”をなくす。
逃げる気がなくなった所を速攻で倒す算段だ。
...当然、上手く行くとは思えない。そのために避難誘導を他の人に任せる。
速攻を仕掛けるのは速い動きができるフェイトと奏の二人。
僕や椿でもできるけど、僕らはいざという時のための要員らしい。
なんでも、臨機応変に対処できるだろうというクロノの見識だ。
...それと、最終手段として司さんだ。
司さんは唯一ジュエルシードを正しく扱える存在。
先に祠に向かってもらって、奴が逃げずに他のジュエルシードを使った場合、残りのジュエルシードを用いて抑える作戦だ。
もちろん、そんな作戦に危険がないはずもなく、そのために僕らは控えている。
「(...これらの手段が杞憂に終わればいいが...。)」
...絶対一筋縄ではいかない。
なぜか、そんな予感が僕の脳裏を駆けて行った。
=out side=
「(...ここ...!?)」
司は集落の上空を飛び、祠らしき場所を発見する。
入口が仰々しく飾られている洞窟。おそらくこの中なのだろう。
「....どう?」
〈...ここです。三つのジュエルシードが、この洞窟の奥にあります。〉
シュラインがジュエルシードを探知し、洞窟にある事が確定する。
「シュライン。」
〈...私の探知には反応はありません。まだ来ていないようです。〉
「...でも油断はできない..よね。」
そう言いつつ、周りを警戒しながら司は洞窟へと入っていく。
「(...ジュエルシードはたった一つで世界を崩壊させる力を持っている。...それも、変質して劣化した状態で...そして、それに対抗できるのは私だけ...。)」
強大な力を想像し、少し体が震える司。
「(もし、そんな力がぶつかり合えば、皆が危険に晒される。...私が、しっかりしなきゃ...しっかり...しなきゃ!)」
緊張した面持ちでゆっくりと歩いていたが、そんな思いと共に徐々に駆け始める。
そして、祀られているジュエルシードを見つけた瞬間...。
〈マスター!!〉
「っ...!!」
背後に突然魔力反応が発生する。
反射的に振り向けば、そこには21個の浮かぶジュエルシードと、一人の男がいた。
「クリム・オスクリタ....!」
「...俺の名前を知っているという事は、管理局か...。だが、目的は目の前...もう手に入れたも同然だ!」
司を見たクリムは魔力を迸らせ、目暗ましの魔力弾を放とうとする。
「(っ、逃げる気はなし。つまり...!)」
だが、その動作を目の前に司は動こうとしない。
なぜなら...。
「はぁっ!!」
「ガードスキル“Hand sonic”...!」
背後から、素早くフェイトと奏が襲い掛かる。
「っ!」
しかし、その攻撃は躱される。
...正しくは、超短距離転移によって空振りした。
「ははは!遅い遅い!いくらスピードがあっても、俺には追い付けまい!!」
「くっ...!一瞬で転移...!」
「厄介だとは思ってたけど、これほどとは...!」
予備動作が一切ない連続転移。
短距離だからこそすかさず再度攻撃できているが、もし長距離ならば既に逃げられていた。
「ジュエルシードは目前!逃げる必要もない!なら、景気づけにこうしようか!!」
「っ...!?」
瞬間、21個のジュエルシードが鳴動する。
同時に魔力が溢れ、ただならぬ悪寒に三人とも身震いしてしまう。
「くぅうう....!?」
〈いけません...!ジュエルシードの魔力で空間が軋んでいます!何かで対抗しなければ...!〉
魔力の鳴動で、洞窟が揺れる。
「椿!葵!」
「優輝君!?」
そこで、入り口から優輝の声と共に矢と黒い剣が飛んでくる。
「おおっと。」
だが、それはジュエルシードによる魔力障壁で打ち消される。
「葵!」
「分かってるよ!」
「ん?」
すかさず接近してきた椿と葵が御札をばら撒く。
余裕があるのか、クリムは転移する事もなく様子を見ている。
おそらく、ジュエルシードの魔力障壁ならどんな攻撃も防げると思っているのだろう。
「空間固定!」
「術式起動!」
「「“霊魔束縛陣”!!」」
御札に込められた魔力と、椿と葵の霊力が混じり、空間ごとクリムを拘束する。
「お、おお...?」
「(空間そのものを固定する拘束術式...!)」
「(これでも逃げられるだろうけど...優ちゃんの攻撃の隙は作れる!!)」
ジュエルシードごと動きを止めているので、すぐに術式は破られる。
だが、優輝にとってはそれで十分。
「...硬化、強化、加速、相乗...!」
駆けだす優輝の周りを透明な結晶が漂う。
優輝が作り置きしていた魔力の結晶だ。
それらが、優輝の掌に槍の形として集束する。
「ただ一点を...貫く!!」
―――“貫く必勝の魔槍”
魔法の術式が綴られた本を浮かばせながら、優輝は魔力で練り固められた槍を突く。
ただ一点...ジュエルシードの魔力を貫くために放たれたその刺突は...。
「―――っ、届...かない....!!?」
その魔法は、優輝の持つ魔法で最も貫通力があった。
だが、椿と葵の拘束を破り、防御に徹したジュエルシードの魔力には敵わなかった。
「く...ははははは!!なにをするかと思えば!その程度、通じんよ!!」
「(ダメだ!こいつは人一人の力でどうにかなるモノじゃない!!)」
できれば司の天巫女としての力を使わずに倒したかった。
その想いで優輝は魔法を放ったのだが、それさえ通じないとなると、どうしようもない。
「....悪い、司さん。頼る事になってしまった。」
「っ...ううん。大丈夫...私、頑張るから...!」
「頼んだ。....フェイト!奏!椿!葵!足止めだ!」
結局最終手段に頼るのに、優輝は悔しがる。
それでも、司が天巫女の力を使うまでの時間稼ぎのため、クリムに襲い掛かった。
「...っ!」
〈....使い方は至って簡単です。...ただ、純粋に祈るだけです。〉
祠から三つのジュエルシードを手に取り、司は天巫女の衣装になって祈る。
「司さん!」
「ははは!たった三つで俺に対抗できると思うてか!!」
ジュエルシードが強く光を放つと同時に、足止めを突破してきたクリムの手が迫る。
「――――っぁあっ!!」
「な....!?」
瞬間、洞窟内を埋め尽くすほどの強い光が放たれる。
「これが...ジュエルシードの本当の力...。」
「...凄い....。」
強大すぎる...だが、害のないその魔力に、実際にジュエルシードに関わってきたフェイトと奏が驚愕する。
「....く...ははは!!それがどうした!所詮三つ!こっちは21もある!圧し潰してやらぁ!!」
「させない!!」
21個の暴れるような魔力と、3個の純粋な輝きのような魔力がぶつかり合う。
「っ...!崩れる...!」
「脱出しなさい!急いで!」
もちろん、それほどの規模の魔力がぶつかり合えば、洞窟は持たない。
優輝たちは急いで洞窟を出た。
「はははははははははは!!!」
「くっ....ぁあああああああ....!!!」
暴れようとする魔力と、それを抑えようとする魔力。
互いに打ち消し合う二つの魔力だが....。
「っ...!押され....!?」
...若干、司が押されている。それでもまだ拮抗はできているが...。
「どうして...!?」
〈...おそらく、まだマスターが天巫女としての力を発揮できていないのかと...!〉
押されている事に司は焦り、その焦りがジュエルシードの力をさらに揺らがせる。
〈(あと一つあればいいのですが、あれは...あれは....!)〉
何とかして、マスターのためにも今の状況を打破しようと模索するシュラインだが、何か訳があるようで、唯一の策を使うのを躊躇っていた。
「この...ままじゃ....!」
〈(...誰か....誰か...!)〉
司の焦りが増し、シュラインも焦る。
デバイスとしての機能をフル活用し、辺りを探知する。
〈っ.....!〉
そして、一人の人物を...優輝を捉える。
〈(....根拠も、確証も一切ない。...ですが....賭けましょう。可能性に。)〉
マスターである司と友人である優輝。
前々からただならぬ雰囲気を感じ取っていたシュラインは、その優輝の“可能性”に賭け、もしもの時の対処を任せる事にした。
...優輝なら、きっと最善の結果を掴んでくれると信じ...。
「(...嫌...!嫌!これ以上、皆を不幸になんか...!私が、不幸にしたりなんか...!)」
〈....マスター。〉
焦り、暗い思考が出てきた司に、シュラインは静かに話しかける。
〈...私の中に、最後の...25個目のジュエルシードがあります。それがあれば...。〉
「ホント!?それじゃあ...!」
〈....ただ、一つ...いえ、二つ程忠告を。〉
さらに魔力が押され、早く出してほしいと思う司に、シュラインは告げる。
〈....自分を見失わないでください。〉
「.....え?」
最後のジュエルシードが、シュラインから出てくる。
...だが、そのジュエルシードは....。
―――....黒く、濁っていた。
「っ、ぁ....ぁああああああああああああああ!!??」
刹那、そのジュエルシードから黒い魔力のような瘴気が溢れ、司を包み込む。
「な、なんだ!?」
さすがに、その事にクリムも驚いてしまう。
「ぁあああ...!ああああああ!!?くっ...が...ぁあああああああ!!!」
瘴気に呑まれ、頭を抱えて叫ぶ司。
瘴気は段々と司の体に吸い込まれていき、司が瘴気を纏うような状態になる。
「っ...ぁぁあ....。」
....その瘴気は、負の感情。負の想い。
司自身が、今まで募らせてきた、自分を責める、歪んだ想い。
それらがジュエルシードの魔力と混ざり、黒い瘴気となって司に吸い込まれたのだ。
「っ...ぁ....ぁ.......。」
〈―――それが、無理であるならば...。〉
黒い感情に呑まれ、朦朧とした意識の中、シュラインの声が司の頭に響く。
〈....“彼”を、信じてあげてください。〉
....その言葉を聞いた瞬間、司の意識は暗転した。
「っ、くっ....!」
「危ないわね...。」
一方、洞窟を脱出した優輝たちは、魔力の余波をギリギリで躱していた。
「避難は....終わってるか。」
「...住居はボロボロだけどね。」
誰か巻き込まれていないか、見渡すが既に避難は済んでいた。
尤も、既に結界があるので早々被害は出ないのだが。
「....司、押されてる...。」
戦いを見ていた奏がそう呟き、他の皆も戦いを見る。
「(...司さんの力は感情に左右されやすい...。よく見れば、ほんの少し司さんの方のジュエルシードの魔力が揺らめいてる。...このままじゃ...。)」
“負ける”。そう確信した優輝もまた、今の状況を打破しようと思考を巡らす。
「(...ブリューナクを使えば、動きは止められるだろうけど、あの魔力の暴風を突っ切って行くのは困難を極める。...だからと言って、遠距離攻撃じゃ、あいつの魔力障壁は貫けない...。)」
チラリと、優輝は周りの面子を確認する。
「(...フェイトと奏は高機動型。だけど、防御力が低いからあの魔力に巻き込まれるような事はさせれない。....椿は遠距離が本領だから、そっちの方に回らせた方がいい。...葵なら、あの魔力を突っ切る事自体は可能だけど、椿のためにもデバイスとしているべき。....なら...。)」
結局自分が突破口を開くのかと、優輝は一歩踏み出そうする。
その時...。
―――ゾクッ...!!
「っ....!?」
優輝の脳裏に、最悪の予感がよぎった。
その瞬間、崩れた洞窟から魔力が迸る。
「なっ....!?」
「嘘...あれは....。」
その魔力は、クリムによるジュエルシード21個の魔力ではなかった。
...25個、全てのジュエルシードの魔力だった。
「ぐがぁああああああ!!?」
「っ!?」
さらに、そこへ一人の男が飛来した。
どうやら、あの魔力に吹き飛ばされてきたらしい。
...もちろん、その男はクリム・オスクリタ。司と戦っていた男だった。
「っ、椿、葵!そいつ任せた!」
膨大な魔力から、触手のように一筋の閃光が迸る。
それを魔力の膨れ上がりから感知していた優輝は、クリムを椿と葵に任せ、前に出る。
「受け止めろ...“アイギス”!!」
〈“Aigis”〉
円に十字を重ねたような魔法陣で、閃光を受け止める。
「ぐっ....!」
〈なんて威力...緋雪様の一撃に匹敵...!〉
だが、それでも優輝が後退してしまうほどの威力だった。
「どういうことだ...!なんで....どうして...!」
ジュエルシードが上空へと浮かび上がり、その中心に人影が見える。
その人影は....。
「...嫌な予感が当たった....!」
〈...天巫女の力は、感情に左右される...それがマスターの推測でしたが、これはつまり...。〉
黒い瘴気に包まれ、膝を抱えるように浮かぶ司。
それを見て、全員が慄く。
「....一体、どこまで追い詰められてたんだよ...司さん....!!」
ジュエルシードをも浸食し、瘴気を振りまく災厄そのものになった司に、優輝は冷や汗を流しながらそう呟いた。
―――優...輝.....君........。
「(っ....くそ、記憶がチラつく.....だが、それよりも....!)」
既視感を感じるような、そんな光景が脳裏に過るが、今は目の前に集中する。
そう思って優輝は上空に浮かぶ司を見つめた。
―――...お前は、幸せになっていいんだ。
「(....必ず、助ける....!)」
後書き
クロノが集落に行く際の面子(主人公勢)を選んだ理由は、“交渉ができる”“経験が豊富”という理由からです。司は先祖の故郷なので問答無用で選ばれました。
...椿や葵は年齢や種族を聞いていたから、経験などから選ばれたのは分かるが、なぜ優輝をクロノが選んだのか...。
(ヒント:記憶)
なお、本編の流れには特に影響はありません。
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