上からマリコ
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2部分:第二章
第二章
「何でなの?」
「何でなのって?」
「私みたいなおばさんに声をかけたのは」
「いえ、おばさんなんて」
「違うっていうのかしら」
「マリコさんはおばさんなんかじゃないですよ」
このことはだ。僕はすぐに、しかも必死に否定した。
「お姉さんですよ。しかも」
「しかも?」
「とても奇麗な」
こうマリコさん、他ならぬマリコさん自身に言った。
「おばさんなんかじゃないですよ」
「有り難う。そう言ってくれるのね」
「はい、絶対に」
このことは間違いないと。僕はマリコさん自身に断言した。
「そんなこと言う人がいるんですか?」
「女は二十六だともうね」
「おばさんなんですか?」
「お肌も曲がり角だしね。結構色々あるのよ」
「そうなんですか」
「女はね」
マリコさんはくすりと笑いながら僕に言ってくる。その顔が年上なのに妙に小悪魔的だった。
「二十を越えたらなのよ」
「おばさんなんですか」
「特に二十五を越えたらね」
二十六のマリコさんの言葉だ。
「そうなるのよ。それでもいいかしら」
「そんな。あの、本当に」
「本当にって?」
「マリコさんもいいんですか?僕なんかで」
「君なんかでって?」
「マリコさんみたいな人が。その、僕と:」
「それは私の言葉だから」
マリコさんは僕の言葉をそのまま返したという感じで言ってきた。
「本当に私でいいのかしらって」
「そう思われるんですか」
「そうよ。いいのね」
「こうしているだけでも夢みたいです」
「年上趣味なのかしら。それを言うと私も」
僕の顔、特に目をじっと見てきての言葉だった。その鳶色の目に見られているだけで何もかもを見られている気持ちになる。大人の女の人の目だった。
その目でだ。僕に言ってきた。
「年下趣味なのね」
「年下ですか」
「そうね。実は告白された時にね」
あの病院での告白の時の話だ。僕はあの後でツレの見舞いに行ったことは行ったけれど実はそのことについてはあまり覚えがない。
「ときめいたわ」
「ときめいたんですか」
「私もね。ずっとそうしたことがなかったから」
告白とか恋愛とか。そうしたことがだというのだ。
「なかったわ。本当に」
「そうだったんですか」
「医者ってのは忙しいし色気もないし」
「色気も?」
「そう。お化粧だって殆どできないし夜勤が多くて」
それでだと。マリコさんは僕にさらに話してくる。
「お肌だって荒れてストレスだってたまって」
「それでだっていうんですか」
「どんどんブスになっていく仕事だからね」
「そんなことないですよ」
僕はマリコさんがどうしてそんなことを言うのか本当にわからなかった。僕から見るとマリコさんは誰よりも奇麗だ。それでこう言ったのだった。
「全然」
「全然?」
「はい、違います」
僕はまたマリコさんに対して言い切った。
「マリコさん凄く奇麗ですよ」
「有り難う。そう言ってくれるのね」
「いえ、本当に奇麗ですから」
僕は断言した。また。
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