普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
161 “みぞの鏡”
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
「……取り敢えず別に減点などせぬから、そのマントをお脱ぎなさい」
「はい、校長先生」
「ほら、こちらへおいで」
アニーは被っていた“透明マント”を脱ぎ、三人揃ってダンブルドア校長の示唆で姿見の前に踊り出る。目敏いハーマイオニーの視線は姿見自体でなく姿見の上の枠に注がれていて──そこに書かれている文字を訥々と口にする。
「[すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ]…? いえ、これは鏡──つまり、鏡文字! ……と云うことは、これは[わたしは あなたの かお ではなく あなたの こころの のぞみ をうつす]と読むのよ!」
〝わが意を得たり〟とばかりにハーマイオニー。ダンブルドア校長はそんなハーマイオニーを暖かく見守っているのはご愛敬。……やけに静かなアニーは、何故か俺を見ながら頬を朱に染めている。……敢えてノータッチ。
「私、マクゴナガル先生に褒められてる──あっ! ロンに勝ってるわ!」
この“みぞの鏡”は〝一番見たい夢〟を見せてくれる──云わば麻薬の様なもので、幾人もの魔女、魔法使いを虜にしてきたのだろう。……ハーマイオニーもまた“みぞの鏡”に魅入られていく。
……そして俺は…
(……やっぱり、か…)
鏡の中の俺は、どこかの病室に横たわっていて、孫や息子娘といった──家族らしき存在に看取られている光景があった。……俺の手をよくよく見てみるとしわくちゃなのが判る。
……俺の夢、それは自然に任せて──と云うより、〝自我を介在させず〟に老衰すること。……〝自我が介在〟してはいけないので、スキル等で寿命を設定することも出来ない。
だからその〝渇望〟は、一口に〝下らぬ感傷〟と捨て去りたい。だが、魅せられた事実は実直に受け入れなければならないことなのだろう。……何しろ“みぞの鏡”──〝自分〟には嘘が吐けないのだから。
「ミス・グレンジャーは、ミスター・ウィーズリーに勉学の成績で勝利することだったね。……ミス・ポッターとミスター・ウィーズリーの渇望は一体なんじゃったのかの?」
ダンブルドア校長はアニーの目をじっと見ながら俺達二人──主にアニーへと訊ねる。
――“開心”
――“閉心”
「ダンブルドア先生、それは乙女の秘密と云うものですよ?」
「おお、ミス・ポッターもその年で〝閉心術〟を使えるとは!」
どうやらダンブルドア校長はハロウィーンの俺の時の様に〝開心術〟を使っていたようだ。……しかしアニーには〝対・お辞儀用〟に〝閉心術〟を重点的に教えてあるので、無問題だったようだ。
……ダンブルドア校長が真面目に〝開心術〟を使っていたら、見られていた公算は高いが。
アニーはちらちら、と俺を見ては頬を朱に染めている。……そんなアニーの所作はアニーの渇望を言外に語っていた。……ダンブルドア校長はにこにこ、と笑いながらアニーから俺に視線を移す。
……気付かない振り(スルー)をするのも一苦労である。
「ミスター・ウィーズリーには何が見えたのかの?」
「……ふむ──ダンブルドア校長、右手を出してくれませんか?」
「どれ──これでいいかな?」
「はい──これで夢が叶いました」
差し出されたダンブルドア校長の手を──握る。……ダンブルドア校長は一瞬だけそのきらきらと輝く双眸をぱちくり、と、瞬かせるとにっこりと少年の様な笑顔を浮かべる。
「ほっほっ、こりゃあ一本取られたの。……ところで──察するに、三人は儂に何か用があってここに訪れたのじゃろう?」
ダンブルドア校長は雰囲気を急に、神妙な〝それ〟へと変える。
「……実は、ダンブルドア校長に三つほど窺いたい事があって来ました」
「儂に答えられる事なら答えよう」
「俺がダンブルドア校長に訊きたいのはクィレル先生に癒着が如くひっついている──〝トム・マールヴォロ・リドル〟と云う人物のことです」
ダンブルドア校長は俺の口から〝トム・マールヴォロ・リドル〟の名前が出た瞬間、少しだけ瞠目したの後、〝ほう〟と感嘆した様子を見せる。
「〝才気煥発〟とは、きっとトムの様な事を云うのじゃろうな…」
〝トム・マールヴォロ・リドル〟について語りだすダンブルドア校長のその論調には、在りし日の──〝トム・マールヴォロ・リドルと云う優秀な魔法使いを正しい道に導けなかった〟と云う後悔が見え隠れしていた。
「〝トム・マールヴォロ・リドル〟──学生時代のトムはとても優れた魔法使いじゃった。ハンサムで気立ても良く、ミスター・ロナルド・ウィーズリー──まるで今の君の様な存在じゃった」
ダンブルドア校長は遠い思い出に耽る様に語り、「まぁ、尤も、トムは君よりは聞き分けが良かったがの」──と、〝バブリモシャス〟を懐から取り出して見せては微笑む。
「ぐぅ…」
あの露店は非認可の店なので、〝ぐぅの音〟しか出ない。アニーとハーマイオニー──特にハーマイオニーからの責める様な視線はスルー。
「では次はボクが」
「何かね、ミス・ポッター」
ハーマイオニーとそんなこんなでじゃれていると、アニーが繋いでくれた。〝質問したい内容〟を俺、アニー、ハーマイオニーは共有しておいて正解だったかもしれない。
「“賢者の石”の──先生方の防衛は、ダンブルドア先生から見ても、万全なものですか?」
「ほぅ、“賢者の石”の事にまで辿り着いたのか!」
ダンブルドア校長は〝現時点で〟アニーから“賢者の石”の名前が出てくるのが意外だったのか、大層驚いた様な表情をしている。アニーも「ハグリッドは隠し事が得意じゃありませんから…」──と、苦笑しながら溢す。
「っと──質問の答えがまだじゃったな。……質問の答えは〝もちろん〟じゃよ。……おっと、そこに〝一部を除く〟と付け加えるの忘れておった」
〝一部=クィレル〟と等式が浮かび上がる。……ハーマイオニーとアニーのしかめられた顔を見る限り、二人もきっと俺と同じ等式を思い浮かべているのだろう。……ハーマイオニーに後詰めをしてもらおうとハーマイオニーに目配せ(アイコンタクト)をしてみればハーマイオニーは鷹揚に頷いた。
「さて──ミスター・ウィーズリーの話では次で最後かの」
「では私から。……ダンブルドア先生、〝万が一の場合〟は私達の恣意で動く事は許可なされますか?」
「〝それはならぬ〟──と、本来なら教育者として言わなければならんのじゃが、君達三人ならきっと巧く成し通せるし──成し通してしまうじゃろう」
「「「……うっ…」」」
異口同音に呻き声をながらダンブルドア校長から三人同時で顔を逸らしてしまう。ハーマイオニーも〝こんな時間〟に、こんなところに来ている以上、反論出来ないようだ。
「さりとて〝許可する〟──とも教育者としては言えぬ事じゃ。……しかし、儂はな、君達三人が〝儂が留守の時にうっかり“賢者の石”をクィリナスより先に入手してしまう〟──と云う可能性も充分に考慮しておる」
「「「はい、校長先生」」」
それは〝〝有事の際〟は好きになさい〟と云う、ダンブルドア校長からの言外のお達し(オーダー)。……ダンブルドア校長は〝えへん〟と1つ咳払いをする。
「……ところでのぅ…。……実は儂にも判らぬ事があって、君達三人にちょうど訊きたい事があるのじゃよ──ミス・ポッター、ミス・グレンジャー、意外かの?」
〝おろ?〟と意外そうな顔でダンブルドア校長は首を傾げる。
誰にも、自らの与りを知れぬところはあるのでダンブルドア校長が疑問を持つのは良い。……珍しい事には違いないが…。
……しかしハーマイオニーは意外そうな顔で絶句している。……〝この先生なら〝私達〟の事など知悉しているはず〟とでも思っていたのだろう。
「君達は優秀な──とても優秀な魔法使い、ないしは魔女じゃ。……じゃが一年生の身空で、どうやってそこまで腕を上げたのか気になったのじゃよ」
アニーとハーマイオニーを二人を見流せば、二人は鷹揚に頷く。ゴーサインだった。
「……判った。ダンブルドア校長は〝あったりなかったり部屋〟をご存知ですか」
「ああ、あの部屋か。儂も以前使用した事がある。……尤もその時は〝トイレに行きたい〟と考えながら入ったら、大量の〝おまる〟がある部屋に繋がってしもうたが」
ダンブルドア校長の諧謔にアニーとハーマイオニーが笑い、俺も釣られて笑ってしまう。
「その〝あったりなかったり部屋〟の応用で──〝効率的に呪文を覚えられる本がある部屋〟に入ってその本を模写して、その後は〝人より時間を24倍使える部屋〟に設定して、模写した本のもと練習していただけです」
隠すべき事でもないので開陳する。……もちろん幾らかの打算もある。
「……これを考えたのは?」
「ロンとアニーです、ダンブルドア先生」
「素晴らしい──いやはや、大変見事じゃ。……その智慧に敬意を表して、ミス・ポッター、ミスター・ウィーズリーの二人に30点ずつを与えよう」
ダンブルドア校長は心の底から感嘆している。50点を超える望外の加点だが、校則違反をしている現状では喜びにくい。……アニーを見れば、アニーも微妙な顔をしていた。
「ダンブルドア先生、良いのですか?」
「ああ良いとも、ミス・グレンジャー。……これはとても凄い発見じゃ…。儂だけでは露ほども考えもつかん事じゃよ。……ところで──最後にもう1つだけ聴いていいかの?」
そこでダンブルドア校長は一旦区切る。……俺達は示しあわせたかの様に頷いた。
「どうやって儂の位置を見付けたかを教えてくれんか?」
「〝これ〟です」
ポケットに隠していた“忍びの地図”をダンブルドア校長へと見せる。
「おお、これは──あまり好ましくない魔法が掛かっているようじゃな──ほれ」
ダンブルドア校長は“忍びの地図”を手に取ると多方向から観察しては、杖で〝地図〟を叩く。……すると、みるみる内に元のぼろぼろの羊皮紙から【ホグワーツ魔法魔術学校】の全貌を表す地図となった。
……その様子にはダンブルドア校長でさえも驚いている様子だった。
「おお…。これは──製作者は≪パッドフット≫≪ワームテール≫──そして≪プロングス≫≪ムーニー≫…」
ダンブルドア校長は≪プロングス≫と≪ムーニー≫に何か引っ掛かりを覚えたのか、数秒だけ思案した様子を見せるも直ぐ様元の──好好爺然とした表情に戻った。
「これは恐らくジェームズが──ミス・ポッター、君のお父さんが学友と一緒に作った、ホグワーツの地図じゃ。そうか──それでトムの名前を見付けたのだね?」
「はい──とは言っても見付けたのはロンですが。……ん? 父さんが?」
「そうじゃよ。だから、三人で大切に使いなさい」
「はい、ダンブルドア先生」
「……さて、時間と云うのは過ぎ去るのが早いものじゃな。すっかり長話してしまった。……ささ、三人とも寮にお帰りなさい」
その後は、ダンブルドア校長から〝鏡はもう探さない様に〟──と言付けられ来た時同様、〝ピーブズ避け〟をしつつ“透明マント”に身をくるみながら寮へと帰って、アニーとハーマイオニーと解散して──どこか清々しい気持ちでベッドに身体を沈めた。
SIDE END
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