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英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第86話

その後気絶したティオを医者に診断してもらったロイド達はセシルの好意でセシルの部屋のベッドでティオを寝かせた。



~夜・ウルスラ病院~



「ふふ………良かったわね、ただの貧血で。しばらくしたらすぐに目を覚ますと思うわ。」

「そっか……」

「よ、よかった……」

「ああ………どうなる事かと思ったぜ。」

セシルの話を聞いたロイド達は安堵の溜息を吐いた。

「でも、ごめんなさい。私のベッドを使わせて。ちょうど病棟の方に空いている個室がなくて………」

「いや、助かったよ……ここの方がティオも落ち着けるかもしれないし………翼の件もあるから、できれば個室の方がよかったし………」

「セシルさん、ありがとうございます。」

申し訳なさそうな表情で語るセシルにロイドは答えた後ティオの背中に生えている漆黒の翼に視線を向け、エリィはお礼を言い

「けど、セシルさんは今のティオすけを見ても全然驚かないんスね。医者の所にティオすけを運んだ時、医者はティオすけの翼を見て驚いていたのに………」

ランディは真剣な表情でセシルを見つめて言い

「……ティオちゃんの翼の事情は今の恋人やその知り合いの人達から聞いていたもの。別に驚く事ではないわ。」

ランディの疑問にセシルは微笑んだ。

「!それって……」

「”英雄王”リウイ陛下達からか……」

一方セシルの言葉を聞いたエリィは驚き、ロイドは考え込んでいた。

「あら?どうしてロイド達が私の今の恋人の事を…………まだ、話した事はないのに……」

ロイド達の言葉を聞いたセシルは不思議そうな表情でロイド達を見つめた。

「……ティオから全部聞いたよ。”影の国”とかいう場所で起こった出来事………セシル姉が”癒しの聖女”の母親の生まれ変わりで、今はリウイ陛下の側室である事…………」

セシルの疑問にロイドは溜息を吐いた後、複雑そうな表情で答え

「そっか……ティオちゃん、私の事も全部貴方達に話したのね。」

ロイドの答えを聞いたセシルは苦笑していた。

「なあセシル姉…………一つだけ聞いていいかな?」

「?なにかしら?」

「セシル姉は”自分の意志”でリウイ陛下の側室になるって決めたんだよな……?」

「?…………なるほどね……私が”ティナ”としての意識によってリウイさんを好きになっているかもしれない事をロイドは心配していたのね。フフ、そこの所は安心して。かつてはガイさんの婚約者だった私がそのくらいの事で心変わりしないわ。リウイさんを好きになり、あの人をイリーナさん達と一緒に支えようと決めたのは私自身の意志よ。」

「そっか…………」

「ええっ!?セ、セシルさん……ロイドのお兄さんの婚約者だったんですか……!?」

セシルの答えを聞いたロイドは安堵の溜息を吐いた後再び複雑そうな表情になり、エリィは驚き

「ええ。」

エリィの疑問にセシルは微笑みながら頷いた。

「そ、その私からも一つ聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「?なにかしら。」

「………イリーナ皇妃はセシルさんの事を知って、何も口出ししてこなかったのですか……?」

首を傾げているセシルにエリィは不安そうな表情で尋ね

「フフ、特に何も。むしろ逆に祝福していくれたわ。多分、かつて共に戦った仲間でありリウイさんの側室であった”ティナ”の生まれ変わりであったから何も言わなかったんだと思うわ。その点に関しては私の生まれ変わる前の人に感謝ね。」

「そうですか……………」

セシルの答えを聞いて複雑そうな表情になった。

「俺からも一ついいッスか?」

「何かしら、ランディ君。」

「ティオすけの翼の事情って一体………」

「……それは本人の口から直接聞いた方がいいと思うわ。ランディ君が抱えている複雑な過去があるように、ティオちゃんにも複雑な過去があるから。」

「!!!」

「セ、セシル姉………まさかランディが元猟兵であった事も………」

真剣な表情のセシルの言葉を聞いたランディは目を見開き、ロイドは驚きの表情でセシルを見つめ

「うん、知っているわ。リウイさんから聞いたもの。セティちゃん達を貴方たちの部署に入れるとわかった時に同僚になる貴方達の過去は一通り調べたそうでね………誰かセティちゃん達に危険がある人はいないかどうかを調べる為にだったそうなのだけど………その事でリウイさんはしばらく猟兵団の中でも最強と称されていた”赤い星座”の団長の息子のランディ君の事を警戒していたのだけど………私がリウイさんに言っておいたわ。ランディ君は信用できる人だって。」

「ハハ…………セシルさんにそこまで信じてもらえるなんて、マジで光栄ッスよ……」

(という事は私がお姉様の妹である事も知っているでしょうね、セシルさん………)

セシルの話を聞いたランディは静かな笑みを浮かべて呟き、エリィは考え込んでいた。

「………そろそろ私も夜勤があるから行くわね。何だったらこのまま朝まで寝てもらっても構わないから。それじゃ、私は失礼するわね。」

「あ、うん……お疲れ様。」

「あざーす!お疲れ様でした!」

そしてセシルは部屋を出て行った。



「………ティオ………もう少し早く気付けば………」

「考えてみれば、ヨアヒム先生の話を聞いている最中くらいから様子がおかしかったものね………それも確か……」

「悪魔を崇拝する連中が造ったっていう薬の話か………」

セシルが去ったロイド達がそれぞれ考え込んだその時

「―――いいですよ。何を聞いてくれても………」

ティオが目を覚ました。

「ティオ……起きたのか。」

「よかった……」

「ったく………心配かけやがって。」

目を覚ましたティオを見たロイド達が安堵の溜息を吐いたその時、ティオが起き上がった。

「あまり……気を遣わないで下さい。薬物捜査に携わる人間として皆さんは聞く必要がある………わたしの知っている情報を。」

「………あのな、ティオ。俺達がティオの気の進まない話をわざわざ聞こうとすると思うのか?」

「え……」

ロイドの言葉を聞いたティオは呆け

「もちろん捜査も大事だけどそれとこれとは話が全く別よ。私達にとって、あなたは同じ仕事に携わる同僚だけど……それ以前に、何よりも代えがたい仲間だと思っている。」

「……ぁ……………」

「他人には秘めておきたいそいつならではの事情はあるさ。ま、俺の過去についてはちょいとばかりバレちまったが………ティオすけ、お前がそれを知られたくねぇってんなら……俺らは全力でお前に協力するさ………」

「エリィさん……ランディさん………」

エリィとランディの言葉を聞き、涙ぐみ

「………そういう事だ。でも、もしティオが俺達に話したいんだったら……話すことで少しでも気持ちを軽くできるんだったら……だったらその重荷はぜひ受け持たせて欲しい。」

「…………ロイドさん………………………」

さらにロイドの言葉を聞いて涙を流して黙り込んだ。

「ふふ………よくそんなに恥ずかしい台詞を言えますね。ロイドさんだけでなく、エリィさんもランディさんも………お二人ともロイドさんに影響されてるんじゃないですか?」

そして涙をぬぐって気を取り直した後苦笑し、ジト目でエリィとランディを見回した。

「ハハ、そうかもな。」

「うーん、確かに否定はできないわね。」

「否定してくれよ………」

ティオの言葉を聞いて笑っているランディやエリィを見たロイドは溜息を吐き

「………ふふ………」

3人の様子を見たティオは微笑んだ後、ベッドに座り直し話し始めた。



「ロイドさんには前に少し話しましたが……わたしは5歳の頃、両親と離れ離れになりました。とある狂信的な宗教団体に拉致されることによって………」

「!?」

「あ………」

「………そいつは………」

「既に気付いていると思いますが以前、エステルさん達が話していた”教団”の事です……………その教団の真の教義や目的は今でもわからないそうですが………ただ彼らは、女神(エイドス)を否定し、悪魔を崇拝することで何かを得ようとしていました。わたしを含めた他の子供たちは………その”供物(くもつ)”だったんだと思います。」

「供物………」

ティオの話を聞いていたロイドは真剣な表情で呟いた。

「供物といっても生贄とかじゃありません………そんな目に遭った子もいたのかもしれませんが………その教団は、幾つかの拠点(ロッジ)を持ちロッジごとに様々な方法での”儀式”を試みていたようでした。そしてわたしが連れて行かれたロッジで行われていたのは………”儀式”という名の人体実験でした。」

「じ、人体実験………!?」

「ひょっとして、お前の感応力やその翼のことか……?」

ティオの話を続けて聞いていたエリィは信じられない表情をし、ランディは目を細めて尋ねた。

「………はい。薬物を投与され………全身にセンサーを付けられ………考え付く限りのやり方で五感を高める試みが行われました。さらには強制的な暗示と精神的な負荷をかけることで霊感のようなものまで高められ………3年間……それが毎日のように続きました。この翼もわたしが気を失っている間にでもした……悪魔の力を宿らせるような”儀式”でもして、宿らせたのでしょうね………多分、レンさんの普通の子供とは思えない程の身体能力や大鎌を操る能力、豊富な魔術の才能を含めた全てにおいて”天才”を誇る能力を何故持っているかもわたしと同じ理由だと思います………」

「………あ………」

「……そ、そんな………」

「………………………」

「それでもわたしとレンさんは………幸運な方だったのかもしれません。わたし以外の子は………全員が耐えきれませんでした。一人、また一人と周りから子供がいなくなって………ついに一人になった頃、わたしは手に入れていました………分厚い岩壁の向こうで他の子達が上げた最後の悲鳴を聞き取れるくらいの感応力を……レンさんは別のロッジでしたから、どうかはわからないですが………きっと、わたしとあまり変わらない経験をしていると思います………」

「……っ………!!」

「ティオ………ちゃん………」

「………外道どもが………」

(外道がっ!)

(悪魔に魅入られた愚か者どもが………!関係のない幼子達をそのような目に遭わせるとは……!)

(………なるほど……ね。ティオはその”儀式”によって悪魔の力を宿らされたようね………)

ティオの説明を聞いたロイドは唇をかみしめ、エリィは悲痛そうな表情をし、ランディは静かな怒りを纏って呟き、メヒーシャとラグタスは怒り、ルファディエルは真剣な表情で考え込んでいた。

「……………………―――そんな時でした。わたしのいたロッジにロイドさんのお兄さんが………ガイさんが乗り込んできたのは。」

「あ……」

「ガイさんを含めたチームは教団の信者たちを無力化しながらロッジを制圧していきました。抵抗は激しく、制圧された途端、自決する者がほとんどだったそうです。そうした屍を踏み越えながら”儀式の間”にたどり着いて……ガイさんは、ただ一人の生き残った子供を発見しました。」

「…………………………」

「ガイさんに保護された時……わたしは衰弱しきり、さらに悪魔か闇の力がわたしを蝕んでいた為一切目覚めませんでした。そしてこの病院に連れてこられ………さらにガイさんがペテレーネさんを連れて来て……目覚めなかったわたしをペテレーネさんの治療によって目覚めさせ………この翼を隠すための幻影の魔術を教わる為に、1週間ほどペテレーネさんに魔術の指導をして頂き……………その後数ヵ月のあいだ療養して………そこから先は以前、ロイドさんに話したとおりです。」

「……そうか………」

「……ティオちゃん………」

ティオの説明を聞いたロイド達は重々しい雰囲気を纏った。

「………皮肉なものですね。あれだけお世話になって感謝していた人だったのに………3年前、ガイさんが亡くなった事を聞かされた時、わたしは余り哀しくなかったんです。まるで、手に入れた力と引き換えに人間らしい感情を失ったような………そんな不思議な感慨すらありました。」

「ティオ………」

「………………………………」

「………多分わたしは聞きたかったんだと思います。眩しいくらいに前向きで力強かったあの人に……わたしのような………人間でもなく……闇夜の眷属でもない………”中途半端で欠けた存在”がどう生きたらいいのかを………でも結局、その答えは聞けず……リウイ陛下の『闇夜の眷属として生きる為にメンフィル大使館で住む』という提案に答えも出せずに、エプスタイン財団に引き取られて……そして支援課に来て、皆さんと一緒に暮らしていて………やっぱり………今でもよくわからないんです。どう、生きたらいいのか………どうして……わたしが生きているのか………わたしはレンさんのような………手に入れた力を後悔せず……逆に幸運と思えるぐらいの強さは持てないですし……答えも出せないです………」

「………ティオちゃん……!」

辛そうな表情で語るティオを見たエリィはティオに近づいて優しく抱きしめた。

「………あ………」

「いいじゃない……!わからなくったって………!そんなのは私達だってあなたと同じなんだから………!」

「……え………」

「………なぜ生きてるのか、どう生きればいいのか………そんなのがわかってる人間なんてそうそういるもんじゃないさ。俺も、エリィも、ランディも。誰だって同じさ。」

「ハハ、俺なんざ特に、自分の道を見失った口だが………それでもティオすけ。お前、真面目すぎるんだよ。そんな難しい問題を急いで解いてどうするんだ?」

「……で、でも………」

「それでも気になるなら……答えを探し続ければいい。ただ焦る必要はないし、一人で探す必要だってないんだ。俺達が一緒に探すからさ。」

「………………ぁ……………」

「もちろん私もよ………ランディだって課長だってキーアちゃんやツァイト、セティちゃん達やエルファティシアさんだってみんな力になってくれるわ………あなたが、その難しい問題の答えを見つけられるのを……」

「…………………………………」

(フフ、良き仲間に恵まれたな……)

ロイド達の話を聞いたティオは泣きそうな表情で黙り込み、ラグタスは静かな笑みを浮かべていた。



「……エリィさんもランディさんもロイドさんに感化されたみたいに………本当に……聞いてるこちらが………恥ずかしくなってきてしまいます………どうしてそんな………」

そしてティオは嬉しそうな表情で涙を流し

「ま、それも巡り合わせだろ。支援課を選んじまった時点で俺達は同じ、誰かさんの被害者だ。」

「ふふっ、そうね。そういう恥ずかしい思いも分かち合ってもらわないとね。」

ランディとエリィは笑顔で言った。

「なんで俺が加害者になってるのかわからないけど………まあ、わかちあうってのは俺も賛成だよ。恥ずかしい思いだけじゃなく、辛い思いや、苦しい思い………それからもちろん、嬉しい思いや、楽しい思いも。それが”仲間”ってもんだろ?」

2人の言葉を聞いたロイドは苦笑した後ティオに微笑み

「………ああもう……恥ずかしくて………暑苦しくて………こんなに居たたまれないのに………でも………何だか悪くない気分です……………その………こんな不気味な翼が付いていても、ロイドさん達は大丈夫ですか………?」

微笑まれたティオは涙を流して微笑んだ後、懇願するかのような表情でロイド達を見つめ

「フフ、そんな事、気にしていないわ。」

「おうよっ!それにエリナちゃんの翼の色と対になっていてイカしているぜっ!」

見つめられたエリィとランディは笑顔で頷き

「ああ………それにそのルファ姉達―――”天使”達が生やしている翼に似た漆黒の翼………綺麗だし、ティオに似合っているよ。」

ロイドはティオに微笑んだ。

「!!!~~~~~~~」

(…………………この男は……………)

ロイドに微笑まれたティオは驚いた後顔を真っ赤にしてロイドを見つめ、ティオの様子に気付いたラグタスは顔に青筋を立て

(キタ―――――――ッ!攻略王ロイドの名言の一つがまた聞けたぞっ!墜とせる絶妙なチャンスを絶対に見逃さず、すかさず墜とすっ!………さすがだ………さすがだよっ、ロイド!!くかかかかっ!)

(ハア………自分の言っている意味がちゃんとわかっているのかしら?コンプレックスだったはずのものを褒められれば、普通の人なら間違いなく言った本人に好意を抱くわよ…………)

ギレゼルは大喜びし、ルファディエルは疲れた表情で溜息を吐き

「ロイド………あなた………こんな時にまで………」

「やれやれ……ホント、見境がない奴だな……というかこの調子なら唯一の被害者でないエルファティシアちゃんにまで手を出すんじゃねーか?」

(あっははははっ!本当に面白い男だねっ!!ラグタスが契約しているあの娘も墜ちたね♪)

(相変わらず見境がない男だ………後どれほどの異性を惹きつける気だ、この男は……)

エリィは蔑みの表情でロイドを見つめ、ランディは呆れた表情で溜息を吐き、エルンストは陽気に笑い、メヒーシャは呆れていた。

「ええっ!?何でそこで俺が責められるんだよ!?俺、何か不味い事言ったか!?」

一方エリィ達の様子を見たロイドは慌て出した…………


 
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