英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第80話
~朝・特務支援課~
「しかし驚いたな………この目玉焼き、本当にキーアが焼いたのか?」
支援課のメンバーたちと共に朝食を取っていたロイドは出された料理の中にある目玉焼きを見た後料理当番であるエリィに視線を向けて尋ね
「ふふ、そうよ。あまりに手際がいいんで思わず見惚れちゃったわ。」
「フフ、貴女ぐらいの年齢でここまで料理ができる子供なんて、滅多にいないと思うわよ?」
尋ねられたエリィは微笑みながら頷いて同じように微笑みを浮かべているエルファティシアと共にキーアを見つめ
「ふむ、いい半熟具合だな。」
「ベーコンもカリカリで言うことナシだぜ。」
「昨日のホワイトシチューを手伝ってくれた時も大した腕前でしたし……やはり、料理の経験はかなりあるのではないかと。」
セルゲイやランディ、ティオもそれぞれ高評価をした。
「んー、そうなのかなぁ?なんかかってに手が動いただけなんだけどー。」
「うーん、確かに料理は身体で覚えるところがあるけど………(………それにしてもこの歳でここまで上手なのも凄いな………)」
ティオの言葉を聞いて首を傾げているキーアの言葉を聞いたロイドは感心していた。
「ねえねえ、ティオ―。今日はだいじょーぶなのー?」
「あ………」
そしてキーアに言われたティオは声を上げ
「見たところ、顔色は悪くはないみたいだけど………」
「あんまり無理はしないで休んだ方がいいんじゃねえか?セティちゃん達やエルファティシアちゃんが来たお蔭で支援課も結構な大所帯になったから、一人ぐらい休んでも支障はでねぇぞ?」
エリィとランディはそれぞれティオを心配した。
「いえ、大丈夫です。昨日も早めに休ませてもらいましたし。」
「ふむ………」
「まあ、急ぎの仕事もないし少し様子を見た方が―――」
ティオの言葉にセルゲイと共にロイドが頷いたその時、ロイドのエニグマが鳴りはじめた。
「あ………」
「朝から珍しいね?」
「フランさんからでしょうか?」
それを聞いたロイドは声を上げ、シャマーラとエリナは首を傾げていた。そしてロイドはエニグマを通信モードにして通信を始めた。
「えっと………はい、特務支援課、ロイド・バニングスで―――」
「あーあー、ンなのはとっくに判ってるつーの!今どこ!何してんのさ!?」
「ああ、ヨナか。おはよう。夜型のヨナがこんな早くに起きてるなんて珍しいな。」
「ハッ、そんなもん、徹夜明けに決まってんだろ。―――ああもう!そんなのはどうでもいいんだよ!でもまあ、その様子じゃゼンゼン知らないみたいだな!?」
「知らないって……何の事だ?」
「ハッ、大サービスでこのヨナ様が教えてやるよ!昨日の真夜中―――いや日付は今日になるのか。”黒月”の事務所と”ラギール商会”の店舗が何者かに襲撃されたそうだぜ!」
「何だって………!」
「何でも”黒月”は防戦一方で”ラギール商会”も苦戦していたみたいでさ~!特に”黒月”はかなりの被害も出たみたいだぜ!?ま、襲ったのは間違いなくルバーチェの連中だろうけどな!」
「そうだったのか………ありがとう、ヨナ。情報提供感謝するよ。」
「ハッ、今度何かで返せよな!」
そしてロイドは通信を止めた。
「ヨナからですか?」
「ああ……どうやらとんでもない事が起きたみたいだ。」
ロイド達はみんなに、ヨナから聞いた情報を伝えた。
「ほ、本当なの………!?」
「おいおい、マジかよ!?」
「メンフィル兵達もいる上、エリザベッタさんがいながら苦戦するなんて………」
「真夜中とはいえ市街地でそんな事が………」
「ほえ~?」
情報を聞いたエリィ、ランディ、セティ、ティオは驚き、キーアは首を傾げていた。
「ふむ……それが本当なら一課あたりがとっくに動いてるんだろうが………気になるんなら行って来い。―――ただしメシを喰ってからな。」
「はい、そうしてみます!」
そしてセルゲイの指示にロイドは力強く頷いた。その後ロイド達は2手に分かれて襲撃された所に事情を聞きに行くことにし、ロイド達は”黒月貿易公司”に、セティ達は”ラギール商会”に向かった。
~歓楽街・ラギール商会~
ラギール商会の店舗に到着したセティ達は店舗の扉を守っている警官に自分達の警察手帳を見せて名乗った後店舗の中に通してもらい、チキがいる部屋に向かった。するとそこには女性の刑事がチキと話していた。
「―――それではチキさん。今日の所はこれで失礼します。できればもっと詳しい事情を伺えれば、私共としても色々と協力できるのですが。」
「………申し訳ございません。深夜での突然の襲撃の為、襲撃者が何者で………何故こちらが狙われたのか私達の方でも見当がつかないのです………」
女性の刑事―――エマが苦々しい表情で申し訳なさそうな表情をして会釈をしたチキを見つめていた。
「………そのわりには随分と手際よく防戦されたのですね。1階は酷い状況だったのに、2階は綺麗なものです。重機関銃を武装した相手にどのように対処されたのやら。」
「………恐れ入ります。」
エマの言葉にチキが会釈をしたその時
「―――失礼します。」
セティ達が部屋に入って来た。
「あら………貴女達は………」
「特務支援課………!」
部屋に入って来たセティ達を見たチキは驚き、エマはセティ達を睨んだ。
「セルヴァンティティ様に………妹君様達に………それにエルファティシア様も………今日は何の御用でしょうか………?」
「あら。既に私の事も知っているなんて………さすがは”ラギール商会”ね。」
チキの言葉を聞いたエルファティシアは意外そうな表情をした後、口元に笑みを浮かべてチキを見つめ
「こんにちは、チキさん。お忙しいところすみませんが、少し話を伺ってもよろしいでしょうか?」
セティはチキに会釈をして尋ねた。
「はい、構いません………―――それではエマ様。事情聴取、お疲れ様でした。」
「………失礼します。」
そしてセティの質問に頷いた後微笑みながら言ったチキの言葉を聞いたエマは悔しそうな表情をした後、道を開けたセティ達の横を通り過ぎようとした。
(………遺憾ではありますが、彼女と親交がある貴女達に任せます。少しでも情報を引き出してください。)
するとエマは小声でセティに伝え
(………わかりました。)
エマの言葉にセティは頷き、そしてエマは部屋を出て行った。
「こんにちは、皆様。今日は何の御用でしょうか?」
「………昨日の襲撃について聞きにきました。」
「話せる範囲でいいから、話してくれないかな~?」
「………わかりました。話せる範囲でしたお教えいたしましょう………」
エリナとシャマーラの言葉に頷いたチキはセティ達に会釈をし
「あら、随分と素直ね?その様子だとさっきの刑事には話を誤魔化していたようだけど……やっぱり相手が同盟を結んでいる相手の娘達だから教えてくれるのかしら?」
チキの言葉を聞いたエルファティシアは意外そうな表情で尋ねた。
「………セルヴァンティティ様達には………貴重なユイドラの工匠製の品々を直接創ってこちらに回して頂いているお得意様でもありますので。………それで何について聞きたいのでしょうか?」
「えっと………襲撃した人達ってやっぱりルバーチェ?」
「―――はい。エレボニア製の重機関銃を使っていましたし………何より今まで戦った………ルバーチェの構成員達の戦いのクセとそっくりでしたので……」
「………けど、おかしくない?いくら相手が銃火器を使っていたとしても、貴女達―――”ラギール商会”は”闇夜の眷属”達を主にした”店員”がいるのでしょう?普通に考えて人間の身体能力で”闇夜の眷属”に勝てるとは思えないんだけど。」
シャマーラの質問に答えたチキの話を聞いたエルファティシアは真剣な表情で尋ねた。
「………その身体能力が人間とは思えないほど尋常ではなかったのです。………それこそ一般の”闇夜の眷属”達とわたり合えるぐらいの能力を持っていました………さらには体力も高く、完全に撃退する為に私自身も戦い………たまたま店にいらっしゃっていたカーリアン様にも手伝って頂いてようやく撃退できたのです………」
「嘘っ!?」
「この間、戦った時はそこまでの身体能力はなかったのに一体どうやって………」
チキの話を聞いたシャマーラは驚き、エリナは驚きの表情で呟いた後考え込んだ。
「……もう一つお聞きしたいのですがよろしいでしょうか。」
「はい。」
「………今後はどうなされるおつもりですか?リウイ様に今回の件を報告して、新たな”店員”を雇ったり、襲撃した相手を報復したりするのでしょうか?」
「ご主人様に報告はしますが………特にその予定はありません………私達が動かなくても………他に動く方々がいるでしょうし………ご主人様からも………大規模な戦いや市民の方を巻き込むような戦いは必ず避け………徐々に弱らせるようにとの指示を受けていますので………」
セティの疑問を聞いたチキは静かな表情で答え
「!それって………」
「”黒月”でしょうね………」
チキの話を聞いたシャマーラは驚き、エリナは真剣な表情で呟いた。
「………話してくれてありがとうございます、チキさん。今日の所は失礼しますね。」
「はい。また何かあれば、遠慮なく訪ねて来てください……………」
そして考え込んだ後言ったセティの言葉にチキは会釈をして答え
「それじゃ、私達はこれで失礼しましょう。」
「またね~、チキさん。」
「失礼します。」
「それじゃあね。」
セティ、シャマーラ、エリナ、エルファティシアはチキに声をかけた後部屋を退出しようとしたが
「あ………エルファティシア様、少しよろしいでしょうか………?」
「私に?………何かしら?」
セティ達が退出した後、立ち止まって振り向いてチキを見つめ
「一つ確認したいのですが………エルファティシア様はヴァイスハイトという方のお知り合いだそうですが………」
「え、ええ………それがどうかしたのかしら?」
チキに尋ねられ、戸惑った様子で尋ね返した。
「……そのヴァイスハイトという方ですが………どうやら新たな生を受けられたようなのです………」
「なっ………ヴァイスハイトが!?それ、本当!?」
チキの話を聞いたエルファティシアは驚いた後血相を変えて尋ねた。
「………はい………”影の国”の件が終わって一月程すると………メンフィル帝国の帝都の城………ミルス城に………一人の女性のルーンエルフの方と共にそのヴァイスハイトという方が………ご主人様を訪ねたようなのです………………かつて”影の国”で共に戦ったご主人様達と会う為に………だったそうですが………」
「嘘………ヴァイスハイトが……!………ちょ、ちょっと待って!今、ルーンエルフと一緒だって言ってたわよね!?そのエルフの名前は!?」
チキの説明を聞いたエルファティシアは信じられない表情をした後、血相を変えて尋ね
「確か………”アル”という名前だったと思います……………」
「アルまで………!そ、それでヴァイスハイト達はその後、どこに行ったの………?」
チキの答えを聞いて嬉しそうな表情をした後、期待がこもったような表情で尋ねた。
「………ご主人様にこちらの世界―――ゼムリア大陸を旅をする為に………世界を繋ぐ転移門をくぐり………こちらの世界で放浪を始めたそうです………」
「ヴァイスハイトとアルがこの世界に………………そ、それで2人と連絡はとれるの!?」
「それが……………ご主人様がヴァイスハイト様に………通信機が必要か尋ねたのですが…………本人は必要ないと答えたので………通信機は渡していなく………今、お二人がどちらにおられるのかわからないのです…………ご主人様が………エステル様達から……エルファティシア様の事情を聞き………今、諜報部隊の兵達の一部を動かして………ゼムリア大陸中を探しているとの事です………その事を………エルファティシア様が訪ねてきたら話すようにとご主人様から指示を頂いていたので………話させてもらいました………」
「そう………ありがとう………あの2人がこの世界で生きているという情報だけでも十分よ………!―――失礼するわ。」
チキの話を聞いたエルファティシアは微笑んだ後、チキの部屋を出て店舗を出た。そして店舗の近くで待っていたセティ達がエルファティシアに話しかけた。
「チキさんと何か話されたようでしたけど、何の話をされたのですか?」
「ええ、実は――――」
セティに尋ねられたエルファティシアはチキから聞いた事情を説明した。
「えっ!?エルファティシアさんが元いた時代の方が転生し、さらにこの世界にいるのですか!?」
「奇跡のような出来事ですね………」
「しかもそのヴァイスハイトさんだっけ?エルファティシアさんが好きな人だったんだよね?よかったね、エルファティシアさん!」
事情を聞いたセティとエリナは驚き、シャマーラは嬉しそうな表情でエルファティシアを見つめ
「ええ………!ルリエンよ、この奇跡を起こしてくれた貴女に最大の感謝を………!」
見つめられたエルファティシアは嬉しそうな表情で頷いた後、涙を流しながらその場で祈った。その後セティ達はセルゲイに報告する為に支援課のビルに戻って行った………
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