英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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4章~忍び寄る叡智~ 第73話
それから3週間。キーアの記憶は戻る気配もなく、その素性も、遊撃士協会の情報網に結局引っかかることはなかった。創立記念祭が終わり、市長選を数ヶ月後に控えてはいるが、比較的落ち着いた日々の中………ロイドたちは彼女との生活に完全に馴染んでしまっており、エルファティシアを加えて日常的な業務にも復帰していた。またキーアも、日中はロイド達に仕事があるのを理解したようで、我儘も言わずに留守番しているのであった。そして―――
~特務支援課~
「ただいま~。」
「帰ったぜ~。」
「あ、かえってきた!おっかえりー!!」
ビルの中に入ったロイドとランディの声を聞いたキーアは嬉しそうな表情で2階から駆け下りてロイドの身体に飛び込んだ。
「はは、いいタックルだ。おかえりキーア。いい子にしてたか?」
「うんー!ツァイトといっしょにちゃんとお留守番してたよ。としょかんの本も3さつ読んじゃった。」
苦笑しているロイドに尋ねられたキーアは嬉しそうな表情で答えた。
「へえ、そりゃ凄いな。」
「ふふ、子供向けの本とはいえ午前中に3冊も読んじゃうなんて。」
「やはりこの子はかなりの情報処理能力を持っているのではないかと………将来がすごく楽しみです。」
「まったく、揃いも揃って親バカ連中だな。って、俺も人のことは言えねぇが。」
キーアを誉めているロイド達を見たランディは溜息を吐いた後、苦笑していた。
「ふえー?それよりキーア、お腹がすいちゃった。昼ゴハンにしよー!エルファティシアとセティ、まだ作っているのかなー?」
「ん?その様子だとセティ達は先に戻っていたのか?」
キーアの話を聞いたロイドは不思議そうな表情で尋ねた。
「うんー!ロイドたちが帰ってくるすこし前にかえってきて、エリナとシャマーラはこーぼーで何かをつくりはじめたの!それで、セティとエルファティシアは昼ゴハンを作るってー!」
「おおっ!あの2人が作った昼飯か~………楽しみだぜ♪」
「フフ、あの2人が作るのならあっさりした料理だと思うから、ランディのお腹では満足できないんじゃないかしら?」
「……ですね。エルフ族の2人が食事を作るのでしたら、野菜や果物、山菜を主に使った料理を真っ先にイメージしてしまいますしね。」
「そうだな………実際、セティが作ってくれる料理は野菜を主にした料理を作る事が多かったしな。………まあ、男の俺達にはちょっと物足りない時もあったけど………」
キーアの話を聞いたランディは嬉しそうな表情をし、ランディの様子を見たエリィは微笑み、ティオは静かな笑みを浮かべて呟き、ロイドは苦笑していた。
「何を言う!あの可憐なエルファティシアちゃんと将来は超凄い美女になる事が確定しているセティちゃんの手料理を口にできるだけ、ありがたいだろうが!スタイルも抜群、顔も良し、さらに性格はお茶目と来て、止めには元女王様という女性として魅力的すぎるエルファティシアちゃんの手料理はどれだけの価値があると思っているんだ!」
一方ロイドの言葉を聞いたランディは真剣な表情でロイドを見て言った。
「う、うーん………」
「ふえー?」
「………エルファティシアさんが魅力的な女性なのはわかってはいるけど、なんだか納得できないわね………」
「というか、わたしにとっては今更ですし。”影の国”に居た時はイリーナ皇妃やプリネ姫、クローディア姫達の手料理も食べた事がありますし。」
ランディの言葉を聞いたロイドは苦笑し、キーアは首を傾げ、エリィはジト目でランディを見つめ、ティオは呆れた表情をして言った。
「出鱈目な体験をしたティオすけは黙ってろ!」
(クローディア姫やお姉様達の手料理を食べれるなんて………ちょっとうらやましいわね………)
ティオの言葉を聞いたランディはティオに突っ込み、横で聞いていたエリィは苦笑していた。
「うふっ♪声だけじゃなく、女性を褒めるところもヴァイスハイトに似ているわね♪でもまあ、ヴァイスハイトの域にはまだまだかな~?」
するとその時エルファティシアの声が聞こえた。声が聞こえた方向をロイド達が視線を向けるとそこには厨房の部屋の扉を開けて姿を現したエルファティシアとセティがいた。
「セティ、エルファティシアさん。2人ともすまないな。今日の料理当番は俺なのに。」
「そのぐらい別に構いませんよ。それより工房で作業している2人を呼んできてください。ちょうどできて、お皿に盛った料理を並べようとしていた所ですから。」
「あ、それなら俺も手伝うよ。代わりに料理をしてもらったんだから、そのぐらいしないと。」
セティの話を聞いたロイドは申し出
「セティちゃん、エルファティシアちゃん!勿論、俺は大盛りで頼むぜ♪」
ランディは嬉しそうな表情で2人を見つめて言った。
「フフ、たくさん作ってあるから、たっぷり食べていいわよ♪」
その後ロイド達は食事を始めた。
「上手いっ!さすがはセティちゃんとエルファティシアちゃんだ!」
「パスタにサラダにスープ………どれも美味しいわね。」
「3種類も作るなんて、大変じゃありませんでしたか?」
セティとエルファティシアが作った料理を口にしたランディは喜び、エリィは口元に笑みを浮かべ、ティオは2人に尋ね
「2人で分担して作りましたからそれほど手間にはなりませんでしたよ。それにしても”王”であったエルファティシアさんが料理出来る事には驚きましたよ………」
尋ねられたセティは微笑みながら答えた後、苦笑しながらエルファティシアを見つめ
「あら。領主の娘である貴女も人の事は言えないでしょ?………”エレン・ダ・メイル”にいた頃は私自らお菓子を作って、メイメイやヴァイスハイト達とお茶を楽しんでいたからね。料理はそれなりにできるわよ?私から見れば天使の血を引くエリナや睡魔族の血を引くシャマーラが料理できる事の方が驚きだけど。」
見つめられたエルファティシアは微笑みながら答えた後、エリナとシャマーラに視線を向けた。
「あはは。確かに母さんは料理はする方じゃなく、食べる方だったな~。」
「……幼い頃からセティ姉様と一緒にセラ母様達の食事の準備を手伝っていたら自然とできるようになったんです。」
エルファティシアの言葉を聞いたシャマーラは苦笑し、エリナは静かな笑みを浮かべて言った。
「それにしてもたった3週間で料理が出来るほど、こちらの世界の技術に付いていけるようになったんですね。」
「フフ、こう見えても長い時を生きているからね。私が知ってる遥か昔の技術と比べたら、このぐらい簡単よ。」
一方ティオに見つめられたエルファティシアは微笑みながら答え
「そういえばずっと気になっていたんですけど…………エルファティシアさんって、何歳なんですか?」
ロイドはある事をエルファティシアに尋ねた。
「ロイド………貴方、言ってはいけない事を言ったわね。」
「鈍感にもほどがあるでしょうに………」
「おいおい。女性にとって禁句だぞ、その言葉は。」
(フウ………この子のこういう所はどうやって治せばいいのか、思いつかないのよね………)
一方ロイドの質問を聞いたエリィとティオはジト目でロイドを見つめ、ランディとルファディエルは呆れていた。
「うっ………………す、すみません、エルファティシアさん。失礼な事を言ってしまって………」
エリィ達に見つめられたロイドは冷や汗をかいた後、エルファティシアを見つめて謝り
「フフ、別に気にしていないからいいよ。第一私も何百年生きているか忘れちゃったから答えようがないし。」
謝られたエルファティシアは口元に笑みを浮かべて答えた。
「ええっ!?」
「す、数百年も生きててそんなに若い姿をしているんですか………」
「相変わらず異種族の方って、見た目と年齢が全然釣り合いませんね………」
「何を言う!?それがいいんだろうが!」
エルファティシアの話を聞いたロイドとエリィは驚き、ティオはジト目で呟き、ランディは真剣な表情でティオに突っ込み
「………エルフ族の方はそんなに生きれるのですか………」
「お父さんが”神格者”になって、本当に良かったね!」
「ええ………」
エリナは驚き、シャマーラは嬉しそうな表情で呟き、セティは微笑みながら頷いた。
「フフ、エルフの寿命で驚くのだったら、”神格者”はもっと驚くわよ~?」
「へ………」
「”神格者”?なんだそりゃ??」
そして口元に笑みを浮かべながら言ったエルファティシアの言葉を聞いたロイドは不思議そうな表情をし、ランディは首を傾げ
「………聞いた事があります。何でも信仰する”神”から”神核”を承って、なれる存在だとか。”神格者”になれば不老不死の存在になれると聞きましたが………」
「ええ、それで合っているわよ。後は元々”核”がある”魔神”なんかもそうだし、中には自らの力で”神格者”に到達する者もいると聞くわ。」
エリィは静かな表情で答えてエルファティシアを見つめ、見つめられたエルファティシアは頷いた。
「えええええええっ!?」
「おいおいおいおい………!異世界にはそんなとんでもない存在もいるのかよ!?」
2人の話を聞いたロイドは驚き、ランディは信じられない表情で言い
「ねえ、ロイドー。ふろうふしって何~?」
キーアは可愛らしく首を傾げて尋ねた。
「決して老いず、寿命で死ぬことはないって事さ。………それにしても凄いな、異世界は………そんなとてつもない存在もいるのか………」
キーアの質問に答えたロイドは驚きの表情で呟き
「もしかしてティオすけはその”影の国”って場所で”神格者”って奴等にも合ったのか?」
ある事が気になったランディはティオに尋ねた。
「ええ。………というか以前ロイドさん達に話した人達の一部もそうですよ。」
「へ~………誰なんだ?」
ティオの話を聞いたロイドは興味深そうな表情で尋ねた。
「――――リウイ陛下、イリーナ皇妃、ペテレーネさん、エヴリーヌさん、ウィルさん。………この5人は”神格者”か”魔神”です。」
「ええっ!?え、”英雄王”と”聖皇妃”どころか”闇の聖女”や”魔弓将”、さらにはセティ達のお父さんもそうだなんて………」
「”英雄王”と”聖皇妃”が不老不死の存在って………か~!永遠の美男美女カップルとか羨ましすぎだろっ!」
ティオの説明を聞いたロイドは驚き、ランディは信じられない表情をした後溜息を吐き
「ちょ、ちょっと待って、ティオちゃん!イリーナ皇妃が”神格者”って話は本当なの!?」
エリィは血相を変えてティオを見つめて尋ねた。
「ええ。確か”影の国”の探索の途中で出会った”虚構”の存在―――”魔神”であるリウイ陛下の父親が消滅する直前にイリーナ皇妃に自らの”核”を授けて、イリーナ皇妃は”神格者”になったそうです。」
「そ、そうなの……………………………………(………まさかお姉様が既に”人間”をやめていたなんて………何故………”神格者”になられたのですか、お姉様………)」
そしてティオの説明を聞いたエリィは複雑そうな表情で考え込んでいた。
「エリィ………?」
エリィの様子を見たロイドが不思議そうな表情をしたその時、通信機が鳴った。
「通信だ………誰からだろう?」
「エニグマにかかって来ないって事は課長やフランちゃんじゃなさそうだな。」
ロイドは食事を一端中断して通信機に近づいて受話器を取り、通信を始めた。
「はい、こちらクロスベル警察、特務支援課です。」
「あ、ロイドさん?えっと………ノエルです。警備隊のシーカー曹長です。」
「ああ、久しぶり。一月ぶりくらいかな。どうしたんだい?支援課の方に用件でも?」
「ええ、実はその………個人的に、支援課の皆さんに相談したい事がありまして………」
「個人的な相談………?」
「あ、個人的といっても仕事の範疇ではあるんですけど………その、すみません。いきなりこんな連絡をして………」
「いや、ちょうど昼時で休憩してたから構わないよ。今、どこにいるんだ?よかったら直接話そうか?」
「ほ、本当ですか?今ちょうど、クロスベル市の北口にいるんです。これから伺ってもいいですか?」
「ああ、待ってるよ。そうだ、よかったらランチでも食べていくかい?パスタとサラダ、スープでよかったらまだ余りがあるから簡単に用意できるけど。」
「い、いえ、そこまでは………」
ロイドの提案を聞いた通信相手―――ノエルは断りかけようとしたが
「………すみません………よかったらお願いします………」
すぐに自分の言葉を恥ずかしそうな様子で撤回した。
「はは、了解。それじゃあ急いで来てくれ。」
「はい!」
そして通信を終えたロイドは自分の席に戻った。
「誰からの連絡だったの?」
「ああ、ノエル曹長だった。何だか俺達に相談があるみたいだけど………」
「へえ、珍しいこともあるもんだな。」
「なになに、だれか来るのー?」
「ええ、警備隊のお姉さんです。」
「けーびたい?」
自分の質問に答えたティオの話を聞いたキーアは首を傾げていた。
「ランチがまだみたいだから追加でパスタを茹でて、スープは温め直しておこう。」
その後支援課のビルに来たノエルはセティ達が作った食事をご馳走になった。
「ごちそうさまでした。凄く美味しかったです、セティちゃん、エルファティシアさん。」
「フフ、お口に合ったのなら幸いです。」
「どういたしまして。」
2人の食事を食べ終わったノエルの言葉を聞いたセティとエルファティシアは微笑んだ。
「―――それでは、さっそく話をさせてもらってもいいですか?」
「ああ、構わないよ。」
「確か、山道の外れにある遺跡についての話だったか?」
「ええ、それが………」
そしてノエルはロイド達に事情を説明した。
「―――幽霊が出る遺跡、だって?」
「………そうなんです。正確に言うと、幽霊というか言い伝えの化物というか………とにかく、見た事もないような不思議な魔獣が出没して………」
事情を聞いて不思議そうな表情をしているロイドにノエルは説明を続けた。
「当初、調査に当たっていたベルガード門の部隊は撤収………タングラム門のお前さんたちにお鉢が回ってきたってわけか。」
「ええ………それで昨日、何人かの隊員と調査に入ってみたんですけど………気味の悪い魔獣やまるでゾンビのような魔獣ばかり現れてみんな腰が引けてしまった上、さらには一部の魔獣には武器での攻撃が一切効かないんです………」
「ちょ、ちょっと待って。………もしかして………幽霊退治の手伝いを私達に?」
ノエルの話を聞いたエリィは表情を引き攣らせながら尋ねた。
「い、いえ………あくまで遺跡内部の調査が目的なんですけど………やっぱり駄目でしょうか?」
「う、うーん……遺跡の調査と言われても俺達もどうすればいいのかさっぱりわからないけど………―――君がここを訪ねたってことは何か心当たりがあるんだな?」
「………さすがはロイドさん。実は……その化物と戦った時なんですけど。導力魔法の効き方が普段と違う感じがしたんです。」
「なんだって………!?」
「それって、もしかして………」
ノエルの話を聞いたロイドは真剣な表情をし、エリィは驚きの表情をし
「エルファティシアさんとキーアが支援課に来るまでにこのメンバーとカーリアンさんと入った”星見の塔”と同じ………時・空・幻の上位三属性が働いていたような感じですか?」
ティオは話を続けて尋ねた。
「うん………あの時の事を思い出しちゃって。それで、皆さんにも見てもらってご意見を伺えないかなって………」
「なるほど……」
「それで支援課の方に………」
「皆さん、お忙しいのは重々承知しているんですけど………このままだと、また司令閣下が放置しろとか命令してきそうで………」
「ま、あの事なかれ主義の司令だったらあり得そうだな。」
「うーん…………みんな、せっかくだから曹長に協力してみないか?市外の活動にはなるけど何だかちょっと気になるし。」
困っている様子のノエルを見たロイドは考え込んだ後提案した。
「そ、そうね………」
「わたしの方は異存ありません。」
「私も問題ありません。」
「あたしも!」
「………私もです。それにもし本当に霊体や不死者との戦いになれば私の力が必要になって来るでしょうし。」
「私も特に問題ないわ。」
「俺も問題ないぜ。お嬢の方はどうやら、気乗りがしないみたいだが?」
ロイドに尋ねられた仲間達は目を逸らして頷いたエリィ以外頷き、エリィの様子に気付いたランディは指摘した。
「そ、そんな事ありません。幽霊が怖いなんてそんな子供みたいな―――あ。」
「語るに落ちたか。」
「エリィ、ユーレイが怖いのー?」
ランディの指摘に答えた後ある事に気付いて頬を赤らめたエリィの様子を見たランディは口元に笑みを浮かべ、キーアはエリィに尋ねた。
「そ、そんなことないのよ?ただその、得体の知れない相手は慎重に対応すべきというか……」
キーアに尋ねられたエリィは表情を引き攣らせながら説明した。
「無理もないですよ………あたしも任務じゃなかったら進んで調査したいとは思いませんし。………でも、このまま何も無かった事にされちゃうのはなんだか納得できなくって………」
「あ……」
「その気持ちはよくわかるよ。えっと、何ならエリィは留守番してくれてもいいけど………」
「わかった、わかりましたとも!私も行きます、行きますとも!」
「エリィさん、ヤケクソですね。」
「やれやれ、無茶しやがって。」
その後ロイド達は支援要請をいくつか片付けた後、ノエルが運転する警備隊の装甲車によって山道の途中にあるトンネルまで行き、そこから徒歩で件の遺跡に向かった…………
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