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トライデント

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第一章

                 トライデント
 青い大理石と珊瑚、そして流れ続ける水に覆われた深海の宮殿の中でだ。海の神々は厳しい顔をして玉座に座る彼に問うた。
「では、ですね」
「今宵にですか」
「御自らですね」
「出陣されますか」
「そうだ」
 黒々とした髭に見事な青い服の男だ、黒い髪と目が男らしい。
 海の主神ポセイドンは彼に仕える海の神々にだ、低い声で答えた。
「余自ら出ねばな」
「あの魔物は倒せない」
「それ故にですか」
「ご自身が出陣され」
「倒されますか」
「汝達には留守を頼む」
 この宮殿においてというのだ。
「よいな」
「ではその時はですね」
「そうだ、これを持って行く」
 右手にあるのは三叉のトライデントだった、長く鋭い三本の刃が輝いている。
「いつも通りな、これさえあればだ」
「誰にもですね」
「遅れは取らない」
「そうも仰るのですね」
「ゼウスやハーデスにもだ」 
 それぞれの世界を治めている神々だ、実の兄弟同士でもある。
「余は決してな」
「海の主神として」
「あの方々にもですね」
「引けは取らない」
「そうだというのですね」
「そうだ、だからだ」
 それ故にというのだ。
「そなた達は安心して余の帰りを待っているがよい」
「この度の相手はです」
 神々の一人があえてだ、ポセイドンに言った。
「まさにテューポーンの如き」
「恐ろしいまでに巨大でな」
「しかも百の頭を持つ海蛇ですが」
「その百の頭にです」
 別の神も言って来た。
「それぞれ猛毒があります」
「そうした相手でもですか」
「お一人で向かわれ」
「そしてそのうえで」
「倒されるのですか」
「余以外の者が行ってもだ」
 その海蛇を倒しにとだ、ポセイドンは海の宝玉達で飾った玉座から言った。珊瑚や真珠で照らされている。
「倒されるだけ、しかしだ」
「ポセイドン様ならば」
「倒せる」
「だからですか」
「余一人で行ってだ」
 そしてというのだ。
「倒してくる、わかったな」
「その鉾を持たれ」
「そのうえで」
「このトライデントがあればだ」
 右手に持つ三叉の鉾がというのだ。
「余は誰にも負けぬ」
「勝つ」
「あの怪物にも」
「そなた達は待っておればいいのだ」
 ただそれだけでというのだ。
「ここに余が帰って来る時をな」
「そして宴の用意」
「それをしておく」
「それだけでいいのですね」
「そうだ」
 その通りという返事だった。 
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