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たった一つの笑顔

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第一章

                 たった一つの笑顔
 今会社全体が忙しかった、八条ソフトは新作の制作と発売が何作も重なっていてまさに修羅場となっていた。
 それでだ、社員達は上から下まで大忙しだった。
「今月残業何時間だ?」
「アニメ制作会社よりましだろ」
 男の社員達がこんな話をしていた。
「まだな」
「あの業界はまた違うだろ」
「まあな、うちはまだな」
「ああ、ちゃんと勤務時間考えてくれてるからな」
「八条グループはブラック大嫌いだろ」
 八条ソフトはこのグループの系列企業の一つだ、ゲームソフトの開発と販売をファミコンの時代から行っている。
 グループ全体の傾向として給与や勤務時間、厚生を深く考えているのだ。だから本来もこの企業もブラックとは縁が遠いが。
 新作の制作と発売が重なっている、それでだったのだ。
「修羅場になってるな」
「応援も一杯来てるしな」
「いや、大変だぜ」
「地獄だぜ今は」
「蟹工船だな」
 冗談めかして小林多喜二のプロレタリア文学のタイトルも出された。
「今のうちは」
「そうだな、まあこの状況が終わったらな」
「休めるな」
「ボーナスも出るしな」
「じゃあここが踏ん張りどころだな」
「そうだ、だからな」
「頑張るか」
「これも仕事だ」
 社員達は何だかんだで頑張る、そしてだった。
 残業、会社の中に寝泊りしてでものそれを続けた。そうした日が続きそれは入社して三年目の間宮沙織も同じであった。
 四角い顔で唇は厚めだ、目は睫毛が長く切れ長で目の輝きは優しく強い。黒髪を奇麗にセットしていて伸ばし後ろで束ねている。背は一六四位で見事なスタイルをしている。仕事はプログラマーのそれを受け持っている。 
 その沙織にだ、課長の池山貴教が昼食の時に言った。
「間宮君休んでる?」
「はい、こうして」
「いやいや、休み時間とかじゃなくて」
「お家に帰ってですね」
「休んでるかい?」
「はい」
 沙織はすぐに池山に答えた。
「毎日帰っています」
「会社で寝泊りはしていないんだね」
「そうしない様にしています」
「うん、仕方ない時もあるけれどね」 
 会社に寝泊りしてでも働かないといけない時はというのだ。
「どうしても」
「そうですよね」
「こうした時は特にね」
「ゲーム会社はそうですよね」
「制作、発売が近付くと」
 それこそというのだ。
「こうなるからね」
「そうですよね、ですが」
「君はだね」
「はい、毎日家に帰っています」
 沙織は池山に微笑んで答えた。
「会社の近くのアパートに」
「ならいいよ、とにかくね」
「働きながらもですね」
「休む時は休む」
 池山ははっきりと言った。
「自己管理もしっかりとね」
「疲れ過ぎない様にですね」
「働き過ぎて疲れたら」
 それこそというのだ。
「倒れたりするからね」
「そうですよね」
「過労死なんてね」
 それこそというのだ。 
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