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スペインの真実

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第七章

「理想は理想だったよ」
「スペインでは色々あった様だね」
「そしてだよ」
「イギリスに帰ってきて随分本を読んできたね」
「読みなおしたよ」
 マルクスやエンゲルスの本をというのだ。
「教師に復職してからね」
「相当学んでいたね」
「そう、そしてね」
「スペインで見てきたことについてだね」
「確証を得たよ」
 まさにというのだ。
「共産主義についてね」
「理想は理想だね」
「そう、ユートピアはね」
「あくまでユートピア」
「この世にあるかというと」
 フィッシャーは苦い顔で言うのだった。
「ないね、少なくとも」
「共産主義にはない」
「そのことがわかったよ」
 俯いて言ったのだった。
「スペインで」
「内戦はどうなるかな」
「右派が勝つよ」
 フィッシャーは確信を以て答えた。
「左派は負ける」
「そうなるんだね」
「彼等は勝てない、そして平和はね」
 それはというと。
「共産主義では訪れない」
「そうなるんだね」
「そのこともわかったよ、自分達の中でいがみ合ってばかりだと」
 それこそというのだ。
「平和なんてとてもだよ」
「訪れはしないね」
「中で争っていて何が平和なのか」
 こうも言ったのだった。
「そういうことだよ」
「共産主義では階級も貧富も平和もだね」
「本当の意味では訪れない、独裁者と内部抗争と粛清」
 極めて否定的にだ、フィッシャーはこの三つの単語を出した。
「テロ、内戦、革命の後にその三つが訪れるんだよ」
「君はそれがわかった」
「スペインでね」
「では共産主義はどうするんだい?」
「捨てたよ」
 過去形だった、既に。
「もうね」
「そうするんだね」
「うん、子供の頃行っていたけれど大学で離れた」
 共産主義を学びだしてからだ。
「教会に行くよ」
「そうするんだね」
「もう一度そこに何があるか学んでみるよ」
「そうしてなんだね」
「人としても、社会のあり方もね」
「考えていくんだね」
「そうしていくよ」
 フィッシャーは顔を上げた、その顔は暗いが決して死んだものではなかった。真実を見たうえで先を見ているものだった。
 そしてだ、ミルクティーを飲んで言ったのだった。
「こうしたミルクティーが飲めるのも平和であってこそだからね」
「そう、平和ならね」
 オズバーンも彼のその言葉に言う。
「そうしたものもね」
「そういうことだね」
「そう、内部抗争も粛清もない」
「そうした状況だからこそ」
「紅茶も美味いんだよ」 
 今の様にというのだ、フィッシャーはオズバーンと話しつつ紅茶の味を楽しんだ。スペインでは決して味わえなかったその味を。


スペインの真実   完


                        2016・2・15 
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