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クローバー

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第一章

                 クローバー
 その土地は広い平原地帯で川もあったがえらく痩せていた、その為政府としてはかなり必死に灌漑を行い開墾も進めた。田畑には肥料をふんだんに撒いた。
 それでそれなりにいい土地になった、だが。
 開墾状況を見てだ、地の責任者となった総督でありミシェイル=クロポトキン子爵は官僚達に眉を顰めさせて言った。
「灌漑を行い開墾も進めてだ」
「はい、ある程度はです」
「田畑が整いました」
「荒地を開墾し沼沢地も田畑にしました」
「溜池た運河も築き」
「かなり予算をかけましたが」
「そうだ、何とかここまでした」
 金も人手もかけてとだ、子爵は言った。
 そしてだ、灰色のその知的な光を放つ目で働く農民達を見つつこうも言った。
「だが、ある程度でだ」
「今一つですね」
「足りないものがありますね」
「農業は出来ています」
「ですが」
「牧業もしたい」 
 ここでこう言ったのだった。
「ここはな」
「牛や羊ですか」
「そういったものを飼い」
「そちらの産業も起こしたいですか」
「そう思う、平野で広いからな」 
 つまり牧場をもうけるのに適した場所だというのだ。
「牧業も出来る筈だ」
「そして肉や羊毛を手に入れるのですね」
「革や乳製品も」
「そうしたものもですね」
「そうしたい、牛や馬が多ければ」 
 牧業によって彼等を増やせればというのだ。
「その分農業にも使えるしな」
「馬は騎兵の馬にもなりますし」
「ここは馬を育てやすいでしょうね」
「これだけの平地ですから」
「川もありますし」
「そうだ、しかしだ」
 広い平地だが、というのだ。
「足りないものがある」
「はい、それはですね」
「牧草ですね」
「元々かなり痩せていますから」
「牧草になりそうなものがないですね」
「牧業には草が必要だ」
 何といってもというのだ。
「何とか田畑は出来てきたが」
「しかし牧草までは」
「そうなりそうな草は」
「どうにもですね」
「ありませんね」
「それではどうしようもない」
 牧草がないのでは、というのだ。
「今でも農業の牛達を養う分だけ精一杯だ」
「それで牧業なぞ」
「無理ですね」
「草がなければ」
「そうした状況では」
「困ったことだ、折角牧業に向いている場所でだ」
 そしてというのだ。
「農業に加えてそれも出来ればな」
「違いますが」
「子爵のお言葉は正しいです」
「是非牧業もしたいです」
「ここは」
「そうだな」
 子爵はやや面長で穏やかな文人を思わせる顔をしている、髪は白く雪の様である。背は高く身体は引き締まっている。質素な服にマントとブーツという格好だ。 
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